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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第349話 ショボン、叱られちゃったよ

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 冒険者登録の申請受付を始めてから二日目、『冒険者管理局』の事務所から戻ってくると。

「マロン、自由気ままに王宮から抜け出したらダメなのじゃ。
 マロンが行方不明になったと、大騒ぎだったのじゃぞ。
 臣下に心配かけるようでは、君主として失格なのじゃ。」

 王宮の入り口で待ち構えていたオランから、「お帰りなさい。」も抜きで、そんなお小言が降って来たよ。
 オランの隣では、ホッとした様子のクロケット宰相とゲッソリとやつれたルッコラ姉ちゃんが立ってた。
 ルッコラ姉ちゃん、王宮を駆けずり回っておいらを捜していたと聞いたけど。
 おいらが、いなくって相当焦ったんだろうね。

「陛下、ご無事にお帰りで何よりです。
 ですが、現在、この国では王族は陛下お一人。
 御身にもしものことがあれば、国が滅びます。
 どうか、お一人で王宮から出るのは御慎みください。」

 オランほどあからさまには叱らなかったけど、クロケット宰相にも諭されちゃった。
 因みに、クロケット宰相の話では、ルッコラ姉ちゃんがやつれてるのは王宮の重臣から責められたせいみたい。
 何でおいらから目を離したんだって。

 おいらは、サバサバした性格で、細かい事にとやかく言わないルッコラ姉ちゃんが気に入って専属の護衛に指名したんだけど。
 本来、その役目は高位貴族の家出身の騎士の役目だったみたい。
 平民出で新米騎士のルッコラ姉ちゃんが、おいらの専属騎士になったもんだから妬みもあったみたいでね。
 これ幸いと失点を責められたらしいの。

「陛下、男性騎士がお側に侍ると気が休まらないとのお気持ちも良く解かります。
 ですから、騎士ルッコラを専属の護衛に指名したことにも異議は唱えませんでした。
 ですが、慣例を破って騎士ルッコラを指名したのですから。
 騎士ルッコラの立場を悪くするような行動は慎んだ方がよろしいかと存じます。」

 クロケット宰相のこの言葉は効いたよ。
 確かに、ルッコラ姉ちゃんの立場を悪くすることをしたら拙いね。 
 ルッコラ姉ちゃんをクビにして、厳つい男性騎士を代わりになんて言われたら嫌だもんね。

「ゴメン。悪かったよ。
 これからは、無断で王宮の外には出ないし。
 王宮の外に行く時には、必ずルッコラ姉ちゃんを連れて歩くことにするよ。」

 おいらが、しおらしい態度をとって謝ると、クロケット宰相は表情を崩して頷いてくれたよ。
 どうやら、赦してもらえたみたい。

          **********

「それで、マロン。
 朝早くからいったい何処へ行ってきたのじゃ。」

 お小言モードから態度を切り替えたオランが尋ねてきたんだ。

「ああ、冒険者研修の様子を視察に行ってきたの。
 早朝、町の清掃作業を研修に取り入れたのは話したよね。
 冒険者になるような連中が真面目に掃除なんかするか、気になって様子を窺いに行ったの。
 その帰りに、事務所にも寄って来たんだ、変わったことは無いかと思って。
 それで、今日見聞きしたことで相談したいことが出来たんだ。
 宰相も一緒に聞いてくれるかな。」

 おいらはオランの問い掛けに答えると、二人を執務室に来てくれるようにお願いしたの。

「それで、相談とはどんな内容なのじゃ?」

 おいらの執務室、テーブルに着くとさっそくオランが尋ねて来たよ。

「西南部の辺境地帯から王都までの街道を整備したいの。なるべく大至急でね。」

「また、それは唐突じゃのう。いったい何があったのじゃ。」

 結論から明かしたら、オランが怪訝な顔をして尋ねてきたんだ。

「西南部辺境に仕事を創りたいんだ、それとお金を落したいの。
 別に街道整備でなくても良いんだけど。
 おらんもラビに乗って、一緒に来たから覚えているでしょう。
 この国の街道って、凄く荒れていて…。
 あれじゃ、交易も盛んにならないよ。」

 おいらは、続けて『冒険者管理局』の事務所で見聞きしたことを説明したの。
 辺境は極めて景気が悪くて、働く場所がない娘さん達が仕事求めて王都へ出て来ているってこと。
 働き口のアテのないまま王都へ出て来るもんだから、質の悪い輩のカモになっているかも知れないってことなんかをね。

 街道整備を大規模にすれば、職をあぶれた人を雇うことが出来るし、その土地にお金が落ちる。
 現場で直接作業をする人は男手かも知れないけど、食事の用意とか、事務仕事とかで女手も必要になるからってね。
 街道整備で稼いだお金を辺境で使ってもらえれば、辺境の景気も良くなるだろうし。
 お姉さん達だって、わざわざ王都まで出て来なくても、地元で仕事が出来るかも知れないもんね。

 もちろん、作業員には冒険者も雇って、連中にも働く場を与えようと思うんだ。
 王都で燻ぶらせておくよりずっと良いもの。
 連中、怠け者だから嫌というかも知れないけど、強制労働みたいに半ば無理やりにでも送り込んでみようかなって。

 街道整備の話しに食い付いたのは、オランじゃなく、宰相だったの。

「ほう、雇用の創出ですか。
 確かに、ヒーナルが国王になってから街道は荒れ放題になっていましたからな。
 それは、悪くない案かと思います。
 しかし、それも前例がない事ですな。
 従来から街道整備は、民に課す税の一部として無償で労役を提供させて行っていたのです。
 もちろん食事と寝床は提供しましたが、別途給金を支給するなど前例がございません。」

「前例が無ければ作れば良いと思う。
 民を無償で使おうってのはダメだよ。
 奴隷じゃないんだから、働いてもらうのならちゃんと給金を払わないと。
 それに、この八年間ヒーナルが民に課してきた重税を還元しないとダメじゃない。
 キーン一族やそれに与した騎士の家を取り潰して没収した私財があるよね。
 極論すると、あれ全部、ばら撒いちゃっても良いと思っているんだ。
 もちろん、街道整備以外にもやりたいことがあるから、全部いっぺんにばら撒いたら困るけど。」

 今の不景気の原因がヒーナルの失政のせいで、重税もそのうちの一つならお金を民に戻してあげないと。
 一人一人にお金を返すのは無理だから、仕事を作る形で市中にお金を還元すれば良いと思うの。

「何と、前々王の再来のようだ。
 王族としての教育など全く施されていないのに。
 その様なことにまで思い至る陛下の御慧眼に感服いたしました。」

 クロケット宰相は大袈裟においらをヨイショするけど、そんな大そうな事じゃないと思うよ。
 アルトが色々な事を教えてくれたし、何よりもハテノ男爵家がそんな施政をして来たってゼンベー爺ちゃんが教えてくれたもの。

 クロケット宰相は、大至急、官吏に検討させるって言ってくれたよ。 

       **********

 街道整備の件に一区切りつけると、おいらは騎士団のトシゾー団長を呼んでもらったんだ。
 今後の騎士団の体制について話をするためにね。

「お呼びとのことで参上いたしました。
 遣いの者より、騎士団の体制について話があると伺いましたが。
 どのような、ことでございましょうか。」

 然程待つことなく、トシゾー団長は来てくれたよ。

「宰相には相談済みだけど。
 トシゾー団長には、今この時から将軍になってもらうね。
 近衛騎士を除く、この国の騎士団は全てトシゾー団長の配下に入るからよろしくね。」

「はっ?」

 トシゾー団長には寝耳に水だったようで、目を丸くして問い返して来たよ。

「八年間、トシゾー団長の騎士団だけだもの、真面目に鍛錬していたの。
 ヒーナルに干されても、騎士団としての役目を全うしようとしたトシゾー団長は尊敬に値すると思うよ。
 この国の騎士団を束ねていけるのはトシゾー団長しかいないと思うの。
 だから、将軍として采配を振るってね。」

 おいらが、改めてトシゾー団長を将軍にしようと考えた理由を告げると。

「ははっ、身に余るお言葉を頂戴し、光栄に存じます。
 陛下の御期待に沿うべく、誠心誠意職務に励むことを誓います。」

 いや、そんなに恐縮されると次の言葉が言い出し難くなって困っちゃうよ。

「喜ばせちゃって申し訳ないんだけど。
 トシゾー団長にとって面白くないこともあるんだ。 
 今、騎士団の役割になっている王都の治安維持なんだけど。
 騎士団から近衛騎士団に役割を移そうと思うの。」

 実は既に、トシゾー団長には無断で王都の治安維持に就いてもらっているのだけどね。
 この時点までは、トシゾー団長はまだ無役のままだったから、王都の治安維持に対する権限は無かったの。
 王都の警備、治安維持って一番の花形みたいだから、騎士団からその職務を取り上げたらヘソを曲げられちゃうかも知れないんだ。

「それは、私では不服ということでしょうか?」

 案の定、おいらがトシゾー団長に不満があるのかを尋ねて来たよ。

「違う、違う、トシゾー団長は良くやっていると思うし、不満がある訳じゃないよ。
 前から言っていると思うけど、ヒーナルのせいで騎士に対する民の印象が良くないんだよね。
 鍛錬もしないで、冒険者みたいな事ばかりしていたから。
 だから、おいらの治世で騎士団のイメージアップを図ろうと思うの。
 ならず者の取り締まりといった治安維持は勿論だけど。
 迷子の世話をしたり、お年寄りが重い荷物を持ってたら代わりに持ってあげたり。
 騎士団らしくないかも知れないけど、民にそんなサービスをする事を考えているんだ。 
 それなら、厳つい騎士より、おいらの近衛のお姉さんの方が親しみを持たれると思わない?」

「陛下のお考えは理解できますが。
 近衛騎士は現状十人しかいませんぞ。
 これでは、陛下とオラン様の警護すらままなりません。
 王都の治安維持に加えそのような事をするには人手不足かと存じますが。」

 おいらが、トシゾー団長の誤解を解くように説明すると団長はもっともな疑問を投げかけて来たよ。

「うん、だから、近衛騎士団を増員するよ。
 あと百人、女性騎士を市井から登用するの。
 もちろん、騎士になりたい娘さんがいれば貴族でもかまわないけど。
 貴族の家って、女が剣を振り回すのははしたないって言いそうでしょう。」

「陛下、女性だけの騎士団を創設するという構想は本気だったのですか…。
 私は、近衛騎士団なんてモノではなく、近衛騎士隊程度のモノだと思っていました。
 だいたい、女性だけでそんな大規模な騎士団なんて出来るのでしょうか?」

「うん? 出来るか出来ないかは実際に募集してみないと何とも言えないね。
 でも、女性だけで百人規模の騎士団ってのは実例があるよ。
 おいらが育った町の騎士団がそうだったの。
 町や街道の治安維持の他、領都の道案内や迷子の保護、それに歌の披露なんかもしてたよ。
 町の人気者だし、わざわざ他の領地から騎士団を見に来る観光客までいたんだよ。」

「歌ですか? それが騎士団の仕事とどういう関係が?」

 おいらの説明に、トシゾー団長は理解不能という顔つきをしていたよ。
 そんなトシゾー団長に、ハテノ男爵領騎士団の仕事の内容を詳しく説明したら目を丸くしていたよ。
 トシゾー団長には、相当奇異に感じたみたいだった。

 でも、市井の民に親しみやすい騎士団にしたいと言うおいらの目的は理解してもらったみたいで。
 王都の治安維持は近衛騎士団に譲ってもらえることになったよ。

 ただ、募集はおいらの即位式に招待した他国の来賓が帰国してからってことになったんだ。
 事務方が忙し過ぎて対応できないって。

 実はまだ帰っていないかったんだよね、お義父さんやお義母さん(シタニアール国の国王夫妻)も。
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