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第十八章【間章】おいらが生まれるよりずっと前のことだって

第607話 そして、終焉の時は突然やって来たよ…

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 壁に映し出された画面の中では、沢山の流れ星が降って来たみたいなの。
 その時、部屋に入って来たアカシアさんは、何か巨大な物が降ってくると言ったんだ。
 どうやら、その特出した空間把握能力で途轍もなく大きな物体の接近を感じ取ったらしい。
 アカシアさんの見立てでは、マロンさんが住む大陸くらいの大きさだって。

 時を同じくして、マロンさんに入った緊急通信。
 マロンさんは、通信機の向こうの人物に向かって声を罵声を浴びせてたよ。
 これまでの映像では物静かな雰囲気だったマロンさんが、声を荒げたその内容はと言うと。
 マロンさんの住む星に小惑星が衝突するとの知らせだったの。
 アカシアさんの見立て通りの大きさの…。

 マロンさんから非常通信の内容を伝えられたオリジンは顔面蒼白だったよ。

「何てこと…。
 それじゃ、さっき降って来たのは。」

 オリジンが確認するように尋ねると。

「そう、ご想像の通り、小惑星の破片の一部ね。
 この星の重力に引っ張られて、小惑星の一部が剥離したのでしょう。
 でも、さっきの隕石はほんの前座よ。端役も良いところね。」

 真打が登場した日にはとんでもないことになると、マロンさんは匂わせたの。

「それって、もう、すぐそこまで近付いているのよね。
 小惑星の衝突は何時頃なの?」

 この星の引力に引っ張られて破片が降って来るのだから、相当近いはずだとオリジンは言ってた。

「正確な小惑星の衝突日時は不明。
 遅くとも三ヶ月以内には、この星の玄関扉をノックするそうよ。」

「呆れた。
 そんな近くに接近されるまで気付かなかったの。」

「天体観測に回す人材も資材も無いんですって…。
 経済活動に寄与しないことは何時でも後回しなのよ。
 『箱舟プロジェクト』は唯一の例外だったみたいね。」

 マロンさんとオリジンは顔を見合わせてため息を吐いていたよ。

「それで、政府はどうしろと言ってるの?
 さっきの非常通信で何か指示があったのでしょう。」

 オリジンは政府の対策を尋ねたのだけど…。

「政府は匙を投げたわ。
 プレジデントは報告を受けた途端、教会へ行ったそうよ。
 祈りのために礼拝堂に籠っちゃって、出て来ないらしいわ。」

「呆れた、職務放棄も良い所ね。」

「そんなこと言わないの。
 もうジタバタしても仕方ないしね。
 神に祈ることで、心の平穏を保ちたいのでしょう。
 まあ、あんな眉唾なモノに祈る気持ちは理解できないけど。
 イワシの頭も信心からと言うしね。
 それで心が安らぐなら良いんじゃない。」
 
 マロンさんはプレジデントって人を庇うように言ったの。
 たった一人の気の狂った独裁者のせいで、突然世界が滅びの危機に瀕したかと思えば。
 いきなり小惑星がぶつかって来るなんて、神にでも祈らないとやってられないって。

 モニターの中の二人の会話を聞いていて、おいら、思ったよ。
 でも、その神ってヤツが存在しないから、そんな厄災が起こるんじゃないのって。
 タロウが言っていたような慈悲深くて、全知全能な存在がいるなら二つとも見過ごさないと思うよ。

「それで、マロンにはどうしろと言ったの?
 まさか、教会にでも行って祈れとか…。」

「『箱舟プロジェクト』はあの連絡をもって終了ですって。
 私もPTメンバーとこの研究所の所長を解任されたわ。
 退職金は出ないそうよ。
 その代わりこの施設は好きにして良いらしいわ。
 残り僅かな時間を好きなように過ごしなさいって。」

 マロンさんはそう言ってお手上げのポーズを取ったよ。

「こんな人里離れた山の中の施設なんて、誰も返せなんて言わないわね。
 マロンはここで生まれ育ったから、他に行く所も無いものね。
 良かったわね、路頭に迷わずに済んで。」

 そんな、何の慰めにもならないオリジンの言葉に。

「そうね、私のこの二十三年の人生、この研究所が全てだったもの。
 生まれた頃は、既に汚染が酷くて研究所の建物から一歩も外に出たことが無いから。
 研究漬けで考える暇も無かったけど、改めて考えてみれば寂しい人生だったわ。
 私以外に同世代の子供も居なかったから、恋人はおろか、友達すら一人も居なかったしね。
 昔の映画や小説みたいに、素敵な男の子と恋の一つくらいしてみたかった。
 まあ、私には素敵な男の子ってモノが想像もできないけど。」

 マロンさんは自嘲気味にそんな返答をしていたよ。

       **********

「マロン、まだやっているの?
 もう、やめて少し休んだら…。
 今更、研究を続けても意味が無いでしょう。
 ほら、小惑星、肉眼でもはっきり見えるようになったわよ。
 あと何日で衝突するのかしら。」

 次に映し出された場面では、オリジンがマロンさんを休ませようとしていたんだ。
 モニターの中のマロンさんは、目の下の隈を更に濃くしてたの。
 多分、ロクに寝ていないんじゃないかな。

「分かってはいるんだけどね。他にすることが無いのよ。
 子供達はみんな、地下のコールドスリープ施設に眠らせたからね。
 今は、あの子達が生き延びられた時のために出来る事をしておこうと思って。
 例え、奇跡に近いごく僅かな確率だったとしてもね。」

 そう言ってマロンさんが、オリジンに示したのは…。

 『パンの実』だった。

 子供達がもし生き残れたとしたら、簡単に食べられるものがないと困るだろうって。
 簡単に栽培できる植物に、美味しくて、栄養があって、腹持ちのする実を付けさせることにしたんだって。
 
「鍛冶場の馬鹿力とはよく言ったものね。
 こんなに短時間で作り出せるとは自分でも思わなかったわ。
 ほら、食べてみて、美味しいわよ。」

 パンの実を切ったマロンさんは、一つまみ千切ってオリジンに差し出していたよ。 
 オリジンはそれを口にすると。 

「ホント、美味しいわね…。
 起こると良いわね、奇跡。
 マロンがこんなに頑張っているのですもの。」

 しみじみと言ったその目には涙が浮かんでいるように見えたよ。
 妖精さんが涙を流す光景なんて想像もしてなかった…。

「ねえ、ママ、マロン。
 しんみりしているところ、お邪魔するようだけど。
 ちょっと良いかしら。相談があるの。」

 沈黙してしまった二人に、アカシアさんが割って入ったんだ。
 どうやら、何処かに行っていたみたい。

「どうしたの、アカシア?
 アカシアには地下施設の管理をお願いしたはずだけど。
 あなたなら、コールドスリープ期間中も生存できるはずだからね。」

 もし、地下施設が無事だった場合に、アカシアさんがコールドスリープ施設の管理を担当することになっていたらしい。
 いつ、小惑星が衝突するか分からないので、既に地下施設に移動していたみたいだね。

「それなんだけど…。
 コールドスリープの施設の設置場所。
 地下に置いておくよりも、不思議な空間の方が良いと思うの。
 あの規模の小惑星が衝突したら、無事では済まない確率の方が高いのでしょう。
 どうせダメもとなら、あっちの方が少しは望みがあると思うわ。
 隔絶した空間なんだもの。」

 アカシアさんは提案したんだ、地下施設を不思議な空間へ収納してしまおうと。
 いや、その後で言い直したよ。いっそ、研究所を敷地ごと丸々入れてしまえば良いって。

「えっ、入るの? こんな広大な研究所が?」

 信じられないって表情で問い返すマロンさん。

「やってみないと何とも言えないけど…。
 多分出来ると思う。
 私の勘が出来ると言っているの。」

 そして、実際にやってみて…。
 不思議な空間の中にはすっぽりと研究所が収まり、マロンさん達は研究所の庭に出ていたの。

「凄いわね。
 この空間、想像の斜め上を行くわ…。
 この広い研究所を敷地ごと収納しちゃうなんて。」

 マロンさんはど肝を抜かれたって顔で言ってたよ。

 結局、アカシアさんの勘は正しかった訳だね。
 こうして今、おいら達と話をしているのだから。
 でも最初に言っていた、流れ星に乗ってやって来たと言うのはどういう意味だろう。
 事故ってのは、小惑星の衝突のことを言っているのだろうけど。
 
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