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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第346話 ウサギ狩りをやらせてみたら…

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 田舎から出てきた三人組に改めて冒険者研修を受けることを承諾させたので、やっとウサギ狩りの実習に入ることが出来たの。

「さてと、ウサギ狩りが儲けにならないとバカにしている奴もいるようだが。
 確かに、ウサギ一匹売って銀貨五十枚、これを五人掛かりで狩ってりゃ大した稼ぎにもならんだろう。
 でもな、一人で一匹狩ることが出来れば、大した収入だと思わないか。
 一日一匹で、月に二十日狩れば銀貨千枚だぞ。」

 三人組がウサギ狩りをショボいってバカにしていたから、父ちゃんがそう諭したの。
 たいていの冒険者は訓練をしてないから、一匹のウサギを狩るのに五人掛かりなんだ。
 しかも体力が続かないから、五人掛かりでも一日に一匹狩るのが精一杯の様子なの。
 そんな体たらくじゃ、確かに大した稼ぎにはならないよね。
 もっとも、ウサギを一人で狩れるくらいに精進を重ねられるくらいなら、冒険者になんかならないか。
 そのくらい真面目なら、他に幾らでも仕事が有りそうだものね。

「おい、何をさも簡単そうに言ってやがる。
 確かに、日に銀貨五十枚を簡単に稼げるなら旨い仕事だがな。
 ウサギみてえな獰猛な魔物を一人で狩れる奴が何処にいるってんだ。」

 冒険者と言う名のならず者になろうと田舎から出てきた三人組が、父ちゃんに反発していたよ。

「うん? うちの職員はウサギくらい全員が一人で狩れるぞ。
 これから、お手本を見せようと思っていたところだ。
 そうだな、誰にやってもらおうか…。」

 父ちゃんは三人組に向かって、ウサギ狩りなんて容易いことだと言わんばかりの口調で答えたの。
 冒険者管理局のお姉さん方は全員レベル二十だから、レベルゼロの冒険者(仮)とは比べ物にならないけどね。
 父ちゃんはレベルゼロの時も一人でウサギを狩ってたけど、罠とかを使っていたし。
 レベルゼロの冒険者(仮)にやれと言うのは無茶振りの気もしないでもないけど。

 それはともかく、父ちゃんが『冒険者管理局』のお姉さん達に手本を示させようとしてたので。

「それじゃあ、おいらがやってみせるよ。」

 おいらが名乗り出てみたの。

「陛下、いけません。
 陛下がこのようなところまで、ホイホイと出て来られることも問題なのに。
 そんな事までされて、お怪我でもなされたら大変です。」

 お姉さんの一人が、そう言って止めるけど…。

「平気、平気。
 おいらのような幼子でも、簡単に狩れるとなると。
 いい歳したニイチャンが出来ないなんて、情けないことは言えなくなるでしょう。」

 本当のところは、目の前いる冒険者もどきに『上には上がいる』ことを見せ付けるためなんだ。
 『カザミドリ会』の五人は自分達が三下だってことを自覚しているみたいだけど、そうじゃない連中もいるからね。
 三人組が典型だけど、冒険者になろうって連中の大部分は、生まれ育った田舎では腕っ節自慢の連中なんだ。
 多少荒事に自信があるから、弱い者を恫喝して楽に稼ぐつもりで大きな町に出て来るの。
 大きな町ならカモは沢山いるし、人の繫がりが希薄だから総スカンを食らうこともないからだって、父ちゃんが言ってたよ。
 田舎でそれをやったら、村中、町中を敵に回して暮らしていけなくなるからね。

「おい、今、あの姉ちゃん、ガキのことを陛下と呼んでなかったか?
 良く知らねえが、陛下ってのはとんでもなくえらい奴のことじゃなかったか。」

「なんだ、そりゃ? 俺は陛下なんて言葉聞いたこともねえぞ。」

「それより、あのガキ、舐めた口利きやがって。
 あれで俺達を挑発しているつもりか。
 簡単にウサギを仕留めるなんて大口叩いて、ケガをしても知らねえぞ。」

 なんて、バカ丸出しの会話をしている三人組。
 こいつらまず最初に一般常識を身に着けないといけないんじゃ…。

       **********

 おいらは、草むらの中に進み入り、ウサギの巣穴を見つけ。

「それじゃ、一回しかしないから、よく見ていてね。
 ここがウサギの巣穴だよ。
 ウサギは草原ならそこいらじゅうにいるから、巣穴は簡単に見つかるよ。
 巣穴を見つけたら、このくらいの大きさの石を投げ込んで巣穴から誘き出すの。」

 そんな言葉の後に、足元に転がっていた石の中からこぶし大のモノを手に取ると巣穴に放り込んだの。

「ウキュ!」

 少し力の加減を拙ったか、額から血を流したウサギ(魔物)が目を血走らせて巣穴から飛び出して来たよ。
 その勢いのまま、巣穴の前に立っていたおいらに向かい、鋭い前歯で食い掛かって来たんだ。

「ゴメン、額が割れて痛かったよね。あとで治療してあげるから赦してちょうだい。」

 おいらはウサギに謝りつつ、襲い掛かって来たウサギを躱すとその頭を地面に押さえ付けたよ。

「ウキュ! ウキュ!」

 ウサギは闘争心剥き出しに鳴き声を上げながら、ジタバタと体を動かしておいらの拘束を逃れようとするけど…。
 もがいても、おいらの拘束を逃れることができず。

「ウキュ、ウキュキュ。」

 闘争心を失くしたように、悲しそうな鳴き声を上げ始めたの。
 まあ、これは、拘束を逃れるために一時的な命乞いなんだけどね。

 それを承知で、おいらが手を放してあげると…。

 「ウキュ!」

 ウサギは、懲りもせずに襲い掛かって来たよ。
 それを予測していたおいらは、何の焦りも無く再び頭を抑え込んだの。

「ウキュ、ウキュキュ。」

 再び命乞いの鳴き声を上げるウサギ。
 その後は、おいらが手を放す、ウサギがおいらに襲い掛かる、おいらがウサギを拘束するといった行動を何度か繰り返し。

 終にウサギは、「ウキュ、ウキュキュ。」という命乞いの鳴き声と共にゴロンとお腹を見せて転がったよ。
 もうすっかりお馴染みになっている完全服従のポーズだね。

「ほら、簡単に手懐けることが出来るでしょう。
 みんなは手懐けるのが目的じゃなくて、食肉の確保だから。
 一撃でっちゃえば良いし、手懐けるよりずっと簡単だよ。
 剣で急所を狙うんだよ。
 毛皮も売り物になるから、なるべく少ない手数で仕留めるの。」

 ウサギの毛皮はモフモフで柔らかくて人気があるの。
 おいらなら、素手で仕留めるから、毛皮に傷一つ付けないけど。
 ショボい冒険者は何度も斬り付けて、毛皮を台無しにしちゃうんだ。
 その分、安く買い叩かれちゃうの。

 おいらはウサギを手懐けると、『妖精の泉』の水で額の傷を治してあげたんだ。

「ウキュ、ウキュ。」

 ケガが治って痛みが引いたんだと思う、ウサギは愛らしい鳴き声を上げるとおいらにすり寄って来たよ。

「信じられねえ、あのガキ、あんなでっかいウサギを一人で手懐けちまったぜ…。」

「いや、いや、仕留める方が簡単だって…、そんなはずがあるかい。
 俺達の村じゃ、ウサギを一人で仕留めるなんて話は聞いたことがねえぞ。」

「おい、王都じゃ、ウサギってのは、女子供でも簡単に仕留められるモンなんじゃねえか。
 もしかして、俺達、村では敵無しなんて粋がっていたが、実は弱いんじゃ…。」

 うん、うん、こいつらおいらの目論見通りに思考誘導されてるね。
 狭い村の中と違って、世の中、上には上がいると分かってくれたようだよ。

 そこへ。

「ほら、陛下がお手本を見せてくださったのだ。
 さっさとあなた達もやってみないか。」

 そう言いながら、研修の監督官をしているお姉さん達が三人組をウサギの巣穴の前に突き飛ばしたんだ。
 と同時に、巣穴に石を投げ込んでいたよ。問答無用だね…。

「おいバカ、やめろ!」

 突き飛ばされた三人組から抗議の声が上がってたけど、そんなのウサギには関係ないからね。
 目を血走らせて巣穴から飛び出しして来たウサギは容赦なしで、三人組に襲い掛かっていたよ。

「おい、こっちに来るな!」

 ウサギは一人に目を付けてその鋭い前歯で襲い掛かったの。
 襲い掛かられた男は、剣を無茶苦茶に振り回してウサギに威嚇するけど。
 猪突猛進に突進してくるイノシシとは違い、敏捷性に勝るウサギは無闇矢鱈と振り回すだけの剣を上手く躱していたんだ。
 日頃から運動不足なんだろうね、剣を振り回してた男はすぐに息が上がってたよ。
 疲れ果てて剣戟が途絶えた瞬間を狙うように、ウサギは男の腕に噛みついたの。

「ぐぁーーーー!」

 腕に食いつかれた瞬間、男の絶叫が響き渡ったよ。
 飛び散る血飛沫、幸いなことに噛み千切られたのは筋肉だけで、腕はもげていないみたいだった。

「やべえよ、あんなのに敵う訳がねえ。
 あいつが相手してくれている間にずらかろうぜ。」

「そうだな、あいつの犠牲を無駄にしちゃいけねえもんな。」

 そんな都合の良いことを言いながら、その場から逃げだそうとする二人。

「おや、何処へ行かれるつもりですか?
 研修は終わっていませんよ。
 三人でかかればウサギなんて大したこと無いでしょう。
 仲間を捨てて逃げ出してどうするんですか。」

 監督役のお姉さんは、二人の逃げ道を塞ぐと冷たく言ったんだ。
 そして、二人の首根っこを掴んでウサギの方へ放り出したよ。

「そんな殺生な!」

 退路を塞がれた二人は、そんな泣き言を零しながらウサギの前に立たされていたよ。
 ただ、二人は生き延びるにはウサギを倒すしか無いと理解した様子で…。
 その時、ウサギは腕の筋肉を食いちぎった男へ執拗に攻撃を加えていたんだ。
 その隙にコッソリと後ろに回り込んだ二人は、息を合わせてウサギに斬り掛かったよ。
 背後からお腹の左右に剣を突き立てられて、苦しそうに暴れるウサギ。
 痛みのせいだと思うけど、ウサギの方も攻撃が雑になって来たんだ。
 後は、無茶苦茶に剣を振り回す二人と盲目的に食い掛かるウサギの乱闘になったの。

「おおっ、やったぞ! やっと、ウサギを倒せた。」

 しばらく、すると二人の足元には傷だらけになって息絶えたウサギが横たわっていたよ。
 二人が無闇矢鱈に斬り掛かったもんだから、ウサギはボロボロで毛皮は商品価値ゼロの状態だった。

 三人組が命からがらウサギを狩り終えると、おいらは一人大ケガをして蹲る男のところに行ったよ。

「うーん、命に別状はないみたいだね。
 腕や足も食いちぎられてないし…。
 意識もちゃんとあるか。
 これくらいなら、大したこと無いね。」
 
 そう呟きながら、おいらはボロボロになって転がっている男の様子を観察していたんだけど。

「おい、大したこと無いってのは何だよ!
 こいつ、二の腕の筋肉を食いちぎられちまって、骨まで出ているじゃねえか。
 血だってこんなに流しているしよ。
 死んじまたったら、どうしてくれるんだよ。」

 おいらの呟きが聞こえたようで、仲間の男がおいらに不満をぶつけてきたんだ。

「そんなに、心配しなくても平気だよ。
 ほら、これを飲ませてあげて。
 おいらは傷口の方を直しちゃうから。」

 おいらが、仲間に渡したのは勿論、『妖精の泉』の水だよ。
 仲間が水を飲ませている間に、『妖精の泉』の水をあちこちの傷に掛けたの。

 最初に一番大きなケガ、二の腕の筋肉が食い千切られて骨が露出した部分に『水』を注いだの。
 すると、周辺からウネウネと湧き出すように筋肉が生えて来て、見る見るうちに傷が塞がっていったの。
 なんか、凄くキモい現象だったよ。

「何なんだ、この水は…。
 あんだけ酷いケガがあっという間に治っちまうし。
 水の飲ませたら、青褪めていた顔に赤みが差して来たぞ。
 まるで、死人が生き返ったみてえじゃないか。」

 仲間に向かって死人は酷いと思うよ、ちゃんと生きているのに…。
 それに、『妖精の泉』の水だって、流石に死人を生き返らすことは出来ないって。

「これ、『妖精の泉』の水なんだ。
 この通り、死んでさえいなければ大抵のケガや病気は治るからね。
 この水、『冒険者管理局』の人に沢山預けておくから。
 研修期間中、危ないことが多いと思うけど、安心して研修に打ち込んでね。」

「何だそれは…。
 それじゃあ、俺達は八日間ずっとこんな目に遭い続けないといけないのか。」  

 おいらが告げた言葉を耳にした三人組は、絶望した表情を浮かべていたよ。
 だから、登録申請書に書いてあったでしょう。 

『冒険者研修中に負傷し、また落命することになっても一切不服は申し立ていたしません。』って。

 ちゃんと、読んでいないから…。
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