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第十五章 ウサギに乗った女王様

第401話 怒った商人が押し掛けて来たよ

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 エチゴヤの支店長オオキニから、おいらは何者だと問われたんで。
 おいらがこの国の女王であることを明かしたよ。
 ついでに、現時点ではエチゴヤの店主であることも。

「へっ? 女王陛下?
 ご冗談でしょう、女王陛下がなんでこんな辺境に。
 そんなみすぼらしい服装で、女王とか言われましてもね…。」

 だけど、オオキニは信じようともしなかったの。

「陛下、この無礼者、っちゃても良いですか?
 陛下に対する無礼な口の利き方、断じて赦すことは出来ません。」

 どう、どう、落ち着いてよ、ジェレ姉ちゃん。
 だから、無抵抗な者を殺っちゃダメだって。

「別に、オッチャンが信じなくてもかまわないけどね。
 おいらが女王に即位してから出した御触れ書き。
 ここの領主が握り潰してたみたいだから。
 さっき、広場の告知板に全て貼って来たよ。
 もう今日から、あこぎな商売は出来ないと思うよ。」

 おいらは、告知板に貼り出したモノをテーブルに並べて見せたよ。
 目の前に置かれた御触れ書きを目にしたオオキニは、大きく目を見開いてた。
 どれも、街の人々に知られたら都合の悪いモノばかりだものね。

 その時、廊下を走る足音が聞こえて来たかと思うと、ノックも無しも扉が開かれ。

「支店長、大変だ!
 今、王都の商人連中が一階に押し掛けて来やがって。
 今日仕入れたパンの実と塩、国が決めた値段以上の部分を返せと言うんだ。
 それと今日これから仕入れようという奴が、パンの実一つ銅貨五枚で売れと言ってやがる。」

 早速行動を起こした商人がいるようだね。
 今までの分の差額全てを返せってのは難しいかも知れないけど。
 今日仕入れた分くらいは、ちょろまかした金を返せって言いたいよね。

「ええい、カタギの商人なんぞ、恫喝して追い払えば良いだろうが。
 一々、そんな事で狼狽えるんじゃねえ。」

 オオキニは、愛想笑いを消して、本性剥き出しで店員を叱り付けたけど。

「それが、ダメなんだ。
 いつも、商売敵を恫喝してる連中、今日は半分もいやしないし。
 とにかく、大挙して押しかけられちまって、脅しが通じる状況じゃ全くねえんだ。」

 店員の返事を聞いて、オオキニは忌々し気においら達を睨み付けたよ。
 ガラの悪い連中なら、さっきジェレ姉ちゃんがのしちゃったし。
 例によってアルトの『積載庫』にしまってもらったから、数は減ってるだろうね。

 すると、また、廊下を走る足音が聞こえたかと思うと。

「支店長、やっべえですよ!
 広場の告知板に、領主様が隠してた御触れ書きが貼られちまってる。
 パンの実や塩を銅貨十枚以上で売っちゃいけねえって、町の連中に知られちまった。
 うちからの卸値も銅貨五枚って、告知されちまってるよ。
 告知板の前は黒山の人だかりだから、今日中にでも知れ渡っちまうぜ。」

 今来た店員は、店に大挙してやってきた商人の話を耳にして告知板を確認に言って来たみたい。
 貼られた御触れ書きを引っぺがしたかったようだけど、見物人が多かったので断念した様子だった。

「何だと! そりゃあ、拙い!
 俺は、領主様と善後策を相談してくる。
 お前ら、ここに居る連中を部屋の外に出すんじゃねえぞ。
 領主様に騎士を派遣してもらって、捕らえてもらうからな。」

 店員の報告を聞いて事の重大さに気付いたオオキニは慌てて席を立ったよ。
 その言葉通り、マイナイ伯爵のもとに相談しに行こうという魂胆らしい。 

 でもね。

「行かせる訳ないでしょう!」

 部屋にアルトの声が響くと、ビリビリがオオキニを直撃したよ。
 アルトは天上付近に浮かんで、目立たないように静かにしてたんだ。
 天井を見上げている人は余りいないから、オオキニもアルトの存在に気付いてなかったみたい。

 「うがっ!」って悲鳴と共に床に倒れるオオキニ。

 おいらは、オオキニも『積載庫』にしまっとくようにアルトに頼んだよ。

        **********

 オオキニを捕らえたんで、オイラは領主の館に乗り込もうとしたんだ。
 すると。

「陛下、その服装は拙いんじゃないかい。
 ここの支店長の様に、領主も陛下が女王だと信じないかも知れないぞ。
 それに、一階が騒がしいことになってるようだし。
 騒ぎを納めるためにも、この支店の連中をひれ伏させる必要があるだろう。
 その服装じゃ侮られちゃうぜ。」

 ジェレ姉ちゃんがそんな進言をしてきたの。
 自分達も騎士の服装に着替えるって。

「ジェレの進言に従うのが無難だと思うのじゃ。
 私も貴族らしい服装に着替えるので、マロンも着替えるのじゃ。」

 オランも賛同したものだから、素直に従うことにしたよ。

 おいらは、王宮で執務をする時に着用させられる装飾過多の服に着替えると。
 同じく貴族らしく身なりを整えたオランと共に一階のロビーへ降りて行ったの。
 勿論、ジェレ姉ちゃん達も、一目で騎士と分かる制服でおいら達を護衛しているよ。

「はい、みんな、落ち着いて。
 悪いようにはしないから、エチゴヤの使用人に詰め寄るのは控えてもらえるかな。」

 おいらはロビーに降りる階段の途中から、剣呑な雰囲気の商人達に呼び掛けたよ。
 その時、ロビーでは、凄い剣幕の商人達がエチゴヤの使用人に詰め寄ってたんだ。
 今にも取っ組み合いになりそうな雰囲気だった。

「おや、さっきのお嬢ちゃんじゃないか。
 女王様ってのは本当だったんだね。
 そんな格好をしてると、それらしく見えるじゃないかい。」

 広場で会話を交わした、市場でパンを売っているというおばちゃんがおいらに気付いてそんなことを言ってたよ。

「エチゴヤのみんな、良く聞いて。
 おいらは、この国の女王マロン。
 店主マイドとその取り巻き幹部は、幾多の罪で死罪にしたよ。
 そして、エチゴヤは国が接収したの。
 だから現時点で、おいらはエチゴヤの店主でもあるよ。
 おいらは、今この時点でオオキニを支店長解任のうえクビにするよ。」

 おいらの言葉に合わせるように、アルトが『積載庫』から気絶したオオキニを出してくれたの。

「支店長!」

 アルトのビリビリを食らって白目を剥いてるオオキニを見て、エチゴヤの使用人達から驚きの声が上がってた。

「オオキニはおいらの命に背いたから、少しキツイお仕置きしたよ。
 みんなも、こうなりたくなければ素直においらの指示に従って欲しいな。」

 おいらが使用人達に向かって話しかけると。

「はい、仰せの通りに致します。
 それで、女王陛下は我々に何をお命じになられるのですか。」

 使用人を代表するように、そんなことを問い掛けられたよ。

「まず一点ね。
 おいらが、支店あてに送った通達は全部残っているかい。
 もし、オオキニが処分してしまったなら、新しいのを出すよ。」

 なので、おいらが一つ確認すると。

「申し訳ございません。
 本部からの通達はそこに転がる元支店長が握り潰してしまいまして。
 ここの事務所には保管されていません。」

 予想通りの返答があったので、おいらは今まで出した通達を一式使用人の代表に差し出したよ。

「まずは、その通達を使用人の間で周知徹底して。
 そしたら、すぐに通達通りに業務内容を切り替えてちょうだい。
 通達に書いてあるけど、今後エチゴヤの仕事は『パンの実』と『塩』の元売りだけだからね。
 そして、今朝の始業時点にさかのぼって、『パンの実』と『塩』ともに単価は銅貨五枚にしてちょうだいね。」

 すると、おいらの指示を聞いた使用人の中から問い掛けられたよ。

「『今朝の始業時点にさかのぼって』と言うことは…。
 今日販売した『パンの実』と『塩』については、銅貨五枚との差額を返却せよとのご指示ですか?」

「そうだよ、今日一日分くらいなら出来るでしょう。
 誰に、幾つ、幾らで売ったかの記帳くらいしてるでしょう。」

「はあ、そのくらいなら、多少時間を頂戴できればやりますが…。
 それですと、ご領主様に献上する分が無くなってしまいまして。
 ご領主様からキツイお叱りを受けるのではないかと。」

 使用人の中から、領主の叱責を懸念する声が聞かれたよ。

「その心配は無いよ。
 『パンの実』や『塩』に掛かる税は、もう廃止済みだもの。
 そもそも領主に献上する必要はないんだから。
 そのことで、今から領主にお灸を据えて来るから。
 みんなは、心配しないでおいらの指示に従ってちょうだい。」

「分かりました。仰せの通りにいたします。
 本日をもって、『パンの実』と『塩』以外の事業からは撤退しますし。
 価格の引き下げや返金などもご指示通りに致します。
 ただ、賭場や風呂屋の営業は領主様の指示で行っていたようですので…。
 廃業するとなると、領主様に許可を得る必要がありまして…。」

 使用人達はマイナイ伯爵の勘気に触れることを恐れてるみたいに見えたよ。
 なので、その辺の話も付けて来ると答えておいたよ。

「みんな、話は聞いてたかな?
 今日から、『パンの実』と『塩』は一つ銅貨五枚だよ。
 今日の分をもう仕入れちゃって、銅貨五枚より多く支払った人は差額を返金するから並んでね。」

 おいらが殺気立っていた商人達に向かって伝えると。

「流石、女王様、話が分かるじゃないかい。
 助かったよ。
 こいつらときたら、御触れ書きなんて知らないって言って。
 返金どころか、新たに買う分も銅貨三十五枚とる気でいたからね。」

 まあ、使用人達は、御触れ書きのことも、本部からの通達のことも内容は知らされてなかった様子だからね。
 オオキニの指示なしに勝手に値下げはできないと思うよ。

 そんな訳で、商人達はエチゴヤにピンハネされてた怒りを納めてくれたよ。
 
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