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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第773話 何処かで見覚えのあるものが出てきたよ

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 クコさんに与える領地を造るために逗留した町で、そこの宿屋の娘さんとの間に子供を儲けてしまったオベルジーネ王子。
 結局、その娘さん、フルティカさんのためにもう一つ開拓地を造ることになってしまったんだ。

「まっ、ボクちん、手付かずのこの森は有望だと思ってたしぃ。
 幾つか領地を開発するつもりで、綿密な下調べは済んでいたんだぁ~。
 問題と言えば、クコちゃんを待たす期間が延びちゃうことくらいだったしぃ。」

 オベルジーネ王子はその数年前から、リュウキンカさんの『積載庫』に乗せてもらい森の中を探索していたそうだよ。
 良い立地があれば、開発して自分の領地にしようと考えていたらしい。
 そうした中で幾つかの候補地となった場所の一つが今居るフルティカさんの領地らしいの。

 チャラ王子にとって森の開発は既定路線だったので、フルティカさんの妊娠は単に計画が前倒しとなっただけみたい。
 だた、王都を出る時、クコさんに出産までには帰ると伝えてたらしくてね…。
 流石に現地で別の女の人を孕ませたとは言えないから、大幅な遅延となった言い訳に苦慮したと言ってたよ。
 結局、フルティカさんの領地も完成して王都へ帰ったのは、ロコト君が一歳を過ぎた後になったらしいの。

「ふーん。クコさんの領地は豊富な湧水に目を付けたと言ってたけど。
 ここはどんなセールスポイントがあるの?
 見た感じ、余り水は豊富じゃ無いようだけど。」

 おいらの質問に、フルティカさんは嬉しそうな表情で。

「ダーリンってば、とっても素敵な特産品を用意してくださったのですよ。
 これのおかげで、この領地は滑り出しから極めて順調です。」

 別においらに自慢するために置いてあった訳ではないだろうけど、フルティカさんが見せてくれたのは光沢のある布地だった。
 おいら、それに良く似たモノに見覚えがあったよ。但し、色合いが少し違っていて…。

「それ、もしかして、魔物のイモムシが作る繭から取った糸で織ったの?
 おいら、淡い緑の生地は見たことあるけど、レモンイエローの絹地なんて初めて見た。」

 そう、マイナイ伯爵領の隣にある魔物の領域に生息して魔物が作るグリーンシルクの色違い。
 鮮やかに発色するレモンイエローが特徴的なシルクの布地だったんだ。

「あら、緑色のシルクもあるのですか。珍しいですね。
 マロン様の仰る通り、魔物の繭から作るシルクです。
 この色の絹糸は他では取れないそうで、とても高値で引き取ってもらえます。
 おかげで滑り出しからとても豊かな領地になりました。」

 どうやら、その絹はオベルジーネ王子の発見したものらしい。

「良いでしょう~。
 ボクちん、森の中で黄色い繭を見つけてねぇ~。
 これなら貴族のご婦人方に受けると思ったんだぁ~。
 あの人達、ドレスを仕立てる時、金に糸目を付けないしぃ。
 ぼろ儲けできるじゃん。」

 得意気に言うチャラ王子のドヤ顔が、何だかとってもムカついたよ。チャラ男の癖に生意気な…。
 確かに目の付け所は良かったみたい。だって…。

「マロン、あれ、良いわ。
 少し譲ってもらえないかしら。」

 チャラ王子に頼まれて姿を隠していたアルトがいきなり出てきて、譲って欲しいと言い出したもの。
 妖精さんって、基本物欲が乏しいのだけど、アルトは綺麗な布地に目が無い様子なんだ。
 グリーンシルクの時もそこで森を護っている妖精ロードデンドロさんに強請ねだってたしね。

 アルトが欲しがるのだから、相当良い物なんだろうと思う

        **********

 突然現れたアルトを目にして、フルティカさんは目を真ん丸にすると。

「あら、可愛い妖精さん。
 マロン様、凄いですわ。妖精さんの加護があるのですね。」

 この国でも、妖精さんの加護を受けることが出来るのは特別なことだと伝わっているのか。
 フルティカさんは、おいらを羨望の目で見てたよ。

「うん、トアール国の辺境にある妖精の森の長、アルトローゼンだよ。
 おいらはアルトと呼んでるけど、小さな頃から助けてもらってるの。」

「まあ、そうでしたの。
 可愛らしい妖精さんの加護が戴けるなんてメルヘンですね。
 それで、妖精さんはこの生地がご所望ですか?」

「出来れば、おいらも譲って欲しいな。
 もちろん、相応の代金は支払うから安心して。」

 おいらが自分の分まで含めて欲しいと告げると、「マロン様、私達の分もお願いします。」とトルテが耳打ちしてきたよ。
 きっと留守番をしている人達も欲しがるだろうと思い、少し多めに欲しいと追加で言ったらフルティカさんは困った表情を見せ。

「お気に召して戴けたのは光栄ですが…。
 実は、生産が全く追い付いてなくて、お客様にお待ち戴いてる状況でして。
 申し訳ございませんが…。」

 他国とは言え女王の注文を断るのは拙いと思ったのか、チラチラとオベルジーネ王子に視線で助けを求めながら言葉を濁したよ。
 それもそうか、魔物が作る繭だものね、そうそう簡単には手に入らないか。
 多分魔物が跋扈する森の中で、繭が木にぶら下がってるんだろうから。

「マロンちゃん、ゴメンねぇ~。
 繭は潤沢にあるんだけど、製糸と織布が全然間に合って無くてねぇ。
 一応、ペピーノに協力してもらって最大限効率的な機械を据えたんだけど。」

 オベルジーネ王子から返って来た言葉はおいらの予想を裏切るものだったの。

「繭が潤沢にある?」

 まさか、前回のマイナイ領みたいにイモムシの魔物が大発生してるんじゃないだろうな…。

「そうだよ~。イモムシの繁殖、飼育をしてるしぃ。
 繭は余っているんだぁ~。」

 と、自慢気に言うオベルジーネ王子。こいつ、よりによって魔物の繁殖を手掛けているらしい。
 ドジってあんなのが大繁殖したら、あっという間に森が無くなっちゃうじゃん。
 
「なに? それじゃ、繭は沢山あるの?
 それなら、繭を譲ってちょうだい。
 加工は自分でするから。」

 王子の言葉を聞いて、アルトが飛びついたよ。

「う~ん、かまわないっちゃ、かまわないんだけどぉ~。
 あの繭、アルトちゃんより大きいよ。加工できるのぉ~?」

 こいつ、物心つく前からリュウキンカさんと一緒に居るのに『積載庫』の機能を知らないのか。
 『積載庫』に放り込んでおけば、勝手に加工してくれるのに。

「あっ、まあ、その辺は気にしないでも良いわ。」

 アルトも王子がリュウキンカさんから『積載庫』の機能を知らされてないと思ったのか、言葉を濁していたよ。

「ダーリン、それでしたらお分けしても良いでしょうか?」

「まっ、加工できない物を渡しても無駄になるだけだしぃ。
 一度、実際の繭を見てもらえば良いじゃん。
 それで加工できると言うなら譲ってあげれば良いしぃ。」

 王子は貴重な繭だから、加工できないで無駄にするくらいなら渡さない方が良いと言ってるんだ。

          **********

 そんな訳で、繭を見せてもらうことにしたよ。
 領主の屋敷を裏口から出ると、正面からは見えなかった建物やらなんやらが建ってたんだ。
 なんやらとは何だと尋ねられても俄かには表現し難いものだったの。強いて言えば檻?
 以前、おいらがヌル王国を連中を閉じ込めておくために造った檻、それを木造にしたような大きな構造物が三つも建てられていた。

 その中を覗くと…。

「うげっ、これが繭を作るイモムシ?」

 おいらの足の長さくらいのイモムシが、ウジャウジャと地面に敷き詰められて葉っぱで蠢いていた。
 胴回りもおいらの太ももと同じくらいの太さかな。
 予想していた程は大きく無かったよ。グリーンシルクのイモムシより全然小さかったから。

 とは言え、普通のイモムシよりは遥かに大きく、それが群れを成して葉っぱを食んでる光景は鳥肌が立ったよ。
 生理的に受け付けないキモさだった。

「そうだよ~。このイモムシはこの葉っぱしか食べないんだぁ~。
 成虫になった蛾はこの葉っぱのうえで産卵し、孵化したイモムシは葉っぱを食べて育つの。
 で、だいたい産卵から羽化までの期間はだいたい同じなんで、ほら。」

 そう言って、王子が指差した先には別の檻があって、そこには地面一面に繭が転がってたよ。
 孵化した時期がだいたい同じイモムシを一つの檻に入れてあるらしいの。

「ここまで、定期的に繭がとれるようにするのに苦労したよ。
 檻の目が粗くて、イモムシが逃げ出したりして大変だったしぃ。」

 まさか、村の中で魔物を逃がしたんじゃないだろうなと思って尋ねたら。
 この王子、ここを開拓しながら、イモムシを飼育して計画的に繭を採取できるよう試行錯誤を繰り返していたらしい。
 領地を囲む堀と土壁を造り、村の土地の造成が終わる頃には飼育に目途が立ったと言ってたよ。
 村の中央よりやや奥に領主の屋敷を建て、その後ろ、村の最奥にイモムシの飼育施設と繭の加工施設が作られているけど。
 最初から計画して、そのような配置にしたらしいよ。
 施設群はぐるっと塀で囲まれていて、万が一イモムシが檻から逃げ出しても村に被害を及ぼさない配慮をしてるらしい。

 そして肝心の繭玉だけど、グリーンシルクの繭玉より遥かに小さかった。おいらでも何とか抱えられる大きさだったし。
 グリーンシルクの繭玉は小山かと思うくらい大きかったからね。

 アルトはおいらと顔を見合わせて、ニコリと笑い。

「これならちゃんと加工できるから、心配ご無用よ。
 これ、戴いて行くわ。一つ幾らしかしら。」

「ハニー。どうしようか~? 繭玉のまま売ったことはあったっけぇ?」

 アルトに値段を尋ねられた王子はフルティカさんに振ったのだけど。

「ある訳無いでしょう。こんな大きな繭はここでしか加工できませんもの。」

 繭玉の値段など見当もつかないと言うフルティカさんに。

「この繭玉一つから作れる生地って幾らくらいするの?」

「そうですね、だいたい銀貨千枚くらいでしょうか…。」

「良いわ、その値段で買い取ってあげる。
 繭玉一つ銀貨千枚でどうかしら?」

 お金に執着しないアルトの気前の良い提案に、目を丸くするフルティカさん。

「それは幾ら何でも申し訳ないです。
 それでは通常の利益に加え、加工費分も丸儲けじゃないですか。」

 フルティカさんはそれでは貰い過ぎだと遠慮するけど。

「貴重な物を無理言って譲ってもらうのだもの。
 加工費分を上乗せで支払っても文句は言えないわ。」

 アルトはそれでも一向にかまわないと言ったんだ。。

「ハニー、貰っておきなよ~。
 妖精さんはダメなことは絶対口にしないしぃ。
 それだけのものを払う価値が有ると思っているんだろうしぃ~。」

 それでもまだ決めかねているフルティカさんに、王子はアルトの提案を受け入れるように助言したの。
 こいつはこいつで、全く遠慮と言うものを知らないな…。 まあ、確かに、こいつの言う通りではあるけど。
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