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第十六章 里帰り、あの人達は…

第451話 出産のお祝いに行くと言うけど…

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 モカさんの家を訪問した翌日、指定された時間に王宮を訪ねたよ。
 ジロチョー親分と石工さんにも付き添ってもらい、幾つかあった候補の中から一番良さ気な場所を選んだの。
 王都の事情は詳しくないので、ジロチョー親分と石工さんの意見を参考にして選んだんだ。
 その場で代金を支払って土地を手に入れると、おいらは石工さんに指示を出したよ。
 前日の打ち合わせした通りに、さっそくお墓と慰霊碑を建立に取り掛かって欲しいとね。

 そこでジロチョー親分達と別れると、おいらはモカさんの案内で王様へ挨拶をしに向かったの。

 王様の部屋に入ると、…。

「儂は、何も悪いことはしとらんぞ!
 こんな所まで押し掛けていったい何の用だ!」

 アルトの存在に気付いた王様は慌てて椅子の後ろに飛び退いたよ。
 そして、椅子を盾にしながら、そんな言葉を口にして警戒してたの。

 王様が警戒するのも無理ないかも。
 アルトがここを訪れる時は、大概王様にイチャモンを付けに来る時だもんね。
 まあ、殆どの場合、王様が自ら蒔いたタネで、自業自得なんだけど。

「別にやましいことが無いなら、悠然と構えていれば良いじゃない。
 私はならず者じゃないんだから、言い掛かりを付けたりはしないわ。
 安心しなさい、今日はマロンを送って来ただけよ。」

 アルトの言葉に、王様はホッとした表情を見せて椅子に座り直したよ。

「陛下、普段からの行いに後ろ暗い事があるから。
 そうして、怯えないとならないのですよ。
 日々、職務に励み、国のため、民のために尽くしておれば。
 誰にも憚ることなく、悠然と構えていることが出来ますよ。」

「煩いわ! 儂は王だぞ。
 王というのは、自分の思うがまま生きれば良いのだ。
 何で、王たる儂が民のご機嫌を窺いながら暮らさにゃならんのだ。
 儂はその二人に関わってから、ホント、ロクなことが無いわ。
 それで、隣国の幼王は今度は何の用だ?」

 なるほど、悪いことはしてないけど、相変わらずロクに仕事をしてないんだ…。
 モカさんの諫言に、王様は耳を貸そうともしなかったよ。
 アルトとおいらのことをまるで疫病神か何かみたいに言ってるし。

「特に用事は無いから、そんなに身構えないでよ。
 もうすぐ親戚になるんだから、そんな邪険にしなくても良いじゃない。
 おいら、やっと、休暇がもらえたんで辺境の町に温泉に浸かりに行くの。
 それで、王様に挨拶をしておくようにと、宰相から釘をさされたんだ。
 国王が他国に入る以上は、ちゃんと挨拶しておかないと問題になるからって。
 一月ほどのんびりするつもりだからよろしくね。」

 おいらがもうすぐ親戚になると言ったところで、王様は微かに眉をビクッとさせたよ。
 もうすぐ、オランのお姉さんのネーブル姫がこの国のカズヤ王太子に嫁いで来るので。
 三国の王家は親戚関係になるんだけど、王様は未だにそれを忌々しく思ってるんだ。
 カズヤ殿下が自分の子供ではないと分かってるから、王太子にしたくなかったのに。
 大国シタニアール国の王女と婚約したもんだから、王太子にせざるを得なくなったからね。

 王様、往生際悪く、今でも子作りに励んでいるのかな。
 是が非でも、実子を次代の王にしたいようだから。

 もう、カズヤ殿下を王太子とお披露目もしちゃったし、今更取り消しなんてできないと思うけどね。
 カズヤ殿下の後ろ盾には、この国最有力の公爵家とシタニアール国の王家が付いているんだから。

「まあ良い、精々休暇を寛ぐんだな。
 間違っても、面倒事は起こさないでくれよ。」

 王様は、とっとと去れと言わんばかりに投げやりな言葉を吐いたの。
 あまり歓迎されていない様子なので、早々にお暇しようと思っていると。

「マロン陛下がお越しと伺いましたが、私にもご挨拶させて頂けますか。」

 王后のミントさんが顔を覗かせたんだ。…カズヤ殿下を伴なって。

      **********

 ミントさんとカズヤ殿下の登場に王様は渋い表情になったけど。
 ミントさんはそんなのお構いなしに…。

「マロン陛下、何時ぞやは大変丁重におもてなし戴き有り難うございました。
 帰りには大層なお土産まで頂戴してしまって、本当に恐縮です。
 それに、アルト様、妖精族の長に送迎させてしまい申し訳ございませんでした。
 おかげで、とても快適な旅をすることが出来ました。
 誠に有り難うございました。」

 おいらとアルトに向かい、一年前のもてなしに対して感謝の言葉を掛けてくれたよ。
 そう言えば、宰相が言ってったけ。
 おいらの即位の式典では、来賓に持ち帰ってもらう引き出物だけで凄いお金を使ったって。
 大国の名に恥じないモノを用意したと言ってたけど、…。
 キーン一族をはじめ取り潰した貴族から没収して資産が潤沢にあって助かったなんてことも言ってたよ。
 国と国の関係は、見栄を張らないといけない場面もあるから大変だね。

「こちらこそ、即位の際は遠い所を来てもらって有り難うございました。
 忙しいのに、二月近くも時間を取ってもらってご迷惑になっちゃったよね。」

「そんなこと無いわよ。
 本来、ウエニアール国まで行こうと思えば、乗り心地の悪い馬車で片道二月は掛かるのよ。
 アルト様のおかげで、たった三日、しかも快適なお部屋で旅が出来たのですもの。
 マロン陛下がご招待してくださったおかげで、とても貴重な経験が出来たわ。
 それに、シタニアール国の王家の皆さんやハテノ男爵夫妻とも親交を結べたし。
 良いこと尽くめでした。」

 ミントさんは、一年前の旅を思い返して、とても楽しそうに言ってくれたよ。

「それで、マロン陛下。
 今日は、どのようなご用件で我が国までお越しになられたのですか?」

「おいら、即位して一年経ってやっと休暇をもらえたんだ。
 これからハテノ男爵領に残してある家に行って、のんびりと温泉を楽しむの。
 おいらにとってはあの町が故郷みたいなものだから、一番のんびりできるの。」

「まあ、素敵! 私もハテノ男爵領は一度行ってみたいと思っていました。
 あちこちで温泉が湧いていて、良い所だそうですね。
 そう言えば、ハテノ男爵はもうご出産がお済なのではありませんか?」

 おいらがトアール国を訪れた目的を告げると、ミントさんはライム姉ちゃんのことを尋ねて来たの。

「そうね、何か月か前に寄った時には、かなり大きなお腹をしてたわね。
 その時、もうすぐ生まれると言ってたわ。」 

 ライム姉ちゃんの屋敷にも時々顔を出しているアルトが、一月か、二月前にはもう生まれているだろうって言ってたの。
 『妖精の泉』の水を大量に置いて来たから、無事に生まれているはずだってね。 あれって、難産にも効くんだ…。

「それじゃ、お祝いに行かないといけないわね。
 せっかく、懇意になれたのに、あれから一度もお会いできてないのよ。
 アルト様、もし、差し支えなければ、私達もお連れ願えないでしょうか?」

 また、唐突だね、王族ってそんなにフットワーク良く動くことは出来ないんじゃないの。
 おいらも、地方視察に行くと言ったら、宰相から唐突に言われても困るって叱られたよ。
 それに、『私達』っていったい誰を連れて行こうっての。

「おい、お前、儂に相談も無く何を言っておるのだ。
 そんな勝手なことを許す訳が無かろうが。」

 王様がミントさんを叱り付けたよ。
 確かに、ここは王様の方が正論を言ってると感じるけど…。

「今思い付いたのですから、相談が無いのは当たり前です。
 ここで、相談すれば良いではないですか。
 いいですか、ハテノ男爵領は今や私の実家と並ぶ有力貴族ですよ。
 機会を見つけて、親交を深めておく方が得策とは思いませんか。
 出産のお祝いは親交を深めるのに、滅多にないチャンスです。」

 ダイヤモンド鉱山の復活で有力貴族に返り咲いたハテノ男爵家とは懇意にしておく方が得策だと、ミントさんは説いたの。

「陛下、これは王后様のおっしゃられる通りでございますな。
 ハテノ男爵家を味方に付けておくことは、力を失った王家には必要な事だと思います。
 幸いにして、ハテノ男爵は代々国政に口を挟むこと無く、他の貴族と派閥も築いておりません。
 特定の色がついてなく、豊富な財力を有していると言う稀有な存在なのです。
 ここは、王后様と王太子様にご出産のお見舞いに出向いていただくのがよろしいかと存じます。」

 ミントさんの提案に乗って来たのはモカさん。
 ミントさんが言った私達の『達』はカズヤ殿下のことだったらしいね。

 モカさんは、アルトがここに居る今が良い機会だと言ったの。
 ハテノ男爵領は馬車だと十日も掛かるので、通常、王后や王太子が気軽に行ける距離では無いと。
 アルトに頼めば、今日これから出て明日の夕方には着くからね。

 助言係のモカさんがそう主張する者だから、王様はダメと言えなくなっちゃったよ。

「良いんじゃないの。
 どうせライムの屋敷には寄るつもりだったから、ついでに乗せて行ってあげる。」

 アルトのこの言葉がダメ押しになって、王様は渋々頷いたんだ。
 すると。

「そうと決まれば、アルト様をお待たせする訳にはいかないわ。
 カズヤ、大至急、出掛ける用意をなさい。
 私も出掛ける用意をするから。
 モカは、宝物庫から出産祝いに相応しいものを見繕って。」

 ミントさんは、嬉々として周りに指示を出してたの。
 何か、見た目にも凄く浮足立った感じがしたよ。

 これ、出産祝いに行くだけが目的じゃないね、絶対に他の目的があると見たよ。
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