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第十四章 まずはコレをどうにかしないと

第335話 おいらが白羽の矢を立てたのは…

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 『冒険者管理局』の直轄にすると言って、おいらは思い付きで『タクトー会』を接収しちゃた。
 おいらの行動が、余りに行き当たりばったりだとみえたんだろうね。
 父ちゃんは半ば呆れながら新しいギルドの人員はどうするのかを尋ねてきたよ。

 唐突に宰相に依頼しても、ギルドに派遣する人など直ぐには見つからないだろう。
 そう心配する父ちゃんに、おいらは考えがあると伝えたの。

 そして。

「タロウ、ちょっとお願いがあるんだけど。」

 おいらは、シフォン姉ちゃんと一緒にソファーで寛いでいるタロウに声を掛けたんだ。
 シフォン姉ちゃんとのんびりお茶を飲んでいたタロウだけど。
 おいらと父ちゃんの話は、タロウ達の耳にも届いていたみたい。

「うん? まさか、あのギルドの手伝いをしろってのか?」

「あっ、聞こえてた?
 じゃあ、説明は要らないね。
 タロウ、あのギルドの会長やってくれない?」

 おいらの言葉を耳にしたタロウはあからさまに顔をしかめ。

「やーだよ。
 何が悲しくて、あんなならず者達の世話をしにゃいかんのだ。
 俺だって、マロンが作らせたお触れ書きは読んでいるぜ。
 ギルド構成員の冒険者が不始末を起こしたらギルドの長も連帯責任だろう。
 誰がそんな貧乏くじを好き好んで引くかってよ。」

 まあ、そうだよね。
 宰相に作ってもらった法だと、ギルドが組織的に娘さんを拉致監禁して乱暴した場合はギルドの長も死罪だもん。
 まっとうな人なら、ギルドの長になんかなりたくないよね。

「ああ、それ。
 『冒険者管理局』の直轄下に入ったギルドには一定期間、それは適用しない事にするよ。
 そうしないと、ギルドの立て直しに協力してくれる人が居なくなっちゃうもの。
 猶予期間の間にギルド内の綱紀粛正をしてもらって、ギルドをねぐらにしているゴミを掃除してもらえば良いから。」

 半年とか一年の間に徹底的に不良冒険者を始末してくれれば、その間に冒険者の不始末があってもタロウには責任を問わないと伝えたんだ。

「なるほど、俺には余りリスクは無いのか…。
 だが、断る。」

「ええっ、何でさっ? 給金も弾むよ。
 もし、タロウがギルドを上手に運営できるようなら。
 タロウにあのギルドをあげちゃっても良いよ。
 そしたら、一国一城の主だよ。」

「だって、俺、あの辺境の町に家を買ったばかりじゃん。
 せっかく、念願の広い家を手に入れたのに簡単に手放せるかよ。
 第一、この町には温泉が湧いてないどころか、風呂すらないって言うじゃん。
 シフォンとの『ソーププレイ』が出来なくなっちまう。」

 確かに、温泉を手放すのは惜しいよね。おいらも、それが一番惜しかったもの。

「『ソーププレイ』? なんなのじゃ、それは?」

 耳慣れない言葉に、オランが意味を尋ねたの。

「あっ、それ、仲の良い夫婦の夜の営みなの。
 マロンちゃんとオランちゃんにはまだ少し早いかしら。
 今、それを教えたらアルト様からお仕置きされちゃうわ。
 ただ、『ソーププレイ』って、お風呂が無いと出来ないことも多いのよ。
 タロウ君、お気に入りだから、あの家から離れたくないのね。」 

 オランの問い掛けに、シフォン姉ちゃんが答えてくれたの。
 そう言えば、タロウがあの家を買ったのって、シフォン姉ちゃんにせがまれたからだったね。
 お風呂付の家を買ってくれたら『ソーププレイ』をしてあげるって、シフォン姉ちゃんが強請ったみたい。

「うーん、家は没収した貴族の家をあげちゃっても良いけど。
 お風呂は無理かな…、この町って水が貴重らしいから。」

「マロンちゃん、ゴメンね。
 私も、あの町を離れられないの。
 耳長族のみんなに縫製の仕事を回さないといけないから。
 そうなると、タロウ君はますますこっちへ移るのが難しくなるわよね。」

 シフォン姉ちゃんの都合からも、タロウがこっちで仕事をするのは難しいみたい。
 シフォン姉ちゃんが出している縫製の仕事は、耳長族の人にとって貴重な現金収入だものね。

「ねえ、辺境の町の家はあのまま残して、こっちへ移って来れば。
 マロン達とも約束しているの、マロンが休みを取ったらあの町へ連れて行ってあげるって。
 年に二回くらいだと思うけど、あなた達も一緒に連れて行ってあげるわ。
 それと、シフォン、あなたもこの王都に店を構えたらどうかしら。
 あんたの作っているパンツや服はこの町でも売れるんじゃないかしら。」

 今まで黙って話を聞いていたアルトが、タロウとシフォン姉ちゃんにこの町への移住を勧めたんだ。
 シフォン姉ちゃんには、縫製をしている耳長族の人も連れて来てしまえば良いと言ってたよ。
 耳長族だけで里を作って暮らしているのも良いけど、少しは広い世界を見た方が良いって。
 おいらが女王を務める国なら、耳長族の人達も安心して暮らせるだろうって。

「そういうことなら、シフォン姉ちゃんをおいらの御用達にするよ。
 おいらのドレスはシフォン姉ちゃんに作ってもらうことにする。
 もちろん、タロウとシフォン姉ちゃんの住む屋敷は用意するよ。」

「でも、私、デザイン何か出来ないわよ。
 お爺ちゃんがデザインしたものを作っているだけだから。
 私、作るのは得意だけど、考えるのは苦手なのよね。」

 アルトとおいらが勧めても、シフォン姉ちゃんはイマイチ乗り気じゃなかったけど。

「それなら、あのお爺ちゃんからデザイン画をまとめて買っておけば良いし。
 あの町へ行く度に買い足せば良いでしょう。」

 アルトは尚も、この町に来るように勧めたんだ。
 知り合いが少しでも多い方が、おいらが安心して暮らせるだろうからって。

「アルト様が、そこまで言うのなら…。
 ねえ、タロウ君。
 マロンちゃんもアルト様もこう言ってくれてることだし。
 この町に移住しちゃいましょうか。」

 シフォン姉ちゃんが最初に折れると…。

「シフォンが良いのなら、俺は構わないが。
 なあ、マロン、本当に大丈夫なんだろうな。
 無法者の冒険者の起こした不始末の責任を取るのはごめんだぞ。
 それにきちんとした住む場所を用意してくれよ。
 せっかく手に入れた家を残して移ってくるんだから…。」

 タロウも渋々協力してくれると言ってくれたよ。

      **********

 次に『冒険者管理局』の直轄ギルドの会長となったタロウを連れて向かったのは。

「お姉ちゃん達、少しは落ち着いたかな?
 ここで、ゆっくり休んでいってね。
 それで少し相談があるんだけど良いかな。」

 おいらがやって来たのは王宮内にあるサロン。
 キーン一族派の貴族が仕事をサボって昼間から飲んでいた場所だよ。
 このサロン、おいらが閉鎖を命じてあったのだけど。
 『タクトー会』に拉致されていた娘さんを一時保護する為に開放したの。

「お嬢ちゃん、本当に女王様だったんだね。
 まさか、王宮へ、しかも、こんなに良い部屋に連れて来られるとは思いもしなかったよ。」

 このお姉さん、ギルドの三階で最初に保護した人だね。王都へ出稼ぎにきた早々に拉致されたって人。
 さっきと変わらない気風の良い口調で話しかけて来たよ。
 おいらが、女王だと分かっても物怖じしないんだね。
 もっとも、おいらと同じで王侯貴族に対する話し方を知らないだけかも。

「先ほどは、あの生き地獄から救い出して頂き有り難うございました。
 また、私如き下々の者が、このようなおもてなしを頂き感謝致します。」

 次に話し掛けてきた娘さんは、深々と頭をたれて感謝の気持ちを伝えて来たよ。
 こっちの娘さんは、王侯貴族に対する話し振りを躾けられているみたい。

「ああ、そんなに畏まらなくても良いよ。
 おいら、生まれてすぐにヒーナルの謀反があって。
 今まで市井の民として暮らして来たから、堅苦しいのは苦手なんだ。
 取り敢えず、みんなにこれを飲んで欲しいの。」

 おいらは話し掛けて来た二人に、カップに注いだ水を差し出したの。
 
「これは、何ですかい? タダの水に見えますが?」

「これは、『妖精の泉』の水なんだ。
 これって万病に効くんだよ。
 どんな病気やケガもたちどころに治っちゃう。
 以前も、ギルドに拉致されたお姉さんを救出したことがあるけど。
 冒険者ギルドに拉致されて乱暴されていたお姉さんって。
 たいてい病気をうつされてたんだ。
 だから、これを飲んでおいて。」

 おいらが差し出したカップの中身を説明すると。

「そりゃ、助かる。
 あんな連中に慰み者にされて、変な土産をもらった日には。
 恥ずかしくて医者にもかかれないからな。
 有り難くもらっとくよ。」

 気風の良いお姉さんは、そう言うと一気に水を飲みほしたんだ。

「おっ、何か、下っ腹のもやもやした感じが消えて来たぞ。
 やっぱり、わたしも貰っちまってたか。
 ちくしょう、ホント、あいつら、赦せねえぜ。」

 どうやら、病気のシグナルが出ていたみたいだね。

「重ね重ね、感謝致します。
 実は、酷い痒みに、膿みたいなものも出るしで困っていたんです。
 病気だからやめて欲しいと幾ら懇願しても。
 連中、『細かいことは気にするな』と止めてくれなくて…。
 もう日の当たる場所は歩けないと思っていました。」

 もう一人のお姉さんははっきりと病気に罹ったことを自覚してたみたいだけど。
 クズ共は全然言うことを聞いてくれなかったんだって、そうやって病気を蔓延させるんだね。 

 最初に『妖精の泉』の水を飲んだ二人が効果抜群だったと聞くと、みんな、こぞって水をもらいに来たよ。
 全員に『妖精の泉』の水が行き渡り、それを飲み干すと、歓声が上がってた。
 やっぱり、みんな、もらっていたみたい。
 現行犯で捕まえた連中、みんな不潔でいかにも病気持ちって感じだったもんね。

「さて、みんな、病気の心配は無くなったんで、これからの話をするよ。
 ここに居る人の中で、これからの生活の糧を稼ぐアテのない人はいるかな?」

 すると、上がった手は三十六本。
 何のことは無い、拉致されていた娘さん全員が稼ぐアテの無い人だったよ。

「女王様、わたしゃ、さっきも言ったように職を探して王都へ出てきたんだ。
 女王様はご存じのことかも知れねえが。
 前のヒーナルって王が酷でえ重税を掛けやがったせいで。
 田舎はどこも不景気になっちまって、とっても食ってけないんだ。
 で、職探しをする前に監禁されちまってこのありさまだよ。」

 例によって気風の良いお姉さんがそんな返事をくれたんだ。
 それから、みんな、口々に事情を説明してくれたけど、似たり寄ったりだった。
 ヒーナルが行った悪政のせいで、地方が疲弊して王都へ出稼ぎに来る人が多いみたい。

 どうやらギルドの連中、一人で王都へ出稼ぎにきた若い娘さんを狙って拉致監禁していたみたい。
 きっと、近くに身寄りが居ない娘さんなら、拉致っても足が付かないと踏んだんだね。

「そう、みんな、今の段階では働くアテが無いんだね
 それじゃあ、おいらが仕事を紹介してあげる。」

 おいらが娘さん達に向かってそう告げると、歓声が上がってたよ。

「それは、有り難いぜ。
 正直、あんな風に慰み者にされちまったら。
 春をひさぐしか生きていく道がねえかもと思っていたんだ。」

 仕事に期待する声も聞こえたし、ギルドの幹部とか色々と必要な人材を確保しようっと。
 
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