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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第301話 それも冒険者と変わらなかったよ…

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 トシゾー団長に案内されて訪れた近衛騎士団の駐屯所はまるで冒険者ギルドのようだった。
 近衛騎士なんて、みんな、ならず者のようで話を聞いてたら目眩がして来たよ。
 オランも「何を言って無駄」だと匙を投げるし…。

 すると、アルトが。

「ちょうど良いわ、ここに居るおバカさん達に見せしめになってもらいましょう。」

 そんな呟きと共に、さっきサロンで捕えた貴族達をホールに出したの。
 ご丁寧に、おいら達と対峙している近衛騎士団の側にね。

 貴族達は、いきなりアルトの『積載庫』に監禁されてここまで運ばれてきたものだから。
 外に出された時は、目の前の景色が急に変わって相当混乱してる様子だったの。
 やがて目の前にいる近衛騎士団の面々に気付くと。

「おお、ここは近衛騎士団の駐屯所か。
 丁度良い、騎士達よ、力を貸してはもらえんか。
 大変なことになった。
 陛下が、前王の孫率いる反逆者共に弑逆されたのだ。
 王太子殿下も捕らえられ、セーオン殿下に至っては廃人にされてしまった。
 反逆者共に鉄槌を下してやってくれ。」

 一人の貴族が、騎士達に向かって懇願したんだ。
 だから、ヒーナルを殺したのはセーヒで、おいら達じゃないって。

「おお、これは、『将軍様を讃える会』の皆さんではないですか。
 我々も、将軍様の変わり果てたお姿を拝見しました。
 このような、暴虐を行った者を断じて赦しておけません。
 必ずや、愚かな反逆者の首を刎ねて見せましょうぞ。」

「何? 『将軍様を讃える会』って?」

 おいら、思わず尋ねちゃったよ。

「ああ、それは、謀反人ヒーナルの腰巾着ばかりを集めた派閥ですよ。
 ヒーナルは自己顕示欲が強くて、自分を崇める者を集めては悦に入ってたのです。
 往々にして実の無い小者は、実態より自分を大きく見せたいという願望を持っているようです。」

 トシゾー団長の説明では、ヒーナルをヨイしょして、甘い汁を吸おうという集団みたい。

 それはともかく、請われた騎士の一人がそんな返答をすると。

「よーし、てめら、将軍様の仇討ちだ、あのガキ共を仕留めるぞ。
 手ぇ抜くんじゃねえぞ、気合い入れてかかれよ!」

「「「「おう!」」」

 呼応して周りを鼓舞する騎士がいて、周囲の騎士も気勢を上げていたよ。
 そんで、おいら達に向かって襲い掛かって来たの。

「トシゾーのおっちゃん、ここはおいらとオランの二人で相手するから。
 手出しはしないでね。」

「殿下、本当によろしいのですか?
 あいつら百人近いですが…。」

「心配せずとも、マロンは強いのじゃ。
 それに、私も助太刀するので、心配いらないのじゃ。」

 おいらの言葉に、トシゾー団長は不安そうな表情だったけど。
 オランは心配いらないと告げて、鞘に収まったままの剣を携えておいらの隣に並んだの。

「まあ、そうおっしゃるのであれば、控えておりますが。
 御身に危険が迫るようであれば、勝手に助太刀させて頂きますよ。」

 オランの言葉に納得した訳じゃないみたいだけど、トシゾー団長は後ろに下がってくれたよ。

「何だこのガキ、たった二人で俺達を相手しようってのか。
 舐めるのも大概にしろよ!
 護衛の騎士を下がらせたことを後悔させてやるぜ!」

 騎士の間からそんな言葉が漏れたかと思うと、その場にいた騎士達が一斉に襲い掛かって来たよ。
 
「多勢に無勢とは聞くが、…。
 幾ら大人数でも一人の人間に斬り掛かれるのは精々三人が良いところじゃのう。
 一対三くらいであれば、大したことは無いのじゃ。」

 オランの言葉通り、百人近い人数で二人を殺そうと思っても、剣を振り回して攻撃できるのは一度に数人だったよ。
 そりゃそうだ、密集状態で多数が剣を振り回せば、相打ちを頻発させちゃうもんね。

 しかも、近衛騎士団の連中は、トシゾー団長達と違って全然鍛錬をしてない様子だったの。
 誰もが皆、贅肉が付いた小太りで動きに鋭さが無くて、高いレベルに任せて剣を振り回しているだけみたい。
 レベルが高いおかげで、剣を振り下ろす速度は速いけど、ただそれだけって感じ。
 力任せに大振りの剣だから、おいらも、オランも、容易く躱せるよ。
 
 襲い掛かってくる騎士を、鞘に収まったままの剣で、次々と打倒していくオラン。
 おいらも、斬り掛かって来る騎士達を躱しては、蹴りやデコピンで足や腕の骨を砕いていったよ。

     **********

「し、信じられない…。
 我が国の最精鋭と呼ばれている近衛騎士団が鎧袖一触にされるなんて。
 しかも、相手はたった二人だぞ、それも年端のいかないガキだと言うのに。」

 倒れ伏す近衛騎士達を目にして呆然とした表情の貴族達。
 しばらく相手をしていたら、おいら達の目の前には死屍累々と騎士が転がってたよ。
 ホント、口ほどにも無い…。

「いやあ、マロン殿下、お見事です。
 お二人とも、本当にお強いのですね。
 正直、予想外に強いものですから驚きました。」

 トシゾー団長もおいら達を見直してくれたみたいだったの。

「さて、あんた達、選択の時間よ。
 マロンに恭順して、沙汰が下されるのを大人しく待つか。
 マロンが王位に就くことに反対して、徹底抗戦するか。
 徹底抗戦すると言うのであれば。
 その命は無いモノと思って、かかって来なさい。」

 呆然としている『将軍様を讃える会』の面々に、アルトが冷淡に言い放ったの。

「悪かった、もう逆らわないから、命だけは勘弁してくれ。
 マロン殿下が、王位に就くことには一切異議は唱えない。
 金輪際、マロン殿下の施政の邪魔はしないと誓う。
 だから、命だけは…。」

 一人の貴族が土下座して頭を地面に着けながら命乞いをすると。
 その場にいた『将軍様を讃える会』の貴族全員がそれに倣ったの。

「そう、その言葉忘れるんじゃないわよ。
 妖精の前で口にした誓約に時効は無いからね。
 誓約に背いた時は、その命が無いモノと思いなさい。」

 平伏する姿を見て満足気に笑ったアルトは、ダメ押しにそんな釘を刺していたよ。

 でもこの時、おいらは一つ気になっていることがあったんだ。
 目の前に倒れている騎士なんだけど、良く数えたら七十人くらいしかいないの。
 近衛騎士は全部で百人いて、最初にヒーナルの護衛に就いていた四人を倒したから残り九十六人。
 あと、三十人近くは何処にいるんだろう?
 全員サボりってことは無いだろうから、多分、アレだね。

「マロン、難しい顔をしているけど、何か気掛かりでもあるのかしら。」

「うん、ちょっと、この騎士団の雰囲気が冒険者ギルドに似ているものだからね…。」

 アルトからの問い掛けに答えたおいらは、倒れている騎士の中から比較的軽症の者を引き摺り出したの。
 そして、無事だった手の甲を思いっ切り、踵で踏み抜いたよ。
 手の甲の骨を粉砕されて苦悶の声を上げる騎士に、おいらは尋ねたよ。

「この建物に、何処かから拉致してきた女の人を監禁している部屋があるでしょう?
 その場所を教えてちょうだい。
 シラを切るようなら、もう片方の手の骨も砕くよ。」

「話す、正直に話すから、もう勘弁してくれ。
 ここには、街で拉致って来た娘が二十人ほどいる。
 だが、監禁部屋に娘がいることはほとんど無い。
 ここは駐屯所だから、俺達には自分の部屋があるんで。
 気に入った娘を監禁部屋から部屋に連れて行って楽しむんだ。」

 あっ、やっぱり。
 こいつら、冒険者みたいな雰囲気を漂わせてるから、絶対同じことをしていると思ったんだ。

 騎士百人に対して娘さんが二十人くらいなんで、常に順番待ちなんだって。
 監禁部屋に戻されると、すぐ順番待ちの騎士に連れてかれちゃうんで。
 拉致された娘さんが監禁部屋にいることはまずないらしいの。

「マロン、冴えているわね。
 トシゾーさん、今の言葉聞いたわね。
 悪いけどあなた達にも協力してもらうわ。
 この二人の教育上良くないモノは見せられないからね。
 この建物をしらみ潰しにして、監禁されてる娘を救い出して来て。」

 マロンはトシゾー団長に協力を求めると。
 それと同時に、シフォン姉ちゃんを積載庫から出して、監禁されてる女の人の世話を指示してたよ。

「承知しました。我々も少しは役立ちませんとな。
 殿下に全てお任せでは、立つ瀬がありませんよ。」

 トシゾー団長は返事をするとすぐさま、拉致被害者の捜索に行ったよ。
 もちろん、シフォン姉ちゃんも一緒にね。 
 
 そして、しばらくして…。

「ここの連中は騎士の風上にも置けない奴らばかりですな。
 まさか、市井の娘を無理やり拉致しているなんて思いもしませんでした。
 更に呆れたことには、ここの騎士共は朝から晩まで仕事もせずにサカっていたようです。」

 おいら達の前には、贅肉が目立つキモい裸を晒した二十四人の騎士が転がっていたよ。
 トシゾー団長達に手酷くやられた様子で、あちこちに青痣が出来て気を失ってた。

 そして、部屋の隅にはちょうど二十人の若い娘さんが、シフォン姉ちゃんに付き添われてた。
 娘さん達は、みんな、げっそりとやつれていて、泣いている人もいたよ。

「アルト様、こいつら、とんでもないです。
 一人の娘さんに、一度に複数の騎士を相手させてたんですよ。
 流石の私もアレには引いちゃいました。
 こんな鬼畜な連中、生かしておく価値なんて無いですよ。」

 珍しくシフォン姉ちゃんが激おこで、近くに転がる三人の騎士を蹴とばしながらプンプンしてたよ。

「マロン、シフォンがあんなこと言ってるけど。
 どうする? この場でっちゃう?」

「うん? こいつら?
 もちろん最終的には死罪だね。
 『生命の欠片』を回収したいから。
 でも、すぐに死罪にはしないよ。
 おいら、そんなに甘くないもの。
 先ずは、いつもと同じ罰を与える方が良いと思う。
 その前に、拉致被害者のみんなに憂さ晴らししてもらおうよ。」

 『いつもと同じ』ってのは、晒し者にして街の人に制裁を加えてもらうの。
 もちろん、お家取り潰しの上、手足を砕いて、街の人に対して仕返しできないようにしてね。
 今まで愚民なんて呼んで見下していた街の人から、殴る蹴るの制裁を受けるんだから屈辱だろうね。 

「マロンちゃん、それ良いと思う。
 みんな、こいつらで目一杯憂さを晴らしましょう。
 こいつらはすぐに死罪になるから、仕返しを受ける心配は無いよ。」

 おいらの言葉にシフォン姉ちゃんは賛同してくれて、監禁されてた娘さん達を扇動してたよ。 
 
 とは言え、相手は貴族だし、騎士だもんね。最初はみんな躊躇してたんだけど。

「このキモデブ! 散々好き放題しやがって!
 テメエみたいなキモいデブの子を孕んだらどうしてくれるんだい!
 だいたい、テメエみてえな子孫を残す価値がないキモい生き物が。
 こんな小汚ねえモノをぶら下げてるんじゃねぇよ!」

 一人の娘さんが罵声を浴びせながらとある騎士の股間を思いっ切り蹴りあげたんだ。
 それを切っ掛けに、他の娘さん達も口々に悪態を付きながら騎士達の股間を蹴り上げて行ったよ。
 不思議なことに攻撃対象は股間ばっかりだったの、何で顔とかを攻撃しないかな。

「すみません、私、そっちにいる奴に、もっと酷いことをされたんです。
 そっちの奴にも、仕返しして良いですか。」

 さっきの話では、順番待ちで娘さん達に酷いことをしてたみたいだから、そんなこともあるかもね。
 おいらが頷くと、何人かの娘さん達が最初に倒した七十人の方へ寄って来て。
 ターゲットを見つけると、殴る蹴るの暴行を加え始めたよ。

 もちろん、気が済むまでやらせてあげるよ。
 
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