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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第304話 周囲の納得も得られたよ

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 百聞は一見に如かずと言うけれど。
 キーン一族の変わり果てた姿を目にして、やっと暴力による恐怖政治が終ったことを理解した貴族の面々。
 みんな、安堵の表情を見せて、おいらのことを歓迎してくれたんだ。

 すると。

「殿下、我々は殿下に忠誠を尽くし。
 女王となられた暁には、誠心誠意お仕えすることを誓いますが。
 この国には、逆賊ヒーナルに与した貴族が少なからず居ります。
 また、騎士団幹部はヒーナルが将軍位にある頃からの子飼いで占められております。
 それらの者共が、素直に殿下に従うとは思えないのですが。
 如何なされる御つもりでございますか。」

 跪いた貴族の一人が尋ねてきたんだ。
 この国の騎士団、中でもヒーナルに与する騎士は高レベルの者ばかりだものね。
 キーン一族派の貴族と騎士団が結託して。
 おいらに対して反旗を翻すことになれば、国が乱れると心配しているみたいだよ。

 すると。

「うん? そう言えばキーン一族派の貴族が見当たらないようであるが。
 グラッセ子爵、そなた、キーン一族派の貴族には召集をかけなんだか?
 はなから登庁してない者はともかく、サロンでサボっとる者が居ったろうに。」

 謁見の間の中を見回して、グラッセ爺ちゃんにそんな確認をする人もいたんだ。

「ヒーナルに与する貴族というのは、こいつらのことで良いのかな。
 『将軍様を讃える会』の面々だとか言ってたけど。
 みんな、おいらに恭順するって言ってたよ。」

 おいらの言葉に合わせるように、アルトが『将軍様を讃える会』の連中をその場に放り出したの。
 何もない空間から、百人近い人間が転がり出て来たことにその場にいた誰もが呆気に取られてたよ。

「ほら、さっき、マロンに向かって誓ったことをもう一度言ってみなさい。
 よもや忘れたとは言わないでしょうね。」

 床に転がる貴族達に向かって、アルトが冷淡な口調で指示すると。

「ひっ! 言います、言いますから命だけは勘弁を!」

 アルトの言葉に気圧された貴族が、必死になっておいらに恭順すると言ってたよ。
 おいらの下す沙汰に一切異議は唱えないし、おいらの治世を邪魔だてする事は無いって。

「マロン殿下、お見事です。
 ここに居る者達は、キーン一族派の貴族でも有力者です。
 こ奴らさえ抑えてしまえば、残るは小者ばかり。
 如何様にでもなります。」

 まあ、仕事をサボって飲酒することをヒーナルに許されてたんだから、品性はともかく有力貴族なんだろうね。

「後、みんなが心配しているのは騎士団かな。
 騎士団もさっき、服従させて来たから心配ないよ。
 沙汰は各騎士の罪状をよく吟味して下すつもりだけど。
 取り敢えず、悪さばっかりしてたこいつらは全員死罪ね。」

 おいらはアルトに頼んで近衛騎士団の連中をその場に出してもらったの。
 手足を砕かれて起き上がる事も出来ず、その場に転がる近衛騎士。
 捕らえた時に泥酔してて、おいらとオランに逆らわなかった連中はアルトが縄で縛りあげてくれたよ。

「これは、近衛騎士ではないですか。団長と副団長までいる…。
 これも、マロン殿下とそちらの方のお二人でなされたのですか?
 本当にお強いのですね。」

「近衛騎士を全員死罪にするとのことですが。
 逆賊ヒーナルに与して、謀反を企てた者は全て死罪になさると仰せですか。」

 おいらとオランの力に恐れをなした様子の貴族達。
 貴族達の中には、近衛騎士を全員死罪にすると耳にして尋ねてくる人もいたよ。
 おいらが両親をはじめ一族の仇討ちをするつもりなのかと。
 おいらが、仇討ちのために大量虐殺をするのではと危惧したみたい。
 そんなことになったら、キーン一族派以上の恐怖政治だって。

「おいら、ヒーナルの起こした簒奪騒動の罪を問うつもりは無いんだ。
 ヒーナルと近衛騎士の最大の罪は『魔王』を倒したこと。
 そして、意図的にスタンピードを引き起こし多くの民の命を奪ったこと。
 加えて、近衛騎士に関しては市井の女性を拉致監禁して暴行してたこと。
 おいら、民に対して理不尽な暴力を振るう者は絶対に赦さないから。
 王に即位した暁には、それだけは徹底するからみんなも心しておいてね。」

 おいらはこの言葉に続けて、他の騎士団も既に服従させている事も伝えたよ。
 そして、謀反に参加していても一律に死罪にするつもりは無く。
 罪状を詳らかにした上で出来る限り死罪は避けるつもりだと返答したの。
 出来る限り騎士達には生きて罪を償ってもらうつもりだし、やらせることも考えてあると伝えたよ。
 もっとも、辺境で捕らえた騎士約千人は村人を虐殺した罪で全員死罪だとは言ったら、みんな引いてたよ。

「既に騎士団を掌握済みとは感服いたしました。
 また、余りにも苛酷な処分は要らぬ軋轢を生みます故。
 殿下の寛大な御心に、謀反人共も感謝する事でしょう。
 辺境にいた騎士千人については…。
 まあ、仕方ございませんな、大分民の恨みをかっているようですし。
 ここは人身御供になってもらいましょうか。」

 千人を死罪にすると言ったら、引いている人が多かったけど。
 さっき、グラッセ爺ちゃんと話をしていた年配の貴族がそんなことを言って、おいらに賛同してくれたよ。
 相当立場が上の人のようで、その貴族の言葉で周りの貴族達も納得したみたいだった。

      **********

 既にキーン一族派の貴族を恭順させ、騎士団を服従させ終えていたことがわかると。
 おいらが国王になる事への懸念は払拭された様子で、貴族達の表情は明るくなったよ。

「ところで、殿下。
 殿下の御隣にいらっしゃる方は何方様なのでしょうか。
 最初から殿下の協力されていた様子ですし。
 とてもお強い方のようですが。」

 これから紹介しようと思っていたんだけど、先に尋ねてきた貴族がいたよ。

「おいらの隣にいるのは、オランジュ・ド・トマリ。
 シタニアール国の第四王子で、おいらの将来の旦那様。
 今まで一緒に暮らしていたんだ。
 これから、おいらと一緒にこの国を治めていくからよろしくね。」

「何と、シタニアール国の殿下でございましたか。
 それは大変心強い。
 逆賊ヒーナルの謀反により、ご存命の王族はマロン殿下お一人。
 本来後ろ盾となるグラッセ侯爵家も、王族と運命を共にしてしまいました。
 マロン殿下が王位に就かれても、心細い思いをするのではと心配しておりました。
 大国シタニアール国の後ろ盾が得られるのであれば、マロン様の治世は安泰ですな。」

 オランがシタニアール国の王子だと言うことを喜ぶ声が聞こえたよ。
 幼少のおいらに後ろ盾となる存在が無いことが不安だったみたい。

 グラッセ爺ちゃんから簡単には聞いていたけど。
 母ちゃんの実家グラッセ侯爵家は、王家の信頼厚く、宮廷の中枢にいたそうなんだ。
 他の貴族への影響力がとても大きかったんで、反乱を危惧したヒーナルに根絶やしにされちゃったみたい。
 ヒーナルに反旗を翻すとしたら、真っ先に蜂起しそうなのがグラッセ侯爵家だと思われたそうなの。 

 一方で、分家であるグラッセ爺ちゃんの子爵家だけど。
 本家の陰で余り影響力を持たず、ひたすら実務をこなしていたんで難を逃れたらしいの。
 家族を人質にとって、体よく酷使するためにね。

 何でシタニアール国の王子がおいらと一緒に暮らしていたのかを尋ねて来る人はいなかったよ。
 疑問を感じた人はいただろうけど、周囲が歓迎ムードなので、この場で尋ねるのは遠慮したんだろうね。

 ここまでの説明で、この場に集められた貴族達はおいらが王位に就くことに納得してくれたんだ。
 
 貴族達から話を聞くと、この国では王が一番偉いため、誰かの承認が必要だってことは無いみたいなの。
 先王が崩御した時に、自分が次の王に即位すると宣言すれば足りるみたい。
 色々な式典なんかは後付けで構わないそうなんだ。

 だから、おいらはその場で国王即位を宣言したの。
 王にならないと、謀反人セーヒ達を正式に裁く権限がないから。
 セーヒを『魔王』を生み出す糧とする処罰を言い渡さないとね。

 取り急ぎ新しい『魔王』を作らないと、辺境でまた疫病が流行っちゃうからね。
 悠長なことはしていられないよ。
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