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第十一章 小さな王子の冒険記

第262話 新米騎士を連れて帰って来たよ

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 騎士の採用も無事終わり辺境に戻ることになったのだけど…。
 居並ぶ三十人の新米騎士を前に、モカさんがビミョーな顔をしてたの。

「毎度同じ様な事を言っている気がするが、この娘さん達を騎士にするのですか。
 虫も殺せないような雰囲気の娘さんばかりなのですが…。」

 まあ、容姿優先で選んでいるからね、採用の時点で剣の腕前なんて全く考慮されていないし。
 今回に至っては、平民の娘さんまでいるから馬に乗れないお姉ちゃんもいるみたい。騎士なのに…。

「良いのよ。
 騎士団はハテノ男爵領の顔なんだから、見目麗しいことが大事なの。
 騎士としての仕事なんて、どうにでもなるわ。
 レベルを上げて実戦を経験すれば、すぐにでも使い物になるもの。」

 アルトは、はなから大量の『生命の欠片』を与えて促成栽培するつもりで、モカさんに答えていたよ。
 普通はそのレベルを上げるのが難しいんだけどね。
 『生命の欠片』は王族ですら貴重品なんだから…。

 モカさん、誇りとしている騎士の仕事を『どうにでもなる』と言われて苦笑いしてたよ。

 その二日後、ライム姉ちゃんの屋敷まで帰り着いたアルトは庭に全員を降ろしたの。
 そして、新たに採用した三十人の騎士が整列する前で。

「いいこと、一人ずつ私の前に出て来なさい。 
 そして、これに手を当てて、自分の体の中に取り込むようにイメージするのよ。」

 アルトは自分の前に『生命の欠片』を積み上げて告げたの。
 さっそく、新米騎士のレベル上げをするつもりだね。

「わっ、金色に輝いてキレイ!
 すみません…、妖精さん、それなんですか?」

 金色に輝く『生命の欠片』に目を奪われて、尋ねてきたのは父親に虐待されていたお姉ちゃん。
 『生命の欠片』の事は、基本、王侯貴族が秘匿しているので平民にはほとんど知られていないんだ。

「アルト様が出されてたのは、『生命の欠片』と呼ばれるものです。
 それを体に取り込むことでレベルが上がるのですよ。
 さあ、アルト様を待たせないで、早く指示に従ってください。」

 クッころさんが、問い掛けに答えると共に速やかにアルトの言葉に従うように指示していたよ。

「これが噂に聞く『生命の欠片』ですか。
 実物を目にするのは初めてです。」

 そんな声を上げたのは、貴族出身のお姉ちゃんだった。
 貴族でも『生命の欠片』を分け与えられるのは男の子だけらしいからね。
 近衛騎士団長の娘のクッころさんでさえ、『生命の欠片』を見たこと無かったもの。

「すごい…、体の奥から力が湧いて来るようですわ。
 これが、レベルが上がるということですか。」

 『生命の欠片』を取り込んだお姉ちゃんは、誰もが似たような言葉を呟いてた。
 クッころさんが以前ボヤいてたけど、貴族でも女の子はレベルゼロが普通みたいだからね。
 女の子のレベルを上げるくらいなら、跡取り息子に少しでも多くの『生命の欠片』を回すみたいなの。
 
 ちなみに、今回は一気にレベル二十まで上げたそうだよ。
 ダイヤモンド鉱山を奪還するために討伐した魔物から奪った『生命の欠片』が沢山あったから。
 まだまだ、沢山あるらしいけど、騎士の増員に備えて貯めとくらしいの。
 アルトに預けておけば、盗まれる心配が無くて安心だって。

        **********

 全員のレベル上げが終ると、ライム姉ちゃんとの顔合わせをして、部屋の割り当てがあったんだ。

 その一場面…。

「やっと、王都から抜け出すことが出来ましたわ。」

「やっと、王都から出られた…、ここまで来れば安心できそう…。」

「「えっ?」」

 ライム姉ちゃんの屋敷で、部屋の割り当てをしている最中に同じような言葉が重なり。
 その言葉を口にした二人が顔を見合わせたの。

「あら、あなたも王都から抜け出したかったのかしら?」

 尋ねたのは、ピマン男爵令嬢のアナスターズ姉ちゃん。

「はい、私、お父さんから酷い虐待を受けていまして…。
 最近は風呂屋で働けと強要されてて。
 それが嫌で、お父さんから逃げ出してきたのです。」

 答えたのは、とても十五歳に見えない発育不良のお姉ちゃん。
 王都から遠く離れたこの町まで来れば、父親に連れ戻される心配が無くて安心だって。

「あらそうでしたの、あなたも大変でしたのね。
 私も似たようなものですの。
 私は、素行の悪い兄が社交界の鼻つまみ者でしてね。
 おかげで私まで肩身狭くて…。
 最近は兄の不始末でお家まで傾いてしまって。
 王都にいると、針の筵に座らされている気分でしたの。
 でも、ここまで来れば後ろ指差されることもありませんわ。
 生まれ変わったつもりで、一緒に頑張りましょうね。」

 アナスターズさん、カイエンのせいで貴族のお嬢様達のお付き合いでも敬遠されていたんだって。
 クッころさんが、五十人規模のお茶会サークル『騎士を夢見る乙女の会』を組織していたみたいに。
 貴族のお嬢様達はどこかしらのお茶会サークルに所属するらしいの。
 なのに、アナスターズさんには、誰からもお呼びが掛からなかったらしよ。

 職にありつくと共に王都から遠く離れられることは、アナスターズさんにとって渡りに船だったみたい。
 ライム姉ちゃんは、新たに採用した騎士の素性を聞いて心配していたみたいなの。
 貴族のお嬢様と平民の娘を同じ騎士団に入れて打ち解けられるのだろうかって。
 取り敢えず、この二人に関しては共感するところがあったみたいで打ち解けていたようだよ。

    **********

 そして、おいらの町へ戻って来たんだけど。

「おや、妖精の長殿、いらっしゃい。
 今日はどのような、ご用件で?」

 にっぽん爺の家に行くと、にっぽん爺はキワドイ服を着たシフォン姉ちゃんと何かしてたよ。
 新作の服の試着でもしていたのかな。

「今日は、色事爺にお客さんを連れてきたのよ。」

 アルトはそう告げると、おいら達を土間に出したの。

「おや、私にお客さんとは珍しい。
 ふむ、黒髪と言うことは、日本人ですかな。
 昨年のタロウ君に続いて、日本人にお目に掛かれるとは。」

 そう、お客さんってカズミさんのことなんだ。
 ライム姉ちゃんに特別に許可をもらって、にっぽん爺の所へ連れてきたの。

「あなたがカズヤ・ツチヤさんで間違いないですか?」

「はい、私がカズヤ・ツチヤで間違いないですが。
 お嬢さんは、私のことをご存じなので?」

 カズミさんに名前を問われて、にっぽん爺は不可解な表情で返事をしたんだ。

「初めまして、お父さん。
 私は、カズミ・ツチヤ。
 二十年前、お父さんが王都から出て行った時には母さんのお腹の中にいました。」

「お嬢さんが、私の娘…。
 私が王都を出た後に懐妊が判明したと便りにあったが…。
 これは驚いた、もう肉親に会えるとは思ってなかったのに。
 娘が会いに来てくれるだなんて、今日は何て喜ばしい日なんだ。」 

 にっぽん爺の言葉が震えてた、目尻にじんわりと涙も浮かんでたよ。

「私、小さい頃からお父さんが素敵な人だと聞かされてて。
 一度会ってみたいと、ずっと思っていたんです。
 先日、この領地の騎士募集のチラシに描かれた絵を目にして。
 家に残されているお父さんの絵にそっくりだったものですから。
 ダメもとで、騎士に応募したんです。
 まさか、こんなにすんなり会えるとは思いませんでした。」

 カズミさんの言葉を聞いて、にっぽん爺はあのチラシ作成を手伝ったことを思い出したみたい。
 「ああ、アレか。」と言ってたよ。

「カズミがここにいるということは、この領地の騎士に採用されたのかい。」

「はい、これから輪番制でこの町にも駐在することになりますので。
 年に何度か、この町でお父さんと一緒に過ごすことも出来ると思います。」

「それは良かった。
 生きて娘に会うことが叶うとは、長生きした甲斐があったよ。
 これから先、カズミと会えるのを楽しみに生きることにしよう。」

 その後、カズミさんは家から預かって来た封筒の束をにっぽん爺に手渡していたの。
 それは、三人の奥さんと三人の息子さん、それに王都の屋敷に身を寄せているお婆ちゃん達から手紙だった。
 
 手紙を受けとったにっぽん爺は凄く嬉しそうだったよ。
 二十年間ずっと一人で生きてきたにっぽん爺、少しでも寂しい心が癒されると良いね。  
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