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第二二章 チャラい王子としっかり者のお嫁さん達

第756話 こんなのが出てくるとは思わなかったよ…

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 オベルジーネ王子を旦那様と呼んで出迎えたのはまだ若い娘さんだった。
 王子はその娘さんを抱きしめると…。

「クコちゃん、長いこと留守にしてゴメンね~。
 元気してた~?」

 チャラい口調で長らくの留守を詫びたの。
 こいつ、本当に悪いと思っているのかってツッコミを入れそうになったよ。

「はい、旦那様のおかげで息災に暮らしております。
 でも…、旦那様が居ないと体が疼いてしまって…。
 今晩は泊って行かれるのでしょう?
 寝かしませんので、覚悟してくださいまし。」

 オベルジーネ王子に寄り添ったまま、その胸板に人差し指で『の』の字を書くクコさん。
 この二人、他人目ひとめを気にしないタイプなんだね。

 おいらが目のやり場に困っていると…。

「はい、はい、二人の世界に入るのも良いけど。
 少しは他人目ってものを気にしなさいよね。
 お客さんが困っているじゃない。」

 リュウキンカさんが二人に注意したんだ。特にオベルジーネ王子には、お客さんを放置するなって。

「あら、いやだ、恥かしい。
 旦那様が来てくれたのが嬉しくて。
 つい、浮かれてしまいました。」

 クコさんは今までオベルジーネ王子しか眼中に無かったのか、おいら達の存在に気付いて顔を赤らめたよ。

「母ちゃん、父ちゃんにラブラブだから。」

 そんなクコさんを見て、おマセなことを言うロコト君。

「まあ、この子ったら、何処でそんな言葉覚えてくるのかしら。」

 ホント、誰がこんな小さな子供にしょうもない言葉を教えるんだろうね。

「ところで、旦那様。
 そちらのお嬢さん方は新しいコレですか?
 皆さん、お綺麗な方ばかりですけど。」

 クコさんは小指を立ててオベルジーネ王子に尋ねたの。
 その時、おいら達を見詰めるクコさんの目には険呑な気配を感じたよ。

「痛い、痛い、つねんないでちょ~。
 あの人達はそんなんじゃ無いし~。
 助っ人だよ~、魔物狩りを手伝ってくれるんだよ~。」

 よく見ると、クコさん、小指を立てたのは別の手でオベルジーネ王子の脇腹を抓ってた。

「まあ、そうでしたの。
 頼もしいですわ。
 でも、旦那様、隙あらば食べちゃうつもりでしょう。
 据え膳は美味しく戴くのがモットーですもね。」

 脇腹を抓ったまま、オベルジーネ王子を詰問するクコさん。

「そんなことしないって~。
 そんなことしたら国際問題になるしぃ。
 その人達、隣国の女王様とそのお供の人達なんだよ。
 一番可愛い子なんて、男の子だしぃ。女王様の旦那さん。」

 すると、クコさんの目から険吞な雰囲気は消え失せ、表情を和らげたよ。
 そして居住まいを正すと。

「まあ、大変お見苦しい姿をお見せして恐縮です。
 私、この地の領主を拝命しているクコと申します。
 このような辺境までお運び頂き光栄に存じます。」

 寸前までの敵愾心など無かったかのように、丁重に頭を下げたの。

「女王様って、一番偉い人だろう。
 俺、初めて見た。
 父ちゃん、スゲー偉い人を知ってるんだな。」

 無邪気にそう言ったロコト君は、女王おいらを連れて来たオベルジーネ王子を手放しに尊敬の眼差しで見ていたよ。
 いや、あんたの父ちゃん、この国の第一王子でしょうって突っ込みそうになったけど。
 どうやら、ロコト君は自分の父親が次期国王の候補筆頭だとは知らされていない様子だったよ。
 最初に、この村の中では絶対に王子とは呼ぶなと釘を刺されたけど、なにか関係があるのかな?

          **********

 それはさておき、何時までも家族再会の団らんに付き合っては居られないよ。
 オベルジーネ王子は泊って行く気かも知れないけど、おいらはそんな訳にはいかないからね。
 魔物狩りに出掛けたまま帰らなかったら、大騒ぎになっちゃうし。

「ねぇ、ジーネ、そろそろ、魔物を狩りに行きたいんだけど。」

 オベルジーネ王子が忘れているようなので、魔物狩りへ行こうと催促することにしたんだ。

「メンゴ、メンゴ。
 ハニーに再会した喜びで時間を忘れてたよ~。
 じゃ、チョチョッと狩りを済ませちゃおうか~。」

 おいらにチャラい言葉で返すと、オベルジーネ王子はクコさんにこの領地の騎士にも狩りに加わるよう言付けしてたよ。
 狩りから帰ったらゆっくりイチャイチャしよう、なんて軽口も叩いてたし…。

 もと来た橋を渡って村を出て空き地を過ぎたところに、驚くことに整備された街道があったよ。

「こんな森の中に街道? いったい、何処につながっているの?」

「これ~? 森を抜けたところに王都へ続く街道があってね~。
 そこまで道を整備したんだ~。
 ここって結構王都へ近いじゃん。
 道さえ造れば便利になると思ってね~。」

 いや、じゃんと言われても、近いかどうかなんて知らないし…。
 但し道は繋げたものの、現状では魔物が多くて安心して通行できる道とはなっていないらしい。 
 手透きの時間にやって来ては街道周辺の魔物を狩り、往来の安全性向上を図ってるんだって。

「そんな訳で力を貸してちょ。
 ウエニアール国の幼王はメッチャ強いって評判だしぃ。
 マジ、期待してるしぃ。」

 この辺りに生息する魔物は、イノシシ型やクマ型でレベル十程度の魔物が多いらしい。
 オベルジーネ王子は小さい頃から魔物狩りに勤しんでそこそこのレベルはあるそうだけど。
 魔物の領域の奥までは足を運んだことが無いそうで、レベル三十や四十には到達してないみたいなの。
 レベル十程度の魔物でも、数匹ならともかく、そうそう沢山狩ることは出来ないんだって。
 結果として新たに整備した道周辺の安全確保が十分にできなかったそうなんだ。

 こいつ、おいら達にこの辺の魔物を一掃させようって魂胆だったみたいだよ…。

 とは言え、日課の魔物狩りをサボると体が鈍るような気がして気分が悪いから狩りはするんだけどね。

「マロン様、ここ、本当に普通の森なのですか?
 いやに魔物が多いんですけど…。」

「ひぃ…、これでキングボア五十匹目…。
 少し休ませて…。」

 狩りを始めて小一時間、日頃鍛錬を欠かしていないタルトとトルテが息を上げていたよ。
 「ワイバーンすら倒してきた者がレベル十程度のキングボアを相手に弱音を吐くなど情けない。」などと言うなかれ。
 この程度の相手だって、引っ切り無しに現れれば弱音を吐きたくのも頷けるよ。
 おいらだって疑ったもん、ここは『魔物の領域』じゃないかって。

「ジーネ、ここって定期的に間引いているんだよね。
 いつも魔物がこんなに沢山居るの?」

「嫌だな、疑ってるの?
 ボクちん、月に二回は二日掛かりで間引いているよ。
 こんなに纏まって襲ってきたのは初めてだし。」

 誰がボクちんだよ…。それはともかく、王子はきちんと定期的に魔物を間引いているらしい。
 それにしては、イノシシ型の魔物が狂ったように森の奥から現れては襲ってくるんだよね。

 アレ? 以前にもこんなことがあったような…。

「ねえ、アルト、何か悪い予感がするんだけど…。」

「あら奇遇ね、マロンもそう思う?」

「これって森の奥に何かとんでもない魔物が住み着いたんじゃ?
 キングボアなんて大物を捕食するヤバい魔物が。」

「マロン、冴えているじゃない。
 私もさっきからそう考えていたところなの。」

 博識なアルトが見当を付けていたなら、まず間違いないと思っていいね。

「それじゃ、森の奥へ行ってみましょう。
 みんな、乗せて行くわよ。」

 アルトはさっそくおいら達を森の奥へ連れて行ってくれたんだ。
 
         **********

 そして、小一時間森の中を進んで…。

「げっ、見たくなかった…。」

 少し離れたおいらの視線の先には強大なヘビが絡み合っていたよ。

「あれ、何匹居るんですか?
 ひい、ふう、みい、よ…。」

 毒牙を剥くヘビの頭を数えているトルテ。

「あちゃ~、また、ボクちんの手に負えなさそうな奴が…。
 あんな強そうな魔物がいるなんて聞いてないし…。」

 オベルジーネ王子は巨大なヘビを見て頭を抱えてた。
 こんなのが居ると安心してクコさんやロコト君が安心して暮らせないって。

「あれ、二匹よ。ヒュドラのつがい
 多分、産卵と子育てのためにここに移ってきたのね。
 ほら、絡み合った胴体の下に卵が見えるわ。」

「えっ、二匹って…。
 じゃあ、一匹に頭が四つもあるんですか?」

 タルトは目を丸くして問い掛けていたよ。

「そうよ、個体差があるけど一匹に二から八つの頭があるの。
 全部の頭に猛毒の毒牙あって…。
 双頭ならまあ雑魚、八頭なら厄災級ね。」

 頭が多くなればなるほど巨体になり脅威度も増すそうだよ。
 巨体になればなるほど生命維持に必要な食べ物が増えるんで、周囲の魔物や動物を手当たり次第に捕食するようになるらしい。
 もちろん、人間も…。 人間なんて猛毒の毒牙で動けなくしたら一飲みだって。 

 目の前にいる四頭ヒュドラは標準的な個体らしく、レベルはおそらく三十くらいだとアルトは言ってたよ。

「良かったわね。マロン達にとってはあんなの雑魚同然よ。」

 アルトはお気軽な感じで言うけど、おいら、ヘビはキモいから苦手なんだ。
 以前、ギーヴルを大量に狩らされた時なんて、夜中にうなされたもん。
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