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第十二章 北へ行こう! 北へ!
第283話 うん、紛れもなく親子だよ…
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さて、セーナン兄ちゃんをハテノ男爵領へ連れて帰ることになった翌日。
「じゃあ、私達は王宮へ行ってくるわ。
あんたはこの屋敷を出て行けるように荷造りでもしていなさい。
お母さんとか、一緒に連れて行くのならちゃんと説明しておくのよ。」
アルトはセーナン兄ちゃんにそんな指示をすると、おいら達全員を『積載庫』に乗せてたんだ。
目指すは王宮だね。
アルトの積載庫に乗って空へ舞い上がると、セーナン兄ちゃんの屋敷は街外れにある事が分かったよ。
父親のセーヒが人目を忍んで通うために、あまり人が住んでいない一画の屋敷を買い与えたんだね。
どうりで、昨日歩いていてすれ違う人が少ないと思ったよ。
ここ王都ハングは、北側を海に面した港町で、南に向かって緩やかな斜面を登る形で町が広がってるよ。
斜面を登って南へ行くほどお金持ちが住む区画になるようで、広いお屋敷が増えて行くの。
王宮は王都の南の端、ハングの町を見下ろす小高い丘の上にあったよ。
王宮へ着いたアルトは王宮の外壁に沿って窓から中を覗くように飛び始めたの。
その日は天気が良く、心地良い風がそよいでいたこともあってほとんどの窓が開け放たれていたよ。
「ふむ、王都の民は心なしか皆沈んでいる様子で、街に活気が感じられなかったが…。
この王宮にいる貴族達は、皆明るく、楽しそうにしておるのじゃ。」
「でも、何で、王宮にいる貴族達、仕事もしないで昼間っから飲んで騒いでいるの?
王宮なんだから、色々と仕事があるでしょうが。」
オランの言葉通り、王宮の中は活気に満ちていたの。
貴族と思われる華美な服装の人達の表情は皆明るく、楽しそうにしていたよ。
重税に苦しみ、消沈している町の人々とは対照的だったの。
ただ、パーティという訳でも無さそうなのに、皆、杯を手にしてほろ酔い気分でおしゃべりに興じているの。
今までもこういう連中を見たことあるけど、こんなに沢山の貴族が昼間から酔っ払っているのは初めて見たよ。
「ここはサロンじゃな。
マロンにも分かり易く言えば、談話室といったモノであろうか。
仲間内で集まって話に興じる空間であるが…。
業務時間中に、こんなに仕事をしてない者がいることも。
昼間から飲んだくれている者がいることも驚きであるな。」
オランの国では王宮のサロンが使われるのは、昼休みとか業後が多いそうなんだ。
お昼を取りながら会話を楽しんだり、仕事を終えてちょっと一杯といった感じで集まったりとか。
ただ、オランの話ではここに集まっている貴族達が皆仕事をサボっているとは限らないそうなんだ。
王宮の仕事に就いていない地方貴族が領地から出て来て、サロンで情報交換するする事はままあるそうだよ。
ただ、サロンで賑やかにすると王宮で働く人の迷惑にななるからね。
業務時間中の昼間からたくさんで集まったり、お酒に興じるのは控えるのが常識らしいよ。
オランに言わせれば、王宮勤めの貴族が仕事をサボって飲んだくれるのは論外として。
地方から出て来てこんな所で飲んで騒ぐくらいなら、とっとと領地へ戻って領地経営に専念した方が良いって。
まあ、贅沢な暮らしがしたいからと、質素倹約を奨励していた王族に謀反を起こした今の国王。
それに、その新王を支持した貴族達だろうからね、ここで飲んだくれている連中は。
この体たらくも、然も有りなんだよ。
この国、滅んでしまった方が民のためだよ、ホント。
**********
そんな感じで、窓の外から室内をチェックしながら進んでいくと。
「おい、まだ、辺境に送った騎士団とは連絡が取れんのか?
いったいどうなっておるのだ、定時連絡が途絶えてもう十日を過ぎておるのだぞ。」
そんな声が部屋の中から聞こえてきたんだ。
アルトはその言葉に引かれたようで、部屋の中に入って行ったの。
窓の方を注目している人は誰も無く、アルトは気付かれること無く部屋に入れたよ。
そして、部屋の中央、天井付近に静止して、おいらの部屋に入ってきたんだ。
「どうやら、あそこで偉そうにふんぞり返っているのが国王ヒーナルみたいね。
ここで少し、状況を教えてもらうことにしましょう。」
アルトは、ヒーナル達が辺境での出来事についてどのくらい把握しているかを探るつもりみたい。
積載庫の窓から、部屋の様子を眺めると。
部屋の中央に置かれた長方形の大きなテーブル、その短辺の中央に一際偉そうにふんぞり返っているオッチャンがいたの。
小柄で小太りの五十過ぎのオッチャンで、セーナン兄ちゃんに良く似ていたよ。
長髪が標準的な近隣各国の王侯貴族の中あっては珍しく刈り上げの短髪で、細い目と二重アゴがセーナン兄ちゃんそっくりだった。
年回りと身体的特徴から言って、アルトの言う通りこのオッチャンが国王ヒーナルなんだろうね。
その横には三十代半ば過ぎのオッチャンが着座していて、こいつもセーナン兄ちゃんによく似てた。
多分、セーナン兄ちゃんの父親、王太子セーヒだね。
セーナン兄ちゃんから聞いていた通り、二人共、脂性に加え酷い汗かきの様子で。
額はテカテカ光ってるし、ちょくちょく額の汗を手拭いで拭き取ってたよ。
あれじゃ、手拭いは手放せないね。
この二人の後ろには護衛と思しき騎士が四人立っていて、他の人達はテーブルの長辺の中央より遠い位置に座ってたよ。
二人は、まるで暗殺を警戒するかのように、他の人を遠ざけて座っているの。
「偉大なる我が将軍様、誠に申し訳ございません。
現在探索の者を遣わせておりますが、辺境に派遣した騎士団の消息はようとして掴めません。
騎士達が『ウサギに乗った二人組の幼女』に打ち負かされ尻尾を巻いて逃げ出した。
帰って来た者の報告では、そんな愚にもつかない噂が辺境では流れているようです。」
さっきのヒーナルの下問に対し、そのテーブルの末席の方にいた役人らしき人が恐る恐る返答したの。
どうやら、自分の答えがヒーナルのご機嫌を損ねるのを恐れているみたいだった。
「貴様、先日も同じことを申したではないか。
その後、何も進展は無いと言うのか?」
「いえ、先日の報告からこちら、定時連絡を絶つ駐屯地が続々と増えているのであります。
連絡が途絶えた全ての駐屯地に早馬を送って確認する作業に手間を取られまして。
その後の捜索に手が回らないのです。
そして、遣わした早馬の持ち帰った情報が、…。
ことごとく、騎士団の謎の失踪と『ウサギに乗った二人組の幼女』の噂なのです。」
「何、定時連絡が途絶える駐屯所が増えているだと。
それを何故、もっと早く報告してこないのだ。
それと、『ウサギに乗った二人組の幼女』の方の探索はどうなっておるのだ。
確か、前回報告ではその幼女は『マロン』などという忌まわしい名前を名乗ったというではないか。」
「はっ、それも、並行して探索しておりますが。
どうにも足取りが掴めないのです。
何処の町の宿屋にもそのような者が宿泊した形跡が無く…。
突如として、騎士がおる町や村に現れるらしくて足取りが追えないのです。」
「何をちんたらやっておる。
最優先でやれと命じただろうが、草の根を分けても探し出せと。
あまり、いい加減な仕事をしてると矯正施設送りにしてやるぞ。」
役人から報告を聞いていたヒーナルはどんどん不機嫌な顔つきになってきたよ。
どうやら、ヒーナルの耳には定期連絡を絶つ駐屯所が増えているとの報告は上がっていなかった様子だね。
答える方の役人も、ビクついちゃってどんどん声が小さくなっていたよ。
「まあ、まあ、親父殿、そうかっかしなさんな。
一度や二度、辺境の騎士団から定時連絡が来ないのは珍しいことでもないだろうが。
親父殿だって、辺境の騎士団に配属された若い頃の話をしてたじゃないか。
辺境警備など、バカバカしくて真面目にやっちゃいられないと。
集団で駐屯地を留守にして、一番近い大きな町で酒池肉林の大騒ぎをして息抜きをしたって。
奴らだって、女っ気も無い、酒もロクに無い駐屯地に嫌気が差したんだろう。
駐屯地のある町は何処も小さな町でロクに遊ぶ場所も無いからな。
そのうち、ケロッとした顔で帰って来て、定時報告も復活する事だろうぜ。」
セーヒは定時連絡が途絶えたことをあんまり深刻な事だと思ってないみたい。
騎士団の連中が集団でサボって遊び歩いていると思ってるらしいよ。
まあ、あの騎士団のやる気の無さを見ていたら、そう思うのも頷けるけど。
「バカ言うな、俺は若い頃一度も定時連絡を欠かしたことねえぞ。
そりゃ、駐屯地を空にして、デカい町で飲む打つ買うの三拍子を堪能してたがよ。
必ず下っ端を何人か残して、『異常なし』って記しただけの定時連絡に走らせていたさ。
定期連絡はやりましたって形が大事なんだからよ。
実は無くても、欠かしちゃなんねえんだ。
それによ、その幼女が『マロン』なんて忌まわしい名前を名乗ったってのが引っ掛かる。
数年前から辺境で反乱が増えてるだろうが。
それに王族の生き残りが担ぎ出されたとなると厄介だ。」
どうやら、最初の報告で『ウサギに乗った二人組の幼女』の名前としておいらの名前がちゃんと伝わってたみたい。
それで、草の根を分けてでもおいら達を捜し出せと命じていたそうだよ。
おいら達は町や村を去る時にはラビに乗ってるけど、人目が無くなるとすぐにアルトに拾ってもらうから。
出没する場所の間の足取りが掴めないのは当たり前だし、探している方が焦るよね。
「親父、それこそ、取り越し苦労だぜ。
たった二人で、我が国の屈強な騎士達を倒して歩くなんてできる訳ねえだろ。
今、この国のあちこちで愚民共を扇動してる反乱分子が流したデマに決まっているだろう。
今報告をした役人が遣わした者が聞き込みをした奴だって。
実際には、騎士が幼女にやられる現場を見た奴なんて一人も居ねえよ。
何処で立った噂か知らねえが、面白可笑しく伝わっている噂話を聞かせたに決まってる。
そんな馬鹿な噂話に騙される使者もどうかしてるがな。
そんな報告をした者は、粛清しちまった方が良いんじゃねえか。
無能を飼っておくのは無駄だぜ。」
セーヒの方は、『ウサギに乗った二人組の幼女』の噂をまるっきりデマだと思っている様子だったよ。
この国の騎士を貶めるために、反乱分子が広めたデマだって。
でも、屈強な騎士団って、ロクに訓練もしてないくせして良く言うよ。
「じゃあ、私達は王宮へ行ってくるわ。
あんたはこの屋敷を出て行けるように荷造りでもしていなさい。
お母さんとか、一緒に連れて行くのならちゃんと説明しておくのよ。」
アルトはセーナン兄ちゃんにそんな指示をすると、おいら達全員を『積載庫』に乗せてたんだ。
目指すは王宮だね。
アルトの積載庫に乗って空へ舞い上がると、セーナン兄ちゃんの屋敷は街外れにある事が分かったよ。
父親のセーヒが人目を忍んで通うために、あまり人が住んでいない一画の屋敷を買い与えたんだね。
どうりで、昨日歩いていてすれ違う人が少ないと思ったよ。
ここ王都ハングは、北側を海に面した港町で、南に向かって緩やかな斜面を登る形で町が広がってるよ。
斜面を登って南へ行くほどお金持ちが住む区画になるようで、広いお屋敷が増えて行くの。
王宮は王都の南の端、ハングの町を見下ろす小高い丘の上にあったよ。
王宮へ着いたアルトは王宮の外壁に沿って窓から中を覗くように飛び始めたの。
その日は天気が良く、心地良い風がそよいでいたこともあってほとんどの窓が開け放たれていたよ。
「ふむ、王都の民は心なしか皆沈んでいる様子で、街に活気が感じられなかったが…。
この王宮にいる貴族達は、皆明るく、楽しそうにしておるのじゃ。」
「でも、何で、王宮にいる貴族達、仕事もしないで昼間っから飲んで騒いでいるの?
王宮なんだから、色々と仕事があるでしょうが。」
オランの言葉通り、王宮の中は活気に満ちていたの。
貴族と思われる華美な服装の人達の表情は皆明るく、楽しそうにしていたよ。
重税に苦しみ、消沈している町の人々とは対照的だったの。
ただ、パーティという訳でも無さそうなのに、皆、杯を手にしてほろ酔い気分でおしゃべりに興じているの。
今までもこういう連中を見たことあるけど、こんなに沢山の貴族が昼間から酔っ払っているのは初めて見たよ。
「ここはサロンじゃな。
マロンにも分かり易く言えば、談話室といったモノであろうか。
仲間内で集まって話に興じる空間であるが…。
業務時間中に、こんなに仕事をしてない者がいることも。
昼間から飲んだくれている者がいることも驚きであるな。」
オランの国では王宮のサロンが使われるのは、昼休みとか業後が多いそうなんだ。
お昼を取りながら会話を楽しんだり、仕事を終えてちょっと一杯といった感じで集まったりとか。
ただ、オランの話ではここに集まっている貴族達が皆仕事をサボっているとは限らないそうなんだ。
王宮の仕事に就いていない地方貴族が領地から出て来て、サロンで情報交換するする事はままあるそうだよ。
ただ、サロンで賑やかにすると王宮で働く人の迷惑にななるからね。
業務時間中の昼間からたくさんで集まったり、お酒に興じるのは控えるのが常識らしいよ。
オランに言わせれば、王宮勤めの貴族が仕事をサボって飲んだくれるのは論外として。
地方から出て来てこんな所で飲んで騒ぐくらいなら、とっとと領地へ戻って領地経営に専念した方が良いって。
まあ、贅沢な暮らしがしたいからと、質素倹約を奨励していた王族に謀反を起こした今の国王。
それに、その新王を支持した貴族達だろうからね、ここで飲んだくれている連中は。
この体たらくも、然も有りなんだよ。
この国、滅んでしまった方が民のためだよ、ホント。
**********
そんな感じで、窓の外から室内をチェックしながら進んでいくと。
「おい、まだ、辺境に送った騎士団とは連絡が取れんのか?
いったいどうなっておるのだ、定時連絡が途絶えてもう十日を過ぎておるのだぞ。」
そんな声が部屋の中から聞こえてきたんだ。
アルトはその言葉に引かれたようで、部屋の中に入って行ったの。
窓の方を注目している人は誰も無く、アルトは気付かれること無く部屋に入れたよ。
そして、部屋の中央、天井付近に静止して、おいらの部屋に入ってきたんだ。
「どうやら、あそこで偉そうにふんぞり返っているのが国王ヒーナルみたいね。
ここで少し、状況を教えてもらうことにしましょう。」
アルトは、ヒーナル達が辺境での出来事についてどのくらい把握しているかを探るつもりみたい。
積載庫の窓から、部屋の様子を眺めると。
部屋の中央に置かれた長方形の大きなテーブル、その短辺の中央に一際偉そうにふんぞり返っているオッチャンがいたの。
小柄で小太りの五十過ぎのオッチャンで、セーナン兄ちゃんに良く似ていたよ。
長髪が標準的な近隣各国の王侯貴族の中あっては珍しく刈り上げの短髪で、細い目と二重アゴがセーナン兄ちゃんそっくりだった。
年回りと身体的特徴から言って、アルトの言う通りこのオッチャンが国王ヒーナルなんだろうね。
その横には三十代半ば過ぎのオッチャンが着座していて、こいつもセーナン兄ちゃんによく似てた。
多分、セーナン兄ちゃんの父親、王太子セーヒだね。
セーナン兄ちゃんから聞いていた通り、二人共、脂性に加え酷い汗かきの様子で。
額はテカテカ光ってるし、ちょくちょく額の汗を手拭いで拭き取ってたよ。
あれじゃ、手拭いは手放せないね。
この二人の後ろには護衛と思しき騎士が四人立っていて、他の人達はテーブルの長辺の中央より遠い位置に座ってたよ。
二人は、まるで暗殺を警戒するかのように、他の人を遠ざけて座っているの。
「偉大なる我が将軍様、誠に申し訳ございません。
現在探索の者を遣わせておりますが、辺境に派遣した騎士団の消息はようとして掴めません。
騎士達が『ウサギに乗った二人組の幼女』に打ち負かされ尻尾を巻いて逃げ出した。
帰って来た者の報告では、そんな愚にもつかない噂が辺境では流れているようです。」
さっきのヒーナルの下問に対し、そのテーブルの末席の方にいた役人らしき人が恐る恐る返答したの。
どうやら、自分の答えがヒーナルのご機嫌を損ねるのを恐れているみたいだった。
「貴様、先日も同じことを申したではないか。
その後、何も進展は無いと言うのか?」
「いえ、先日の報告からこちら、定時連絡を絶つ駐屯地が続々と増えているのであります。
連絡が途絶えた全ての駐屯地に早馬を送って確認する作業に手間を取られまして。
その後の捜索に手が回らないのです。
そして、遣わした早馬の持ち帰った情報が、…。
ことごとく、騎士団の謎の失踪と『ウサギに乗った二人組の幼女』の噂なのです。」
「何、定時連絡が途絶える駐屯所が増えているだと。
それを何故、もっと早く報告してこないのだ。
それと、『ウサギに乗った二人組の幼女』の方の探索はどうなっておるのだ。
確か、前回報告ではその幼女は『マロン』などという忌まわしい名前を名乗ったというではないか。」
「はっ、それも、並行して探索しておりますが。
どうにも足取りが掴めないのです。
何処の町の宿屋にもそのような者が宿泊した形跡が無く…。
突如として、騎士がおる町や村に現れるらしくて足取りが追えないのです。」
「何をちんたらやっておる。
最優先でやれと命じただろうが、草の根を分けても探し出せと。
あまり、いい加減な仕事をしてると矯正施設送りにしてやるぞ。」
役人から報告を聞いていたヒーナルはどんどん不機嫌な顔つきになってきたよ。
どうやら、ヒーナルの耳には定期連絡を絶つ駐屯所が増えているとの報告は上がっていなかった様子だね。
答える方の役人も、ビクついちゃってどんどん声が小さくなっていたよ。
「まあ、まあ、親父殿、そうかっかしなさんな。
一度や二度、辺境の騎士団から定時連絡が来ないのは珍しいことでもないだろうが。
親父殿だって、辺境の騎士団に配属された若い頃の話をしてたじゃないか。
辺境警備など、バカバカしくて真面目にやっちゃいられないと。
集団で駐屯地を留守にして、一番近い大きな町で酒池肉林の大騒ぎをして息抜きをしたって。
奴らだって、女っ気も無い、酒もロクに無い駐屯地に嫌気が差したんだろう。
駐屯地のある町は何処も小さな町でロクに遊ぶ場所も無いからな。
そのうち、ケロッとした顔で帰って来て、定時報告も復活する事だろうぜ。」
セーヒは定時連絡が途絶えたことをあんまり深刻な事だと思ってないみたい。
騎士団の連中が集団でサボって遊び歩いていると思ってるらしいよ。
まあ、あの騎士団のやる気の無さを見ていたら、そう思うのも頷けるけど。
「バカ言うな、俺は若い頃一度も定時連絡を欠かしたことねえぞ。
そりゃ、駐屯地を空にして、デカい町で飲む打つ買うの三拍子を堪能してたがよ。
必ず下っ端を何人か残して、『異常なし』って記しただけの定時連絡に走らせていたさ。
定期連絡はやりましたって形が大事なんだからよ。
実は無くても、欠かしちゃなんねえんだ。
それによ、その幼女が『マロン』なんて忌まわしい名前を名乗ったってのが引っ掛かる。
数年前から辺境で反乱が増えてるだろうが。
それに王族の生き残りが担ぎ出されたとなると厄介だ。」
どうやら、最初の報告で『ウサギに乗った二人組の幼女』の名前としておいらの名前がちゃんと伝わってたみたい。
それで、草の根を分けてでもおいら達を捜し出せと命じていたそうだよ。
おいら達は町や村を去る時にはラビに乗ってるけど、人目が無くなるとすぐにアルトに拾ってもらうから。
出没する場所の間の足取りが掴めないのは当たり前だし、探している方が焦るよね。
「親父、それこそ、取り越し苦労だぜ。
たった二人で、我が国の屈強な騎士達を倒して歩くなんてできる訳ねえだろ。
今、この国のあちこちで愚民共を扇動してる反乱分子が流したデマに決まっているだろう。
今報告をした役人が遣わした者が聞き込みをした奴だって。
実際には、騎士が幼女にやられる現場を見た奴なんて一人も居ねえよ。
何処で立った噂か知らねえが、面白可笑しく伝わっている噂話を聞かせたに決まってる。
そんな馬鹿な噂話に騙される使者もどうかしてるがな。
そんな報告をした者は、粛清しちまった方が良いんじゃねえか。
無能を飼っておくのは無駄だぜ。」
セーヒの方は、『ウサギに乗った二人組の幼女』の噂をまるっきりデマだと思っている様子だったよ。
この国の騎士を貶めるために、反乱分子が広めたデマだって。
でも、屈強な騎士団って、ロクに訓練もしてないくせして良く言うよ。
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