上 下
749 / 848
第二一章 またもや、頭の痛い連中を拾ったよ…

第749話 予想以上の成果があったよ…

しおりを挟む
「ふむ、ゴマスリーが貴族籍を放棄したとな。
 仕方あるまい。
 あやつ、何事にもやる気が無かったからな。」

 厨房から戻ってピーマン王子に知らせると、少し残念そうな顔で呟いてた。
 おじゃるは幼少の時からの取り巻きだったようだから、多少は心を痛めてるようだけど。
 ひどく落ち込んでいる様子でも無いのは、おじゃるの脱落を予想してたからみたい。
 ピーマン王子と違って生活態度を改めようとしないので、何処かの時点でペピーノ姉ちゃんの勘気に触れるだろうと思ってたそうなの。

「おじゃるのことは心配しないでも良いよ。
 料理長が厳しく鍛えるって言ってたから。
 料理人見習いくらいにはしてくれるって。」

 何処かのに料理屋で下働きにでも雇ってもらえば、路頭に迷うことは無いだろうってね。

「あの料理長に任せておけば安心だな。
 あやつのくだらない自尊心を粉々にしてくれるだろうよ。
 そうすれば平民として生きていくことも苦にはなるまい。」

 ピーマン王子は言ってたよ。おじゃるは貴族としてプライドがおかしな方向に強いので生き難いのだろうと。
 貴族籍を失い、平民であることを自覚すれば、変な自尊心に邪魔されること無く堅気に働くことが出来るだろうし。
 その変な自尊心は、きっと料理長が粉々に破砕し尽くすだろうとも。

 ピーマン王子は自嘲気味にこんなことも言ってたんだ。
 自分はマイナイ領でレクチェ姉ちゃんから『キモい』と言われて、おかしな自尊心が粉微塵になったって。
 あの時、今後は『キモい』と言われることが無い生き方をしようと決心したらしいよ。

「今のところ、ゴマスリー子爵家のドラ息子以外には目につく落伍者は居ないようですね。
 残り二ヶ月、これ以上脱落する者が出ないように目配りしなさい。
 それが人の上に立つ者としての訓練にもなるはずですから。」

 ペピーノ姉ちゃんはそんな助言をしてたよ。
 周囲の仲間の様子に気を配って誰一人として、落伍者を出さないように的確な指示や助言をするようにと。
 ここにいる間、意識してそんな行動を続ければ、他人の上に立つための良い訓練になるだろうってね。

「はい、姉上。
 ご期待に沿えるよう精進いたします。」

「期待していますよ。
 今のあなたなら出来るはずです。」

 ピーマン王子から素直な返事が返ってくると、ペピーノ姉ちゃんは細い目をいっそう細めていたよ。
 いつも笑顔なので感情が読み取り難いけど、ピーマン王子の返答にとても満足そうだった。

          **********

 時間が経つのは早いもので、それから二ヶ月が経った日のこと。
 三度みたび、おいら達は街道整備の新たな拠点となる施設を訪れたんだ。

 例によって監獄のような堅固な堀と壁に囲まれた施設の中に入ると…。

「あら、これは見事ですね。
 たった三ヶ月でこれだけの施設が出来るなんて…。」

 粗方完成した施設を目にして、ペピーノ姉ちゃんが目を丸くしてた。
 スジが如き細い目のペピーノ姉ちゃんが、珍しく目を見開いてたよ。

 正面の門を潜るとそこには広い道が一直線に裏門まで続き、道の両側はキレイな四角に整然と区画されてたんだ。
 そして中央を貫く道の右側には、作業員宿舎らしき大型の建物がずらりと並んでた。
 一方、道の左側には現場事務所や資材倉庫、それに食堂らしき建物が建てられていたよ。
 更に、裏門に近い一画には自給自足用と思われる畑まで作られているの。
 それは、さながら堅固な城壁に護られた小さな町のようだった。

 ペピーノ姉ちゃんが目を丸くするのも無理はないと思う。
 二ヶ月前に来た時には想像もできないくらい、立派な施設が建ち並んでいたんだもん。

「そうだね。
 本来、この施設は半年の工期を予定してたんだ。
 しかも、もっと沢山の人手を投入する見積もりだったの。」

 これはピーマン王子達に対する謝礼を弾まないといけないなと思っていると。

「これは、これは、マロン陛下、ようこそいらっしゃいました。
 先日送ったばかりですので、まだ、完成報告は届いていないはずですが。
 施設の完成が良く分かりましたね。」

 ピーマン王子と技師たちを連れた所長が声を掛けてくれたんだ。

「完成を知って来た訳じゃ無いんだ。
 約束の三ヶ月が経過したから様子を見に来たの。
 その言葉だと、ここが完成したと思って良いのかな。」

「はい、什器備品の搬入はまだですが、建屋や道路は完成しました。
 予定していた半分の工期で完成するとは驚きです。
 これもひとえに、ピーマン殿下他皆さんのご尽力の賜物です。」

 所長はピーマン王子達をべた褒めだったよ。
 以前の不健康なピーマン王子達を知らない所長は、良く体を鍛えているからとても重労働が捗ったと感心してた。

「そんなに褒められると恐縮してしまう。
 これも技官殿のご指導が良かったこと、それに資材の出来の良さのおかげである。
 それにしても、ここの建築資材は本当に良く出来ている。
 事前に加工してあって、組み立てるだけであるからな。
 我々にもこんな資材があれば、開拓もだいぶ楽になるだろうに。」

 一瞬、おいらも目を疑ったよ。
 だって、あのピーマン王子が謙遜して技官を立てるような言葉を口にするんだもの。
 出会った時の横柄な態度はすっかり影を潜めて、こんな謙虚な態度が取れるなんて…。

「あら、あら、ピーマンったら。
 見た目だけじゃなくて、性根まで真っ直ぐになって。
 まるで別人のようですわ。
 これはマロンちゃんにお任せして正解でした。」 
 
 やっぱり、ペピーノ姉ちゃんもピーマン王子の性格まで改善されていることに驚いてたよ。

         **********

 どうやら、所長達は完成した施設内の点検をしていたようで、おいら達もそれに同行させてもらったの。
 先ずは敷地の中央を貫く大通り、道全体を四角い石で敷き詰めて舗装してあるんだ。

「なあ、この石のブロック、良いな。
 寸分違わず同じサイズに切り揃えてあって。
 整地して平坦に固めた上に敷き詰めるだけで良いんだから。
 これって何処に売っているんだ?
 所長に聞いても分からないって言うのだが。」

 道路の出来栄えをチェックしている所長を横目に、ピーマン王子が尋ねてきたの。
 自分達で領地開拓をする際に、こんな石があると助かるって。

「あっ、これ、非売品だから何処にも売ってないよ。
 今整備している街道にも使って無いし。
 試しに、ここで使ってもらうことにしたんだ。」

 街路の舗装に使われている石は、地下貯水池を造る時に切り出した石だよ。
 公衆浴場を造るのに使った後でも、膨大な量が『積載庫』に残っていたからね。
 何か良い使い道が無いかと考えていたの。
 『積載庫』の機能で切り揃えるから、寸分たがわない石のブロックが出来るんだ。
 但し、幾ら膨大な量があると言っても、国内を縦横無尽に走る街道を舗装するには量が足りないからね。
 街中の街路の舗装になら使えるかと思って、試しにここで使ってもらったの。

「そっか、残念だな。
 この石があれば領地開拓が捗ると思ったのに。」

 しゃがんで足元の石をつつきながら残念そうに呟いたピーマン王子。

「この石、欲しければ分けてあげるよ。
 無尽蔵にって訳にはいかないけど。
 この現場に使った数の何倍かくらいなら。」

「おお、それは本当か!」

 おいらの言葉にとっても嬉しそうに反応したピーマン王子。
 だけど、それから直ぐに浮かない表情になって…。

「あっ、いや、そんなに簡単に言うが…。
 あんな正確に切り揃えてあるんだ。
 素材が石とはいえ、高いんじゃないか?
 正直、それほど予算は無いのだが。」

 こいつ、本当に変わったね。予算の心配まで出来るようになるなんてビックリだよ。

「ああ、それは心配しないで大丈夫だよ。
 これだけの施設を造ってくれたんだもの。
 お金なんて取れないよ。」

 ここへ送り込んだ時は、正直、ここまでのことが出来るようになるとは思っても居なかったんだ。
 どうせちんたらやっていて、足手まといにしかならないと思ってた。
 それでも、少しは真面目になって、領地開拓のためにノウハウを修得してくれればと考えて送り込んだの。
 だから、あくまで実習でノウハウを教授するってことにして、ピーマン王子達には無給と伝えてたんだ。

 でも予想以上の更生振りで、完璧に施設を造り上げたからね。無給って訳にはいかないじゃない。
 それなりの謝礼をしないと。

 そのことを明かしたら。

「それは有り難い。
 では、ここで使った五倍ほどの数を分けてもらえないだろうか。
 仲間内で話し合って、開拓地を五ヶ所ほど作ることにした。
 五人が領主となって、残りの者を騎士として召し抱えるのだ。」

 ピーマン王子達なりに、ここを出た後のことを話し合っていたんだって。
 うん、うん、他の連中も皆それなりに更生したみたいで良かったよ。

「そのくらいの数なら大丈夫だよ。
 それと開拓村を五つ造るなら。
 その分の家を建てるキットも付けてあげるよ。」

 おいらの言葉を聞いてピーマン王子は顔をパッと綻ばせ。

「おお、それは助かる。
 あの組み立てキットがあれば開拓が捗る。」

「開拓村が独立した領地と認められるためには条件があったよね。
 確か、一ヶ所最低五十件の家が必要なんだっけ?
 そしたら、村一つ当たり一般家屋キット五十とお屋敷キット一つで良いかな。
 あっ、宿屋用にここで建てた寄宿舎キットも付けようか。」

 以前、アネモネさんから聞いたことを思い出しながら提案すると。

「えっ、そんなに大盤振る舞いしてくれるのか?
 ここで指導してもらっただけでも有り難いのに。」

 ピーマン王子は、ここにいる技師達から受けた指導をとても感謝しているようで。
 給金が欲しいなどとは、ちっとも思わなかったそうなんだ。
 おいらの申し出は予想外だったみたいで、とても喜んでいたよ。

 その晩は、施設の完成祝いとピーマン王子達の慰労のため宴会を催したんだ。
 おいらはアルトに頼んで近くの街に飛んでもらい、特別にお酒を差し入れたよ。

 そしてその翌日、おいらはピーマン王子達を連れて王都へ戻ってきたの。
 料理長の下で修業を続けるおじゃる一人を残して…。 
 
      **********

 今年の投稿はここまでとさせていただきます。
 今年一年、読んでくださった皆様、本当に有り難うございました。
 新年は第二週から投稿を再開する予定です。
 来年もお付き合い頂けましたら幸いです。よろしくお願い致します。

 皆様、良いお年をお迎えください。
   
    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

訳あり王子の守護聖女

星名柚花
ファンタジー
下民の少女ステラは姉のように慕っていた巫女ローザに崖から突き落とされた。 死にかけたステラを助けたのは隣国アンベリスの第三王子ルカ。 ――もう私を虐げるばかりのエメルナ皇国で巫女見習いなんてやってられない! 命を救われた恩義もあるし、これからは隣国のために働こう! そう決意した少女の奮闘記。 ※他サイトにも投稿しています。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

処理中です...