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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・
第562話 商人の口コミも利用させてもらうよ!
しおりを挟む捕らえた五人の銃騎士はオブジュとして檻に括りつけておいたよ。晒し者だね。
その後も、オバチャンの口コミネットワークに乗って甘味料の噂は広がり…。
おいらの露店はお客さんが途切れなく続き、それに合わせて檻の見物人も増えて行ったよ。
当然、甘味料の噂と共に、二つの檻の噂や晒し者にされている銃騎士の噂も広がる訳で。
ノノウ一族を収監してある檻の前では、商人達がたくさん集まって看板を読み耽っていたよ。
中には、熱心にメモを取っている人までいたんだ。
すると、看板を見ている人達の中から。
「こりゃまた、凄げぇ情報だな。
一国の間者衆の情報が、丸々暴露されちまうなんて信じられねえよ。
ノノウ一族の間者ってのは俺の国の宮廷や貴族の所にも入り込んでるかも知れんな。
ちっ、もっと詳しい情報があれば、王宮に垂れ込んで褒賞に与かれるかも知れんのに。」
「何だい、あんたも交易商かい。
俺もなんだが、同じことを考えていたぜ。
もう少し、詳しい情報が欲しいよな。」
利に聡い他国の商人同士が交わしている、そんな会話を耳にしたんだ。
「おっちゃん、おっちゃん、ちょい、ちょい。
良いもの分けてあげようか?」
だから、そんな二人を手招きしてみたの。
「何だい、お嬢ちゃん。
珍しいな、お嬢ちゃんみたいな小さな娘が露店を広げているなんて。」
「うん? こりゃなんだい、『メイプルシロップ』?
聞いたことが無い代物だけど、何に使うんだい?」
そう言えば、朝から砂糖とハチミツばかり売れてて不思議に思ってたんだけど。
この大陸では、メイプルシロップって余り食べられていないようだね。
利に聡い交易商が聞いたことが無いと言うんだもの。
「これ、おいらの国では砂糖とハチミツに並ぶ甘味料だよ。
深みのある甘みで、パンケーキに塗って食べると美味しいんだ。」
おいらは『メイプルポット』を一つ手に取ると、ヘタを切り落として中を見せたよ。
そして試食用に用意しておいた木のヘラに絡めて差し出したの。
「ふむ、茶色っぽくて、ハチミツみたいなとろみがあるのか。
どれ…、うんっ…、美味いなこれ!
お嬢ちゃん、これ、何処から持って来たんだい。
てか、お嬢ちゃん、この国の娘さんじゃないんかい?」
「どれどれ、ふむ、本当に美味いな…。
それで、俺達に分けてくれる良いモノとはこれのことかい?」
二人共、試食のメイプルシロップを気に入ってくれたようだよ。
後で、買って行ってもらおうっと。でも、今は…。
「違う、違う。
メイプルシロップも、気に入ったのなら買って欲しいけど。
もっと良いモノだよ。
さっき、二人で話していたでしょう。
二人が知りたい情報だよ。」
おいらは、二人に一枚ずつチラシを差し出したの。
「何々、アイン国王宮侍女二人、カワネ、ホンヤマ。ツバイ王国宰相付き侍女チラン…。
って、おい、これ、ノノウ一族が間者を送り込んだ先と間者の名前か?」
「こりゃ、本当に凄いぜ、国を揺るがす大スキャンダルだ!」
これもこの半月の間、スカウトしたノノウ一族のみんなに頑張って書いてもらったの。
ヌル王国以外の国に送り込んだ間者の数や潜入先、間者の名前のリスト。
但し、頭領に託した書簡程詳しい情報は記載してないよ。
これは、頭領に託した書簡が運悪く宛先に届かなかった場合の保険だよ。
頭領には事前にこれをばら撒くことを伝えてあるし。
おいらが託した書簡で一儲けしようなどと、変な欲をかかないように釘を刺しておいたよ。
ただ、頭領に託した書簡には漏洩した情報を詳細に記載してあるので、その価値を失うことは無いと思う。
因みに、このリスト、裏面にはノノウ一族に関する解説を記載しておいたんだ。
ここに掲げた看板と同じ内容のものをね。
その方が、どんな集団で、何を目的に潜り込んだかを理解できるでしょう。
「お嬢ちゃん、一体何者なんだい。
こんな貴重な情報を握っているばかりか。
気前よくばら撒いちまうなんて。
こいつは上手く使えば金が生る木だぜ。」
いや、これ、下手に使えば消されちゃうかもしれないよ…。
「おいらが何者かはナイショ。
別にこの情報で儲けようとは思ってないからね。
それより、メイプルシロップは要らないの?」
「まっ、そうだよな。
こんなヤバい情報を掴んでるんだ。
おいそれと素性は明かせねえよな。
メイプルシロップか…。
美味いし、値段も悪くはねえが…。
この露店じゃ、商売にするほどの数は手に入らないだろう。
俺が食べるだけでも貰っていこうかね。」
「うん? 数なら揃えられるよ。
千でも、二千でも、何なら万でも。
荷車を取って来るなら、用意しておくけど。」
毎日、トレントを狩っていたら、『積載庫』の中にとんでもない数の備蓄が出来ちゃったからね。
ポルトゥスで市場に流したら、思いっ切り値崩れしちゃいそうなんで仕舞い込んであったの。
「いや、万て…。
そんなに買ったら他の商品が船に積めなくなっちまうよ。
それじゃあ、二千、いや、三千貰っていこうか。
今、人足に荷車を取って来させるぜ。」
この商人さんが、大量のメイプルシロップを買い付けたのが注目されて。
オバチャンに替わり、今度は交易商が集まって来たよ。
物珍しさも手伝って、メイプルシロップが飛ぶように売れて行ったの。
そういう事態を予想して露店の後ろには天幕を張っておいたんだけど。
おいらは何度も天幕へ入って、積載庫から在庫を降ろすことになったよ。
ついでにノノウ一族の情報拡散を狙って、買ってくれた商人全員にチラシを配ったんだ。
商人さん達の口コミって、オバチャンとは違った意味で凄いから。
何て言ったって、国境を越えて噂を拡散してくれるものね。
みんな喜んでいたし、きっと、有効に活用してくれるに違いないよ。
**********
お昼近くになり、朝市に集まった人達が帰っていき広場の喧騒が晴れた頃。
「マロン、戻ったわよ。
ジャスミンの情報は的確ね。
首尾は上々、全て計画通りよ。」
そんな言葉と共にアルトが戻って来たの。
アルトには早朝からあることをお願いしてあったんだ。
それに協力してくれたのはジャスミン姉ちゃん。
王宮の文書を読み漁ったと言うだけあって、とても的確な情報を教えてくれたの。
おかげで、アルトは効率良く回る事が出来たみたい。
アルトが戻ってからしばらくして、招かれざる客がやって来たの。
またしても、銃騎士らしき連中、今度はゆうに三十人は超えているよ。
連中が広場に入ってくると、街の人達は隅っこの方に退いてたよ。
朝と違って人混みが大分はけていたので、銃騎士のために道を空けるのは容易だった。
「これが、我が国水軍の捕虜を騙る見せ物か。
大陸最強にして、誇り高い我が国水軍の軍属が、こんなサルの訳が無かろうが。
こんなサル共を我が国の軍属だと偽るとは腹立たしい。」
どうやら、市中で流布する噂を聞きつけてやって来たみたいだけど。
ヌル王国の水軍が、未開の地に在る国に敗ける訳が無いと固く信じているようで。
この檻が、ヌル王国を貶めるための偽りの見せ物だと思ってるみたい。
「ですが隊長、ここに檻の中の者の名前が記載されてまして。
私の幼馴染の名も記されておるのですが…。
確かに、あそこにいるサル、私の幼馴染そっくりなのです。
それに、ウーロン殿下と共に新大陸に遠征すると言ってましたし…。」
目敏く知人を見つけた銃騎士が、檻の中を指差しながら言ったんだ。
「何だと! おい、誰か、この檻の中に顔を知る者は居るか!」
隊長と呼ばれた男は、仰天した様子で部下に尋ねたんだ。
「はい、小生も見知った友人が檻の中に居ります。
それより…。
あのサル山のボス猿みたいな男。
小生の見間違いでなければ、プーアル大将軍のご子息では。
ウーロン殿下の参謀としてお供されたはず…。」
その言葉を聞いて隊長は真っ青になっていたよ。
「おい、誰か、この檻を壊せ!
檻の中の者達を救い出すのだ。
大将軍のご子息を晒し者にしておく訳にはいかん!」
隊長、ムチャクチャ慌ててた。
まさか本当に水軍の軍属だとは、夢にも思ってなかったようだね。
「勝手なことをしたら困るな。
その檻はおいらのものだから、壊したら弁償してもらうよ。
それに、おいら、この広場を今日一日借り切ったんだ。
それ、大事な人寄せなんだから、商売の邪魔をしないで欲しいよ。」
露店から文句をつけると、隊長はおいらを睨みつけたの。
「お前が、この檻を置いただと?
ならば我が国水軍の戦士たちを貶めたのもお前か!」
「うん、そうだよ。
おいらの大切な民を脅かそうとしたから、退治したんだ。
おいら、その報復にわざわざこんな遠くまで出向いて来たんだよ。
そのサル共は見せしめだよ。
おいらの国に手を出したら、どんな目に遭うかのね。」
おいらの目的を隊長に教えて上げると…。
「お前、ここに記されているウエニアール国の者か?」
まあ、おバカでも気付くよね。
「そうだよ。おいら、マロン・ド・ポルトゥス。
ウエニアール国の女王をしているんだ。
悪いけど少しお仕置きさせてもらうよ。
おいらの国に手出ししようなどと、二度と考えないようにね。」
「おい、このガキを撃ち殺してしまえ。
本当がどうかは分からんが、こいつが女王なら都合が良い。
我が国まで、のこのこと殺されに来てくれたんだからな。」
本当におバカ、予想通り、いきなり発砲を命じたよ。
隊長が指示すると、部下の銃騎士達は一斉に鉄砲を肩から降ろしたんだ。
おいらの露店に居たお客さん達、慌てておいら達から離れて行ったよ。
でも、火縄銃って本当に不便、一々火縄をセットしないといけないんだもの。
当然、それまで待ってあげる義理は無いもんね。
おいらは、すかさず積載庫から海水を浴びせ掛けてやったんだ。
「ぺっ、ぺっ、何だよ、ずぶ濡れになっちまったじゃねえか。」
パチ、パチ、…。
「ちくしょう、火薬が湿気っちまって鉄砲が仕えないぜ。」
「こっちもダメだ。」
ずぶ濡れになった銃騎士達、頼みの鉄砲が使えなくなって焦っていたよ。
「みんな、やっちゃって。
あいつら、一人残さず捕えるよ!」
おいらが指示するやいなや。
「任せて下さい!
ちゃっちゃと殺っちゃいますよ!」
護衛騎士隊長のジェレ姉ちゃんが嬉々として、剣を片手に銃騎士達の群れに飛び込んで行ったよ。
そして、上がる血飛沫…。いや、やっちゃうって、字が違うって…。
「あれは拙いです。
ジェレ隊長に任せたら、一方的な殺戮になります。」
そんな言葉を発したトルテがジェレ姉ちゃんに続くと、他の護衛騎士達も後に続いたよ。
うん、みんな、頼もしいね。
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