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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第339話 みんな、自信が付いたみたい

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 さて、自分が騎乗するウサギを手に入れたお姉さん達が、スフレ姉ちゃんに先導されてやって来たのは…。
 草原の中を少しウサギで駆けると、草の一本も生えていない空き地があって、その先に林があったの。
 ある線を境に、それまでうっそうと茂っていた草が一本も無くなるのは一種異様な光景だよ。

 何よりも…。

「あっ、こら!
 ウサギ! 何で急に止まるんだ!」

 ルッコラ姉ちゃんの乗るウサギが急に止まったと思ったら。
 他のお姉さん達が乗ってるウサギも、空き地の前で突然足が竦んだように立ち止まったの。

「やっぱり、野生のウサギさんですね。
 それ以上前に進んだら危ないことを本能的に感じ取ってるのでしょうね。」

 同じく立ち止まった『うさちゃん』から降りながら、スフレ姉ちゃんはウサギの勘の鋭さを感心してたよ。

「何だい、この先に何か危ない者でもあるんかい。
 わたしにゃ、ただの空き地にしか見えねえんだが。」

 境界ギリギリのところに立ったルッコラ姉ちゃんが、怪訝な顔で空き地を眺めながら尋ねたの。
 すると、スフレ姉ちゃんはキョロキョロと周りを見回し…。

「あっ、ちょうど良い所にクマさんが来ました。
 皆さん、あのクマさんに注目してください。」

 スフレ姉ちゃんが指差す方角には、巨大なヒグマが一頭、林に向かって歩いていたの。

「何だ、ここはあんなでっかい熊が住んでるのか。
 また、えらい物騒なところだな。」

 ルッコラ姉ちゃんは熊の巨体を見てそんな感想を漏らしていたけど、残念、物騒なのはそっちじゃないんだ。

 ヒグマは林立する大木の一本に足を掛けて背伸びをすると、その木に生る大きな実を採ろうとしたんだ。
 その瞬間…。

「ぐぁあ!」

 目にも留まらぬ速さで槍のように尖った枝が動き、ヒグマの足と腕を串刺しにしたの。その数八本。
 両の手足を串刺しにされたヒグマはあっという間に身動きを封じられちゃったよ。

「おい、あれは何だ?
 木の枝が動いてヒグマを攻撃したぞ。
 あんなヤバイ木は今まで見たことねえぜ。」

「ああ、あれは『ハニートレント』。
 熊が大好きなハチミツが詰まった実を付けるんだ。
 レベル四の植物型魔物で、実を採りに来た熊を捕食しているの。」

 ハニートレントの行動に目を見張るルッコラ姉ちゃんに説明を加えていると。
 地面の下からうねうねと這い出し来た根っこがヒグマを拘束し、養分を吸い始めたよ。
 見る見るうちに、血液やらなんやらを吸い尽くされて干乾びて行くヒグマ。
 その惨劇に、お姉さん達は顔面蒼白にしていたよ。

 みんなが呆然としてその様子を眺めている間にも、ハニートレントの食事の時間は進み。
 養分を全て吸い尽くすと、干乾びたヒグマを地面の下に引きずり込んだの。

「ああやって、捕食した獲物の死骸は地中に埋めちゃうの。
 死骸が残っていると、他の熊が警戒して寄って来なくなっちゃうでしょう。 
 ハニートレントが捕食する度に、ああやって根っこがほじくり返すから。
 根っこの活動範囲は、草一本生えない空き地になってるんだ。」

「げっ、マジかよ。じゃあ、ウサギが急に立ち止まったのは…。」

「そう、空き地が危ないって分かっているからだろうね。」

「なんと、この空き地で一番物騒なのはあの木だったのか。
 普段市場で買っている『ハチミツ壺』を、あんな物騒な魔物から採っていたとは…。
 おっ、おい、まさか…。」

 おいらとの会話の途中で、ルッコラ姉ちゃんはあることに思い至って声を失っていたの。
 その顔には、「そうあって欲しくない。」と書いてあったよ。
 ルッコラ姉ちゃんだけではなく、他のお姉さん達もそれに気付いたみたいで怯えてた。

 でも残念、そのまさかなんだ。

      **********

「はーい、皆さん、ここにいるのは、『ハニートレント』さんです。
 このトレントさん、八本の鋭い枝を使って巧みに攻撃して来るので。
 一人で複数の暴漢と戦う訓練にもってこいなんです。
 しかも、凄く貴重な『スキルの実』と『ハチミツ壺』まで採れてとってもお得なんです。
 今日は、皆さんにこのハニートレントさんを狩ってもらいます。
 お小遣い稼ぎのチャンスですよ。」

 お姉さん達の懸念などお構いなしに、スフレ姉ちゃんは嬉しそうに言ったんだ。
 どうやら、ここに来てから毎日狩っているトレントの副産物は、スフレ姉ちゃんの小遣いになっているみたい。

「おい、おい、小遣い稼ぎって…。
 あんなバカでっかいヒグマを瞬殺するような魔物と戦えってのかよ。
 幾ら何でも、そりゃ無茶ってもんだろう。」

 ハニートレントを狩れと言われて不満を漏らすルッコラ姉ちゃん。
 そんなルッコラ姉ちゃんにスフレ姉ちゃんは。

「心配しないで、平気です。
 私も最初は怖かったですけど、レベル十の時からずっと狩ってますから。
 先ずは、私が試しに狩って見せますね。
 その後、何人かで協力して狩ってください。
 最初から一人で狩れとは言いませんし。
 危なくなったら、私とマロンちゃんで助けますので安心してください。」

 そう告げると、スフレ姉ちゃんは、剥き身の剣を手に、トコトコとハニートレントに近付いて行ったの。
 スフレ姉ちゃんが、ある程度まで近付くと…。

 シュッ!

 先ず一本、目に留まらぬ速さでスフレ姉ちゃんを襲って来たハニートレントの鋭い枝。

 カキン!

 スフレ姉ちゃんは、スキル『回避』が働く前に剣で枝を払ったの。
 スフレ姉ちゃんの持つスキル『クリティカル』二種が仕事をして、簡単に枝を斬り落としていたよ。
 
 スフレ姉ちゃんはそのまま歩みを止めることなくハニートレントに近付くと。
 今度は、残り七本の槍状の枝が同時に襲って来たよ。

 今度は、スフレ姉ちゃんのスキル『完全回避』がきちんと仕事をして、七本の枝を器用に躱したの。
 七本ほぼ同時にバラバラの方向から襲いくる枝を、危なげなく躱して見せたスフレ姉ちゃんを目にして。

「すげえ…。何で、あんな動きが出来るんだよ。
 ありゃ、人間業じゃねえだろうが。」

 ルッコラ姉ちゃんは、そんな呟きを漏らしながら感心していたよ。

 そして、全ての枝をへし折ったスフレ姉ちゃんは、一撃でハニートレントを伐り倒したんだ。
 もちろん、一撃で倒せたのは『クリティカル』のスキルが仕事をしたからだけどね。

「はい、落ち着いてやれば、こんな風に簡単に倒せますよ。
 じゃあ、皆さんも、実際にやってみましょう。」

 然も簡単そうに言うスフレ姉ちゃん。
 おいらは、唖然としているお姉ちゃん達に剣を配って歩いたよ。
 処刑した騎士から没収した剣が沢山あるからね。

「おっ、おい、あたしはあんな神業みてえなことは出来ないぞ。
 ここに居るのは、私も含めて剣なんぞ持ったこともない娘ばかりだぞ。
 幾ら何でも、そりゃ無茶じゃないか。」

 半ば強引に剣を握らされたルッコラ姉ちゃんが不満を漏らすけど。

「平気ですって。
 私も剣など握ったこともない町娘でしたけど。
 騎士に採用されて間もなく、剣の振り方を習う前にトレント狩りをしましたもの。
 習うより慣れろですよ。」

 そう言うとスフレ姉ちゃんは、六人ずつ六組にお姉さん達を分けると一組ずつトレントの前に連れて行ったの。

「良いですか、最初は協力して枝に対処してくださいね。
 襲ってくる枝は八本だけです。
 それを無力化してしまえば、後は楽勝ですから。」

 そう告げると、無情に六人の背中を押したんだ。

「ちょ、ちょっと、待って! まだ、心の準備が…。」

 そんな泣き言をもらしてもトレントが見逃してくれる訳もなく。
 容赦なくトレントの枝は襲い掛かって来たよ。

「あっ、やめて、ダメだって!」

 そんな情けない声を上げながら剣を振り回したお姉さん。
 するとその剣はトレントの枝に当たり、スパッと枝を伐り払ったんだ。

「えっ、こんな簡単に伐り払えるの?」

 お姉さんのその言葉が、他のお姉さんの光明になったなったみたい。

「そうなんだ! じゃあ私も! えい!」

 そう言って別のお姉さんも枝を斬り落として見せたの。
 剣を握るのは初めてという二人が枝を斬り落として見せると、他のお姉さんも後に続いたよ。

 流石、レベル二十になっているだけあって、落ち着いて対処すればレベル四のハニートレントは楽勝だった。
 最期は、六人全員で本体をタコ殴りにして伐り倒してたよ。

「スフレさんのおっしゃる通りでした。
 落ち着いて対処すれば、トレントは簡単に狩れるんですね。
 少しは自信がついた気がします。」

 そんな言葉を口にするお姉さんがいたから、他のグループもやる気が出たみたい。
 後の続いた五組も、代わる代わるハニートレントへ挑んでいったよ。
 
 もちろん、全ての組がトレントの討伐に成功したし、誰一人ケガをする事もなかった。
 全員がトレント狩りに成功したのを見届けると。

「今日はここまでだね。
 明日、もう一日ここで訓練をするよ。
 明日は、スフレ姉ちゃんみたいに一人で一体のトレントを狩るんだ。
 レベル二十のお姉さん達なら、落ち着いて戦えば危なくないよ。
 レベル四のトレントを簡単に倒せるようになれば冒険者なんか怖くないからね。」

 おいらは、レベル四のハニートレントは、普通の冒険者なら十人掛かりでやっと倒せる魔物だと教えてあげたの。
 街中では威張り散らしている冒険者でも実力はそんなものだと。

「これが、レベル二十の身体能力…。
 私達が、こんなに簡単にトレントを倒せたのは。
 陛下が『生命の欠片』を与えてくださったおかげなのですね。
 陛下の寛大なお取り計らいに感謝致します。
 冒険者ギルドの仕事に就くことに不安がありましたが。
 これならば冒険者に屈せず、仕事に励むことが出来ると思います。」

 おいらの話しを聞いて、一番気弱そうなお姉さんがそんな風に言ってくれたの。
 冒険者ギルドの仕事に難色を示していたお姉さんだけど、少しは自信がついてやる気を出してくれたみたい。
 トレント狩りを経験してもらって良かったよ。

       **********

 その日狩った『ハニートレント』は、おいらが『積載庫』に全部詰め込んで持って帰ったの。
 三十六人のお姉ちゃんが自分で使う『スキルの実』と『ハチミツ壺』は残しておいて。
 残りの『スキルの実』と『ハチミツ壺』は帰り道に王都の大店で売り払ったんだ。

 その売却代金を三十六人のお姉ちゃんに均等に分けたら、一人当たり銀貨五百枚配ることが出来たよ。

「おお、わりぃな、こんなにもらっちまって。
 お貴族様しか手に入らねえ『生命の欠片』も沢山もらっちまったし。
 それに加えて、メシと宿まで王宮に提供してもらってるんだ。
 本来なら、訓練で狩ったハニートレントの副産物なんか、女王様が取っておいても誰も文句言わないだろうに。」

 銀貨を分けたら、ルッコラ姉ちゃんがそんな風にお礼を言ってくれたの。
 他のお姉さん達も凄く喜んでくれたよ。
 一日でこんなに稼げるのに、何で冒険者の連中は真面目に魔物狩りをしないんだろうって、みんな不思議がっていた。

 実際のところ、簡単にトレントを狩れるのはレベルが二十もあるからだし。
 おいらの『積載庫』に入れて狩ったモノを全て持ち帰れるから、普通より沢山稼げるんだけどね。
 普通なら、トレント六体分の収穫なんて全部持ち帰るのは不可能だもの。

 だとしても、荷馬車を仕立てるなりして真面目にトレント狩りをすれば、堅気にゴロ巻くより稼げるのは確かなんだけど。
 今冒険者になるような連中は怠け者ばかりだから、額に汗して地道に稼ぐのが嫌なんだろうね。 
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