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第八章 ハテノ男爵領再興記

第172話 時には反面教師も必要だね

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 そんな訳で、おいら達は毎朝トレント狩りをするようになったんだ。
 その初日、シュガートレントの狩場にやってくると。

「知ってると思うけど。
 シュガートレントは標準レベルが四で、ただのトレントに比べてレベルが一つ上なの。
 その分、敏捷性が高いし、何より攻撃してくる枝の数が八本とただのトレントの倍になるの。
 それに、八本の枝がほぼ同時に攻撃してくるから、良い実戦訓練になるわ。
 中々手強い魔物だけど、その分、『シュガーポット』が手に入り良い稼ぎになるわよ。
 あと注意することは、…。
 そうそう、顔だけには絶対にケガをしないようにね、痕でも残ったら大変だから。」

 初めてトレント狩りを経験する騎士団のお姉ちゃん達に、アルトは『シュガートレント』の説明をしてたよ。
 最初の内はトレントの枝の素早い攻撃を躱しながら反撃するのが大変だろうと告げた上で。
 お姉ちゃん達の方がレベルがはるかに上だから、慣れたら楽に倒せるようになると励ましてた。

 それと、お姉ちゃん達を領地のアイドルとして売り出す予定なんで、顔にだけは絶対にケガをするなって繰り返してた。
 『妖精の泉』の『水』でケガは治るけど、ケガの状態が酷いと痕が残ることがあるんだって。

 それで、最初は『STD四十八』の連中がトレントを狩る様子を見せたんだ。

「すごい! まるで、ダンスをしているようですわ。
 あの方たちが、素早く動き回るモノですからトレントの方が翻弄されていますわ。」

 ターゲットのトレントを囲んだ『STD四十八』。
 最初にトレントの攻撃範囲に足を踏み入れた何人かに向かって、八本の枝が襲い掛かってきたよ。
 連中、巧みに立ち位置を変えながらトレントの攻撃を躱すと、攻撃の死角にいた別の何人かが攻撃を仕掛けるの。
 それを、数回繰り返すとトレントはあえなく倒されたんだ。
 わずかな時間で危なげなくトレントを倒した時、お姉ちゃん達が『STD四十八』に向かって拍手をしてたよ。

「あの方たち、素敵ですわね。
 王都での公演も大好評だったと耳にしましたが。
 あの美しい動きを見ていると納得ですわ。
 あのような素敵な殿方を伴侶にしてみたいものですが…。
 みんな、妻帯者のでしょう、残念だわ。」

 騎士のお姉ちゃん達にも、『STD四十八』の連中は大好評だったよ。
 王都では悪さばかりしていたと教えても、とても信用してもらえそうもないね。

     **********

 次いで、アルトはタロウにトレントを狩るように指示したんだ。
 タロウは、騎士団のお姉ちゃん達にチヤホヤされている『STD四十八』の連中を羨ましそうに見てたんだけど。

 アルトに指示されると…。

「よし、いっちょう、やったるか!
 ここで俺も、カッコいいところ見せれば。
 一人くらい騎士の姉ちゃんを釣れるかも知れねえからな。
 たまには俺だって、シフォン以外の女も摘まみたいし…。
 茂みに連れ込んで、くんずほぐれずして…。
 せっかく騎士服を着てるんだから『くっ、殺せ』って言わせてみてえぇ。」
 
 何かブツブツと呟きながらトレントに近く付いて行ったんだ。
 ニヤニヤとだらしない顔してて、いつもの病気が出たみたい…。まだ、治ってなかったんだチューニ病。

 幾らタロウのレベルが二十を超えているからと言って、そんな風に妄想しながら近づいたら危ないって。
 おいらがそう思っていると、言わんこっちゃない。
 心ここに在らずと言う感じで近付くタロウに、容赦なくトレントの枝が攻撃を加えたの。

 ヒュッ!

 迫りくる槍のような枝、その鋭い風切り音に、タロウはやっと攻撃に気付いたみたい。

「ひぇっ! 何だ、何だ!」

 トレントの枝を寸でのとこで躱したタロウ、不用意にそんなに近付いて『何だ、何だ』は無いと思うな。

「ちょ、タンマ! ヤバい、ヤバいって!
 俺、いつの間にこんなに近付いてたんだ…。」

 泣き言を叫びながら、次々と襲ってくる枝を躱すタロウ。
 圧倒的なレベル差があるから、やられはしないけど…。

 戦闘態勢が整ってない所をトレントの八本の枝に襲われたもんだから。
 タロウは、躱すのが精一杯で中々反撃の糸口が掴めないでいたの。

「何、あの男、カッコ悪い。」

「そうですわね、ニヤつきながらトレントに近付いて、なんか気持ち悪いですわ。」

「あんなへっぴり腰で、魔物に立ち向かって行くなんて身の程知らずな…。」

 タロウの情けない姿に、騎士のお姉ちゃん達の中からそんな不評の声が上がってたよ。

「ええい、この枝、しつこいって!
 いい加減にしろって!」

 何とか体勢を整え直したタロウは、その場で襲い来る枝を次々と切り落としたの。
 そして、最後の枝を切り落とすと共に本体に駆け寄り、一撃で切り倒したよ。

「あら、あの男、勝ちましたわね。
 あのへっぴり腰で…、まぐれかしら?」

 いつもならもっと楽勝なんだけど、油断していたせいでギリギリ勝てたって感じに見えたタロウ。
 そんな事は知らない騎士のお姉ちゃん達の中にはタロウが勝ったことに意外そうに言う人がいたんだ。

 すると、別のお姉ちゃんが。

「あれは、私達に対する戒めに違いありませんわ。」

「戒め?」

「はい、きっと、あの男は私達と同じ促成栽培なのでしょう。
 アルト様から『生命の欠片』を与えて頂きレベルだけ上がったのかと。
 レベルが上がったことに慢心し、精進を怠るとあんな無様な姿を晒すことになる。
 そう戒めるために、アルト様はあの男の戦い振りを見せたのかと。」

 いやいや、アルトはそこまで考えていないって。
 タロウも、騎士のお姉ちゃん達と同じレベル二十。
 慣れて来れば一人でも余裕でトレントを狩れるようなるって、知らせたかったんだと思うよ。
 タロウがてこずったのは、何かの妄想をしていて油断したからだもの。

 でも、結果的にその誤解が良かったみたい。

「そうね、あのような無様な姿を晒さないためにも、しっかりと訓練をしませんとね。
 私達は、民を護り、民に安寧を与えるのが務めです。
 無様な姿を見せると民が不安を感じてしまいますものね。」

 たしかペンネ姉ちゃんと言ったかな、この小隊の小隊長がそう言って騎士団員を鼓舞していたよ。

「思っていたのとちょっと違うけど…。
 みんながやる気を出してくれたのならまあ良いわ。
 それにしても、タロウったら、情けない…。
 大方、良いところを見せて、騎士の娘達からチヤホヤされる妄想をしてたのでしょうけど。
 墓穴を掘っただけだったわね。」

 タロウが上手い具合に反面教師になってくれたんで、騎士のお姉ちゃん達の士気が高まったって。
 アルトは、複雑な顔をしつつも結果オーライだと言ってたよ。

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