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第十七章 所変わればと言うみたいだけど・・・

第561話 何処へ行っても頼りになる存在だよ…

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 カモミールさんを保護した翌日。
 まだ夜明け前の薄暗い中、おいら達はヌル王国の王都ローティーの中央広場にやって来たよ。
 日の出前ってこともあり、幸いにして人っ子一人いなかった。

 広場に着くと、アルトのお願いして檻を出してもらったよ。今回は二つ。
 この檻を置くために、広場全体を借り切る必要があったんだ。
 ポルトゥスで捕えた海賊もどき、もとい、おサルさんが七百匹以上いるから、とても場所をとるの。

 もう一つの檻は…。まあ、それは後で。

 アルトは広場の隅に寄せて檻を出してくれたので、それに隣接するようにしておいらは露店の準備を始めたよ。
 広場に大きな布を敷いて、そこに商品を積み上げるの。
 商品はもちろん甘味料三種だよ。砂糖に、ハチミツ、メイプルシロップ。
 ヌル王国ではどれもトレントから採れる訳では無いそうだから、見本に各一つヘタを切り落として中身を見せたよ。
 蓋と本体が一体化している不思議な壺だと思われているみたいなんでね。
 
 ヌル王国の銀貨で三枚が相場だと以前聞いたので、今回は一つ銀貨二枚で売ることにしたんだ。
 『本日限りの出血大サービス』って赤字で大書した看板を掲げたよ。

 何で、こんなところに来てまで露店を広げているかと言うと…。
 勿論、王都の人の注目を集めるためだよ、露店の隣に置かれた檻の方にね。

 露店の準備が全て終わる頃、日の出を迎えて広場がほのかに明るくなってきたの。
 と同時に、人も疎らにみられるようになって…。

「あれまあ、どうすんべ。
 何時も店をひろげているところにでっかい檻があるっぺ。」

 農家のお婆ちゃんが、採れたての野菜を入れた籠を背負ったまま途方に暮れていたよ。

「お婆ちゃん、ゴメンね。
 今日だけ、この広場全体をおいらが借り切ったの。
 いつもと違う場所で申し訳ないけど。
 今日だけは、空いている場所に露店を広げてくれるかな。
 その代わり、場所代はタダで良いから。」

「あんれまぁ、嬢ちゃんが全部借りたんけぇ。
 そいつぁ、剛毅なこって。
 まあ、タダで良いってのなら、文句もねえよ。
 んじゃ、嬢ちゃんの隣に店を広げるとすっか。」

 馴染みの場所を占拠して不快な思いをさせたかと思ったけど。
 大らかなお婆ちゃんで、快く場所の変更を受け入れてくれたよ。

        **********

 そうこうしている間にも、農作物や魚介類を背負ったお婆ちゃんやオバチャンが集まって来たんだ。
 皆一様に困惑していたので、おいらは護衛騎士達に指示したの。
 露店商の人達に対して、事情を説明し空いている区画へ誘導するようにと。
 
 護衛騎士達が上手く対応してくれたことに加え、賃料を無料にしたこともあって混乱なく朝市は立ったよ。

 すると、早速。

「お嬢ちゃん、この砂糖、銀貨二枚と書いてあるけど…。
 これ、最近噂のどうやって蓋をしたか分かんない壺だろう。
 これって、中身は全部、同じ量が入っているのかね。」

 買い物に来たオバチャンが尋ねてきたの。量り売りと違って中身が見えないから心配らしい。

「全部開けちゃう訳にはいかないけど。
 ちょっと見てて。」

 おいらは手許に置いておいた包丁を手に取ると、二つ続けてヘタを切り取ったんだ。

「おや、本当にどれも壺一杯に詰まっているんだね。
 これで、一壷銀貨二枚で良いのかい。
 こいつはお得だね。二つ貰っていくよ。」

 オバチャンはもっと欲しいけど持ち切れないと言って、銀貨四枚を差し出したよ。
 おいらがお礼を言って『シュガーポット』を二つ手渡すと。

「ところで、この檻はなんだい?
 お嬢ちゃん達、この檻と関係あるのかい?」

 いや、今頃気付くの? 広場に入って真っ先に気付くでしょう普通…。

「うん? 何か、檻に大きな説明書きが掲げてあったよ。
 どうやら、狂犬みたいに他人に噛みついて、返り討ちに遭った愚か者みたい。」

 おいら達との関係は敢えて言わなかったよ。
 おいらの返答を聞くと、オバチャン、興味津々で檻の方へ寄っていったの。

「何だい、このサルみたいなの。
 この国の貴族のガキ共かい。
 まあ、何時も鉄砲振りかざして偉そうにしているけど。
 本性はサルと同じなんだね。」

 檻に付けられた看板を読んで、オバチャンは大きな声でそんな独り言を言ってた。
 オバチャンって、万国共通で声が大きいからね。
 それにオバチャンって直ぐに群れるし、情報を拡散するしで、こういう時に都合が良いんだ。

 現にオバチャンの声に、別のオバチャンが釣られてやって来たよ。

「何々、こいつら貴族だって。
 パンツ一丁で貴族も無いだろうに…。
 ふーん、新大陸を征服しにね。
 返り討ちに遭ったんじゃ、世話ないよ。」

 新たなオバチャンが檻を眺めてそんな感想を漏らしていると。

「ねえ、あんた、こんな物より、砂糖は買ったかい?
 もの凄くお得だよ、この壺に満杯で銀貨二枚だったよ。
 私、帰ったら息子と娘を連れてもう一回買いに来るつもりだよ。」

 最初のオバチャンが、おいら達の露店を紹介してくれたよ。

「えっ、それ、満杯で銀貨二枚だって!
 こうしちゃいられないよ、買って帰らないと。」

 こんな感じで、オバチャンはオバチャンを呼んでくれるんだ。
 で、あっと言う間に、朝も早よから広場にはオバチャン族が群れを成していたよ。

 当然、お得な商品を数の制限なしで買えるとなると、荷物持ちに男の人も呼ばれる訳で…。

「おい、これ、見ろよ。
 九ヶ月前にウーロン殿下が率いて出港して行った遠征部隊。
 どうやら、完敗したらしいぜ。
 チャイ提督と麾下の陸戦隊は死罪。
 ウーロン殿下は向こうで晒し者になっているらしい。
 犬みてえになっちまったと書いてある。」

「おう、この国の武装船は向かうところ敵なしだなんて粋っちゃいるが。
 これで先が見えたんじゃないか。」

 オバチャンに動員されたおじさんや息子さん達、檻の前に集まって盛り上がってた。

 そして、沢山の人が集まってくると…。

「おい、こっちを見ろよ。
 ノノウ伯爵が抱えていた間者らしいぞ。
 何でも、メイドとして政敵や敵国に送り込んでいたらしいぜ。
 貴族だけじゃないぞ。
 何か月か前に、原因不明の死を遂げた大商人がいただろう。
 あれ、こいつらに殺されたらしい。
 王様から要請された寄進を渋って、不興を買ったらしいぜ。
 商人を殺したメイドの名前までここに書いてあるよ。」

「げっ、おっかねえな。
 ちっと王様のご機嫌を損ねると、俺達町民まで消されちまうのかよ。」
 
 目に付くのはおサルさんの檻ばかりでは無く、当然隣の檻にも人の目は集まるよね。
 その隣の檻に入れられているのは、伯爵夫人を筆頭とするノノウ一族だよ。

 おいら達、移動中に頑張って看板を書いたんだ。
 ノノウ一族の所在、役割、歴史など、隠されていたことを全部明らかにしたの。
 潜入先の貴族や潜入したメイドの名前は、切り札なのでここでは伏せてあるけど。
 その代わり、王様の不興を買って消された大商人のことを公表したよ。
 殺害された商人の名前と消された理由、そこに潜入したメイドの名前などをね。
 幸いと言ったら消された商人に申し訳ないけど。
 数年に一件くらいの割合で、大商人にもノノウ一族の手が及んでいて公表する題材に困らなかった。

 これ、潜入先が王侯貴族ばかりだと、街の人にはリアリティが感じられないものね。
 街の人にとって身近な人が、つい最近、ノノウ一族の手に掛かって消されている。
 その事実で、街の人を震撼させ、看板に記された内容に真実味を持たせたんだ。

         **********

 やがて、この広場のことは王宮の下っ端辺りまでは耳に届いたみたいで。

「皆の者、道を開けろ、退くのだ。」

 鉄砲を肩から下げた五人組の男達が広場にやって来たの。
 どうやら、ジャスミン姉ちゃんが言っていた銃騎士と呼ばれる連中みたいだよ。

 道を開けろと民衆に命じるのだけど、その時には広場は黒山の人だかりでとてもそんな状況では無かったんだ。
 すると、癇癪を起した銃騎士の一人が…。

「散れ!愚民共!
 道を開けろと言っておるだろう!」

 そんな怒声を上げると共に、空に向かって鉄砲を撃ち放ったの。

 そして。

「道を開けぬと言うのなら、次は脅しでは済まんぞ!」

 周囲を睨みつけて恫喝したの。
 広場に響き渡った一発の銃声と銃騎士の怒声、恐怖で広場は静まり返ったよ。
 と同時に、潮が引くように銃騎士達の周囲から民衆が遠のいてた。

 そして次の瞬間、檻に向かって歩き始めた銃騎士達の頭上に…。

 ザッバーン!

 滝のような水が降り注いだんだ。
 勿論、おいらの『積載庫』に溜めておいた海水だよ。

「ぺっ、ぺっ、何だこれは海水か?
 どうしてこんなモンがいきなり振ってくるんだよ。
 いったい、何処から降って来たんだこれ?」

 ずぶ濡れになった銃騎士がそんな呟きを漏らしてた。

「おじさん達、そんな物騒な物を持ち歩いたらダメだよ。
 こんな人の多い所で、暴発でもしたらどうするの。」

 おいらは、重騎士の行く手を塞いで言ってやったんだ。
 民衆が集まっているところで、鉄砲をぶっ放すなんて非常識な…。

「何だとこのガキ!
 普段ならガキの戯言と大目に見てやるが。
 今はずぶ濡れで虫の居所が悪いんだ。
 ガキだからと言って容赦しないぞ。」

 そんな言葉と共に、さっき鉄砲を撃った銃騎士がおいらに蹴りを入れて来たんだ。
 何の手加減もない、マジな蹴りを。

 とは言え、余り鍛えていないようで、避けるのに然したる困難も無い蹴りだったよ。
 おいらは蹴りを躱すと、蹴り上げられた足首を軽く弾いたの。

 ボキッと足首の骨が折られる音と耳障りな悲鳴が響き、その場に倒れ込む銃騎士。

「このクソガキ! 何てことをしやがる!」

 おいらが銃騎士の一人を倒すと、残りの四人が怒って襲い掛かった来たよ。
 銃騎士は貴族の子弟で構成されてるとジャスミン姉ちゃんが言ってたけど。
 『クソガキ』なんて汚い言葉遣いをして、こいつら本当に貴族の出身なんだろうか。
 まあ、この国の王侯貴族は海賊の末裔らしいから、お里が知れてるってこのことかな。

「大の大人が幼気な娘を相手に四人掛かりとは…。
 大人気ないにも程があるのじゃ。」

 そんな呟きを漏らしながら、オランがおいらに加勢してくれたよ。
 オランに引き摺られて、渋々タロウも銃騎士の前に立ち塞がったの。

 そして、大した時間も掛からず…。

「お嬢ちゃん達、強いね。
 銃騎士隊を子供三人でのしちまうなんて見上げたもんだよ。」

 おいら達が数に勝る銃騎士隊を瞬殺して見せると、オバチャンがそんな声を掛けてくれたよ。
 集まった人達には良い見せ物だったようで、愉快そうな顔をした人達から拍手が上がってた。

「鉄砲が発明されて以来、自分は安全なところから歯向かう者を射殺してたから。
 肉弾戦に備えて体を鍛えるってことをしてないんだろう。
 普段は王宮にある詰め所で優雅にお茶でも飲んでいる連中だからな。
 鉄砲が使えないと女子供にも敵わないようだ。」

 倒した五人を縄で縛り上げていると、見ていた人からそんな声が聞こえたよ。
 剣や槍で戦う人は、この国では過去の人となっているみたいだね。
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