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第十六章 里帰り、あの人達は…

第506話 寝耳に水だったみたい

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 さて、ミントさんがどう判断するかはともかくとして。
 にっぽん爺の家族からは、にっぽん爺が辺境の町に留まることを認めてもらえたよ。
 ミントさんが、にっぽん爺の家に押し掛けようとしていることもね。

 しかし、当のにっぽん爺の意向も聞かないで決めちゃって良いのかな…。

 カズミ姉ちゃん達がここへやって来た最大の目的が一段落すると。

「大事な用件も済んだことだし。
 皆さん、少し気を楽にして貰えないだろうか。
 言葉遣いだって、普段通りにしてもらって良いぞ。
 この家の皆さんに会えるのを、私は楽しみにしていたのだから。」

 カズヤ殿下はフレンドリーな笑顔で、ツチヤ家の人達に向かって告げたの。
 みんな、カズヤ殿下の素性を知ってから少し硬くなっていたからね。

「いえ、そうは仰せになられても…。」

 楽にして欲しいと言われ、どうしたものかと戸惑った様子のカズエさん。

「あなたが、聞かされているかは知りませんが。
 私は、あなたと父を同じくする異母姉弟なのです。カズエ姉さん。
 一月ほど前にカズミと会うまでは、私に兄弟姉妹がいることを知りませんでした。
 今日は血の繋がった兄弟に会えると楽しみしてきたのです。」

 ここに居るみんなが分かっていても口に出さなかったことを、カズヤ殿下は自ら明かしちゃったよ。

「父がお后様に粗相を働き。
 それが王様の知るところになり勘気に触れた。
 母からは、そう聞かされていました。
 お后様が父の子を儲けたらしいと、聞いてはいました。
 私は与太話かと思っていたのですが…。」

 カズヤ殿下は今までほとんど民衆の目の前に姿を現していなかったから。
 カズエさんは、お母さんズから聞かされた話を冗談だと思っていたみたい。

「お兄様は、王宮の中に家族と呼べる人がお后様しかいませんでした。
 前王陛下からは邪険にされるどころか、命まで狙われてたそうです。
 そのため、幼少の頃はとても寂しい思いをされていたそうで。
 今日は、カズエ姉さん達に会うのを楽しみにしておられました。」

「おや、カズミ、あんた、陛下をお兄様なんて呼んでいるのかい。
 いったい、いつの間に、そんな親しくなったんだい。」

 カズヤ殿下の気持ちを代弁するかのように言ったカズミ姉ちゃんに、カズエさんは目を丸くしていたよ。

「先ほど、お后様がお父さんの許に一月ほど滞在されていたと言いましたが。
 実は、お兄様もご一緒に滞在されていたのです。
 お后様、お兄様の滞在に当たっては、領主様から護衛を命じられ。
 一月の間、殆どご一緒させて頂きました。
 とても気さくに接してくださり、お兄様と呼んで欲しいとのことでしたので。
 一緒に狩りなどもしているうちに、自然とお兄様と呼ぶように…。」

「あら、そうだったの。
 四六時中、一緒に居たのなら。
 余り堅苦しくされると、陛下も気が休まらなかったのでしょうね。
 でも、カズミも肝が据わっているわね。
 幾ら望まれたこととは言え、陛下をお兄様と呼ぶなんて。
 根っから庶民の私には、畏れ多くて出来そうも無いわ。」

 尚も、馴れ馴れしくなどできないと言うカズエさんに。
 カズヤ殿下は少し気落ちした様子で。

「そうですか。
 いきなりやって来て、気安くしろと言っても無茶でしたね。
 それでは、時々、こちらへお邪魔することを許してもらえませんか。
 市井の話でも聞かせてもらえれば、有り難い。
 先ほど、カズミが言った通り、肉親が少ない身なのでな。
 息抜きにお忍びで、寄らせてもらえればと…。」

 カズヤ殿下が控え目にお願いしたんだ。
 王様にお願いされて、嫌とは言えない様子のカズエさん。

「まあ、大したおもてなしも出来ませんが…。
 それでもよろしければ、お越しになられるのはいっこうに構いません。
 ただ、大丈夫なのですか?
 国王陛下がお忍びで王宮を抜け出して、市井の民の家を訪れるなんて。」

 一応承諾はしたものの、そんな疑問を口にしたんだ。

       **********

「そのことなのだが…。
 この家の今の当主は誰なのだろうか。
 少々、伝えたいことがあるのだが。」

 カズヤ殿下は、カズエさんの疑問に答える代わりにそんなことを口にしたんだ。

「ここは市井の者の家ですから。
 お貴族様のように、厳格に当主なんて決めてないの。
 一応、私がこの家の当主と言うことになっているけど。
 どのような、話しでしょうか」

 そう答えたのもカズエさん、この家の代表は男兄弟のどちらかじゃないんだ。

「カズエ姉さんがご当主でしたか。
 市井の民の間では、女性当主は珍しくないのですか?」

「どうでしょうか?
 家の後継ぎが女というのはあまり聞きませんね。
 むしろ、特殊なケースだと思います。
 この家、父が残した財産がとても大きいのです。
 一方で、父の妻は三人いて、私達三姉弟は母親が違います。
 これ、上手くしないと財産相続で揉めますよね。
 みんなで相談の上、私が当主になるのが一番丸く収まると言うことになったのです。」

 カズエさんの説明はこんなモノだった。
 にっぽん爺のお嫁さん三人はとても仲が良くて、今は家族全員が協力して家業に取り組んでいるそうなんだ。
 家族みんなが仲良く暮らして欲しいと、にっぽん爺が言い残したこともあるみたい。

 で、カズエさんには、カズオさん、カズキさんと言う腹違いの弟がいる訳で。
 今は、仲良くしていても、それぞれが伴侶を迎えると財産争いが生じかねないと懸念したそうなの。
 それを回避する為に考え付いたのがこれ。
 カズエさんを後継ぎと決めて、カズオさん、カズキさんをカズエさんの夫とするの。
 姉弟と言っても、片親しか一緒じゃないからね。
 三人で一つの夫婦だから、三人がバラバラに伴侶を迎えるのと違い相続争いが生じることは無いと言うの。

 しかも、今大人しく座っている幼女二人、父親はどっちか分からない訳で。
 カズエさんは勿論のこと、カズオさん、カズキさんも自分の子だと思って可愛がるって寸法。

「なるほど、色々考えているのですね。
 では、カズエ姉さん、実はこの家の当主に爵位を授けようと言う話がありまして。
 カズエ姉さんには、男爵になって頂きます。」

 唐突にそんなことを口にしたカズヤ殿下。

「お兄様、そんな勝手なことを…。
 宰相や近衛騎士団長から叱られますよ。」

 寝耳に水って感じで、カズミ姉ちゃんも慌ててたよ。
 
「ああ、カズミには言ってなかったね。
 これは、宰相やモカ、その他宮廷の有力者と相談して決めたことなのだ。
 表向きは、カズト殿に冤罪を着せた報いと永年王家御用達を務めた褒賞と言うことになっているが。
 その実、私に与する貴族を増やそういう目論見なのだ。
 なので、私に味方してもらうことが条件になるのだが。」

 今回、前王の取り巻き貴族八十九家を取り潰したものの…。
 永年に渡る前王の治世でロクでもない貴族が増えちゃって、カズヤ殿下を快く思ってない貴族がまだまだいるんだって。
 それで、カズヤ殿下を支えてくれる貴族を増やそうと、宰相やモカさんは画策しているみたい。
 ウルシュラ姉ちゃんを急いで貴族に列したのも、同じ目的だったね。
 ツチヤ家は、カズヤ殿下と血の繋がっているってことが高得点のようだね。
 八十九家も貴族を取り潰した今が、新しい貴族を作る絶好のチャンスなんだって。

「でも、私は貴族の世界なんて分かりませんよ。
 それに、陛下の味方って言っても、何をすればよろしいので?」

「いえ、今まで通り、商いをしていてくだされば結構ですし。
 難しいことや無茶なことをお願いするつもりはありません。
 ただ、私がお願いしたら王宮に来て頂いて、宰相や公爵に同調してくだされば良いので。」

 何のことは無い、単なる賑やかしだね。
 宮廷でカズヤ殿下に噛みついて来る貴族が居たら、公爵たちと一緒になって黙らせれば良い訳だ…。

「それに、王都の貴族の中には、『ゴムの実』にお世話になっている者も多いでしょう。
 私の敵、味方問わずに。
 私のことを良く思っていない貴族を、私の味方になるようにして頂ければ有難いのです。
 もちろん、貴族に列する以上は家禄も付けますよ。」

 『ゴムの実』は広く販売する事はご法度になっているけど。
 薬師の処方のもとで特定の用途に用いることが許可されているんだ。
 世継ぎを残すことがお家の一大事になっている貴族は、『ゴムの実』の主要販売先になっているらしい。
 その中には、勿論カズヤ殿下を快く思っていない貴族もあるわけで。
 そんな貴族を、『ゴムの実』を武器に、『説得』して欲しいんだって。

「まあ、そのくらいことでしたら…。」

 カズエさんは、気乗りしなそうに返答してたよ。
 貴族なんて面倒な身分は要らないって感じだった。

 そこへ。

「カズエちゃん、その話、お受けしましょうよ。
 きっと、カズト様も喜ぶわ。
 絶対にその子達のためにもなるわ。」

 お母さんズから、幼女二人を指差してそんな声が上がったの。
 身分制度が厳格なこの国では、貴族階級にあることがとんでもないメリットになるって。
 お母さんズは、全員元貴族でそのメリットを熟知しているから絶対に受けるべきだと勧めたの。

「ねえ、カズエ姉さん。
 実は、私もワイバーン討伐のご褒美で貴族になるの。
 カズエ姉さんも、一緒に貴族になるのなら私も心強いわ。」

 カズミ姉ちゃんからの説得も加わると、カズエさんは観念したって顔でカズヤ殿下からの申し出を受け入れていたよ。  
 凄いね、にっぽん爺の子供から二人も貴族が出たよ。
 身分制度が固定してしまっているトアール国では、平民が貴族に列せられたのは何百年か振りの事らしいよ。
 
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