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第十章 続・ハテノ男爵領再興記

第219話 海を越えてやって来た愚か者

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 耳長族のお姉さんを次期イナッカ辺境伯の正室とする事を認めさせたアルト。
 要求を全て王様に受諾させて、アルトは満足そうだったよ。

「私の要求はそれでお終い。
 全て受け入れてもらえたようで良かったわ。
 じゃあ、私が要求した内容をこの場にいる者すべてに周知して。
 要求を遵守すること、遵守させることを宣誓してちょうだい。」

 この場にいる主要貴族に周知させると共に、王の口から貴族達にも遵守するように命じさせたの。
 王様は、アルトの指示に素直に従ったよ。
 最初に勅令の内容を事細かに説明し、違反した者は例外なく死罪だと宣言したの。
 要求通りトアール国で出された勅令と同じ内容だったよ。
 後日、書面で各貴族あてに送るので領内に周知するように指示をしていた。

 それに続いて。

「今後、我が国では、耳長族に我々人族と同等の権利を認め、奴隷とする事を厳として禁じる。
 これにより、耳長族の者を王族、貴族の正室に迎える事を認め、その子に家督の相続権を認めるものとする。
 また、これ以降、家督の相続権を女児にも平等に認め、性別を問わず長子相続とする。」

 アルトに要求された事は漏らさず、その場で周知していたの。

 最後に。

「余並びに余の子孫たる王族は、未来永劫に渡り今周知した内容を遵守することを誓約する。
 また、貴族及び国内にいる全ての者に、この内容を遵守させることを誓約する。」

 王様の誓約を聞いて頷いたアルトは、それを誓約書に認めるように指示していたよ。
 アルトと王家で一通ずつ保管すると言ってた。
 人間は忘れっぽいから、そうしておかないと二百年もしないで忘れちゃうからって。

 アルトの言葉を聞いて、王様は苦笑いをしていたよ。
 二百年もしないうちに忘れちゃうと言われても困るよね。
 人間はその間に何代も代替わりするんだもん。

      **********

 ライム姉ちゃんとアルトの要求が受け入れられて。
 後は誓約書を書いてもらったり、ライム姉ちゃんの婿取りの打ち合わせをしたりだから。
 人質として謁見の間に閉じ込めた貴族達は解放するような話になっていたの。

 でも、空気を読まない愚か者がいて…。

「おい、王よ! あんた、何でそんな羽虫の言いなりになっているんだ!」

「これ、止めないか! 陛下に対して失礼だぞ!」

「うるせい! お飾りのじじいは黙ってろ!
 耳長族を奴隷にしちゃいけないだ?
 ふざけるな!
 こちとら耳長族狩りをするために、遥々海を渡ってやって来たんだ。
 手ぶらで帰ったら、俺達が王の不興をかっちまうじゃねえか。」

 この場に相応しくないならず者のような話し声が響いたんだ。
 声は、『ウエニアール国』の親善使節団の中から聞こえてきた。
 一番前に立つお爺ちゃんが制止したのにもかかわらず。
 ならず者のような顔つきのニイチャンが王様にイチャモン付けたの。
 
「そなたは一体何を言っておるのだ?
 余は、親善の挨拶にやって来た使節だと聞いているが。
 宰相、何か聞いておるか?」

「いいえ、私も親善のために参ったと伺っていますが。」

 ウエニアール国のニイチャンの言葉に、王様と宰相は顔を見合わせて首を傾げてたの。

「誰が親善の挨拶ぐらいで、二ヶ月も掛けて乗り心地の悪い船でやってこないといけねえんだ。
 俺達は王の命で耳長族を狩りに来たんだよ。
 我が王は耳長族の若い娘をご所望なんだがよ。
 トアール国の王へ献上を要求してもウンと言わねえんだ。
 いつもは弱腰で、我が王が脅せば何でも言うことを聞くんだが。
 あの国の王としては、珍しく頑なでな。
 仕方がねえから、シタニアール国から山越えで耳長族狩りに行くことにしたんだよ。」

 ガラの悪い五人のニイチャンは、先遣隊みたいだよ。
 今回耳長族を狩ってみて、言い伝え通り若くて美人ばかりなら大規模な耳長族狩りを計画しているみたい。
 上手く行くようなら、シタニアール国と共同での耳長族の奴隷交易を持ち掛けるつもりだったみたい。

「それは、残念であったな。
 今、余が宣言した通り、この国では耳長族に危害を加えることは一切赦さん。
 それは、この国にいる限り他国の者にも適用される。
 アルトローゼン様の機嫌を損ねる訳には参らんのでな。」

 王様は、ウエニアール国のニイチャンに耳長族狩りはまかりならんとはっきりと告げたの。

「この国の王はとんだ腰抜けだな。
 そんな羽虫一匹に、ヘコヘコしやがって。
 ここに集まっている貴族連中も何とか言ったらどうなんだ。
 囲えば、いつまでも年老いること無い美女が抱けるんだぜ。
 売れば、高く売れるんだ。
 そんな耳長族に手を出すななんて、貴様らそれで納得しているんか。」

 でも、ニイチャンは王様をバカにしたあげく、周りの貴族を煽ったんだ。
 自分が、言っちゃいけない言葉を口にしているとも知らずに。『羽虫』は禁句だよ…。

      **********

 すると、アルトがおいらのもとにやって来て。

「少しの間、第一王女と第四王子、それに第一王子のお妃さんの相手をしてて。」

 そう指示すると共に、おいら達を『積載庫』に放り込んだの。
 女子供には見せられないんだね。

「ねえ、ここは何処?」

 突然、周囲の様子が変わったことに戸惑った第四王子が尋ねたよ。
 サラサラの金髪でお人形のように可愛い王子は、声も女の子のような可愛い声をしていたの。

「誘拐された訳じゃないから心配しないで良いよ。
 ここはアルトが持っている『妖精の不思議空間』。
 これから、アルトがあの無礼なニイチャンお仕置きするから。
 その間、ここに入っていなさいって。」

「『妖精の不思議空間』ですか?
 本当に不思議な場所ですね。
 明るくて、座り心地の良いソファーまであって、とても居心地が良いですわ。」

 おいらの説明を聞いて、第一王子のお妃さんが居心地の良さに感心してたよ。

「でも、あの無礼者にお仕置きするのに、何故私達がここに入れられたのでしょう?」

「ああ、それね。
 多分、あのニイチャンを見せしめに使うんだと思う。
 耳長族に手を出したら、どんな目に遭うかのね。
 女子供が見たらトラウマになるくらい残酷なお仕置きをするつもりだと思うよ。」

 恐らく、生きながらにして業火で焼き尽くすつもりだよ。灰すら残らないの。

 おいらは、三人に『特別席』備え付けのお茶を淹れて、アルトのお仕置きが終るのを待つことにしたんだ。

「あら、美味しいお茶、ますます不思議ね。
 どうして、こんなにおいしいお茶を淹れられるほどの熱いお湯がここにあるのか?」

 第一王子のお妃さん、感心してばかりだね。
 多分、時間の任意経過機能を使って、お湯だけ沸騰した状態で時間を止めているんだね。
 何と便利な…、おいらも十年くらいしたら『積載庫』がレベル二になって出来るようになるかも。

「ねえ、お嬢ちゃん、何てお名前? どうして、ここにいるの?」

 第一王子のお妃さんが尋ねてきたよ。
 王宮を急襲した中に、おいらのようなガキんちょがいれば不思議に思うのも当然か。

「おいらはマロン。
 ここの持ち主、アルトはおいらの保護者なんだ。
 アルトは、何時でもおいらを気遣って側に置いてくれるんだ。」

 おいらは、アルトがお仕置きを済ませるまでの間、おいらやアルトの話をして時間を潰すことにしたんだ。

        **********

 アルトったら、お仕置きにどれだけ時間を掛けるつもりなんだろうと思っていたら。
 どうやら、ウエニアール国の使節団を吟味していたみたいなの。

 アルトは視界は遮断していたんだけど、音までは遮断してなくて謁見の間の声が聞こえてきたんだ。
 ウエニアール国の使節団にしゃべりたいだけしゃべらしているみたい。

 どうやら、先頭にいたお爺ちゃんは、使節団の『顔』としてやって来たお飾りみたいだよ。
 一番爵位が高くて、使節団の団長ということになっているけど、その実何の権限もないみたい。
 耳長族狩りに来た連中が耳長族を捕らえて戻ってくるまで、この国の宮廷と顔つなぎしておくのが仕事だって。

 それで、まるで冒険者のようなガラの悪いのが騎士団の連中で、耳長族狩りの実働部隊だって。
 五人組だから、ウエニアール国の騎士団の一小隊だね。
 さっき、使節の代表のお爺ちゃんやこの国の王様を罵っていたニイチャンが、この使節の実権者みたい。
 率いているのは小隊規模だけど、騎士としての地位はもっとずっと上みたいなの。

 隊長のニイチャンが煽ると、他の騎士四人も調子に乗ってこの国の貴族を扇動していたよ。
 大金が転がり込んでくる耳長族を指を咥えて見ているつもりかって。
 それを、代表のお爺ちゃんが必死になって止めていたよ。五人とも言うことを聞かなかったけど。

「そう、だいたいわかったわ。
 耳長族狩りのことを、あの簒奪者の偽王から聞いていたのはあんたら五人だけね。」

 騎士五人は尚も周囲の貴族を煽っていたけど、アルトはそれを遮るように口を挟んだの。

「我が王を侮辱するのか。
 我が王を、簒奪者や偽王などと、何たる無礼。
 国を憂いて立たれた偉大な将軍様を理解できないとは愚かな。
 所詮は羽虫、我が王の偉大さは分からぬか。」

 隊長がアルトに対して憤りの言葉を吐いた次の瞬間…。

「燃え尽きなさい。」

 アルトの冷淡な言葉が聞こえたの。

 そして、『特別席』の中が静寂に包まれた…。
 多分、アルトが謁見の間の音も遮断したんだと思う。
 おいら達に断末魔の叫びを聞かせないために。
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