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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第589話 宰相が一番喜んでくれたのは…

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 ヌル王国から奪って来た金銀財宝の一部を人を召し抱えるために使って欲しいと宰相に伝えると。
 宰相は召し抱えたい人材がいるのかと尋ねてきたんだ。

 なので、おいらはヌル王国から連れて来ちゃった多くの人を紹介することにしたよ。
 アルトにお願いして、グループ毎にまとめて順に出してもらうことにしたの。

 まず最初にアルトの『積載庫』から出してもらったのは、男五人と女五十人ほどの集団。
 そこそこ広いおいらの執務室も人でいっぱいになったよ。
 
「これは、いったい?
 ほとんどが年端のいかない娘ではございませんか。
 子供を召し抱えるおつもりで?」

 五歳くらいの小さな女の子が居たものだから宰相は怪訝な顔をしてたよ。

「この人達はノノウ一族。
 ヌル王国の裏で暗躍してきた間者の一族なんだ。
 大人達はノノウ一族の分家の人達で。
 若い娘さんは現役の工作メイド。
 小さな女の子はメイド見習いだなんだ。
 おいらが召し抱えたいのは、現役の工作メイド達だね。」

 おいらがノノウ一族のことを紹介すると。
 宰相は露骨に顔を顰めて。

「工作メイドと言うのは、先般襲撃してきた連中の中にも居りましたな。
 王宮に潜伏して良からぬことをしようと企んでいたようですが。
 そのような者を召し抱えて大丈夫なので御座いますか?」

 宰相はジャスミン姉ちゃんに随伴してた工作メイドを思い浮かべたらしい。
 ジャスミン姉ちゃんがおいら達に助けを求めた時、いきなりジャスミン姉ちゃんを射殺しようとしたものね。
 そんな物騒な人達を雇っても大丈夫なのかと疑念を抱いているみたい。

「大丈夫だよ。
 ヌル王国に居た時もみんな良く協力してくれたんだ。
 それに、ここに居る人達は本家を裏切っておいらに付いて来たんだもの。
 もう、行くところが無いから悪いことはしないって。
 サニアール国で召し抱えられたメイドも働き者だと褒められていたよ。」

 実際、ウレシノも、スルガも協力的で助かったし。

「はあ、陛下がそう仰せなのであればかまいませんが…。
 それで、他の者達はどうされるので?
 特に幼子たちは。」

 宰相はちびっ子たちに目を向けて尋ねてきたよ。
 確かに、十にも満たない子供を王宮で使う訳にはいかないからね。

 小さな子は大人の機嫌に敏感だからね、宰相の視線に不安を感じたのだと思う。

「ねえ、おねえちゃん。あたちたち、おいだされるの?」

 おいらの袖を引きながら、最年少の女の子が尋ねてきたの。

「大丈夫だよ。
 追い出すなんてしないから、安心して。
 お姉ちゃんがこの国で一番偉いんだから。
 みんなを引き取ると言った約束は守るよ。」

 おいらはその子の不安を払拭すべく、宰相の説得にとり掛かることにしたの。

「メイド見習いの子達は身寄りがない子が多くてね。
 ノノウ一族が無くなって行き場を失っちゃたの。
 なので、メイド養成所を作って引き取るつもりなんだ。
 大人達にはその指導をしてもらおうかと思って。
 元々、メイドの育成を担当していた人達だから。」

 もっとも、男達を使うつもりは無いけどね。
 男達は、もっぱら房中術って術を指導していたらしいけど。
 なんかいかがわしい雰囲気なので教えなくても良いと思って。
 貴族の男に取り入るための術らしいし、特段の必要はなさそうだもん。
 専業主夫にでもなってもらい、元工作メイドの奥さんに養ってもらうよ。

「はあ、メイド養成所ですか?
 それは、そこにいる娘達が一人前になるまでのことですか。」

 宰相はメイド養成所を一時的な施設だと思ったみたい。
 おいらが連れて来ちゃった子供達が一人前になるまでの。

「それじゃ、指導役の大人が失業しちゃうじゃない。
 養成所は永続的なものにするつもりだよ。
 身寄りのない娘達を引き取って、手に職を付けさせようと思うんだ。
 他にも希望者がいれば受け入れても良いし。」

「そうですな、一人前になれば王宮で使っても良いし。
 人手の足りない貴族家に紹介しても良いですな。
 では、その方向で検討いたします。」

 宰相もおいらのプランに賛同してくれたんだ。
 詳細は後日詰めてもらうことにしたよ。
 どんな人員配置にするか、何を教えるかとかね。
 房中術以外にも、暗殺術とか、教える必要のないものもあるから。 

      **********

 そして、次に宰相に紹介したのはシラカワ衆を始めとする火薬製造集団だよ。
 人が多過ぎて部屋に入りきらなかったので、村長三人だけを部屋に出したの。
 火薬の製造に携わっていた三つの村の人を丸々連れて来ちゃったからね。

「陛下、我が国も大砲や鉄砲で武装するおつもりですか?」

 おいらが村長さん達を紹介すると、宰相はあまり良い顔をしなかったよ。
 この国だけが、鉄砲や大砲で武装すると他国に警戒感を抱かせると思ったんだろう。
 サニアール国のシナモン姉ちゃんもそれを心配してたものね。

「違う、違う。
 ヌル王国の連中、また軍備拡張をするかも知れないからね。
 それ未然に防止するため、この人達を連れて来ちゃったの。
 この人達が居ないと、火薬を作れなくなるから。」

「はあ?
 では、この方達の生活はどうなさるおつもりですか?
 三百人からの村人が居るのでしょ。
 仕事が無いと生活していけませんぞ。」

 宰相は咎めるような目でおいらに尋ねてきたよ。
 その目は、後先考えないで拾って来たらダメじゃないかと言ってたよ。

「火薬って元々良い堆肥を作ろうと試行錯誤する中で発明されたものらしいの。
 三つの村とも土地が瘦せていて農作物の育ちが悪かったんだって。
 その成果で、三村共に相当良質な肥料を作れるらしいよ。
 良い肥料を作ってもらって、この国の食糧生産を増やそうと思ってるんだ。」

 おいらは三つの村の人達とどんな約束をしているかを宰相に説明したんだ。

「ふむ、農耕に適した土地の提供と出来た肥料の買い取りですか。
 それは、悪くない計画ですな。」

「でしょう。
 ただ、それだけじゃないよ。
 村人が住むための家と必要な家財。
 それに当面何年か分の生活費も提供しないと。
 あと、村長さん三人は貴族にしてちょうだい。
 村人を束ねてもらわないと困るからね。」

 おいらがヒーナル一派を排除した時に宙に浮いた爵位は沢山あるからね。
 国の発展に有意義な計画には爵位を付けても良いと思うんだ。

「そうですな、それでは王都の近くに取り潰した貴族の領地が幾つかあります。
 どこも民に重税を課したせいで逃散が多発して、休耕地が沢山あるようです。
 そこに入植してもらえばよろしいのでは。
 至急空き家を補修するように致しますので。」

 取り潰した貴族って、大概がヒーナルが騎士団長だった時からの取り巻き連中だったからね。
 放蕩三昧で真面な領地経営が出来てなかった癖に、酷い重税を課していたそうで。
 重税に耐え切れずに、家や農地をほっぽり出して逃げ出した領民が多いらしいの。

 その場に居た三人の村長さんも、宰相の意見を受け入れてくれたので。
 村長さんにはそれぞれ王都近郊の領地を与え、それぞれの村人はそこへ移住してもらうことで決まったよ。
 細かい事は、村長さんと宰相で相談してもらうことにした。

       **********

 そして、最後は鉄砲と大砲を造っていた工廠の技術者の人達。
 工廠を破壊した後、単純作業に従事していた人はヌル王国に残して来たよ。
 ヌル王国に親類縁者が居るようだし、鉄砲や大砲を造る知識や技術は持ち合わせて無いみたいだから。

 連れて来たのは約五十人の技術者とその家族たちなんだ。

「ヌル王国の鉄砲と大砲製造能力を奪うために連れてきたの。
 前もって言っとくけど、おいらは鉄砲や大砲を造らせるつもりは無いよ。
 この人達、鉄を大量生産する知識と技術を持っているから。
 どんなものを造ってもらうかは宰相に任せるよ。
 この人達の話を良く聞いて、国の発展に役立ててちょうだい。」

 連れて来た五十人は、鉄に関する事なら割と何でも出来そうだったから。
 おいらが細かい指示を出すより、宰相に何を作るか決めてもらった方が良いと思ったの。
 この国にどんなものが必要かは宰相が一番良く分かっているだろうから。

「陛下、御慧眼でしたぞ。
 我が国には鉄の量産技術はございませんので。
 その知識を持った技術者をお連れ頂いたのは助かります。
 この者達の話を良く聞きまして、待遇や仕事の内容を決めたいと思います。」

 今回ヌル王国から連れて来た三グループの中で唯一、宰相は手放しで歓迎してくれたよ。
 大砲や鉄砲と言った武器の分野だけじゃなくて、鉄って色々なところに使うからね。
 今までは鍛冶屋さんが細々と鉄製品を作っていたから、量産品や大物が造れなかったそうだよ。
 連れて来た技術者から大型の溶鉱炉の話を耳にして、宰相は子供みたいに目を輝かせてた。

 取り敢えずは、溶鉱炉付の大きな工房を創らないといけないね。
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