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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第580話 工作メイド、料理も完璧だったよ…

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 本命の彼氏を落とすと、大枚を叩いてパンツと『きゃんぎゃる』の服を買った娘さん。
 
「健闘を祈るわ。頑張って意中の彼を射止めるのよ。」

 そんなシフォン姉ちゃんのエールを受けて、意気揚々と立ち去って行ったよ。
 良いのかな、『ゴムの実』をおまけに付けちゃったけど。
 あれって、トアール国でご禁制になるほどヤバい果物だよね。 
 
 シフォン姉ちゃんの露店もオバチャンの口コミネットワークに乗ったようで、その後もお客さんが絶えなかったの。
 シフォン姉ちゃんの売るパンツを握り締めて、これでマンネリを打破すると気勢を上げるオバチャンが多かったよ。

 シフォン姉ちゃんが忙しそうに売り子をするのを横目に…。

「オラン様、お肉が焼けましたよ。
 ウレシノがオラン様のために丹精込めて焼きました。
 召し上がってください。」

 ウレシノが焼きたてのお肉をオランの口元に持って行ったよ。
 元工作メイドが、シフォン姉ちゃんとは反対側のおいらの隣でお店を出していたの。

「美味しいのじゃ。
 味付けが塩だけとは思えぬ美味さなのじゃ。」

「オラン様に喜んでもらえて、ウレシノも嬉しいです。
 私達、メイド隊は幼少の頃から料理も仕込まれていますから。
 大抵の食材は上手く調理出来ますよ。
 そ・れ・と、何よりもオラン様への愛情が一番の隠し味です。
 ささっ、たんと召し上がってください。まだまだ、ありますからね。」

 オランに褒められて上機嫌のウレシノは、お替りを勧めてるよ。
 いや、まだまだあるって、それ、商品だよね…。

「ほら、あんたも食べなさい。
 言っとくけど、あんたのために焼いたんじゃないからな。
 勘違いするなよ。」

 他方、ウレシノと一緒にお肉を焼いていたスルガは、つっけんどんにタロウに肉を差し出してたんだ。

「おおっ、お約束のツンデレか?
 俺、何時の間にフラグを立てたんだろう?
 これは、俺にもモテ期到来かな。」

 タロウがにやけた顔でお肉を刺した串を受け取ると。

「うわっ、キモッ!
 何がモテ期だよ。そう言うセリフは鏡を見てから吐くんだな。
 仕方ないんだよ、このメンツに男は二人しかいないんだから。」

「ひどっ! ほんの冗談なのに。
 そんなに引かなくても良いだろう。
 だいたい、男が二人しかいないことが何だよ…。」

 スルガのリアクションに愚痴を零すタロウ。
 スルガがマジでドン引きしてたものだから、タロウったら落ち込んじゃったよ。
 
「マロン様から命じられて屋台を出したのは良いが。
 朝っぱら、こんなデカい肉の串焼きなんて誰も買いやしないぜ。
 このまま放って置くと、焦げるか、干乾びるからだからな。
 食べ盛りの男共にでも食わせてしまわないと勿体ないだろうが。」

 スルガは自分達はとても食べられないと言ってたよ。
 朝っぱらから分厚い串焼き肉なんて、見るだけで胃もたれがするって。
 育ち盛りのタロウなら、格好の残飯処理係になると思ったみたい。

 甘味料とパンツだけじゃ何か物足りなくて、もう一つくらい店を出そうと思ったの。
 『積載庫』の中をチェックしてたら、酔牛の肉と塩が山ほどあったからね。
 串焼き肉の屋台をウレシノ達元工作メイドに任せたんだ。

 でも、流石に大振りの串焼き肉を朝から食べようって人は居なくて、露店には閑古鳥が鳴いてたよ。
 
       **********

 それでも、お昼時が近く付くとお腹を空かせた人達が寄って来て…。

「おっ、姉ちゃん、そんなでかい肉の串焼きが銀貨一枚で買えるのか?
 一体何の肉だい、それ?」

 おいら達の屋台の串焼き肉を目にして、そんなことを尋ねてきた人がいたよ。
 普通の串焼き肉の三倍はあろうかって大きさで、値段は倍以下だもね。
 何か、ヤバい動物の肉じゃないのかと警戒する気持ちも分かるよ。

「それ、おいらの国では高級品とされる牛肉だよ。
 極上の味に加えて、滅多に手に入らないからとても高価なお肉なの。
 本当はこんな値段じゃ食べられないんだけど…。
 このお店は今日だけだから、出血大サービスなんだ。」

 何と言っても普通の個体でレベル四十だからね、酔牛。倒せる人が少ないから超希少品なんだ。
 おいらはウレシノから一串貰うと、皿の上で串焼きをばらして一欠片試食として差し出したよ。

「何だこりゃ、噛まなくても口の中で肉が溶けていくみてえな柔らかさだ…。
 しかも、脂に濃厚な旨味があって、こんな美味い肉、初めて喰ったぜ。
 こんな分厚い肉、良く焦がさずに中まで火を通せたもんだな。」

 表面はほど良い焼き色が着き、中はきれいなピンク色、その絶妙な焼き加減にオジサンは感心してたよ。

「美味しいでしょう?
 おいら自慢のメイド達が丹精込めて焼いているから、焼き加減は完璧だよ。」

「お褒めに与かり光栄です。
 ですが、焼き加減の秘訣はこの木炭と焼き台ですね。
 もの凄く火力が強いのですが、焼き台の造りが絶妙で。
 良い具合に強火遠火で調理できるんです。」

 おいらがメイド達を褒めると、スルガは謙遜したのか『トレントの木炭』に花を持たせてくれたよ。
 それと、おいらが『積載庫』の機能で造った即席の焼き台。
 ウレシノとスルガが調理し易いように、二人の身長にあわせて造った焼き台。
 色々と二人の助言を取り入れて造ったんだ。
 その一つが、強火で焼いても肉が黒焦げにならないように、木炭を燃やす位置を大分下げたの。
 スルガが言ってたから、お肉を焼くのは強火遠火が良いって。

「こんな美味いモノが食えるのは今日だけなのか。
 それじゃ、奮発して女房子供に買って帰るか。
 姉ちゃん、この串焼き十本くれ。」

 オジサンは串焼きを気に入ってくれたようで、まとめ買いしてくれたよ。
 丁度お昼時に差し掛かったこともあり、オジサンがまとめ買いをしているところを見た人が寄って来たの。
 集まった人達にも試食してもらったら好評で、みんな五串、十串とまとめ買いしてくれたんだ。

 すると、おいらのお店で砂糖を買ってくれたオバチャンが。

「ねえ、お嬢ちゃん、その炭とか肉とかは売らないのかい?
 家で料理したいって人も居るんじゃないかい。
 実は、私が欲しいんだけど。」

 酔牛の肉を使って、ローストビーフとか、シチューとかを作ってみたいんだって。

「木炭と牛肉が欲しいの?
 でも、この屋台はサービスで出しているんで。
 本当はとてもこの値段じゃ出せないんだ。
 だって、木炭なんてあの一袋で銀貨千七百枚もするんだもん。」

 おいらが、肉焼き串の屋台に立てかけてある木炭の布袋を指して言うと。

「あれ一袋で銀貨千七百枚だって? 何だい、その馬鹿高い炭は?
 吹っかけているんじゃないのかい?」

 まあ、普通ならそう思うよね。
 煮炊きに使う木炭にこんなお金を払えと言われたら、誰も煮炊きが出来なくなっちゃうもの。

「これ、おいらの住む国じゃ。
 名匠と呼ばれる刀鍛冶が、渾身の一振りを造る時に使う木炭なんだ。
 とても貴重なもので、なかなか手に入らないから高価なの。」
 
「何だよ、そんなに貴重なものなのかい…。 
 だとして、お嬢ちゃん、何でそんな貴重な物を惜しげも無く屋台で使えるんだい?」

 おいらの説明を聞いたオバチャンは、とても素朴な疑問を口にしたの。

「この木炭、おいらが作ったものなんだ。
 原料となった木もおいらが伐採してきたから。
 掛かった費用はおいらの手間賃だけ。」

 おいら、一応女王様だから、きっとその手間賃が馬鹿高いんじゃないかとは思うけど…。

「へっ?」 

「だから、おいらがこの木炭の生産者なんだ。
 売れば銀貨千七百枚手に入る木炭をタダ同然で使ってるから。
 大損と言えば、大損なんだけど…。
 赤字かと言えはそうでもないんだ、費用が掛かってないし。
 今回、初めてこの国に来たんで、挨拶代わりに大サービスしてるんだよ。
 肉串だけじゃなくて、砂糖だって、服だって赤字なんだ。」

 シフォン姉ちゃんにも無理なお願いをして安く売ってもらってるしね。

「お嬢ちゃん、まだ小さいのに気前が良いんだね。
 そっか、確かに砂糖も安く買わせて貰ったし。
 それじゃあ、あんまり無理は言えないね。」

 オバチャンは納得してくれたようだけど、残念そうな顔をしていたの。

「でもね、少しだけなら、格安で分けてあげても良いよ。
 別にこの露店で儲けるつもりは無いからね。
 牛肉一塊とそれを調理するための木炭をセットにして銀貨十枚でどうかな?」

 おいらは串焼き肉二十串分くらいのお肉の塊を出して、それを調理するのにどのくらいの木炭が必要か尋ねたんだ。
 するとオバチャン、木炭購入の際に何時も使っていると言う布袋を出して、いっぱいに欲しいと言ったの。
 どうやらこの国では、木炭は量り売りで持参の布袋に入れてもらうらしい。

「この大きな塊肉と袋いっぱいの木炭で銀貨十枚で良いのかい?
 それなら貰っていくよ。もっと高いことを言われると思ってた。
 お嬢ちゃん、本当に気前が良いね。」

 オバチャンが差し出した布袋いっぱいに木炭を詰めてあげ、酔牛の肉の塊を差し出すと。
 オバチャン、嬉しそうに銀貨十枚を支払って帰って行ったよ。
 旦那と子供に美味しい料理を作ってあげるんだって。
 
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