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第二十章 王都の民の憩いの場を造ったよ

第673話 王都はかなり危いらしい…

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 宰相が乗り気になっていた王都に地下貯水池を造ろうって計画。
 実現可能な計画が出来たと思ったら、莫大な工事費を要するらしい。
 それでも、宰相は地下貯水池を造りたいと思っているようで。
 おいらが最優先にと指示している街道整備を後送りするか、増税を検討出来ないかなんて言うんだ。

 そんな訳で、タロウの屋敷を訪ねたよ。

「何々、マロンちゃんが私に相談しに来るなんて珍しい。
 どんなことかしら?」

 もうすっかり陽が高くなっている時間なのに、寝起きのような格好で気だるげに尋ねるマリアさん。
 どうやら、前に言ってたように自堕落な生活を満喫しているみたいだね。
 そう、地下貯水池の言い出しっぺのマリアさんに相談しに来たんだ。
 恐らくこの大陸の人間で一番博識な人だからね。

 問い掛けに答えて、おいらは地下貯水池の建設に膨大な予算が必要なことをマリアさんに説明したんだ。

「そんな訳で、国庫の状況から言うと地下貯水池を造るのは難しいみたいだけど。
 宰相はどうしても造りたいって言うんだ。
 そのために、街道整備の予算を削るか、増税するかも検討して欲しいって。
 おいら、そうまでして地下貯水池って必要かなって思うの。」

 水の問題は王都だけのことだけど、街道整備は国全体に関わることだからね。
 王都の人達の利便を図るために、その他の地域に住む人の生活改善を後回しにするのはどうかと思うよ。
 おいらが、そんな事を話すと。

「うーん、物事の優先順位なんて人それぞれだからね。
 マロンちゃんがこの国の王様なんだから。
 自分のやりたいようにすれば良いんじゃない。」

 いきなり突き放すような事を言うマリアさん。

「いや、それじゃ、相談しに来た意味が無いじゃない。
 元々、地下貯水池のことを言い出したのはマリアさんだよ。」

「うん? 私、地下貯水池なんて言ってないわよ。
 私が提案したのは公衆浴場だもの。
 マロンちゃんが、そんなモノを造ったら遠出できないと渋ったから。
 貯水池を造ればと言ったんじゃない。
 マロンちゃんが、毎日公衆浴場へ水を供給すれば貯水池は要らないでしょう。」

「嫌だよ、毎日、お風呂に水を張りに行くなんて。
 それじゃ、まるで公衆浴場の奴隷みたいじゃない。
 それに、宰相は地下貯水池を王都の生活用水にも使いたいんだ。
 使える真水が増えれば、王都はもっと発展するって。」

 おいらが恒常的にお風呂の水張りする事は出来ないと言ったら、マリアさんが貯水池を造れば良いと言ったんだからね。
 それを聞いて宰相が飛びついたんだ。マリアさんにはもっと真剣に相談に乗ってもらえないと。

 おいらがマリアさんに詰め寄ると…。

「ハハハ、冗談よ。 真面目に答えてあげるわ。
 そうね、治水はとても大事よ。
 人は水が無いと生きていけないし。
 農作物を作るのにも、水が欠かせないもの。
 そして、この街はとても危いわ。」

 それまでにこやかに笑っていたマリアさんが、急にマジな表情になったよ。

「危いって、何が?」

「宰相さんは気付いて無いようだけど…。
 この街は異常よ。
 これだけの規模で、僅かな数の井戸に依存しているのですもの。
 井戸なんて、いつ涸れてもおかしく無いのよ。
 テルルの古代都市では水が枯れて放棄されたものが少なくないらしいし。」

 マリアさん、歴史とかの知識は乏しいと自嘲気味に言ってたけど。
 そんなマリアさんでも知っているくらい、水の枯渇が都市に致命的な影響を与えた事例は多いらしいの。
 少ない井戸に依存しているこの街は綱渡りをしてるようなものだって。
 そんなにヤバいのなら、もっと早く言ってよ…。
 
「そうね、これだけの都市なら。
 水源地帯から水道を引っ張って来てもおかしくないわ。
 後は王都の外を流れている川の水を浄化して使うかね。」

 マリアさんが生まれる数千年前、古代テルルでは水道橋や地下トンネルで水源から延々と飲み水を引いて来た例があるそうなんだ。

「いやいや、水道橋や地下トンネルなんて、それこそ予算が無いよ。
 第一、水を取れる水源なんて何処にあると言うの。
 迂闊なところから水を取っちゃったら、今使っている人が困るでしょう。
 王都の外を流れる川だって、淀んでいて飲み水には使えそうもないよ。
 浄化するって言っても、どうすれば良いの?」

「そうね、この国は高山地帯が無いから、大河は無いのよね。
 王都の外を流れている川だって、流量は大したことないものね。
 それに、今のこの大陸の技術ではあの川の水を飲み水まで浄化するのは難しいかしら。
 昔と変わらないとすれば、魔物の領域を水源とする川があった筈だけど…。
 魔物領域の縁に沿って、無人の地域を流れていて海まで注いでいるの。
 あの川が今でもあれば、利用している人はいないと思うけど。」

 なに、その危険地帯…、そんなところから水を引くなんて自殺行為だよ。

「どれも難しそうだね。
 でも、井戸水だけに依存しているのは危ないと言うなら。
 やっぱり、地下貯水池は造っておいた方が良いのかな。
 地下貯水池なら、おいらが真水を溜めておけるし。
 増税はしたくないから、街道整備を後回しにして…。
 その分で浮いた人手を地下工事に使えば良いか。」

 おいらが、渋々、当面の街道整備事業を縮小しようかと考えていると。

「マロンちゃん、それ本気で言ってる?
 そもそも、何で地下貯水池を造るのに銀貨五百万枚も必要なのよ。」

「だって、かなりの難工事になるみたいだし。
 人もいっぱい雇い入れないといけないみたいで…。
 人件費だけでも銀貨二百万枚を超えるらしいよ。」

「だから、それよ!
 マロンちゃん、このお屋敷の中庭を知っているのでしょう。
 海と繋がっている池。
 あれ、どうやって造ったのか思い出してみてよ。」

 中庭の池って、長時間陸上で暮らすことが出来ないハゥフルとシレーヌのためにムルティが…。

「って、アレをおいらにやれと?
 おいらでも出来るのかな…。」

 キレイな海水が必要な『海の民』の二人のために、ムルティが中庭に大穴を開けて海まで繋いだんだ。
 その場所にある土砂を『積載庫』に収めるって荒業を使って。

「たぶん出来るんじゃない。
 アカシアちゃんなんて、研究所の敷地を丸々一瞬にして収めちゃったし。
 なんなら、私も手伝うわよ。
 公衆浴場を創ってとお願いしたのは私だから。」

 事も無げ気にそんなことを言うマリアさん。
 邪魔な土や岩を『積載庫』に放り込んで地下に大きな空洞を造れば良いと、おいらに言ってるよ。

 まあ、それなら予算は少なくて済みそうだね。
 マリアさんが手伝ってくれるなら、何とかなるかも知れないし。
 因みに、マリアさん、地下貯水池が完成したら、次は魔物の領域から水路を引けなんて言ってるよ。
 同じ方法で…。それじゃ、おいら、土木作業員みたいじゃない。

 とは言え。
 もしそれが可能なら、街道整備はこのまま続けることが出来るね。
 おいらの『積載庫』でムルティみたいな事が可能かどうか、一度試してみる価値はありそうだよ。
       
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