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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第674話 モグラ生活、ふたたび…

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 タロウの屋敷から戻ると、おいらの執務室に宰相を呼んだの。
 マリアさんに助言された内容を宰相に話すとこんな言葉が返って来たよ。

「はっ? 陛下が地下貯水池を造ると言うのでございますか?
 それは陛下が陣頭指揮を執ると言うことですか?」

 どうやら宰相は、おいら自ら地面を掘るとは思わなかったみたいだね。 

「他人を指揮するんじゃなくて、おいらが自分で穴を掘るんだよ。
 もっとも、本当に出来るかどうかは分からないから。
 一度試してみようかと思ってるんだ。」

「陛下が自ら地面を掘られると?
 あの『妖精さんの不思議空間』とやらで?
 地下貯水池の建造を前向きに検討してくださるのは有り難いですが。
 そんな事が可能なのでしょうか。」

 『積載庫』の中に土砂を収納することで地下に空間を造ると知り、宰相は懐疑的な表情になったよ。

「おいらも自信が持てないから、試してみると言ってるんじゃない。
 もしダメだったとしても、地下貯水池の計画は進めるから安心して。
 マリアさんから、今の王都は危ういと聞かされたから。
 試して無理そうなら、おいらが蓄えてる銀貨から建設費を出すことにする。」

 宰相にそう返答すると、おいらは地下貯水池の設計をした役人を呼んでもらったんだ。

   **********

 いったんおいらの部屋をでた宰相は、しばらくして一人の若い役人を連れて戻った来たの。
 どうやら、その役人さんは先日の公募で市井から登用された人らしい。

 どうやら、地下貯水池の設計は暗礁に乗り上げていた様子でいきなり新人に放り投げたみたい。
 とんでもない無茶振りに思えるけど、目の前の役人さんは宰相の期待に応えたようだね。

 役人さんは、貯水池に適した場所と範囲を赤線で囲んだ王都周辺の地図を広げて説明してくれたよ。

「地下貯水池の建設ですが、立地さえ選べばそう難しいことではございません。
 幸いなことに、王都の南西側にある小高い丘は表土が薄く、すぐに堅い地盤に突き当たります。
 この地盤をくり抜くように空間を造れば、落盤や陥没の心配はございません。」

 新たに採用した役人さん、王都周辺の地質にとても詳しくすぐに地下貯水池に適した立地を選び出したらしい。
 そこは役人さんの言葉通り表土が薄く岩盤が露出していて、農耕や建物建設に向かない土地らしく。
 未利用の荒れ地として放置されているため好都合だと言ってたよ。

 ただ、その堅い岩盤を掘削するのはとても大変なようで、結果として長い工期と膨大な建設費が必要になるみたい。
 もちろん立地だけじゃなくて、その地下貯水池となる空間の掘削方法にも工夫が必要だと言ってたけど。
 その辺りのことについても、詳細に記された図面を見ながら説明してたよ。

 そんな訳で、一通り説明を聞き終えると実際に候補地を見に行くことにしたんだ。
 マリアさんとアルトにも一緒に行ってもらうことにしたよ。
 おいらの『積載庫』じゃ不可能でも、レベルが高い二人の『積載庫』なら可能かもしれないからね。
 特にマリアさんからは、言い出しっぺなので協力しても良いって言質を取ってあるから。

 その数日後、指定された候補地に出向くと既に役人さんは待ち構えていて。
 同じ部署の人達と一緒になにやら黙々と作業をしていたよ。

「陛下がご視察にお越しになるとの事でしたから。
 あれから直ぐに候補地の測量に取り掛かりました。
 今、ちょうど縄張りを終えたところで。
 この縄で囲われた範囲の地下に貯水池を計画しております。」

 おいらが到着すると役人さんは手を止めてそんな説明をしてくれたんだ。
 見ると何も無い荒野に何ヶ所も杭が打たれて、杭と杭を繋ぐように縄が張られてたよ。

 役人さんは、おいらと一緒に居るマリアさんとアルトを見て怪訝な顔をしてた。
 妖精のアルトを初めて目にして驚いたのかも知れないけど。
 どう見ても町娘のマリアさんが、女王のおいらと並んで立っていることが奇異に感じたのかも知れないね。

 現にマリアさんったら。

「私、何か場違いな感じみたいね…。
 あの人、ずっとこっちを見ているもの。
 何で、こんなおばさんがここに居るんだって目で…。」

 何て言って居心地が悪そうにしてたもの。
 とは言え、差し出がましいと思ったのか、二人について尋ねて来ることは無かったよ。
 
 アルトとマリアさんを伴なったまま、おいらは候補地を回ってみたの。
 お役人さんの説明通り、そこは無く岩がちな土地で表土が殆どなく背丈の低い雑草が疎らに生えているだけだった。
 これなら最悪陥没しても迷惑を被る住人は居ないね。
 もっとも、貯水池としては陥没して貰ったら困るけど。

 一通り建設予定地を回ると、おいらは役人さん達に帰ってもらったんだ。
 おいら達が残ってるのに先に帰れと指示したものだから、役人さんはまた怪訝な顔をしてたよ。

 とは言え、『積載庫』で穴を掘る処なんて、懇意にしている人以外には迂闊に見せられないからね。

         **********

 役人達が立ち去るのを見送ると、おいらはさっそく穴掘りに挑戦することにしたよ。
 先ずは、縦穴。堅い岩をくり抜くように『積載庫』に収められるか確かめるの。

 役人さんが記した設計図の間口になるように寸法を意識して、地表面から垂直に地面を切り取るように…。

「えっ、あっさり、収まった?」

 思わず口に出してしまうくらい、あっさり地面をくり抜いたよ。
 目の前には真っ直ぐ下に向かって、四角い穴が地面の奥深く続いていたよ。

「ほら、やれば出来るじゃない。
 これなら、私の助けは要らないわね。
 じゃあ、私は帰ってお昼寝でもするわ。
 今夜もダーリンと子作りに励まないといけないから。」

 おいらが縦穴を掘ることに成功すると、マリアさんったらさっそく帰ろうとしてたよ。
 いきなり『積載庫』から空飛ぶ車を取り出してやんの…。

「ちょっと待ってよ。
 こんな大きな貯水空間、全部おいらに掘らせるつもり?
 逃がさないよ。協力してくれるって言ったじゃない。」

 子供のおいらに丸投げして、言い出しっぺのマリアさんが一抜けするなんて信じられない。
 おいら、逃がすものかとマリアさんにしがみ付いて放さなかったよ。

「分かったわよ。
 手伝ってあげるから、そんなにしがみ付かないの。
 トホホ、安請け合いするんじゃなかった…。」

 おいらが離れないものだから、マリアさんも観念して手伝ってくれることになったの。

 こうしておいら達はしばらく地下で穴掘りをする事になったんだ。
 以前、ハテノ男爵領でダイヤモンド鉱山の試掘を行った時以来の穴掘り生活だよ。
 よもや、ふたたびモグラのような生活をする事になるとは…。 
 
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