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第十九章 難儀な連中が現れたよ…

第656話 あの問題児がやらかしたらしい…

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 人の愚かさと行動力の凄さを侮っていたとため息を吐いたマリア(マロン)さん。

「何か、想定外にしょうもないことをした人がいたの?」

 おいらが、浮かない顔となった訳を尋ねると。

「まあ、当初の私の見込みが甘かったのもあるのだけど。
 幾つかのグループ毎に移住させてから二十年程経った時のこと。
 ある一つのグループが、他のグループの町に攻め込んだのよ。
 そして、町のリーダーを殺害して、その町を併吞したの。」

「でも、グループとグループの間には魔物の領域を置いたんだよね。
 それに、妖精の森も。
 それを越えて攻め込んだと言うの?」

「そう、そこが私の見込み違いだったの。
 攻め込んだ方のグループは魔物を討伐して越えたのよ。
 当初は、人がそんなに好戦的だとは思わなくて。
 余り強くない魔物しか生み出してなかったから。」

 マリアさんの話では、攻め込んだ方のグループの土地もまだ十分に未開拓地が残されていたそうで。
 新たな農地を開墾するとか新たな町や村を造るとかすれば、幾らでも衣食住を充足出来るの状態だったらしい。
 わざわざ、危険な魔物の領域を越えてまで他のグループの領域に進攻する者がいるとは思ってなかったそうだよ。

「進攻したグループの方は、ヤンチャな男の子が多かったのね。
 ちゃんと農耕の指導をしてあげたし、農耕に適した肥沃な土地に配置したのに…。
 農作業をそっちのけで、周囲の探検をする連中がいたの。
 そして、魔物の生息域を見つけると魔物狩りを始めたのよ。」

 マリアさんは、その様子を伝えてきた妖精さんの報告を聞いた呆気に取られたらしいよ。
 『パンの木』を始め多収穫で栽培しやすい作物を与え、肥沃な土地も与えたのに農耕を放り出した連中が居たことに。
 肉が食べたいにしたって、当初住む家を用意した村の周りにはウサギが幾らでも生息してたそうで。
 わざわざ、魔物の領域まで行って魔物を狩る連中の気が知れなかったって。

「勿論、そんな連中ばかりではなかったのよ。
 各グループ百人くらいで、男女半々のグループを作ったのだけど。
 その内三十人ほどの男の子が、農作業を厭んで飛び出しちゃったの。」

 どうやら、ヤンチャな連中が地道な農作業を嫌って放浪の旅に出ちゃったらしい。

「ああ、何か、想像できるぜ。
 夏休みの宿題を放り出して、その辺中を飛び回るようなもんだ。
 計算ドリルとか漢字書き取りとか、地味な努力を嫌う連中って居るもんな。
 そんな奴に限って、ヤンチャ坊主が多くて…。
 夏休みなると『探検だ!』とか言って。
 糸の切れた凧みたいに、その辺中を飛び回っているの。」

「なに、タロウ、身に覚えでもあるの?」

「ああっ、俺か?
 俺はインドアタイプで小心者だったから…。
 夏休みの宿題をブッチする勇気も無かったし。
 野山を駆け回るくらいなら。
 涼しい部屋でマンガでも読んでいる方が好きだったよ。
 クラスの中に、そんな連中が居たってだけだよ。」

 タロウは、そんなヤンチャ坊主に夏休みの宿題とやらを手伝わされたらしい。
 クラスのカースト最底辺のタロウは、夏休み最終日に呼び出されて無理やり宿題を写させられたとかボヤいていたよ。
 
「あら、ダーリンみたいな文明の進んだ社会でも居たんだ。
 知性よりも、本能が優先する原始人みたいな子供が…。
 文明の進歩とは関係ないのかしら?」

「いや、それ、文明の進歩関係ないと思うぜ。
 子供も、大人も関係ないみたいだし。
 良い歳した大人が、宇宙旅行やら海底旅行やら騒いでたから。
 それも一種の知的好奇心なんだと思うぞ。
 未知のモノに対する。」

「そっか、男の子の冒険心を舐めてたわ…。
 それでね、探検の末、魔物の生息域に行き着いた子供達なのだけど。
 何を思ったか、無鉄砲にも魔物に挑んだの。
 そこで命を落とす子でも居れば、自分達の無鉄砲さに気付いたのでしょうけど。
 その子達、そんなところばかりチームワークが良くてね。
 挑んだ魔物に、勝っちゃったのよ。」

 皆で力を協調して取り組まないといけない農作業を厭うくらいだから、協調心が無いのかと思いきや。
 魔物退治に関しては、驚くくらいに協調性を発揮したらしいよ。

「それを率いたのがアダムなの。
 喧嘩っ早いアダムとノアには、レベルアップの仕組みは教えなかったのよ。
 良からぬことを考えたら困るから。
 もちろん、一緒に移住したグループの皆にもね。
 だけど、悪知恵が回ると言うか…。
 アダムは最初に魔物を倒した時にすぐ気づいたの。
 『生命の欠片』を取り込むことで身体能力が飛躍的に高まることにね。」

 魔物を倒すことによるレベルアップで、いっそう魔物を倒し易くなった子供達。
 もう畑仕事など見向きもせずに、魔物狩りに没頭したらしい。
 それでレベルアップを繰り返し…。
 魔物狩りを始めて二十年程で、魔物の領域の突破に成功したんだって。

 そして、その後も探検を勧めた一団は、やがて別のグループの住む町に到達したらしいの。

          **********

「アダム達が辿り着いた町は、私が意図した通りに発展していたの。
 グループの皆が力を併せて周辺の土地を開墾して、豊穣の地を築いてたわ。
 食生活が豊かだから、当然、子ども増えて…。
 当初百人でスタートした町の人口は、三百人ほどに増えていたの。」

 その町の住民は、マリアさんの教えに従って真面目に農耕に勤しんでいたそうで。
 マリアさんが理想とする平穏で豊かな町に発展していたそうなんだ。
 食糧事情が良かったことも手伝って、順調に人口も増えていたらしいの。

 他方、アダムの街なのだけど…。
 男手三十人が農作業を放り出して、探検に没頭してたこともあって。
 農地の開墾は大分遅れてしまい、お世辞にも豊かな町とは言えなかったらしい。 

「繁栄している他の町を目にした時に。
 自分達の町も発展させようと奮い立ってくれれば良かったのだけど。
 あいにくと、アダムはそんな殊勝な心掛けが出来る子じゃなかったのよ。
 他の町が豊かなら、隷属させて召し上げれば良いと考えたのね。
 いきなり、喧嘩を吹っかけたの。
 自分達に従え、さもなければ痛い目に遭わすぞってね。」

 いきなりやって来た無法者にそんなことを言われても、はいそうですかと従う者はいない訳で。
 当然、その町の人達は拒否したそうなんだ。

 この時、アダム達は三十人ほど。
 対するその町の男衆は、最初の五十人に加えて、移住後早い時期に生まれた子供が十代半ばに成長していて。
 六十人くらいが戦える年齢だったそうなの。
 その町の人は日頃の農作業で体が鍛えられていることもあり、敗ける訳が無いと思ったはずだろうって。 

 でも、町の人達はマリアさんの薫陶を受けて争いなどしたことが無い人達で。
 片や、アダム達は魔物狩りを繰り返して、かなりレベルが上がっていたそうなの。
 レベルが高く戦い慣れしてるアダム達に、戦いの経験のない人達が倍くらいの人数では勝てる訳も無く。
 町の男達はあっという間に打ちのめされたそうで。
 リーダーは惨殺されて、町はアダム達の支配下に入ったそうなの。

 その町に年貢を納めさせることを認めさせたアダムは、これに味をしめたそうなんだ。
 アダムは、チマチマと畑を耕すより、他の町を配下に入れて朝貢させた方が楽だと考えたらしいの。

「以降、アダムはいっそう周囲の探索に没頭するようになり。
 魔物の生息域を見つけては、それを越えようとしたの。
 私、焦ったわ。
 アダムがあんなに好戦的で、あんなに行動力があるなんて想定外だったから。
 取り敢えず、新しい入植地を作る時は町と町の距離を従来の五倍まで拡げたし。
 そして、より強い魔物の生息域を創るべく、新たな魔物を生み出すことにしたの。」

 因みに、他の町を支配下に入れようとしたアダムだけど。
 実際に進攻に成功したのは、その後二つの領域に留まったらしい。
 その頃は馬なんて移動手段は無く、徒歩だと一生涯に魔物の領域を二つ踏破するのがやっとだったらしい。
 
 ただ、年月が経つに連れ真面目に開墾に勤しんでいるグループの勢力は大きくなっているもので。
 最期に攻め込まれたグループは五つの町を擁する、人口二万人ほどの勢力になっていたらしい。
 三つのグループを支配下に治めたアダムは、この大陸で初めての国の成立を宣言したそうで。
 その時、アダムの版図の人口は5万人くらいまで膨らんでいたそうだよ。

「ねえ、それって今現在トアール国がある一帯のことじゃないの?
 おいら、聞いたことがあるよ。
 トアール国がある地域は昔小国が乱立していたって。
 数百年前に統一されたんだよね。」

 旅をしている時に、父ちゃんから教えてもらったよ。
 あの一帯って約四十万年も前から争いがあったんだ…。

「そうよ、最初に入植地を創ったのが大陸の中央に広がる大平原だったからね。
 そして、アダムがあんな行動に走るなんて思わなかったものだから。
 入植地と入植地の間隔が狭かったのよ。
 今残っている三ヶ国は、この国を含めてアダムが暴挙を起こした後に入植した土地なの。」

 マリアさんは言ってたの。
 この大陸の中央に広がる大平原は肥沃なので、農耕し易いように入植地を集めたのが誤算だったって。
 アダムの行動力を見て、人が徒歩で移動できる範囲が予想外に広いと知り驚いたらしいよ。

 その反省から、最後の三つの入植地は思い切って距離を離したんだって。
 そう言えば、この国はマリアさんの仕事を手伝っていたイブが最後に創った入植地だと言ってたっけ。
 あれ、でも…。

「三ヶ国って? トアール国を除いてこの大陸には四つ国があるよ。
 一つ足りないんじゃない?」

「ああ、一つだけ、初期の入植地が残っているのよ。
 アテナちゃんがリーダーになって、入植した町が起源の国。
 アテナちゃんは、多分、アダムの気質を見抜いていたのね。
 入植する土地を決める際に中央平原とは山脈を挟んだ土地を希望したの。
 争いに巻き込まれたくは無いから、なるべく遠い土地と言われて。
 この大陸の南の端の海沿いに町を創ったの。」

 アテナは争いが起こることを予見していたようだと、マリアさんは後になって気付いたらしい。
 おいら、思わず隣にいるオランを見ちゃったよ。

「やはり、アテナとは私の祖国の始祖様じゃったのか。
 名前が同じ故、もしやと思っていたのじゃが。」

「あら、オラン君はあんな遠い国から婿入りしてきたのね。
 凄い、偶然ね。
 大陸の南北両端に居を構えたというのに。
 イブの子孫とアテナの子孫が一緒に並んでいるなんて。」

 オランがシタニアール国から婿に来たことまでは、アカシアさんから聞いてなかったようだね。
 
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