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第十二章 北へ行こう! 北へ!

第286話 おいらより先に暴れ始めたよ…

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 おいらが遥々ここまでやって来た訳を知らされた国王ヒーナル。

「貴様、耳長族を捕えようとしたことへのお仕置きをしに来ただと?
 何故、国王である儂が、そんな些細なことで責められないとならぬのだ。
 耳長族と言えば、見目麗しく、永遠にも近い若さを持つというではないか。
 慰み者にするために手に入れたいと、誰しもが思うのは当たり前であろう。
 実際、古来より耳長族は王侯貴族が囲い者にしてきたのだ。
 この国の王であるこの儂がそれを責められるいわれは無いぞ。」

 ヒーナルは、耳長族を捕まえることを咎められる筋合いは無いという態度だったの。
 まるで、耳長族を家畜のように言って、思い上がりも甚だしいよ。
 耳長族の姉ちゃんを諦めるつもりは更々ないみたい、やっぱり痛い目を見ないとダメだね。

「百年以上前、王侯貴族がそんな態度だったから。
 欲に目が眩んだ冒険者が耳長族狩りなんかしたんだよね。
 その結果、耳長族は数を減らし、…。
 不便な山里に隠れ住まないといけなくなったんだ。
 おいら、可愛い妹に辛い思いはさせたくないからね。
 諸悪の根源を叩こうと思ってやって来たんだ。」

「ほお、ガキの癖に勇ましいこって。
 しかし、所詮は思慮の足りないわっぱだな。
 下っ端の騎士を十人やそこら返り討ちにしたくらいで調子に乗るたぁ。
 まあ良い、貴様の方からのこのこ出て来たのは好都合だ。 
 ここで、貴様の息の根を止めておけば後顧の憂いが無くなるってものだ。」

 ヒーナルはそんなセリフを吐きながら、机の下から剝き身の剣を取り出したよ。
 剝き身の剣を何時でも身近に忍ばせておくって、どんだけ用心深いのこのオッチャン。
 自分が嫌われ者で、何時でも命を狙われているという自覚でもあるのかな。

じじい、ちょっと待った!」

 その時、オランに打ちのめされて床に蹲っていた王子セーオンがヒーナルを制止したの。

「うん? セーオンよ、どうかしたのか?」

「その娘、前の王家の生き残りで間違いないのか?」

「ふむ、間違いないのかと問われれば確実とは言えぬが。
 マロンと言う名と栗毛色の髪の毛。
 何よりも、絶世の美姫と言われたグラッセの娘そっくりだ。
 まず間違いないと思うがな。」

「そうか、じゃあ、そいつを殺さねえで捕えてくれよ。
 レベル五十を超えてる爺なら容易いことだろう。
 俺、そいつぐらいの歳のメスガキが大好物なんだ。
 中々の上物だし、げえそそるぜ。
 五年も慰み者にしてれば、そのうち俺の子を孕むだろう。
 前の王家の血を取り込めば、うちの正当性に誰もケチをつけられなくなる。」

 セーオンがそんな鳥肌が立つような事を言いやがった。
 その時、細い目を更に細めたセーオンは、おいらに向けてスケベそうな笑いを浮かべてたよ。
 『キモブタ』に加えて、九歳児に欲情するロリコンなんて、キモい属性てんこ盛りだね。

 でも…。

「おお、さすが、我が孫だ。
 セーオンよ、冴えておるではないか。
 このガキに子種を仕込めば、我が家と前王家は一つの血筋になる。
 もう、簒奪者だの、偽王だのと、世迷言を申す輩もいなくなるであろう。」

 やっぱり血は争えないね、ヒーナルはセーオンの提案に全肯定だったよ。
 おいらを捕えてセーオンの子を産ませる気になったみたい。

「ヤレヤレ、そなた、何処まで身勝手なのじゃ。
 マロンにも選ぶ権利くらいあると思うのじゃ。
 一度鏡をよく見ると良いのじゃ。
 女子にモテたいと思うのなら…。
 その不細工な顔は手の施しようがないとしても。
 少しは体を鍛えて痩せれば良いのじゃ。
 デブで、不細工で、脂性の汗かきなど、モテる訳が無いのじゃ。」

 身勝手な言葉に呆れたオランが、言葉の刃でセーオンに斬り付けたよ。
 でも、あんまり持って生まれた身体的な欠点をあげつらうのは良くないと思うよ。
 本人も、好き好んで不細工に生まれた訳じゃないんだから…。

「このメスガキ、言わせておけば調子こきやがって。
 さっきはよくも、この国の王子たる俺様に暴力を振るいやがったな。
 てめえも俺好みの幼女だから、慰み者にしてやろうと思ったが…。
 そこまでコケにされたら生かしちゃおけねえな。」

 さっきまでオランの一撃を食らって蹲ってたのに、もう回復したようだね。
 再び剣を手にすると、オランに襲い掛かったよ。
 セーオン、正真正銘のバカじゃないか、さっき打ちのめされたのを忘れたのかな。
 見た目はか弱い女の子みたいなオランが、自分より強いとは露ほども思っていないみたい。
 さっきやられたのは油断していたとでも言うんだろうか…。

「そなた、少しは剣の鍛錬をしたら良いと思うのじゃ。
 腐っているようだが、騎士の家系なのじゃろ。
 そんな、ハエが止まるような剣筋ではウサギも倒せんのじゃ。」

 自分に向けて振り下ろされた剣を鞘に納めたままの剣で軽くいないしたオラン。
 そのまま、一歩横に退くとセーオンの腕をめがけて剣を振り下ろしたの。

 ボキッと言う腕の骨がへし折られる音と共に、耳障りなセーオンの悲鳴が部屋の中に轟いたよ。

「痛でえよー、てめえ、無礼だろ、王子の俺に歯向かうなんて。
 俺様は、今まで、親にも殴られた事は無いんだぞ。
 愚民は大人しく、俺様に殺られておきゃいいんだよ。」

 涙をボロボロと流しながら、そんな泣き言を口にするセーオン。

「剣を持つ人に斬り掛かると言うことは、自分も斬られるかも知れんのじゃぞ。
 自分が斬られる覚悟が無ければ、他人に向かって剣を振りかざしてはダメなのじゃ。
 まあ、そなたには説教をせねばならんと思う故、腕の一本で勘弁してやるのじゃ。
 さっきも言ったであろう、国を支えているのは民であるぞ。
 王など別に居なくても国は成り立つが、民が居なければ国は成り立たないのじゃ。
 国の礎である民を、愚民扱いするとは為政者になる資格は無いのじゃ。
 それと言っておくが、私は平民ではないのじゃ。
 私は、シタニアール国、第四王子オランジュ・ド・トマリなのじゃ。」

 再びセーオンを諭すと同時に、オランは身分を明かしたんだ。

「オラン、こんなところで身分を明かしちゃって良いの?
 一国の王子が、他国の王宮で暴れたら問題になるよ。」

「かまわぬのじゃ。
 この国の騎士共は我が父王に向かって暴言を吐いたのじゃ。
 それも、一度ならず、二度もなのじゃ。
 王に向けての無礼に比べれば、王孫に対する無礼など大したこと無いのじゃ。
 それに、この愚か者共は、何度断っても耳長族狩りに協力せいと言ってくるのじゃ。
 もう、煩わしいのゴメンなのじゃ。
 嫌な臭いは元から断たないとダメなのじゃ。」

 ここで身分を明かしたら拙いと思ったんだけど、オランは開き直っちゃったよ。
 この国の王族には色々と腹に据えかねていたんだね。

     **********

「なんだ、このガキ、男だと!」

 えっ、驚くところ、そこなの?
 骨折の痛みで顔を歪ませながらも、セーオンは驚愕の声を上げたの。
 でも、普通、ツッコミを入れるのは、他国の王族が王宮で暴れている事の方だと思うよ。  

「そっちは、シタニアール国の王子だと。
 貴様、自分が何をしているか分かっているのか。
 一国の王子が他国の王宮に侵入して、王族に危害を加えるとは。
 戦を仕掛けていると看做されても文句は言えねえぞ。
 我が国と戦火を交える覚悟はあるのだろうな。」

 王太子セーヒの方は、まともな反応を示したよ。
 同じしょうもない人間でも、セーヒの方が多少は常識的な発想が出来るみたい。
 ここはセーヒの言い分がもっともだよね、他国の王宮で王族に暴行を加えたら普通戦争になるよ。

「戦じゃと?
 アホらしい、戦など愚か者のする事じゃ。
 戦になれば軍費は掛かるし、民を徴兵する必要が出るやも知れんのじゃ。
 民に負担を強いるだけで、一つも良いことは無いのじゃ。
 今回は戦になることなど無いと思うゆえ、こうして素性を明かしたのじゃ。
 何故なら、…。
 この国の王家は、今日これから、マロンによって滅ぼされるのじゃから。」

 オランたら、おいらが王家を滅ぼすと勝手に決めつけて…。
 ここでヒーナルとセーヒが土下座して謝って、改心すると誓えば赦してあげるかも知れないのに。 
 まあ、そんなことは十中八九無いだろうけど。
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