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第十六章 里帰り、あの人達は…

第489話 アルトの心配り

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 エロスキー子爵家に仕えるお爺ちゃん、尋問中にとんでもない事態になってることを告白したんだ。
 それを聞いてたアルトは楽しそうだった、新たなオモチャを手にした子供みたいに。

 一方、直接尋問したペンネ姉ちゃんは浮かない顔で。

「あの品性下劣にして醜悪なエロスキー子爵のどら息子を、社交界から葬り去れると喜んでましたが…。
 これは、ちょっとシャレになりませんね。王宮を震撼させる一大事になりそうです。」

 なんて言葉を漏らしてた。
 多分大手柄なんだろうけど、事の深刻さに手放しでは喜べないって感じだったよ。

 それから、ペンネ姉ちゃんは宿の支配人を呼び、箝口令を敷いてたよ。
 今日、離れの貴賓室であった出来事は他言無用だと。
 何処からか話が漏れると証拠隠滅に動く不届き者が居るだろうからって。
 
 そして、貴賓室にあったエロスキー子爵家一行の私物は全てアルトの『積載庫』に仕舞ってもらったよ。
 あっという間に、エロスキー子爵家の一行が滞在していた痕跡は無くなっちゃった。 

 宿を出たおいら達は、その足でにっぽん爺に家に向かったんだ。
 この一件について、騎士団の団長クッころさんに報告するためにね。

 最初、王族の二人にはまだ話さずに、クッころさんにだけ相談するつもりだったの。
 「ミント様達の耳に入れるのは、ハテノ領騎士団としての方針を決めてからの方が良いでしょう。」
 ペンネ姉ちゃんが、そう主張したから。
 対処方針を決めてから、クッころさんの口から報告してもらおうと考えていたの。

 でもね…。

「騎士ペンネ、待っておったぞ。
 ウララ嬢に無体な事をしようとした無法者はどうなったのだ。」

 屋敷ではカズヤ殿下が待ち構えていたよ。
 ウルシュラ姉ちゃんが目を付けられていると聞いて気に掛けていたみたい。
 ペンネ姉ちゃんは必ずクッころさんに報告に来ると踏んで待っていたんだって。

 その後ろでは、ネーブル姉ちゃんとカズミ姉ちゃんがカズヤ殿下を白い目で見てたよ。
 「私と言う者が有りながら…。」ってネーブル姉ちゃんが零してた。

 結局、カズヤ殿下とミントさんも交えて報告をする事になったんだ。

「ふふふ、あの肉ダルマ、舐めたことしてくれるじゃない。
 ご禁制の薬を堂々となんて…。
 でも、頭の足りない息子に与えたのが運の尽きね。
 あの忌々しい肉ダルマに目にもの見せてあげるわ。」

 報告を聞き終わって第一声を上げたのは、意外にもミントさんだったよ。
 エロスキー子爵は王様の取り巻きの一人だと、今朝クッころさんが言ってたけど。
 どうやら、王室に嫁いで来た翌朝、ミントさんを「不貞の娘」と罵った一人みたい。

「あの時の恨み十倍にして返してあげるわ。
 見てらっしゃい。」

 って、誰に聞かせると無くミントさんは呟いてたよ。

       **********

「ならば、早速、王都へ戻ってエロスキー子爵を摘発せねばなりませんね。
 騎士の皆さん、私と共に王都へ来ては頂けませんか。」

 報告を聞いたカズヤ殿下は、今すぐにでもこの町を発って王都へ向かうつもりのようだったの。

「まあ、落ち着きなさい。
 すぐに王都へ向かうって訳にも行かないでしょう。
 まずは、領主のライムに報告しないといけないし。
 この領地でエロスキー子爵令息が罪を犯したのだから。
 領主のライムから国王へ報告するのが筋でしょう。
 ここから、領都までは馬で急いでも一日。
 領都から王都までは十日は掛かるわ。」

 おや、アルトが珍しく筋の通ったことを言ってる。
 いつもなら、問答無用で王様のとこにカチ込むのに…。

 でも、王都まで馬車か何かを使う前提なのが、何かおかしいよ。
 そもそも、どら息子達はアルトが『積載庫』に収納しているんだし。
 アルトの協力無しでは色々と手間が掛かるよね。
 そして、アルトが協力すれば明日の夕方には王都に着くよ。

 いったい、どういう風の吹き回しかと思っていると。

「十日後には休暇を終えて、マロンがこの町を発つ予定なの。
 マロンはこの休暇のために、一年間休む間もなく働いて来たのよ。
 この国のバカ貴族のために、貴重な休みを無駄にするなんて可哀想でしょう。
 私が飛べば王都まで二日、十日後にこの町を出ても結果は変わらないから。
 マロンに最後まで休暇を楽しませてあげましょうよ。
 元々、あんた達も十日後に送っていく予定だったし。」

 どうやらアルトは、おいらに予定通り休暇を楽しませようと気遣ってくれたみたい。
 おいらが首を突っ込むとアルトは確信しているみたいで。
 ならば、王都に寄ったついでに、エロスキー子爵の件も片付ければ良いだろうって。
 元から帰り道には、この国の王都に数日滞在する予定になっていたからね。
 ミントさん達を送り届けるのは勿論のこと、オーマサさんとコマーサさんの慰霊碑を建てないと。

 それで馬で王都へ行くことを引き合いに出したんだ。
 普通ならここから十日以上掛るのだから、そう慌てなくても良いだろうって。
 
「そうね、アルト様のおっしゃる通りにしましょう。
 マロンちゃんは休暇でこの町に来ているのだもの。
 そしてアルト様には、マロンちゃん抜きにして私達に協力する義理もない。
 休暇が終るのを待って、マロンちゃんとアルト様に協力してもらった方が得策だわ。
 それにね、私もあの肉ダルマのせいで、カズト様との逢瀬を削られるなんて癪ですわ。」

 ミントさんが、アルトの言葉に従おうとカズヤ殿下に提案したの。
 何か、最後に本音をぶっちゃけていたけど。

       **********

 結局、アルトの言葉を受け入れて、当初計画通り十日後にこの町を発つことにしたの。

「そうと決まれば、あと十日、目一杯カズト様にマーキングして頂かないと。
 そうそう、カズト様、今日から『ゴム』は使わなくてかまいませんよ。」

 そんな言葉を口にしながら、ミントさんはにっぽん爺の手を引いて部屋を出て行っちゃったよ。
 それで、この場はお開きになったの。

 おいら達もすぐに家に帰って来たんだけど…。

「マロンちゃん、この家にウララさんって女性を保護しているんでしょう。
 会わせてもらえるかしら?」

 おいら達について来たネーブル姉ちゃんがそんな事を言ったんだ。
 てっきり、久し振りにオランと姉弟の話でもするのかと思ったんだけど。
 ウルシュラ姉ちゃんに用があったんだね。

「おっ、これは『泥棒ネコ! 私の旦那に手を出したら赦さないわよ!』って展開か?
 リアルな修羅場が見られるとは思わなかったぜ。」

 何故かおいらの家まで付いて来たタロウが、興味津々に目を輝かせていたよ。
 タロウの言ってることは良く理解できないけど…。

 おいらは、ネーブル姉ちゃんの希望通り、ウルシュラ姉ちゃんに引き合わせたんだ。
 取り敢えずエロスキー子爵のどら息子は捕縛したことを報告し、ネーブル姉ちゃんを紹介すると。

「数日前、非番でお休みのあなたを買った殿方を覚えているかしら?」

 ネーブル姉ちゃんは、いきなりそんな切り出し方をしたんだの。
 ウルシュラ姉ちゃんは、何故そんなことを聞かれるのかって怪訝な顔をしたけど。

「はい、そちらのお兄さんを従者に伴ってご来店されたお客様ですよね。
 何処かの大店の若旦那と伺いましたが。」

 タロウに視線を向けてウルシュラ姉ちゃんが答えると。

「そう、じゃあ、単刀直入にお尋ねしますわ。
 あなた、その殿方をどう思っているかしら?」

 ネーブル姉ちゃんの言葉に、「修羅場展開キターーーーーー!」なんて、おいらの耳元でタロウが言ってたよ。
 うるさいな、もう…。もう治ったかと思ってたのに、また発病しちゃったのかな、チューニ病。

 ウルシュラ姉ちゃんは、その質問に思い当たることがあったようで。

「もしかして、あのお客様の婚約者の方ですか?
 誤解しないでください、私はあくまでお客様のおもてなしをしたまでで。
 誘惑しようなどとは思っていませんですから。
 それでも、お気になさるのであれば。
 お店にお願いして、あのお客様は出禁にして頂きます。」

 何でも、お客さんが泡姫さんに入れあげちゃって、奥さんや恋人が怒鳴り込んでくることが稀にあるんだって。
 ウルシュラ姉ちゃんはまだ新人なんで、そんなトラブルは無かったそうだけど。
 今のネーブル姉ちゃんがそのパターンだと思ったみたい。

「勘違いしないでくださいませ。
 ご想像通り、私、あの方の婚約者ですが。
 別にあなたに苦情を言いに来た訳ではありません。
 ただ、あなたが私の婚約者にどの様な印象を持ったか教えて欲しいのです。」

 ネーブル姉ちゃんは警戒気味のウルシュラ姉ちゃんを和ませるためか、殊更に表情を柔らかくして問い掛けたの。
 ウルシュラ姉ちゃんは、まだ警戒を完全に解いては無い様子だったけど。
 ネーブル姉ちゃんに敵意が無いことは感じ取ったようで…。

「若旦那様は、とても禁欲的な生活をされてきたご様子で。
 すぐに果ててしまうのですが、夢中になって何度も求めて参りました。
 とは言え、初心者にありがちな乱暴な振る舞いは全く見られず。
 とても紳士的で、優しく扱ってくださいました。
 良家の方ですのに、私のような仕事の者にも横柄になりませんし。
 あのようなお客さまばかりなら良いですのに。」

 婚約者のネーブル姉ちゃんに気遣っているのか、べた褒めだったよ。
 すると、ネーブル姉ちゃんもおいらと同じことを考えた様子で。

「心の底からそう思っているのかしら?
 お世辞なら、言わないで良いわよ。
 私は、あなたが私の婚約者をどう感じたかを率直に聞きたいの。」

 口調を強めて問い詰めるように再度尋ねたんだ。

「いいえ、お世辞などではございません。
 とても、素敵なお方で…。
 身分違いとは分かっていても、とても惹かれてしまいます。
 正直、またご指名がかからないかと心待ちにしていました。」

 詰問されてたじろいだウルシュラ姉ちゃんが、本音らしき言葉を漏らすと。
 ネーブル姉ちゃんは満足気に微笑んでいたよ。
 いったい、何を企んでいるんだろう…。
 
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