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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第693話 何処かで聞き覚えのある店を始めるみたいだよ…

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 タロウに任せた冒険者ギルド『ひまわり会』が海に面した王都の一画を再開発したんだ。
 『新開地レジャーランド』と名付けた再開発地区、その開業を翌日に控えた日のことだよ。
 この街区の再開発計画を立案したシフォン姉ちゃんが、新しい街区の中を案内してくれることになったの。
 門を潜ると大きな掲示板が建ててあって、そこには全体の見取り図が掲示されていたよ。

「凄い数のお店があるんだね。 いったい何件くらいあるの?」

「そうね、大小合わせて全部で百件くらいかな。
 大きなお店はほとんどひまわり会が経営しているけど。
 小さなお店はどれもテナントで入居してくれてるの。
 酌婦さんがいる飲み屋なんかは、元々王都で営業してた人が店子として出店してるわ。」

 『風俗営業法』で規制された商売を営むお店は、特定地域に移転するか廃業しないといけないの。
 法の制定後半年間の猶予期間を設けてあったけど、その期限があと数日に迫っているんだ。
 なんの事は無い、ここが開業すると同時に移転してもらう予定で猶予期間を設けてあった訳だね。
 ひまわり会はアコギな営業をしているお店以外は声を掛けて移転を持ち掛けたらしいよ。
 ここは王都の繁華街より家賃を割安にしたそうだし、繁華街の店舗が店主の所有物の場合は買い上げにも応じたらしい。
 その甲斐あって、声を掛けたお店の大部分が再開発地区内に移転して来たそうだよ。
 空いた街中の物件は、改装を加えて健全な商売のお店として貸し出すんだって。

 『新開地レジャーランド』唯一の門を潜った先には半島状の敷地を縦に貫くように広い道が真っ直ぐに伸びてたよ。
 半島全体はこの中央通りを軸に格子状に区切られ、街区を隔てる道は全て馬車二台が余裕ですれ違える幅があるらしい。
 因みに、門から繋がる中央通りは馬車四台が余裕で通れる広さで、王都の目抜き通りより広いよ。
 良からぬやからたむろしないように、細い裏路地は一切造らなかったらしいの。 

 最初に案内してくれたのは、門を潜って直ぐの中央通りに面するオシャレな雰囲気の喫茶店だった。
 貴重なガラスを使った窓は採光が良くて、とても明るいお店だったの。

「はい、ここが最初のひまわり会直営店、『きゃんぎゃるカフェ』よ。」

「いや、それって!」

 シフォン姉ちゃんの案内を聞いて思わずツッコミを入れちゃったよ。
 たしか、にっぽん爺が若い頃にトアール国で企画したお店だよね。
 王都の風紀を著しく乱したとして営業禁止になったと言ってたよ。

「やーね、普通のカフェよ。
 女給さんがちょっと刺激的な服装をしているだけで。」 

 なんて、シフォン姉ちゃんは言ってるけど…。

「なにこれ、サンドイッチが一皿銀貨二枚って…。
 お茶も一杯銀貨二枚?
 高級な食材や良い茶葉でも使ってるのかな?」

 サンドイッチって広場の屋台で買えば銅貨五十枚あれば買えるし、食堂で食べても精々銀貨一枚だよ。
 法に定めた通り、店の入り口には額縁に入ったメニューが掲示されているけど。
 そこにズラリと並んだ飲食物の値段は全て銀貨二枚だったよ。
 しかし、手鏡一枚銀貨二枚って、どうしてカフェにそんなもの売っているんだろう…。

「うん? 別に普通の食材しか使ってないよ。
 屋台で売っているものと大して変わらないって。
 良いのよ、値段なんてお客さんさえ納得してれば良いのだから。
 高いと思ったら、お客さんが入らないだけのことよ。
 このお店は、この値段でもお客さんが納得するサービスを提供する予定なの。」

 シフォン姉ちゃんは、歓楽街の裏路地にあるぼったくりの店とは違うと胸を張って言ってたよ。

「お客さんが納得するサービスって…。
 もしかして、これのこと?」

 メニューの横にはもう一つの額が掲示されていて…。

『当店ではお気に入りの女給を店外デートに誘うことが出来ます。
 誘うことができる女給はこのバッチが目印!
 
 女給を店外デートに誘う場合、手数料として銀貨十枚を申し受けます。
 なお、制服を買い取ることで、当店の制服のまま店外デートに行くことも出来ます。
 制服の買取代金は銀貨二十枚です。

 また、店外デートの条件はお客様と女給の個別交渉に基づくものと致します。

 なお、以下の禁止事項に反した場合、退店して頂くと共に以後入店禁止と致します。
 ・バッチを付けてない女給を店外デートに誘うこと。
 ・拒絶の意向を示した女給に対して店外デートを強要すること。

 ルールを守って楽しい一時をお過ごしください。』

 って記されていたよ。
 法の順守を意識したのかどれも大きな文字で記され、金額の部分は目立つように太文字になってた。
 そして、バッチとして描かれていた図案はと言うと。
 二頭身のちびキャラ女給が、『私をお外に連れてって』と誘っている絵だった。
 
「うーん、確かにそれもセールスポイントだけど。
 女給さんみんなが店外デートに応じる訳じゃないからね。
 それより、お客さんが目を楽しませながらのんびり過ごせる空間が売り物なのよ。」

 シフォン姉ちゃん曰く、お客さんが長居して客席回転率が落ちるだろうから値段を高くしてるんだって。

       **********

 シフォン姉ちゃんの先導で喫茶店の中に入ると。
 丁度、開店準備の真っ最中だったようで、制服に着替えた女給さんがフロアに集まっていたよ。

「あっ、総支配人、今、制服の試着をしてたのですが…。
 これ、ちょっと短すぎませんか。
 歩いているだけで見えちゃいそうなんですが。」

 丈の短いスカートを手で押えながら、一人の女給さんがシフォン姉ちゃんに話し掛けて来たよ。

「内股で静々と歩けば見えないよ。
 ガサツな歩き方をしちゃダメなの。
 背筋を伸ばして姿勢良く、キレイな歩き方をしないとね。
 見えそうで、見えないように歩くのがポイントよ。」

 不満を訴える女給さんに対し、シフォン姉ちゃんがそんな注意をしていたよ。
 問題の制服はと言うと、基本はイベントで司会をする時にシフォン姉ちゃんが着用している服と同じだった。
 チューブトップと呼ばれる上着と超ミニのスカートの組み合わせ。
 細かい形や色柄は定期的に更新するそうだけど、今回は清楚な感じの白を基調とした制服だったよ。

「ねえ、シフォン姉ちゃん。 あのスカートの下って?」

「もちろん、履いてないわよ。」

 あっ、やっぱり…。

 広いフロアには五十人ほどの女給さんが制服の試着を済ませて集まってたけど。
 その中には見た顔もあって…。

「あれ、アイ、マイ、レイって三つの名前を使い分けてたお姉さんだよね。
 ここで働くことになったんだ。」

 別の名前を名乗って三人の『パパ』にたかっていた元『パパ活』娘が目の前に居たんだ。

「はい、あれからシフォン姉さんから色々仕事を紹介されたのですが。
 どれも今一つ、ピンとこなかったんです。
 そしたら、ここで働いたらどうかと勧められて。
 仕事の内容を聞いた途端、これこそ私が求めていた仕事だと思ったんです。」

 目の前の元パパ活娘を目を輝かせて言ったんだ。
 まさに天職に出会ったようだったと。 

「このカフェのいったい何が、お姉さんの琴線に触れたの?」

「だって普通、カフェの女給って開店から閉店までお勤めするんですよ。
 そんな長い時間働くの無理ですよー。
 その点、ここは自由出勤で好きな時間に来て、好きな時間に帰れるんです。
 給金だって、普通のカフェより段違いに良いんですよ。
 カフェの女給って時給銅貨七、八十枚が相場らしいですが。
 このお店は時給銀貨二枚も貰えるんですって。
 お客さんの多い少ないに関係なく、この制服でフロアを歩いてれば良いって。
 しかも、店外デートに誘われたらお客さんからお小遣いを貰っても良いってことだし。」

 定時で働くことなんか出来ないって、堂々と言い切る元『パパ活』娘。
 この姉ちゃんのチューブトップには、当然のようにあの二頭身娘のバッチを付けられてたよ。
 この姉ちゃん、基本的に働きたくないんだね…。 

「ねえ、シフォン姉ちゃん。
 このお姉さん、『パパ活』をしていた時と何も変わらないんじゃない?」

「嫌ね、全然違うわよ。
 あの場所でしたら『街娼行為』に該当して犯罪だけど。
 このお店は許可地区にあって、れっきとした営業許可を受けたお店だもの。
 ここでお客さんを取ることは合法なのよ。」

 なんだ、法に触れないってだけでやってることは変わらないんだ…。
 因みに、元『パパ活』娘はこのタイプが多かったらしくてね。
 シフォン姉ちゃんのもとに残った七十人の中で四十人近くがこの店で働くことになったそうだよ。

「でも良いの? お客さんの多寡に限らず自由出勤って…。
 お客さんが少ない時に、沢山女給さんが居て高い給金を払うことになったら。
 お店が赤字になっちゃうでしょう?」

「違うわよ。
 こういうお店は女の子が沢山居れば居るほどお客さんが寄って来るの。
 お客さんが少ないからと言って女給さんを減らしたら、ダメなの。
 お客さんが寄って来なくなって、それこそ悪循環に陥るわ。」

 シフォン姉ちゃんは言うんだ。
 店内を覗き込んで可愛い女の子が沢山居れば、道を通り掛かったスケベ親父が吸い寄せられるって。
 そのために明るい店内にして、高価なガラス窓を惜しみなく取り付けたそうだよ。

 なんかそれって、夜の篝火に吸い寄せられてくる蛾のようだね。
 飛んで火にいる夏の虫って…。
  
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