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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第584話 うん、それ、良い判断だと思う

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 おいらの前でいきなり自らの護衛に襲われたダージリン王。
 ダージリン王が倒れると待ち構えていたかのように御典医が入って来て、王の崩御を告げたの。
 しかも、過労死との御典医の見立てに対して、護衛の凶行を目撃していた宰相は異論を差し挟まないし。
 それどころか、王の崩御を告げられて直ぐに、次期王として僅か六歳の王女を担ぎ出してきたんだ。
 突っ込みどころ満載で、何処から突っ込んで良いのか迷ったよ。

「多分、建前は大事なのだろうから、深くは突っ込まないけど。
 随分と手回しが良いんだね。」

 挨拶が済むと、何故かセイロンちゃんはおいらの膝の上によじ登って来たの。
 妹のミンメイよろしくセイロンちゃんを膝の上に乗っけたまま、宰相に尋ねると。

「今後、諸外国との折衝を考えると…。
 やはりダージリン王にはお隠れになって頂くしか無いという結論になりまして。
 とは言え、マロン陛下に誓約書を手渡すまではご存命で頂かないと支障がありまして。
 やむを得ず、このようなこととなりました。
 国の醜態を晒しましてお恥ずかしい限りです。」

 そんな答えが返って来たよ。
 因みに、本当は一昨日中にでも誓約書を作成しておいらに手渡すことは出来たそうだよ。
 中一日置いたのは、国の体制をどうするのかを有力貴族と相談するためだったらしいの。

 一昨日、おいらの要求を聞き、それに対するダージリン王の態度を見て、宰相は決断したんだって。
 現王を排除して、国の体制を一新しようと。
 ダージリン王はその場しのぎでおいらの要求を呑むつもりだったみたいで。
 本心では領土拡大の野望を捨てる気などさらさら無かったみたいなんだ。

 おいらに奪われた船や大砲を再度造り直し、その為に鉄や火薬の量産体制も早急に立て直す。
 そんな事になったら、国の財政は破綻すると宰相は危惧したそうだよ。
 また再び軍備が整えば、おいらとの誓約を違えてハーブ諸島や新大陸に侵攻するかも知れない。
 そんなことをしようものなら、今度こそアルトに国を滅ぼされると宰相は思ったらしい。

 一昨日おいらが辞去するとすぐに、宰相は反王派の最有力貴族であるブルーマロウ侯爵とツェリンマ侯爵に相談したらしい。
 検討した結果、ダージリン王には速やかに病没してもらうことになったそうだよ 

「流石に、まだ六つの末姫を女王にするとは驚いたよ。
 ジャスミン姉ちゃんからは、ダージリン王の長男が皇太子だと聞いていたし。
 そもそも、この大陸では女王は認めていないんじゃないの?」

「ああ、皇太子は昨夜寝屋で体調を崩されたようでしてな。
 褥を共にした娘が朝起きてみたら、冷たくなっていたとのことです。
 第二王子は昨夜、近習たちとお気に入りの娼館へ繰り出したそうなのですが、…。」

「もう良いよ。
 皇太子も第二王子もロクな人間じゃ無かったんでしょう。
 ジャスミン姉ちゃんから聞いているよ。
 鼻持ちならない奴らだとね。」

 そんなに都合よく不幸が重なる訳ないじゃない。
 皇太子や第二王子が王位に就いたら今までと何も変わらないので、排除したんだろうね。

「流石、一国を背負って立つだけのことはありますな。
 まだ歳若いと言うのに察しが良いようで。
 実際、二人はダージリン王のお気に入りでしてな。
 幼い頃よりダージリン王の考えに色濃く染まっているものですから。
 主要貴族の総意として、新しいこの国の王にはそぐわないとなりました。」

 いや、幾ら子供だって、そんな不自然なことが続けば気付くって…。

「主要貴族って…。
 この国の貴族は、王族が海賊をしていた頃から従っていた家が多いんでしょう。
 そんな貴族が、ダージリン王や王子二人の排除を良く認めたね。」

 おいらは、とある確信を抱きながらも一応尋ねてみたんだ。

「ああ、あの海賊崩れの悪党共ですか。
 一昨晩、王都で暴れた馬鹿者共が居たでしょう。
 マロン陛下にも鎮圧にご協力頂けたようで感謝しております。
 あの騒ぎを引き起こした者の家を全て取り潰したら、そのような者は居なくなりましたよ。
 マロン陛下にはその点でも深く感謝しております。
 我が国を蝕んでいた病巣除去にご助力頂いたのですから。」

 そう返答したのは、軍閥貴族の名門だと聞かされているブルーマロウ侯爵。
 そう言えば、ジャスミン姉ちゃんが言ってたよ。
 ウーロン王子に従っておいらの住む大陸へ侵攻したのは、王家譜代の貴族の子弟が中心だと。
 おいらの想像通り、この機に乗じて王家譜代を貴族も排除しちゃったんだね。

「ええ、ブルーマロウ卿の言う通りです。
 これから、諸外国と友好関係を築いて行こうと言うのに。
 海賊根性の抜けない野蛮人たちは邪魔者以外の何ものでも無いですからな。
 マロン陛下とアルト様が連中から武器弾薬を取り上げてくださり助かりました。」

 同じく穏健派軍閥貴族のツェリンマ侯爵も相槌を打っていたよ。
 どうやら、戦力を温存したこの二家が中心になって他家を制圧したようだね。
 昨日から今朝に掛けて、反王族派の貴族が大分暗躍したみたいだ。

      **********

 それで、どうして幼いセイロンちゃんに白羽の矢が立ったかだけど。

 宰相の言うところでは。

「と言うことで、一昨日、国王派に内密で主要貴族が会合を持ちました。
 結論として、今後のこの国の舵取りは主要貴族の合議制で行うとことなりまして。
 王権は極力制限して、国王には国の象徴としての役割に徹して頂くことになりました。
 であれば、いっそ、愛らしい王女を玉座に据えてしまおうと。
 その方が多国に警戒感を抱かせることがないでしょうから。」

 宰相の話によると、最初は慣例通り王子達の中から次期王を立てようと考えたらしいよ。
 でも、王子達は多かれ少なかれダージリン王の考えに感化されているそうなんだ。
 ジャスミン姉ちゃんの話では、ダージリン王は王子達にはあまり関心が無かったようだからね。
 自分から存在をアピールしないと父王から構ってもらえなかったみたいなの。
 そのため父王の歓心を買おうと、誰もがダージリン王好みの行動を取るようになるみたい。
 結果、考え方や立ち居振る舞いが、ダージリン王そっくりになるんだって…。

 宰相は王子達の顔を思い浮かべたのか、ゲンナリした顔をしてたよ。

 王子達はどれも次期王には不適格と言うことになって、ならば、いっそ女王でとなったらしい
 この大陸では、いずれの国も歴代の王は男性で、女王は過去一人もいないみたい。
 でもそれはあくまで慣例で、成文法として決められている訳では無いんだって。
 念のため宰相は、配下の者に命じて女王擁立の妨げになる文書が無いか確認させたそうだよ。
 一昨日から、徹夜で文書を漁った結果、女王でも問題ないと確信したんだって。 

 ダージリン王の悪癖のせいで、この国の王女はおしなべて皆美人らしいの。
 属国の王家やこの国の貴族から、見目麗しい姫を見境なく召し上げたらしいからね。
 そんな中でも、おいらの膝に乗っているセイロンちゃんはピカ一に愛らしいそうだよ。

 しかもまだ齢六歳なので、ダージリン王の悪しき思想に全く感化されていないのが良かったらしい。
 これから時間を掛けて、じっくりと常識的な国のあり方を教育していくんだって。

 まあ、おいらの住む大陸にちょっかいを掛けて来なければ、誰が王になっても構わないけどね。

 そんな宰相達の話に耳を傾けていると。
 膝の上に乗せたセイロンちゃんが、おいらの袖を引っ張ったの。
 何かと思ってセイロンちゃんに視線を向けると…。

「お姉ちゃん、仲良くしてね。
 いじめちゃやだよ。」

 上目遣いでおいらに訴えたんだ。
 あざといよ、こんな可愛い女王様にお願いされたら思わず「うん」と言っちゃう。 
 
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