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第十五章 ウサギに乗った女王様
第366話 近衛騎士募集! 先ずは貴族令嬢から
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近衛騎士の募集をお触れで出してから一月半が過ぎたよ。
いよいよ明日、近衛騎士の選抜をするという日のこと。
王宮でおいらは、近衛騎士になることを希望する貴族のご令嬢に集まってもらったよ。
貴族の子女はお淑やかであることが求められるから、希望者はいないのではとも思っていたけど。
トアール国の王都でハテノ男爵領の騎士の追加募集を掛けた時に、貴族のお姉ちゃんも結構応募してたからね。
この国でも、もしかしたら騎士になりたいご令嬢がいるかも知れないと思ったの。
なので、王宮内の告知板にも近衛騎士募集のお触れを一応出しておいたんだ。
それで、もし希望者がいたら市井の娘さんよりも優先的に採用する必要があると思って。
一日早く選考することにしたの。
近衛騎士って本来はそこそこ高位の貴族の役職らしいから、貴族に希望者がいるのを無視したら角が立ちそうだものね。
近衛騎士の募集は全体で百人程度だけど、今日決まった人数分をそこから減らして市井の娘さんを採用する予定なの。
近衛騎士の選考をするために確保した場所、その待合室を覗くとそこに待っていたのは二人だけだった。
希望者がたった二人なら、選考なんかしないで二人共採用で良いかなと思ったけど。
おいらがそれを匂わすと。
「近衛騎士は陛下のお側に侍る者です。
その人柄も確認せずに採用するなど以ての外です。
キチンと面接をして採用の可否を判断せねばなりません。」
宰相から諭されちゃったんで、ちゃんと選考面接をする事にしたよ。
で、一人ずつ順番に面接のために用意した部屋に入って貰ったの。
まず最初の一人。
「私は、ジェレ・ド・アントルメだ。
いや、私はジェレ・ド・アントルメです。
よろしく頼むな、女王さん。
あっ、いや、よろしくお見知りおきくださいませ、マロン陛下。」
何か、初っ端から凄いキャラの姉ちゃんが出て来たよ。
名前からすると間違いなく、貴族のご令嬢なんだけど…。
口調がまるでおいらみたい、しかも、カンペを見ながら言い直しているし。
貴族のご令嬢というと髪を腰の辺りまで伸ばしている人が普通なんだけど。
ジェレ姉ちゃんは、金色の髪を肩口でバッサリ切ってて、おいらより短いの。
平民の娘さんでも、大抵は肩甲骨の下辺りまで伸ばしているのに。
「ふむ、騎士の名門、アントルメ子爵家のご令嬢ですか。
長女で、十八歳、募集年齢の上限ですな。
父君である前子爵は、九年前のヒーナルによる謀反の際に陛下をお護りして殉死してますな。
兄の現子爵は先日まで予備役騎士でしたが、この度、中隊指揮官に就いております。
忠義に厚い王族派の家の者ですし、家柄に問題は無いかと。」
提出してもらった身上書に目を通しながら、宰相がジェレ姉ちゃんの出自を教えてくれたよ。
「それじゃ、最初に、普段通りに話して。
無理に外向きの話し方をしないで良いよ。
一々言い直していたんじゃ時間が掛かるからね。」
「おう、そうかい、女王さん、話が分かるじゃねえか。
どうも、俺は畏まった話し方は性に合わなくてね。
妹から、女王様の前に出たら話し方に気をつけろと言われてよ。
あんチョコを渡されたんだけど、一々見て話すのが面倒だったんだ。」
ジェレ姉ちゃんはカンペをひらひらさせながらぶっちゃけていたよ。
どうやら、あのカンペ、心配した妹さんが持たせてくれたみたい。
しかし、普段はおいらの父ちゃんも真っ青な砕けた話し方をしてるんだね。
「それで、ジェレ姉ちゃんは何で近衛騎士に志願したの。
この国でも、貴族のご令嬢はお淑やかさが求められるんじゃないの?」
「ああ、俺は子供の時から親父に憧れていてよ。
親父が生きてた頃は、大人になったら騎士になるとよく言ってもんだ。
親父もそれを聞いて気を良くしてな、ガキの頃から剣の手解きを受けてたんだ。
まあ、成長して女じゃ騎士になれないと知ると、口にする事も無くなったんだがな。
ただ、最近、兄貴が早く嫁に行けと煩くてな。
やれ見合いをしろ、やれ花嫁修業をしろと煩いものだから、逃げ出す算段を考えてたんだ。
この前、偶々、王宮の中をブラついてたら、近衛騎士募集ってあるじゃないか。
俺は思ったね、これっきゃないと。
これなら、ガキの頃の夢は叶うし、兄貴のお小言からも開放されるからな。」
男前の口調で、ジェレ姉ちゃんはぶっちゃけてたよ。
でも、剣の修行は好きな様子で、親父さんが亡くなった後もずっと続けていたみたい。
近衛騎士になるのが小さな頃からの夢だったと言うのだから、採用したら真面目に働くだろうね。
「ねえ、ジェレ姉ちゃん。
おいらが考えている近衛騎士って、ジェレ姉ちゃんが考えているのとは少し違うかも知れないよ。
おいら達王族の警護、王宮の警備以外にも、王都の治安維持もして欲しいの。
それと、王都の顔になって欲しいから、威張らず、市井の人々に親切にして欲しいのだけど。
市井の人々に対しても丁寧に接することが出来る?」
「ああ? 俺を見くびっちゃいけねえよ。
俺なんて、町娘の格好をしてしょっちゅう街に繰り出しているぜ。
カツアゲしてる冒険者を叩きのめして、街の人を助けるなんてのもいつものことだ。
こう見えても、街じゃ、結構の人気者なんだぜ。」
「合格!」
おいら、とっさに叫んじゃったよ。
これぞ、おいらが求めていた人材って感じだったんだもん。
町の酒場で市井の人々と杯を酌み交わしたり、町娘に混じって屋台で買い食いしながら井戸端会議をするのもしょっちゅうだって。
「いやこれでは、今いる十人と変わらないではありませんか…。」
おいらの一存で合格を出すと、宰相のボヤキが聞こえて来たよ。
**********
そして、もう一人。
「お初にお目に掛かります、女王陛下。
私、ムース・ド・アントルメと申します。
よろしく、お見知りお見知りおきください。」
清楚な印象の白いドレスの裾を摘まみながら、礼儀正しい挨拶をしてくれたんだけど。
「アントルメ?」
家名がジェレ姉ちゃんと同じなんだけど、騎士の家には多い家名なのかな。
「ほお、先程の者と同じアントルメ子爵家のご令嬢ですか。
次女で、十八歳、先程の者の妹御ですかな?」
「えっ?」
ビックリだよ。
物腰が穏やかで、口調も取り繕った感じが無く、素で良家のご令嬢って雰囲気なんだもの。
でも、言われてみれば、腰まで伸ばしたサラサラの金髪を肩口でバッサリ切ると似てるかもしれない。
口とか、鼻の形が特に。
ただ、ジェレ姉ちゃんは少し釣り目がちな大きな目なのに対して、ムース姉ちゃんは垂れ目がちで目が細いの。
だから、ぱっと見ではあんまり似ているように見えないんだ。
「はい、先に面接を受けたジェレの双子の妹でございます。
ところで、面接の際に姉は、陛下に粗相をしておりませんでしたか。
もし、陛下のお気に召さないことがございましたら、家長に代わってお詫び申し上げます。」
「心配しなくても良いよ。
おいら、ジェレ姉ちゃんを一発で気に入ったから。
近衛騎士に取り立てることにしたよ。
ところで、ムースお姉さんはどうして近衛騎士に応募したの?
ジェレ姉ちゃんと同じく、騎士になるのが夢だったとか?」
「いえ、私は特に騎士になりたいとは思ってはいないのですが…。
姉はあの調子ですので、王宮に一人野放しにするのは心配で…。
陛下に粗相があってはいけないと思いまして。
何かあった時のフォローが出来ればと応募させて頂きました。
まさか、姉が近衛騎士などという大役を仰せつかることになるとは…。」
ムースお姉さんは、ジェレ姉ちゃんは不採用になると思っていたようで。
それどころか、おいらの不興をかうのではと心配してついて来たらしいの。
応募者以外は選考会場に入れないのが分かっていたので、自分も応募者の形をとったみたい。
どうやら今までも、ジェレ姉ちゃんが王宮で問題を起こしては。ムースお姉さんが尻拭いをして来たみたい。
ジェレ姉ちゃんは性根は悪くないんだけど、言葉遣いが荒くて、正義感が強いので、王宮ではよく貴族の子息と衝突するそうなんだ。
特に、キーン一族派の貴族の子息連中は、横柄で素行が悪かったから良く衝突していたらしいの。
「付き添いできたのならどうする?
ムースお姉さんは、近衛騎士への応募辞退する?」
「いえ、あの姉を一人にしたらどんな暴走をするか心配で仕方がありません。
もし、差し支えなければ、私も陛下のお側にお仕えさせて頂けませんか。」
「でも、良いの?
ムースお姉さんも騎士の家の生まれだから承知してると思うけど。
騎士って荒事をしないといけないよ。
お父さんは、ヒーナルの謀反の際に殉死されてるんでしょう。」
ムースお姉さん、自分も近衛騎士になりたいと言っているけど…。
見るからにお淑やかそうで、荒事を任せられそうな感じがしないの。
それに、ジェレ姉ちゃんの付き添いでそこまでさせるのは、おいらの方が気乗りしないしね。
「それでございましたら、案ずる必要はございません。
私も騎士の家に生まれた娘、剣の嗜みはございます。
組稽古では姉と互角でございますし、兄からも筋が良いと言われております。」
ムースお姉さん、実は強い?
少なくとも実際に剣の鍛錬をしている分だけ、イメトレしかしてこなかったクッころさんよりは上な感じはするよ。
「陛下、ここは、この者も採用する事と致しましょう。
どうも、この者がさっきの姉を上手く御してくれそうな気がします。
あの姉、陛下に対する忠誠心はありそうですが、いささか浅慮な気がしてなりません。
この者を近衛騎士に取り立てて、姉の手綱を取らせるのが得策でしょう。」
宰相は、ジェレ姉ちゃんを採用することに不安を感じている様子で、ムースお姉さんを採用するように助言してきたんだ。
もちろん、おいらは宰相の助言に従ったよ。
だって、この姉妹、二人揃った方が面白そうだもん。
いよいよ明日、近衛騎士の選抜をするという日のこと。
王宮でおいらは、近衛騎士になることを希望する貴族のご令嬢に集まってもらったよ。
貴族の子女はお淑やかであることが求められるから、希望者はいないのではとも思っていたけど。
トアール国の王都でハテノ男爵領の騎士の追加募集を掛けた時に、貴族のお姉ちゃんも結構応募してたからね。
この国でも、もしかしたら騎士になりたいご令嬢がいるかも知れないと思ったの。
なので、王宮内の告知板にも近衛騎士募集のお触れを一応出しておいたんだ。
それで、もし希望者がいたら市井の娘さんよりも優先的に採用する必要があると思って。
一日早く選考することにしたの。
近衛騎士って本来はそこそこ高位の貴族の役職らしいから、貴族に希望者がいるのを無視したら角が立ちそうだものね。
近衛騎士の募集は全体で百人程度だけど、今日決まった人数分をそこから減らして市井の娘さんを採用する予定なの。
近衛騎士の選考をするために確保した場所、その待合室を覗くとそこに待っていたのは二人だけだった。
希望者がたった二人なら、選考なんかしないで二人共採用で良いかなと思ったけど。
おいらがそれを匂わすと。
「近衛騎士は陛下のお側に侍る者です。
その人柄も確認せずに採用するなど以ての外です。
キチンと面接をして採用の可否を判断せねばなりません。」
宰相から諭されちゃったんで、ちゃんと選考面接をする事にしたよ。
で、一人ずつ順番に面接のために用意した部屋に入って貰ったの。
まず最初の一人。
「私は、ジェレ・ド・アントルメだ。
いや、私はジェレ・ド・アントルメです。
よろしく頼むな、女王さん。
あっ、いや、よろしくお見知りおきくださいませ、マロン陛下。」
何か、初っ端から凄いキャラの姉ちゃんが出て来たよ。
名前からすると間違いなく、貴族のご令嬢なんだけど…。
口調がまるでおいらみたい、しかも、カンペを見ながら言い直しているし。
貴族のご令嬢というと髪を腰の辺りまで伸ばしている人が普通なんだけど。
ジェレ姉ちゃんは、金色の髪を肩口でバッサリ切ってて、おいらより短いの。
平民の娘さんでも、大抵は肩甲骨の下辺りまで伸ばしているのに。
「ふむ、騎士の名門、アントルメ子爵家のご令嬢ですか。
長女で、十八歳、募集年齢の上限ですな。
父君である前子爵は、九年前のヒーナルによる謀反の際に陛下をお護りして殉死してますな。
兄の現子爵は先日まで予備役騎士でしたが、この度、中隊指揮官に就いております。
忠義に厚い王族派の家の者ですし、家柄に問題は無いかと。」
提出してもらった身上書に目を通しながら、宰相がジェレ姉ちゃんの出自を教えてくれたよ。
「それじゃ、最初に、普段通りに話して。
無理に外向きの話し方をしないで良いよ。
一々言い直していたんじゃ時間が掛かるからね。」
「おう、そうかい、女王さん、話が分かるじゃねえか。
どうも、俺は畏まった話し方は性に合わなくてね。
妹から、女王様の前に出たら話し方に気をつけろと言われてよ。
あんチョコを渡されたんだけど、一々見て話すのが面倒だったんだ。」
ジェレ姉ちゃんはカンペをひらひらさせながらぶっちゃけていたよ。
どうやら、あのカンペ、心配した妹さんが持たせてくれたみたい。
しかし、普段はおいらの父ちゃんも真っ青な砕けた話し方をしてるんだね。
「それで、ジェレ姉ちゃんは何で近衛騎士に志願したの。
この国でも、貴族のご令嬢はお淑やかさが求められるんじゃないの?」
「ああ、俺は子供の時から親父に憧れていてよ。
親父が生きてた頃は、大人になったら騎士になるとよく言ってもんだ。
親父もそれを聞いて気を良くしてな、ガキの頃から剣の手解きを受けてたんだ。
まあ、成長して女じゃ騎士になれないと知ると、口にする事も無くなったんだがな。
ただ、最近、兄貴が早く嫁に行けと煩くてな。
やれ見合いをしろ、やれ花嫁修業をしろと煩いものだから、逃げ出す算段を考えてたんだ。
この前、偶々、王宮の中をブラついてたら、近衛騎士募集ってあるじゃないか。
俺は思ったね、これっきゃないと。
これなら、ガキの頃の夢は叶うし、兄貴のお小言からも開放されるからな。」
男前の口調で、ジェレ姉ちゃんはぶっちゃけてたよ。
でも、剣の修行は好きな様子で、親父さんが亡くなった後もずっと続けていたみたい。
近衛騎士になるのが小さな頃からの夢だったと言うのだから、採用したら真面目に働くだろうね。
「ねえ、ジェレ姉ちゃん。
おいらが考えている近衛騎士って、ジェレ姉ちゃんが考えているのとは少し違うかも知れないよ。
おいら達王族の警護、王宮の警備以外にも、王都の治安維持もして欲しいの。
それと、王都の顔になって欲しいから、威張らず、市井の人々に親切にして欲しいのだけど。
市井の人々に対しても丁寧に接することが出来る?」
「ああ? 俺を見くびっちゃいけねえよ。
俺なんて、町娘の格好をしてしょっちゅう街に繰り出しているぜ。
カツアゲしてる冒険者を叩きのめして、街の人を助けるなんてのもいつものことだ。
こう見えても、街じゃ、結構の人気者なんだぜ。」
「合格!」
おいら、とっさに叫んじゃったよ。
これぞ、おいらが求めていた人材って感じだったんだもん。
町の酒場で市井の人々と杯を酌み交わしたり、町娘に混じって屋台で買い食いしながら井戸端会議をするのもしょっちゅうだって。
「いやこれでは、今いる十人と変わらないではありませんか…。」
おいらの一存で合格を出すと、宰相のボヤキが聞こえて来たよ。
**********
そして、もう一人。
「お初にお目に掛かります、女王陛下。
私、ムース・ド・アントルメと申します。
よろしく、お見知りお見知りおきください。」
清楚な印象の白いドレスの裾を摘まみながら、礼儀正しい挨拶をしてくれたんだけど。
「アントルメ?」
家名がジェレ姉ちゃんと同じなんだけど、騎士の家には多い家名なのかな。
「ほお、先程の者と同じアントルメ子爵家のご令嬢ですか。
次女で、十八歳、先程の者の妹御ですかな?」
「えっ?」
ビックリだよ。
物腰が穏やかで、口調も取り繕った感じが無く、素で良家のご令嬢って雰囲気なんだもの。
でも、言われてみれば、腰まで伸ばしたサラサラの金髪を肩口でバッサリ切ると似てるかもしれない。
口とか、鼻の形が特に。
ただ、ジェレ姉ちゃんは少し釣り目がちな大きな目なのに対して、ムース姉ちゃんは垂れ目がちで目が細いの。
だから、ぱっと見ではあんまり似ているように見えないんだ。
「はい、先に面接を受けたジェレの双子の妹でございます。
ところで、面接の際に姉は、陛下に粗相をしておりませんでしたか。
もし、陛下のお気に召さないことがございましたら、家長に代わってお詫び申し上げます。」
「心配しなくても良いよ。
おいら、ジェレ姉ちゃんを一発で気に入ったから。
近衛騎士に取り立てることにしたよ。
ところで、ムースお姉さんはどうして近衛騎士に応募したの?
ジェレ姉ちゃんと同じく、騎士になるのが夢だったとか?」
「いえ、私は特に騎士になりたいとは思ってはいないのですが…。
姉はあの調子ですので、王宮に一人野放しにするのは心配で…。
陛下に粗相があってはいけないと思いまして。
何かあった時のフォローが出来ればと応募させて頂きました。
まさか、姉が近衛騎士などという大役を仰せつかることになるとは…。」
ムースお姉さんは、ジェレ姉ちゃんは不採用になると思っていたようで。
それどころか、おいらの不興をかうのではと心配してついて来たらしいの。
応募者以外は選考会場に入れないのが分かっていたので、自分も応募者の形をとったみたい。
どうやら今までも、ジェレ姉ちゃんが王宮で問題を起こしては。ムースお姉さんが尻拭いをして来たみたい。
ジェレ姉ちゃんは性根は悪くないんだけど、言葉遣いが荒くて、正義感が強いので、王宮ではよく貴族の子息と衝突するそうなんだ。
特に、キーン一族派の貴族の子息連中は、横柄で素行が悪かったから良く衝突していたらしいの。
「付き添いできたのならどうする?
ムースお姉さんは、近衛騎士への応募辞退する?」
「いえ、あの姉を一人にしたらどんな暴走をするか心配で仕方がありません。
もし、差し支えなければ、私も陛下のお側にお仕えさせて頂けませんか。」
「でも、良いの?
ムースお姉さんも騎士の家の生まれだから承知してると思うけど。
騎士って荒事をしないといけないよ。
お父さんは、ヒーナルの謀反の際に殉死されてるんでしょう。」
ムースお姉さん、自分も近衛騎士になりたいと言っているけど…。
見るからにお淑やかそうで、荒事を任せられそうな感じがしないの。
それに、ジェレ姉ちゃんの付き添いでそこまでさせるのは、おいらの方が気乗りしないしね。
「それでございましたら、案ずる必要はございません。
私も騎士の家に生まれた娘、剣の嗜みはございます。
組稽古では姉と互角でございますし、兄からも筋が良いと言われております。」
ムースお姉さん、実は強い?
少なくとも実際に剣の鍛錬をしている分だけ、イメトレしかしてこなかったクッころさんよりは上な感じはするよ。
「陛下、ここは、この者も採用する事と致しましょう。
どうも、この者がさっきの姉を上手く御してくれそうな気がします。
あの姉、陛下に対する忠誠心はありそうですが、いささか浅慮な気がしてなりません。
この者を近衛騎士に取り立てて、姉の手綱を取らせるのが得策でしょう。」
宰相は、ジェレ姉ちゃんを採用することに不安を感じている様子で、ムースお姉さんを採用するように助言してきたんだ。
もちろん、おいらは宰相の助言に従ったよ。
だって、この姉妹、二人揃った方が面白そうだもん。
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