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第十五章 ウサギに乗った女王様

第377話 情弱にもほどがあると思う…

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 エチゴヤの手代達五人を足元に転がしたまま、その後もおいら達が露店を続けていると…。

「おっ、マロン、やってるな。
 しっかし、ならず者を足元に転がして露店をひろげてるなんて。
 いつか見たような光景だな。」

 縄で縛り上げた男達を引き摺って来たタロウが、そんな風に声を掛けてきたよ。
 やっぱり、トアール国の王都で露店をひろげた時のことを思い出したみたい。

「タロウもお疲れさま。
 やっぱり、ならず者の考えることは何処でも同じだね。
 予想通り、難癖付けてきたよ。
 そっちの引き摺っているガラの悪い連中は何者?」

「ああ、こいつらか?
 エチゴヤから仕入れに来た下っ端だ。
 ギルドの姉さんが受付で対応したんだが…。
 マロンの命令で今日からエチゴヤには売れなくなったと言ったらよ。
 納得してくれなくてな。
 大声で恫喝したあげく、姉さんに乱暴しようとしたんだ。
 全く、命知らずなバカだよな。」

 どうやら、仕入れに来て断られたもんだから、キレて暴れたみたいだね。
 若い娘だと思って侮ったみたい、脅せば売るはずだと思っんじゃないかな。
 ギルドのお姉さん達みんなレベル二十で、常人じゃ太刀打ちできないのに。

「あっ、アニキ、どうにかしてくださいよ。
 タクトー会に行ったら、エチゴヤとは今後一切取引しねえって言うんだ。
 しかも、上得意の俺達をこんな目に遭わすんですぜ。
 タクトー会をきつく締めあげてくだせえ。」

 タロウに引き摺られてきた男の一人が、手代に気付いて泣きついたよ。
 縄で縛られて地面に転がされている者に泣きつくってどうなんだろう。

「バカ野郎、俺がどんな状態か見えねえのか。
 俺も、やられちまって、このザマだぜ。
 これはもう、大旦那が王宮に手を回してくれるのを待つしかねえぞ。」

 身も蓋もない返事をする手代の男。
 まだ、エチゴヤの主人なら何とか出来ると思っているみたいだね。

「ねえ、オッチャン達、この二月で色々と変わったのを知らないの?
 『タクトー会』はもう無いよ。
 そっちのオッチャンが仕入れに行ったのは、『ひまわり会』。
 『冒険者管理局』って役所の直轄冒険者ギルドだよ。
 キーン一族はもうお取り潰しになっちゃったし。
 エチゴヤが賄賂を贈っていた役人も、みんなクビになったと思う。
 知らないみたいだけど、おいらがこの国の新しい女王だからね。
 国王に剣を向けたんだから、どうなるか分かるよね?」

 こいつ等の話をさっきから聞いていると、情報が古いようだから教えてあげたよ。
 こいつら、ヒーナルの庇護の下、長らく競合が無かったからすっかり油断してたみたい。
 商人は情報が命だと聞いたことがあるけど…。
 こんな世情に疎い連中ばかりで、良く大店が維持できたものだね。

 おいらの言葉を聞いてみんなびっくりしてたよ。

「何だって! 何時の間にそんな事になっていたんだ。
 王宮の連中、なにしてやがるんだ。
 あんなに袖の下を渡しといたのに、誰も知らせに来なかったぞ。」

 いや、だから、二月も前のこと今更驚かれても…。
 今までは事ある毎に、手懐けた王宮の役人の方から知らせてくれたみたいだね。
 多分、エチゴヤが懇ろにしていた連中を全て粛清しちゃったんで、知らせが入らなかったんだろうね。  

「こいつら、呆れるほど情弱だな。
 その辺を歩いてるオバチャンや幼女だってマロンを女王だと知ってるのに。
 仮にも商人を名乗ってて、国王が変わった事すら気付かないなんて。
 どんだけ、殿様商売をしてきたことやら。」

 おいらとエチゴヤの連中のやり取りを聞いてて、タロウも呆れてたよ。

       **********

「ところで、タロウ、午前中に王都の商人を回ってくれたよね。
 『砂糖』とか、『塩』とか、上手く流せそうかな?」

 タロウにはお願いしておいたの。
 今後は商いにエチゴヤを通す必要が無いと、王都所在の主だった商人に周知して回るようにって。

「おお、午前中、姉さん達と手分けして回ったぜ。
 朝一で役人が届けてくれたお触れ書きを持って説明して歩いたよ。
 でもな、あんまり感触は良くなかったぜ。
 エチゴヤを中抜きすると嫌がらせされるんじゃないかって怯えていてよ。」

 タロウの話では王都の商人の間ではエチゴヤは相当恐れられているみたいだよ。
 エチゴヤは目の前に転がっているようなガラの悪い連中をたくさん抱えているからね。
 実際、エチゴヤが独占している品を安く売ろうものなら、こうして嫌がらせして来るし。
 おいら達みたいに返り討ちにする力を持っていなければおいそれとは逆らえないね。

 加えて、ヒーナルと結託して数多くの商品を独占しちゃったこともあるみたい。
 タロウのギルドが安定的に卸せるのは精々、甘味料三種類、塩、それにウサギの肉と毛皮くらいだものね。
 エチゴヤの機嫌を損ねて、他の物を仕入れることが出来なくなったら困ると思っているみたい。

「そう、じゃあ、お客さんも減って来たし、今日は店終いにしようか。
 それで、エチゴヤに行ってみよう。」

 そんな訳で、エチゴヤにガサ入れする事にしたんだ。
 営業妨害やら、剣の不法所持やらの現行犯だものね、こいつら。
 手代が主の意を受けてやってきたと言ってるから、組織ぐるみの犯罪ってことでガサ入れするには十分な理由になるよ。 

「おお、陛下、悪徳商人を懲らしめに行くんですか。
 腕が鳴るねえ、四人くらいじゃ、物足りなかったんですよ。」

 おいらの言葉を聞いて、ジェレ姉ちゃんがノリノリで言ってたよ。

 露店をひろげていた広場から、少し歩いた繁華街の一画にエチゴヤの本店はあったよ。
 繁華街のど真ん中に大きな店を構えてた。

「こんにちは、お邪魔するよ。」

 おいらが、エチゴヤの扉を開いて声を掛けると。

「何だ、このガキは?
 ここは子供の来るところじゃないぞ。
 帰った、帰った。
 母ちゃんのお遣いなら、向こうにある市場にでも行くんだな。」

 おいらが年端に行かない町娘とみると、店員は取り付く島もなく追い払おうとしたよ。

「そういう訳にもいかないんだ。
 おいら、この店の主に用があって来たんだもの。
 こいつらの監督責任を問うから、主に会わせてちょうだい。」

 おいらが返答すると、ルッコラ姉ちゃんジェレ姉ちゃんが捕らえた手代達を店の中に引き摺り込んだの。
 応対に出た店員に見せ付けるようにね。

「手代、それに渉外と仕入れの面々も…。
 その格好は一体、どうなさりやした。」

 足首をへし折られた手代やボコボコにされた連中を見て、店員は狼狽した様子で尋ねていたよ。
 すると縄を打たれた手代達に気付いて、店の奥からガラの悪い連中がゾロゾロ出て来たよ。
 どうやら、荒事担当の用心棒か何かみたいだけど…。
 全員が剝き身の剣を手にしていて、その数十人以上。
 もう、この時点で、この前出した剣の所持規制を違反しているよ。

「ねえ、ニイチャン達、一応確認するけど。
 全員、剣の所持の許可は取っているかな?」

「剣の所持の許可? いったい何を言ってるんだ、このガキ?
 そんなもん、聞いたこともねえぞ。」

 まだこんなことを言う奴がいたなんて…。
 剣の所持を規制して大分経つし、毎日不法所持の取り締まりをしているのに。
 監視の目をかいくぐっちゃう輩がいるんだね。

「おい、バカ、剣をしまえ。
 こいつ等に逆らわずに、大旦那のもとへ案内するんだ。
 こいつらは、マジでやばい連中だぜ。」

 手代が焦って、用心棒らしきガラの悪い連中に指示を出していたよ。

「こんな得体の知れない連中を大旦那のもとにお連れしてよろしいんですかい?
 手代をそんな目に遭わせたとんでもない連中でしょう。
 たかだか、女子供の七人くらい、俺達に命じてくれればすぐに片付けてみせますぜ。」

 用心棒らしき男は、手代の言葉に納得できない様子で問い返してきたんだ。

「バカ野郎、余計な事はするんじゃねえ。
 お前らが余計な事をしたら、このエチゴヤが潰されちまうぞ。
 いいから、とっとと大旦那の所に案内するんだ。」

 一見町娘に見えるおいらの正体を知っている手代は、叱り飛ばすように用心棒らしき男達に命じたよ。
 エチゴヤの中で十人もの雇われ人が女王に斬り掛かったとなれば、実行犯が死罪になるだけじゃ済まないものね。
 手代のただならぬ様子を目にした男達は、怪訝な表情を浮かべながらも剣を納めていたよ。

 そして、一人の店員さんが階段を駆け上っていったの。
 多分、エチゴヤの主の所に知らせに行ったのだろうね。

 暫くすると、駆け上がった店員に先導されるようにして、四十絡みの中年男がしんどそうに階段を降りてきたよ。
 でっぷり太った、髪の毛が残念なことになってる中年男で、走って来た訳でもないのにダラダラと汗を流してるの。

「これはこれは、可愛いお嬢ちゃんやきれいな娘さんがワイにご用とは珍しい。
 ワイはこの店の店主、マイドっちゅう者やけど。
 何ぞ、ワイっとこの手代が粗相でもしてんか。」

 マイドと名乗ったエチゴヤの主が、捕縛された手代達を目にして胡散臭い笑顔で尋ねてきたんだ。
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