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第十六章 里帰り、あの人達は…

第475話【閑話】男二人、情けない姿を晒してしまった…

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 風呂屋の支配人に、私が遊ぶお代を渡して帰ってしまったシフォンさん。
 シフォンさんが幾ら払ったのかを尋ねると、夫のタロウ君はそんなことは気にするとなと言う。
 シフォンさんは私の実の父カズト殿と組んで、この風呂屋を相手に大儲けをしたそうで。
 タロウ君は、シフォンさんとカズト殿がどんなことをして儲けたのかを教えてくれたよ。

 シフォンさんに私の遊ぶお金を負担させることは出来ないが。
 タロウ君はシフォンさんが幾ら支払ったかを聞かされていない様子であった。
 なので、私は帰ってから直接シフォンさんに尋ねることと決め。
 その場は、タロウ君の話に耳を傾けることにしたよ。
 実の父がこの町でどんなことをしていたのかには興味があるし。
 シフォンさんが何で、この風呂屋に顔が利くのかも気になったからな。

 泡姫さんの到着を待つ間、タロウ君はカズト殿やシフォンさんがどんなことをしていたかを聞かせてくれたのだが。
 二人がこの店やギルドの色街稼業にかなり貢献していると分かり、支配人に無理を言えることにも納得したよ。

 更に、タロウ君はカズト殿から若い頃の話も聞かされていたとのことで。
 カズト殿と母上の関係も、私の父親がカズト殿だと言う事も、以前から知っていたとのことだった。

 国王が母上とカズト殿との情事の現場を目撃したとか。
 黒髪の私が生まれた時に激怒した国王が、カズト殿に刺客を送ろうとしたとか。
 私の想像が及ばなかったことまで、タロウ君は知っていたよ。

 そんな話を興味深く聴いていると、部屋の扉がノックされ、二人の若い娘が姿を現したのだ。

「初めまして、ウララと申します。
 本日はご指名を頂き、有り難うございました。
 誠心誠意、ご奉仕させて頂きますので。
 どうぞお時間の許す限り、ごゆるりとお楽しみくださいませ。」

 ウララと名乗った鮮やかな金髪の娘は、歳の割に落ち着いた雰囲気で。
 やや長身でスリムな体躯、それでいて豊かな胸が目立つ美しい娘であった。
 
 一方で…。

「タロウ君のご指名だと聞いて飛んできたよ。
 来てくれて有り難う。
 指名してもらえて嬉しいから、うんとご奉仕するね。」

 もう一人は、小柄で元気の良い娘で、胸元が少々残念なところがウララ嬢と対照的な娘だったよ。
 その娘は、名前も名乗らず嬉しそうな笑顔でタロウ君に小走りで近付いて…。
 そのままタロウ君の膝の上に横座りをすると、いきなり濃厚な口づけを交わしたのだ。

「こら、こら、ミヤビちゃん。
 俺達が先に楽しんだら、あちらの若旦那に失礼だろう。
 俺、今日は若旦那のお供でここにきているんだぜ。」

 マナーがなってないと諭すタロウ君だが…。

「えー、だって、タロウ君の指名と聞いて嬉しかったんだもん。
 タロウ君のことを考えただけでジュンときちゃって。
 ここまで歩く間に、いつでもドンとこいの状態になってるのよ。」

「ちょっと待て。
 俺、一年前に研修の一環で七日ほど相手しただけだよな。
 俺のことなんて、良く覚えていたもんだ。」

「タロウ君のことを忘れる訳ないじゃない。
 女は初めての男を一生忘れられないんだってよ。
 それに、私、この通り小柄でしょう。
 あまり立派なのは厳しくてね。
 タロウ君がジャストフィットで最高だったの。」

「おい、おまっ…。」

 さほど立派ではない自覚はある様子で…、それを暴露されたタロウ君は焦っていたよ。
 どうやら、ミヤビ嬢は生娘でこの仕事に就き、研修でお相手したタロウ君が純潔を散らせたらしい。
   
「今日は従者として来てると言うのなら。
 余興として、私達が仲良くしている所を見せて差し上げれば。
 そしたら、お供して来たご主人様も元気になること間違いなしよ。
 タロウ君が優しくしてくれれば、私、良い声で鳴くよ。」

 ミヤビ嬢は、膝の上に乗ったままタロウ君の胸に人差し指の先で『の』の字を書いて誘っていたよ。
 気が付くと、いつの間にかタロウ君のシャツのボタンは全て外されていたぞ。

 すると、「失礼します。」と告げて私の隣に腰掛けたウララ嬢が…。

「若旦那様、ミヤビさんがあんなことを言ってますが…。
 どうされますか、時間はたっぷりありますけど?
 お二人の秘め事をご覧になりますか?
 それとも、対抗して私達の仲の良いところを見せ付けて差し上げましょうか。」

 そっと、私に耳打ちしたのだ。ズボンの上から私を優しく撫でながら…。

「いや、やめておこうか。
 私は他人の情事を覗き見るのも。
 自分の情事を他人に見せる趣味も無いのでな。」

「あら、そうでございますか。
 それでは、お二人の邪魔をするのも無粋ですし。
 私達は向こうのお部屋に行きましょうか。
 もう、お召し物が張り詰めて窮屈そうですし。」

 私の返答を聞いて柔らかい微笑みを浮かべたウララ嬢は、小さな声で寝室に誘ったのだ。

      **********

 ウララさんに手を引かれて立ち上がると…。

 それに気付いたタロウ君。

「あっ、ちょっと、待ってくれ。」

 私達を制止して、自分のカバンを漁り始めたのだ。
 そして、水入れらしき筒と小さな壺を取り出すと…。

「ウララさんも、ミヤビちゃんもこれを飲んでくれ。
 疑う訳じゃないけど、若旦那が病気をもらったら大変だからな。
 万病を治す効き目がある『妖精の泉』の水だ。
 毒じゃない証拠に俺が最初に飲んで見せるぜ。」

 タロウ君は二人の娘にそう告げて、筒の中の水を飲んで見せたのだ。

「あっ、それ、研修の時にも飲ませてもらったね。
 私、最近、たくさんお客さんを取っているから心配だったんだ。
 有り難く飲ませてもらうね。」

 ミヤビ嬢が嬉しそうに水に飛びつくと、ウララ嬢も安心した様子で水に口を付けていたよ。
 本来なら、客が持ち込んだモノに口を付けるのは禁じられているらしい。
 何でも、危ない薬の入った飲み物を飲ませて、不埒なことをする悪い客が居るそうだ。
 もちろん、私も水を飲ませてもらったよ。その方がウララさんも安心だろうからな。

 全員が水を飲んだのを確認したタロウ君、今度はウララ嬢に小さな壺を差し出し。

「申し訳ないけど、これを使ってもらえるかい。
 若旦那が外で子供をこしらえると差し障りがあるんでな。」

 そう伝えたのだが、手渡されたウララ嬢はと言うと…。

「何でしょうか、これは?
 こんなものは見たことが無いのですが…。
 使えと言われても、いったい、何に使うものなのでしょうか?」

 タロウ君に渡された壺の中身を目にして、見覚えが無い様子で戸惑っていたよ。
 すると…。

「それ、知ってる!
 それ使うと、お客さんの子を孕むのを防げるんだよ。
 病気もかなりの割合で防げるらしいよ。
 こうやって使うんだよ。よく見ておいて。」

「おい、こら、やめろ!」

 ミヤビ嬢は、タロウ君の制止を聞かずにズボンを下げると、あっという間にそれを着けて見せたのだ。
 確かに、ミヤビ嬢の先ほどの言葉通り、あまり立派なモノとは言えないサイズだった。 

 ミヤビ嬢は、実際に装着しながら幾つかの注意事項をウララ嬢に説明していたよ。
 先っぽに空気が入らないようにとか、爪の先で破らないようにとか。 

 ウララ嬢はそれをマジマジと見詰め…。

「へえ、便利なモノがあるのですね。
 そんな優れものなのなら、この店でも使えば良いのに。」

「何でも、ご禁制のシロモノらしくて。
 少ししか手に入らないんだって…。
 これは、タロウ君が親しくしている妖精さんから分けてもらったみたい。」

 タロウ君は泡姫さんの研修を引き受ける時に、万が一のことがあったらいけないとそれを着用しているらしい。
 研修を引き受ける都度、それの説明はしていたそうだよ。
 ウララ嬢がここに入ったのは、タロウ君がウエニアール国へ引っ越した後なので知らなかったそうだ。
 カズト殿が研修でウララ嬢に実技指導をしたそうだが、ソレは使わなかったのだな。
 ご禁制の品なので手に入らなかったのか、歳だからもう必要無いと考えていたのか。

「おい、ミヤビちゃん、研修で教えたことを覚えているのは感心だが。
 俺を晒し者にするのは勘弁してくれ。
 何が悲しくて、こんな粗末なモノをみんなに見せにゃならんのだ。」

 それの用法の実地説明に使われたタロウ君は隠す訳にも行かず、涙目で訴えていたよ。
 私も同情したぞ、あまり立派でないものが晒されてしまったのだから…。
 
       **********

 さて、ソレの用法も分かったので、今度こそ私はウララさんと共にベッドルームに場所を移したのだ。
 すると、程なくして…。

「これよ、これよ、タロウ君が私の一番よ!
 相性抜群なの!」

 ミヤビさんの艶めかしくも、歓喜に震える声が聞こえて来たよ。

「あら、あら、ミヤビさんたら、早速がっついちゃって。
 本当に慎みの無い…。
 あれで、私よりも年上で、先輩だなんて信じられませんわ。」

 えっ、ウララ嬢よりもミヤビ嬢の方が年上? 一体彼女は幾つなのだろうか…。
 いや、ことによるとウララ嬢が想像以上に若いのかも、この話題は深追いしない方が良い気がする。

「改めまして、ウララと申します。
 今宵一時は私を若旦那様の妻だと思って存分に可愛がってくださいませ。」

 ウララ嬢は再度自己紹介をすると、遠慮気味に口付けをしてきたのだ。
 そして、口付けをしたまま、器用に私のシャツのボタンを外していき、優しく素肌を撫で回してくれたよ。
 やがて口付けを終えたウララ嬢は、ベッドに腰掛けた私の前で屈み…。

「うっ…。」

 突然、私の体内を生温かくて甘美な稲妻が通り抜けたのだ。
 不意打ちをくらって、私は堪えることが出来なかったよ。

「えっ!」

 予期せぬことが起こった様子で、目を丸くするウララ嬢。
 少々間をおいて…。

「ゴホッ、ゴホッ。」
 
 ウララ嬢は床に手をついて、咳き込みながら吐き始めたのだ。
 慌てて、サイドテーブルに置かれていた水差しの水をカップに注いで手渡すと。

 口の中を漱ぐようにして、水を飲み込むウララ嬢。

「粗相を致しまして、誠に申し訳ございません。
 余りに不意を突かれたものですから…。」

 何と言い訳すれば良いものかと困惑した表情で、ウララ嬢は言葉を濁したのだ。
 そして、ベッドルームをしばしの沈黙が支配した。

 どうやら、私が余りに早かったものだから、心構えが出来ていなかったようだ。
 また、カズミと一緒に風呂に入った時と同じ過ちを犯してしまったよ…。
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