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第十五章 ウサギに乗った女王様

第364話 騎士団を動員してアレを取り上げたよ

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 近衛騎士の募集をかけてから一月ほど経った頃のこと。
 近衛騎士の募集と同時に出したお触れ書きに基づいて、おいらは一つの取り締まりに着手したよ。

 その朝、おいらはトシゾー団長の麾下の騎士三百人とルッコラ姉ちゃんを除く九人の近衛騎士を前にしてある作戦の実行を指示したの。
 本当は、近衛騎士団の募集をした後で、近衛騎士だけでやりたかったんだけど。
 早めに取り組んだ方が良いと思って、トシゾー団長に協力を仰ぐことにしたの。
 もちろん、指揮を任せるトシゾー団長とは十分に打ち合わせをしたし。
 近衛騎士九人にもトシゾー団長の指揮下に入るように指示したよ。
 騎士達は、トシゾー団長から作戦について詳細な指示がされていた様子だったの。
 おいらが作戦開始を告げると一斉に王都へ出て行ったよ。

 おいらも作戦の様子を視察するために、近衛騎士の一組に付いて行くことにしたんだ。

「マロン、また、面白いことを始めたモノじゃの。
 これからやろうとしている事は、前代未聞なのじゃ。
 上手くいけば良いのじゃが…。」

 一緒に視察をすると言って付いて来たオランがそんな心配をしていたよ。

 騎士は三人一組で行動し、うち一人は布製の手提げ袋をぶら下げてるんだ。
 トシゾー団長の指示に基づいて各組は持ち場が決まっているみたい。
 おいらが同行した三人組は王都の広場が受け持ちだったよ。
 
 広場に付くと近衛騎士の三人組はさっそく対象者を見つけたよ。
 それは広場にある屋台で朝食をとっている冒険者らしき二人の男だったの。

「ちょっと、よろしいですか? 
 王宮の騎士ですが、職務ですので。
 冒険者登録証を拝見させて頂けますか。」

 近衛騎士のお姉ちゃんは、丁寧な言葉遣いで冒険者に話しかけたよ。
 ヒーナルの治世では騎士が凄く横柄で市井の人々から鼻つまみ者になってたんだ。
 おいらが国王になるとすぐに、騎士達に特権を振りかざすことを禁じたの。
 そして市井の人々に丁寧に接するようにと命じたよ。
 人々から親しみを持たれる騎士になりなさいってことだね。

「おう、騎士様が俺達みたいなはぐれモンに何か用かい?
 冒険者登録証だって? そんなモンは聞いたこともねえぞ。」

「そうですか。
 では、法に基づき剣、その他一切の武器、凶器を没収させて頂きます。」

「はぁ? 何だって?
 剣を没収だ? そんな事は聞いたことがねえぞ!」

 突然、剣を没収すると宣告されて、不満を漏らす冒険者。
 それに対しお姉さんは、すぐ傍にある告知板を指差しながら告げたんだ。

「いえ、一月前からそこの告知板に掲示してありますよ。
 一部の例外を除き、冒険者登録証の無い者は市中での武器、凶器の所持を禁ずると。」

「げっ、マジだぜ。おい、見ろ。
 これより一月後を以て、許可無き者の剣の所持を禁ずるって書いてあるぞ。
 役所に登録してある冒険者なら所持できるらしいが…。
 それでも、市中では布袋や木箱に納めて、すぐには鞘を抜けない形で持ち運ばないといけねえらしい。」

 そう、一月の猶予期間を設けて、剣をはじめとする武器の市中での所持を禁止したんだ。
 ならず者が剣で脅してカツアゲをしたり、剣を用いて押し込み強盗をしたりという犯罪を無くすためにね。

 一応、旅の護身のためとかで王都の外なら、誰でも剣を所持することは認めているよ。
 旅に出ると道中で物盗りとかが出ることがあるし、剣を持っていないと物騒だからね。
 その場合は事前に冒険者管理局に届け出をして、王都を出るまでは口を縛った布袋に入れて持ち歩くことにさせたよ。

 他には、例外として大店の警備を請け負う者にも剣の所持を認めたよ。
 お店の規模に応じて細かい規則を設けたけど最大で十人まで、警備に就く者全員の名前を記して許可を取る形にしたよ。
 提出書類に記載されてない者に剣を持たせることを禁じ、また、許可した者が剣を用いて犯罪を起こさないように監督する義務を大店に課したよ。
 違反した場合は、かなり厳しい罰則を雇い主である大店に課すことになってるの。
 
「ご理解いただければ幸いです。
 では、武具一切を没収させて頂きます。」

「ちょっと待て、そんなの納得できるか!
 俺達冒険者にとっては剣は命の次に大事なもんだぞ。
 これが無えとカタギのモンに舐められちまうだろうが。
 それに、敵対するギルドの連中とタマの取り合いになった時にどう戦えって言うんだ。」

 いや、だから、それが起こらないように武器の所持を禁じるんだってば。
 だいたい、狩りに行くのに困ると言うならまだ同情の余地はあるのに、なにその理由。

「没収した武器については、冒険者登録をしてくだされば返却いたします。
 冒険者管理局でお預かりしていますので、冒険者登録証と共に預り証を提示してください。」

 騎士のお姉さんは淡々と説明したんだけど…。

「ふざけるのも大概にしろ!
 役人だと思って下手に出てれば調子に乗りやがって!
 そんなふざけた決まりに従ってられるか!」

「おい、バカ、やめろ…。」

 冒険者の片割れが、怒りで顔を真っ赤にして殴りかかって来たよ。まったくもう、沸点低いね。
 騎士のお姉さんが女だと侮っているみたい、殴り掛れば引き下がるとでも思ったんだろうね。
 
 そんな相方を、もう一人の冒険者がとっさに止めたんけど…。
 時すでに遅し。

「痛でで…。」

 殴る掛かって来た腕を掴んで、そのまま捻り上げたお姉さん。

「王宮の騎士に殴りかかるなんて、あなた、バカですか?
 前王ヒーナルの治世なら斬り捨てられても文句言えませんよ。
 斬り捨て御免を禁止したマロン陛下に感謝するのですね。」

 浅慮な冒険者の行動に、呆れた様子でそう告げてたよ。

「バカ野郎、騎士の皆さんは俺達が束になっても敵わねえんだ。
 オメエ、最近、カタギにゴロ巻いた連中が次々とお縄になってるのを知らねえのか。」

 拘束された冒険者を相方が窘めてたよ。
 相方の方は、最近の事情を良く知ってて、騎士のお姉さん達が無茶苦茶強いって知ってたみたい。

「それで、あなたはどうされますか?
 この愚か者は一ヵ月の更生教育を施すことになりますが。」

 引き続き捕らえた冒険者の腕を捻り上げながら、お姉さんは相方に尋ねたんだ。

「もちろん、剣も、懐剣も、寸鉄も全部持って行ってくださって結構です。
 俺が身に付けている得物は包み隠さずお預けします。」

 もう一人の冒険者は素直に剣を差し出したよ。
 他にも、懐から懐剣を取り出したり、両腕の袖から寸鉄を取り出したりして渡してた。

 すると手提げ袋を提げていたお姉さんが、細長い布袋を取り出すと受け取った武具、凶器をそこに詰めてたよ。
 その後、剣その他を入れた布袋の口を紐で固く結ぶと、番号の入った木札を付けてたの。

 そして、二枚の紙に預かった武器の種類と数、それに木札の番号を書き込むと。

「それでは、こちらでお預かりした武器がこれで間違いないかを確認してくだい。
 内容に間違いなければ、一枚目に署名してこちらに返してください。
 二枚目は預かり証ですので、冒険者登録証と共に冒険者管理局の事務所にお持ちください。
 お預かりした武具その他をお返しいたします。」

 渡された紙に署名した冒険者の片割れは、さっそく冒険者の登録申請をしに行くと言って去っていったよ。

「さて、困りましたね。
 一件目から、捕縛者が出てしまいました。
 我々三人で、これを連れたまま取り締まりをするのも骨ですし。
 一旦冒険者管理局に預けて来ましょうか。」

 捕縛した冒険者を縛り上げながら、お姉さんの一人がそんな提案をしたの。
 
「その冒険者、おいら達が預かるよ。
 このまま、見せしめのために引き摺って歩こう。
 素直に剣を差し出さないとどうなるかを示したら、バカでも従うだろうからね。」

 おいらは、捕まえた愚か者をルッコラ姉ちゃんに引き摺らせて三人の後を付いて行くことにしたんだ。
 結果的はこれが効果抜群だったよ。
 剣を差し出さないと捕縛され、一ヶ月間延々とトレント狩りをさせられると知り、みんな素直に差し出してた。
 初っ端、一人の愚か者のおかげでその後の仕事が捗ったよ。

 この日、百組以上の騎士を投入し、一斉に王都の隅々まで取り締まったんだ。
 そして、これは五日間、布袋にも入れずに鞘に納めただけの剣を持ち歩く者がいなくなるまで続けたよ。 
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