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第七章 興行を始めるよ!・・・招かれざる客も来たけれど
第139話 ここにも忠告を聞かない人が・・・
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ハテノ男爵の騎士団の連中を捕らえたおいら達。
一旦、アルトの森に寄ってから男爵のもとにかち込むことにしたんだ。
アルトは、男爵を捕まえて、その足で王都に乗り込むつもりらしい。
王様を叱責するんだって、貴族に対する監督がなっていないって。
王都に行くとなると数日掛かりになっちゃう。
その前に、耳長族のお姉ちゃん達を里に返さないと里長が心配するからね。
ついでに、おいらも父ちゃんに数日留守にするって言っておかないと。
一日顔を見せないだけで、凄く心配するんだもの。
という訳で、ミンミン姉ちゃんの家を訪ねると。
「なに、マロン、王都に行くのか。
俺も、アルト様にお願いして連れて行ってもらおうかな。
王都に昔世話になった人がいるんだ。
嫁さんをもらったことと子供が出来たことを報告方々、久しぶりに挨拶に行きたいんだ。」
父ちゃんが、そんなことを言って同行を望んだの。
アルトに頼んだら、快く同行を許可してくれたよ。
そして、
「ほら、あんたも行くわよ。
マロンに危ないことがあったら、あんたが盾になるのよ。」
「何だよ、いきなり。
こんな時間から、いったい何処へ行こうってんだ。
俺は、これからスライムを売ってシフォンの所へ帰らないと。
シフォンが心配するじゃねえか。」
何の事情も、何処へ行くかも説明しないでせっつくアルトにタロウは不満を漏らしているけど。
アルトは、問答無用で『積載庫』に放り込んだよ。
中に待っているシフォン姉ちゃんから事情を聞けってことみたい。
アルトのタロウに対する扱いがどんどんぞんざいになっていく気がするよ。
更に、
「私も王都へ行くのですか?
私は余り人間の町に行くのは気が進みませんが…。」
「耳長族の里長のあなたが行かないでどうするの。
この国の王様に、耳長族に対する不可侵を誓約させるのだから。
安心しなさい、この国の何処でも耳長族の民が大手を振って歩けるようにしてあげるわ。」
アルトは、王都へ行くことに乗り気でない里長を、そう説得して『積載庫』に乗せてた。
『STD四十八』の連中と伴奏のお姉ちゃん達も載せたままなので、アルトに何か考えがあるみたい。
アルトの森は結界に護られていて、人が入り込むことは出来ないのだけど。
念のため、留守番のノイエに耳長族の里の安全を守るように指示いていたよ。
**********
その日の夕刻、まだ日が沈む前にハテノ男爵の住む町に着いたんだ。
ハテノ男爵の家はすぐに分かったよ。
だって、…。
「ねえ、アルト、おいら、貴族のことは良く知らないんだけど…。
男爵の家ってこんなに大きいものなの?
なんか、クッころさんの家よりはるかに大きいよ。」
町に着いたらすぐに巨大な屋敷が目に入ったんだもん。
王都の名門貴族、王の側近のモカさんの家よりはるかに大きいの。
おいらが聞いているところじゃ、男爵って貴族では一番下っ端のはずなんだけど。
「人の社会のことを聞かれても困るわ。
長いこと生きていて、色々な国の王宮にイチャモン付けに行ったことはあるけど。
貴族なんて下っ端、相手にしたことが無かったからね。
貴族が何か悪さをしたら、王様をとっちめた方が手っ取り早かったから。
でも、そうね、この屋敷は大きいわね、王宮とそう変わらない大きさじゃない。」
男爵の館の前で『積載庫』から出されて、アルトとそんな会話を交わしてたら。
「こら、こら、お嬢さん、あんた、いったい何処から入りなさった。
ここは、ご領主様のお屋敷だよ。
平民の子供が立ち入ったら怒られるから、早く帰りなさい。」
守衛さんかな? ちょっと年配のおじいちゃんがそんな声を掛けてくれたんだ。
貴族に仕える人なのに、感じの良いおじいちゃんだった。
さっきの騎士みたいな横柄な態度じゃなくて、好感が持てるよ。
「突然来て申し訳ないわね、ここの領主に取り次いでもらえるかしら。
用件は、こいつらのことに関して苦情を言いに来たの。」
アルトは、おいらの陰に隠れていたみたいで。
おじいちゃんの前に出たアルトを見て目をぱちくりさせてたよ。
「あれまあ、妖精さんなんて珍しい。
かれこれ五十年くらい見かけんかったけど、まだこの辺にもいたんですなあ。」
そんな風に感心しているおじいちゃんの目の前に、アルトは一番偉そうにしてた騎士を放り出したんだ。
「おや、これは、騎士団長、いったい、どうなされた。」
このおじいちゃん、動じないね。
いきなり何も無い宙から騎士団長が降って来たのに、呑気に構えているんだもん。
騎士団長、潰された手を抱えて苦しそうにしているのに。
「反乱だ!
この娘、男爵様に反旗を翻して俺達をこんな目に遭わしやがった。」
「おやま、騎士団長、このお嬢さんにやられたんで?
だから、いつも言ってるじゃないですか。
余り威張り散らしてばかりいないで、たまには真面目に鍛錬でもしたらどうかって。
大方、このお嬢さんにちょっかい出して返り討ちに遭ったんでしょう。
それで反乱だなんて大袈裟な…。
そんなことを言ってると笑い者になりますよ。」
激昂して叫んだ騎士団長言い分をさらりと流して、おじいちゃんは笑い飛ばしたよ。
やっぱり、この騎士団長、日頃から行いが良くないんだ。
そして、…。
「あれまぁ、これは一大事のようだ。
さっそく、ご領主様のもとにご案内します。
そうそう、うちの若領主様、この騎士団長に負けず劣らず短気で浅慮ですが…。
お手柔らかに頼みますね、一応領主様ですので。
お嬢ちゃん、小っちゃいのに強いみたいだから、先に言っておかないと。
若領主様も酷くとっちめられそうだから。」
おじいちゃんは、全然一大事だとは感じさせない口調でそう告げると。
おいら達を館の中に招き入れたんだ。
でも、使用人から『短気で浅慮』とか言われる領主っていったい…。
「ねえ、おじいちゃん、勝手においら達を領主様の所に連れて行って良いの?
おじいちゃんが怒られるんじゃない?」
「そんなことは気にせんで良いって。
どうせ若領主様、やることも無くて暇しているんですから。
若領主様が、怒っているのなんて何時ものことなんで。
軽く聞き流しておけば良いんですよ。」
おじいちゃんはこともなげに言ったんだ。
ここまで、使用人に小馬鹿にされている領主って珍しいんじゃない?
**********
おじいちゃんに案内されて、領主の館に足を踏み入れたんだけど…。
外観の立派さに反して、建物の中は酷い荒れ具合だった。
天井板が剥がれ落ちている廊下とか、割れた窓ガラスが板で塞いであったりとか。
分不相応な立派過ぎる館に、手入れが追い付かないといった感じなんだ。
二階の一番日当たりの良い部屋の前で、おじいちゃんが扉をノックすると…。
「遅い! やっと帰ってきおったか!
女子供を捕らえてくるのにどんだけ待たせるつもりだ!
早く、俺の前に耳長族の娘を連れてくるのだ!」
おじいちゃんが言う通り短気な人みたいだね。
相手を確かめもせずに、騎士が帰って来たもんだと思って怒ってるの。
「あれまあ、ご領主様、騎士達にそんなことをお命じになったので?
申し訳ございませんが、騎士ではなくてわっしでごぜえます。
お客さんをお通ししたのですが。」
「なんだ、じいか。
俺は忙しいんだ、勝手に客を通すなと言ってるだろうが。」
「いえ、領主様がお命じになった騎士の件で重要なお客様が見えております。
すぐにお目に掛った方がよろしいかと思ってお連れしたんですがね。」
「なんだ、俺が遣わした騎士の件だと。
いったい何だと言うのだ。
取り敢えず、通していいぞ。」
苛ついた領主の声とのんびりとしたおじいちゃんの声、そんな二人の対照的な声が交わされ。
おいら達は入室の許可をもらったんだ。
領主の部屋は、今にも朽ち果てそうな廊下とはうって変わって贅を凝らした部屋だったよ。
でもなんか、装飾過多で悪趣味な部屋だった、成金趣味って言うのかな。
部屋の中にいたのは、おいらの父ちゃんと同じくらいの年齢の若い男の人だった。
おじいちゃんが若領主と言っていたけど、本当にまだ若いんだ。
「おい、じい、何の冗談だ。
そんな小娘一人連れて来て、何が俺が遣わした騎士の件だ。」
さっきのおじいちゃんに声を掛けられた時と違って、今はおいらの横にアルトがいるよね。
なんで、目に入らないんだろう。
「あんた、何処に目を付けんのよ!
あんたに用があるのは、この私よ!
わ・た・し!」
ほら、アルトの機嫌を損ねた…。
領主は、声のする方に目を凝らすと。
「何だ、この羽虫は?
こいつ、ちっぽけな体して、生意気に喋れるのか?
珍しい羽虫もいたもんだ、捕まえて飼っとけば自慢のタネになるかも知れんな。
おい、じい、この羽虫を捕まえて鳥籠にでも入れておけ。」
また、アルトを羽虫という『勇者』が現れたよ。
おかしいな、この辺りじゃ、妖精の話は必ず親から聞かされるはずなんだけど。
妖精は祟るから絶対に機嫌を損ねちゃいけないって寓話を。
「若様、そちらの方は妖精さんですよ。
大奥様から子供に頃聞かされたでしょう。
妖精さんのご機嫌を損ねたら祟られるって。
いけませんよ、そんな失礼な態度をとられては。」
なんだ、やっぱりちゃんと聞いているじゃない。
おじいちゃんは、噛んで含めるように領主を諫めたんだけど。
「じい、いい歳して何を子供騙しなことを言ってるんだ。
その羽虫が妖精だとして、そんな小さなナリで何が出来るってんだ。
いいから、言われた通りにサッサと捕まえるんだ。」
領主はおじいちゃんの言葉に全く取り合おうとしないんだ。
それどころか、おじいちゃんの言葉に余計苛立ちを強めたみたいだったよ。
でも、おじいちゃんは、
「妖精さんを捕まえるなんて芸当は私には無理ですよ。
せっかく、ここまで長生きしたのに、妖精さんの怒りに触れてポックリなんて御免ですわ。
若様、悪いことは言いません、ここは妖精さんのお話を伺った方が身のためですよ。」
苛立ち紛れの領主の言葉をシレッと躱したんだ。
「このじじい、親父の代からこの家に仕えているからって、俺に口答えしやがって。
親父がツベコベ言わなければ、さっさとお払い箱にしてやるのに。
もう良い、そんな羽虫の一匹や二匹、俺が捕まえてやる。」
このおじいちゃん、守衛さんかと思ったら、男爵家に仕える人の中じゃ結構偉い人なんだ。
でも、今の領主からはかなり疎まれているみたいだね。
きちんと諭してくれるのに、領主はそれを鬱陶しく思っているみたい。
おじいちゃんの忠告も聞かずに、領主はアルトを鷲掴みにしようと右手を前に突き出して来たんだ。
「その汚らわしい手で、私に触れるじゃない!」
バチッ!
アルトのビリビリが突き出された手に落ちたよ。
何時もみたいに、全身を襲うのではなく、ピンポイントに手だけを狙って。
一旦、アルトの森に寄ってから男爵のもとにかち込むことにしたんだ。
アルトは、男爵を捕まえて、その足で王都に乗り込むつもりらしい。
王様を叱責するんだって、貴族に対する監督がなっていないって。
王都に行くとなると数日掛かりになっちゃう。
その前に、耳長族のお姉ちゃん達を里に返さないと里長が心配するからね。
ついでに、おいらも父ちゃんに数日留守にするって言っておかないと。
一日顔を見せないだけで、凄く心配するんだもの。
という訳で、ミンミン姉ちゃんの家を訪ねると。
「なに、マロン、王都に行くのか。
俺も、アルト様にお願いして連れて行ってもらおうかな。
王都に昔世話になった人がいるんだ。
嫁さんをもらったことと子供が出来たことを報告方々、久しぶりに挨拶に行きたいんだ。」
父ちゃんが、そんなことを言って同行を望んだの。
アルトに頼んだら、快く同行を許可してくれたよ。
そして、
「ほら、あんたも行くわよ。
マロンに危ないことがあったら、あんたが盾になるのよ。」
「何だよ、いきなり。
こんな時間から、いったい何処へ行こうってんだ。
俺は、これからスライムを売ってシフォンの所へ帰らないと。
シフォンが心配するじゃねえか。」
何の事情も、何処へ行くかも説明しないでせっつくアルトにタロウは不満を漏らしているけど。
アルトは、問答無用で『積載庫』に放り込んだよ。
中に待っているシフォン姉ちゃんから事情を聞けってことみたい。
アルトのタロウに対する扱いがどんどんぞんざいになっていく気がするよ。
更に、
「私も王都へ行くのですか?
私は余り人間の町に行くのは気が進みませんが…。」
「耳長族の里長のあなたが行かないでどうするの。
この国の王様に、耳長族に対する不可侵を誓約させるのだから。
安心しなさい、この国の何処でも耳長族の民が大手を振って歩けるようにしてあげるわ。」
アルトは、王都へ行くことに乗り気でない里長を、そう説得して『積載庫』に乗せてた。
『STD四十八』の連中と伴奏のお姉ちゃん達も載せたままなので、アルトに何か考えがあるみたい。
アルトの森は結界に護られていて、人が入り込むことは出来ないのだけど。
念のため、留守番のノイエに耳長族の里の安全を守るように指示いていたよ。
**********
その日の夕刻、まだ日が沈む前にハテノ男爵の住む町に着いたんだ。
ハテノ男爵の家はすぐに分かったよ。
だって、…。
「ねえ、アルト、おいら、貴族のことは良く知らないんだけど…。
男爵の家ってこんなに大きいものなの?
なんか、クッころさんの家よりはるかに大きいよ。」
町に着いたらすぐに巨大な屋敷が目に入ったんだもん。
王都の名門貴族、王の側近のモカさんの家よりはるかに大きいの。
おいらが聞いているところじゃ、男爵って貴族では一番下っ端のはずなんだけど。
「人の社会のことを聞かれても困るわ。
長いこと生きていて、色々な国の王宮にイチャモン付けに行ったことはあるけど。
貴族なんて下っ端、相手にしたことが無かったからね。
貴族が何か悪さをしたら、王様をとっちめた方が手っ取り早かったから。
でも、そうね、この屋敷は大きいわね、王宮とそう変わらない大きさじゃない。」
男爵の館の前で『積載庫』から出されて、アルトとそんな会話を交わしてたら。
「こら、こら、お嬢さん、あんた、いったい何処から入りなさった。
ここは、ご領主様のお屋敷だよ。
平民の子供が立ち入ったら怒られるから、早く帰りなさい。」
守衛さんかな? ちょっと年配のおじいちゃんがそんな声を掛けてくれたんだ。
貴族に仕える人なのに、感じの良いおじいちゃんだった。
さっきの騎士みたいな横柄な態度じゃなくて、好感が持てるよ。
「突然来て申し訳ないわね、ここの領主に取り次いでもらえるかしら。
用件は、こいつらのことに関して苦情を言いに来たの。」
アルトは、おいらの陰に隠れていたみたいで。
おじいちゃんの前に出たアルトを見て目をぱちくりさせてたよ。
「あれまあ、妖精さんなんて珍しい。
かれこれ五十年くらい見かけんかったけど、まだこの辺にもいたんですなあ。」
そんな風に感心しているおじいちゃんの目の前に、アルトは一番偉そうにしてた騎士を放り出したんだ。
「おや、これは、騎士団長、いったい、どうなされた。」
このおじいちゃん、動じないね。
いきなり何も無い宙から騎士団長が降って来たのに、呑気に構えているんだもん。
騎士団長、潰された手を抱えて苦しそうにしているのに。
「反乱だ!
この娘、男爵様に反旗を翻して俺達をこんな目に遭わしやがった。」
「おやま、騎士団長、このお嬢さんにやられたんで?
だから、いつも言ってるじゃないですか。
余り威張り散らしてばかりいないで、たまには真面目に鍛錬でもしたらどうかって。
大方、このお嬢さんにちょっかい出して返り討ちに遭ったんでしょう。
それで反乱だなんて大袈裟な…。
そんなことを言ってると笑い者になりますよ。」
激昂して叫んだ騎士団長言い分をさらりと流して、おじいちゃんは笑い飛ばしたよ。
やっぱり、この騎士団長、日頃から行いが良くないんだ。
そして、…。
「あれまぁ、これは一大事のようだ。
さっそく、ご領主様のもとにご案内します。
そうそう、うちの若領主様、この騎士団長に負けず劣らず短気で浅慮ですが…。
お手柔らかに頼みますね、一応領主様ですので。
お嬢ちゃん、小っちゃいのに強いみたいだから、先に言っておかないと。
若領主様も酷くとっちめられそうだから。」
おじいちゃんは、全然一大事だとは感じさせない口調でそう告げると。
おいら達を館の中に招き入れたんだ。
でも、使用人から『短気で浅慮』とか言われる領主っていったい…。
「ねえ、おじいちゃん、勝手においら達を領主様の所に連れて行って良いの?
おじいちゃんが怒られるんじゃない?」
「そんなことは気にせんで良いって。
どうせ若領主様、やることも無くて暇しているんですから。
若領主様が、怒っているのなんて何時ものことなんで。
軽く聞き流しておけば良いんですよ。」
おじいちゃんはこともなげに言ったんだ。
ここまで、使用人に小馬鹿にされている領主って珍しいんじゃない?
**********
おじいちゃんに案内されて、領主の館に足を踏み入れたんだけど…。
外観の立派さに反して、建物の中は酷い荒れ具合だった。
天井板が剥がれ落ちている廊下とか、割れた窓ガラスが板で塞いであったりとか。
分不相応な立派過ぎる館に、手入れが追い付かないといった感じなんだ。
二階の一番日当たりの良い部屋の前で、おじいちゃんが扉をノックすると…。
「遅い! やっと帰ってきおったか!
女子供を捕らえてくるのにどんだけ待たせるつもりだ!
早く、俺の前に耳長族の娘を連れてくるのだ!」
おじいちゃんが言う通り短気な人みたいだね。
相手を確かめもせずに、騎士が帰って来たもんだと思って怒ってるの。
「あれまあ、ご領主様、騎士達にそんなことをお命じになったので?
申し訳ございませんが、騎士ではなくてわっしでごぜえます。
お客さんをお通ししたのですが。」
「なんだ、じいか。
俺は忙しいんだ、勝手に客を通すなと言ってるだろうが。」
「いえ、領主様がお命じになった騎士の件で重要なお客様が見えております。
すぐにお目に掛った方がよろしいかと思ってお連れしたんですがね。」
「なんだ、俺が遣わした騎士の件だと。
いったい何だと言うのだ。
取り敢えず、通していいぞ。」
苛ついた領主の声とのんびりとしたおじいちゃんの声、そんな二人の対照的な声が交わされ。
おいら達は入室の許可をもらったんだ。
領主の部屋は、今にも朽ち果てそうな廊下とはうって変わって贅を凝らした部屋だったよ。
でもなんか、装飾過多で悪趣味な部屋だった、成金趣味って言うのかな。
部屋の中にいたのは、おいらの父ちゃんと同じくらいの年齢の若い男の人だった。
おじいちゃんが若領主と言っていたけど、本当にまだ若いんだ。
「おい、じい、何の冗談だ。
そんな小娘一人連れて来て、何が俺が遣わした騎士の件だ。」
さっきのおじいちゃんに声を掛けられた時と違って、今はおいらの横にアルトがいるよね。
なんで、目に入らないんだろう。
「あんた、何処に目を付けんのよ!
あんたに用があるのは、この私よ!
わ・た・し!」
ほら、アルトの機嫌を損ねた…。
領主は、声のする方に目を凝らすと。
「何だ、この羽虫は?
こいつ、ちっぽけな体して、生意気に喋れるのか?
珍しい羽虫もいたもんだ、捕まえて飼っとけば自慢のタネになるかも知れんな。
おい、じい、この羽虫を捕まえて鳥籠にでも入れておけ。」
また、アルトを羽虫という『勇者』が現れたよ。
おかしいな、この辺りじゃ、妖精の話は必ず親から聞かされるはずなんだけど。
妖精は祟るから絶対に機嫌を損ねちゃいけないって寓話を。
「若様、そちらの方は妖精さんですよ。
大奥様から子供に頃聞かされたでしょう。
妖精さんのご機嫌を損ねたら祟られるって。
いけませんよ、そんな失礼な態度をとられては。」
なんだ、やっぱりちゃんと聞いているじゃない。
おじいちゃんは、噛んで含めるように領主を諫めたんだけど。
「じい、いい歳して何を子供騙しなことを言ってるんだ。
その羽虫が妖精だとして、そんな小さなナリで何が出来るってんだ。
いいから、言われた通りにサッサと捕まえるんだ。」
領主はおじいちゃんの言葉に全く取り合おうとしないんだ。
それどころか、おじいちゃんの言葉に余計苛立ちを強めたみたいだったよ。
でも、おじいちゃんは、
「妖精さんを捕まえるなんて芸当は私には無理ですよ。
せっかく、ここまで長生きしたのに、妖精さんの怒りに触れてポックリなんて御免ですわ。
若様、悪いことは言いません、ここは妖精さんのお話を伺った方が身のためですよ。」
苛立ち紛れの領主の言葉をシレッと躱したんだ。
「このじじい、親父の代からこの家に仕えているからって、俺に口答えしやがって。
親父がツベコベ言わなければ、さっさとお払い箱にしてやるのに。
もう良い、そんな羽虫の一匹や二匹、俺が捕まえてやる。」
このおじいちゃん、守衛さんかと思ったら、男爵家に仕える人の中じゃ結構偉い人なんだ。
でも、今の領主からはかなり疎まれているみたいだね。
きちんと諭してくれるのに、領主はそれを鬱陶しく思っているみたい。
おじいちゃんの忠告も聞かずに、領主はアルトを鷲掴みにしようと右手を前に突き出して来たんだ。
「その汚らわしい手で、私に触れるじゃない!」
バチッ!
アルトのビリビリが突き出された手に落ちたよ。
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