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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第777話 殺意を抱くほど嫌悪感を感じていたらしい…

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 とても良い感じのお風呂で狩りの汚れを落として戻ってくると、貴賓室の応接にはオベルジーネ王子とウルピカさんが待っていたよ。
 メイド服を着たお姉さんが、お風呂から戻ったおいら達に気付くとお茶の用意を始めてた。

「よっ、ボクちん自慢の温泉はどうだったぁ~?
 良い湯だったでしょう。」

 おいらが応接室に入ると、王子は温泉の感想を尋ねてきたよ。否定的な感想など端からある訳無いと自信満々な様子だった。

「うん、とっても良い湯加減だったよ。
 おいらの離宮やトアール国辺境の町にある父ちゃんの家にも温泉あるけど。
 どれにも負けないくらい良いお湯だったと思う。」

 まっ、おいらとしても温泉は好きだし、難癖付けるつもりはないけどね。
 チャラ王子の得意気な表情を見ると無性に腹が立つけど、素直に褒めとくことにしたんだ。

 だけど、おいらの言葉は王子にとって期待外れだったみたい。

「なんだぁ~。温泉持ってたのかぁ~。
 この国じゃ、ここしか温泉無いしぃ。
 他の国でも珍しものかと思ってたよぉ~。
 ちっ残念、驚かなかったかぁ~。」

 どうやら、地面の下から沸き出てくるお湯を見て、おいらが驚くことを期待してたようなの。
 驚くどころか、おいらが温泉付きの離宮を持っていることを知り、拍子抜けしたみたい。

「ところで、その格好はどうしたの?」

 王子もお風呂で狩りの汚れを落としてきたのか、身綺麗な服装に着替えてたんだけど。
 何やら、執事服みたいな服装でまるで使用人のようだったよ。

「これかい? ボクちんも汚れていたからね。
 そんな格好で宿の中をうろつくなと、ウルピカちゃんに叱られたしぃ。
 従業員用のお風呂で汚れを落としてきたんだぁ~。
 だけど、ここにはボクちんの着替えを置いてないじゃん。
 仕方ないから、そこに居る支配人に従業員の制服を借りたんだぁ。」

 王子は『支配人』と言った時、丁度おいらにお茶を注いでいるメイドさんに視線を向けたんだ。
 どうやら、メイド服姿のこのお姉さんは支配人さんらしい。確か支配人って雇われている人の中で一番偉い人の事だよね。

「メイドさんかと思ったら、支配人さんだったんだ。」

「はい、支配人をお願いしているチカさんです。
 元々、生家が営む宿屋にお勤めして戴いてたのですが。
 今は支配人として、使用人の管理と差配をお願いしています。」

 この宿のオーナー、ウルピカさんは若女将として宿の経営と大切なお客さんの接遇を担当していて。
 実際に現場で使用人を動かす仕事はチカさんに任せているそうだよ。
 
「そうそう、チカちゃんも、レイカちゃんと一緒に働いてたんだぁ~。
 あの酒場の『お持ち帰りできるお姉さん』の中じゃ、二人がダントツだったしぃ。
 ボクちん、どっちも捨て難くて、二人まとめてお持ち帰りしちゃったよぉ~。」

「あ・な・た。
 少々デリカシーに欠けるのではございませんか。
 女性の過去を他人様に吹聴するのはマナー違反ですよ。」

「痛い、痛い、ゴメン、悪かったからやめてちょ。」

 王子がチカさんの過去を暴露すると、すかさず隣に座っていたウルピカさんが王子の頬を捻り上げたよ。
 宿屋に勤めていたって、一階の酒場で『お持ち帰りできるお姉さん』をしてたんだね。
 ウルピカさんはその辺りをぼかして言ったのに、こいつは空気を読まなかった訳だ…。

「お嬢様、私は気にしてませんでその辺にしておきましょう。
 若旦那様は、最初にお目に掛かった時からこういう方なので…。」

 王子の頬を抓り上げるウルピカさんを宥めたのは当のチカさんだったよ。
 チカさんの方は余り気にしてない、いや、むしろ言っても無駄だと思っている様子だった。

「あの日の夕方、私が出勤すると。
 若旦那様が、その日初見世のレイカちゃんを貸切る交渉をしてました。
 半年分前払いで貸切るとは剛毅な客もいるものだと感心してたのですが…。」

 フルティカさんの所で聞いた話だと。
 開店早々の酒場で王子がレイカさんを見初め、すぐさまカウンターへ引っ張って行って半年間貸切る交渉をしたとのことだったけど。
 レイカさんを貸切る交渉をしている最中、丁度出勤してきたチカさんが偶々そこを通り掛かったんだって。

「その時、若旦那様は尋ねたのです。
 私も持ち帰り可能なのかと。」

「そうそう、チカちゃんが頷いたから。
 ボクちん、即座にウルピカちゃんのお父さんに言ったんだ。
 チカちゃんも追加でって。」

「私、呆れてものも言えませんでした。
 だって、若旦那様、その時、まだ十五歳ですよ。
 正直、このエロガキ、何寝惚けたこと言ってんだと思いました。」

 だけど、オベルジーネ王子が即座にチカさんは半年買い占める銀貨を積み上げたものだから、ウルピカさんのお父さんは揉み手で王子の要望を受け入れたらしいの。

「お持ち帰りしたのレイカさん一人じゃなかったんだ?」

「ボクちん、レイカちゃんに一目惚れしたとしか言ってないじゃん。
 レイカちゃん一人だなんて、一言も言って無いしぃ。」

 おいらの問い掛けにしゃあしゃあと答えるオベルジーネ王子。
 おいらの背後から「十五歳のガキが二輪車だなんて…。」、「救いようのない変態ですね。」なんて囁きが聞こえ、タルトとトルテの王子に対する評価はダダ下がりだったよ。

           **********

「わたしも最初は若旦那様がどんだけエロガキなんだと呆れていたのです。
 レイカちゃんと私を並べて、二人同時に相手をさせようと言うのですから。
 ですが、そのうち、それで正解だったと思い知らされることになりました。」

「どういうこと?」

「だって、若旦那様ったら、体力が尽きないのですもの。
 明け方まで睦事に耽っているのですから…。
 一人だったら絶対に身が持たなかったでしょうね。」

 王子は明け方まで二人の相手をして、少し睡眠を取ると朝早くから開拓に出掛けたそうだよ。
 昼の間、黙々と土木作業をして、時に襲って来た魔物を倒す。
 実際、毎日のように魔物のお肉を宿に差し入れてくれるので、昼間の行動に疑いの余地は無かった訳で。
 チカさんもレイカさんも「この男、バケモノか。」と思ったそうだよ。
 昼間ずっと重労働をしてきたのに、夜も呆れるほど元気なものだから。

「ボクちん、十歳の頃から魔物を狩って体力とレベルの向上に努めてきたからねぇ。
 若さもあって、全然苦にならなかったよぉ~。
 むしろ、夜にお楽しみが待ってるからこそ、昼間頑張れたくらいだしぃ。」 

 そんなことを自慢気に口走るチャラ王子。
 レベルが上がると睡眠時間を削っても大丈夫なのか?

「そんな訳で、毎晩、明け方まで若旦那様のお相手をするのですから。
 たっぷりとタネを蒔かれる訳でして…。
 あっという間にレイカちゃんが身籠り、次いで私が身籠りました。」

「だから、ボクちん、言ったじゃん。
 チカちゃんにも、レイカちゃんにも領地を用意するってぇ。
 ボクちん、自分の蒔いた種には責任を取るのは当然と持ってるしぃ。」

 何度も聞かされているけど、こいつなりに誠意を見せているつもりらしい。

「酒場でお客を取っていた娘に領主になれとか、どんな無茶振りですか…。
 それにネネが若旦那様の子供かどうかは分からないと、再三申し上げたでしょう。
 若旦那の貸し切りとなる前日までお客を取り続けていたのですから。
 あんなに早く孕んだのでは、誰の子供か分からないです。」

「う~ん、百発百中も考え物だねぇ~。
 ボクちんは自分の子供だと確信してるけどぉ。
 そう言われちゃうと確証は無いしぃ。
 せめて、『ルナからのお客さん』が一度来た後なら良かったのにねぇ。」 

 『ルナからのお客さん』かあ、確か以前ミントさんも言ってたね。それが来なくなったから、にっぽん爺の子供が宿っただろうって。
 いったい、どんな『お客さん』なんだ? 大人になったら毎月定期的に来るらしいけど。

「私、正直、主人を軽蔑していたのです。
 レイカ姐さん、チカ姐さんを買い占めた時、丁度カウンターで父を手伝っていました。
 目の前で私と同年代の少年が、酒場の女性を買おうと言うのですから。
 しかも、同時に女性二人とだなんて、不潔、不道徳極まりないです。」

 ウルピカさんは最初チャラ王子に対して嫌悪感すら感じていたそうだよ。
 更に、レイカさん、チカさんが妊娠すると、ウルピカさんのチャラ王子に対する嫌悪感は募ることになり。
 妹のフルティカさんから身籠ったと聞かされた時に、王子に対する嫌悪感はピークに達して殺意すら覚えたって。
 それで、ウルピカさんだけ、少し冷めた雰囲気なんだ…。

 でも、それだと大きな疑問が残るんだ。

「じゃあ、どうして、ウルピカさんがこの領地を治めることになったの?
 そもそも、カレンちゃんって、ウルピカさんとジーネの子供だよね?」

 気になったので、率直に尋ねてみることにしたよ。
 だって、殺意を抱くほど嫌ってたオベルジーネ王子の子供を宿すなんて、普通に考えたら有り得ないもん。

「ニャハハ、ちょっとした手違いで流れ弾がウルピカちゃんに中っちゃって。
 なにせ、ボクちん、百発百中だしぃ。」

 相変わらずのチャラい言葉で返答する王子に…。

 ゴツン!

「痛いしぃ…。」

 激おこのウルピカさんが、王子の脳天にキツイ一撃が落としたんだ。

「いい加減にしないと怒りますよ。」

 いや、もう既に拳骨が落ちてるし…。   
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