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第五章 王都でもこいつらは・・・

第111話 最弱なんだって …自分で言うふつう?

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 『アッチ会』をプチっと潰しちゃうと総長に宣言したアルト。
 総長は冷や汗をかきながらも、まだ観念していないようで…。

「おめえらの目的は『スイーツ団』だって言うがな。
 あれは、儂の支配下にあるんじゃなくて、王都三大ギルドの協業組織だ。
 儂ら、『アッチ会』を潰したところで、『コッチ会』、『ソッチ会』あるんだぜ。
 『スイーツ団』は潰れはしねえよ。
 それとも何かい、おめえら、三大ギルド全部潰そうってのかい。」

 まだまだ、アルトの力を侮っているみたい、この総長。
 やれるもんならやってみろと言わんばかりの物言いだったよ。

「ええ、そのつもりよ。
 でも、そうはならないと思うの。
 最初にここを潰すでしょう、次に『スイーツ団』。
 その後は、『コッチ会』でもカチコミましょうか。
 よっぽどのバカじゃなけれは、甘味料から手を引きますって言うわよ。
 自分達も二の舞いになりたくないでしょうからね。
 それが分からないようなおバカさんなら、プチっと潰しちゃうわ。」

 まっ、実際そうだろうけど、ギルド三つ潰すくらい容易いと言わんばかりにアルトが答えたとき…。

「親分さん、こいつらかい。
 ギルドにカチコミに来たという命知らずは?」

 部屋の奥にあった扉が開いて、一人の男が入ってきたんだ。
 
「おう、イーゾー、よく来てくれた。
 そうだ、こいつらが、『アッチ会』に正面からたてついて来やがった。
 手間かけさせて悪りいが、こいつらを始末してはくれんか。」

 どうやら、あの扉は外との行き来が出来る通路に繋がっているみたいだね。
 いつの間にか助っ人を呼んでいたみたい。

「はっ、はっ、はっ。
 バカめ、儂とコンカツが悠長に間抜けな掛け合いをしているとでも思っていたか。
 あれはな、こいつを呼ぶための時間稼ぎに道化を演じて見せていただけだわい。
 なんて言っても、儂ら、『アッチ会』は三大ギルドの中では最弱だからな。
 日頃から、カチコミに備えて腕利きの用心棒を雇っておるのだ。
 聞いて驚け、こいつはな、そのスジでは『人斬りイーゾー』って恐れられた剣客なんだぜい。
 こいつが来たからにはもう安心だ。
 てめえら、イーゾーの剣の錆にでもなりやがれ!」

 急に勝ち誇ったように、居丈高に声を上げた総長。
 でも、こいつの言っていることって、なんか情けないよ…。

「見ると、まだ年端のいかないガキじゃないか。
 女子供を手に掛けるのは趣味じゃねえが…。
 悪いな、お前たちには恨みはないが、これも仕事なんでな。
 若気の至りかも知れんが、…。
 ギルド本部にカチコミをかけるたぁ、ちょっとおイタが過ぎたようだぜ。
 まあ、恨むんなら、俺ではなく、総長を恨んでくれな。」

 他の連中みたいに恫喝するでなく、静かにそう言ったイーゾーはゆっくりと剣を抜いたんだ。

「あれ、強いわよ。
 タロウじゃ絶対に敵わないわ。
 マロン、お願いできるかしら。
 私じゃ、殺しちゃうわ、手加減が難しいくらい強いの。」

 ああ、時々言っている、中途半端に強い人ってやつね。
 手加減し過ぎると無力化できないし、本気でやると死んじゃうってやつ。
 その匙加減がむずかしいから、相手をするのが苦手なんだよね。 

      ********

「うんじゃ、おいらがお相手するね。」

 アルトに指示されたおいらは、タロウの方へ攻撃がいかないように、イーゾーの前へ立ち塞がったの。

「なんだ、嬢ちゃん。
 お前さんが俺の相手をしようってのか…。
 うん?」

 丸腰で目の前に立ち塞がったおいらに何かを言いかけたイーゾーだったけど。
 途中で言葉を切って、おいらをジッと見つめてたんだ。
 そして…。

「わっはっは、こりゃあ良いわ。
 確かに、この嬢ちゃん相手じゃ、このギルドにいる奴で歯の立つ奴ぁいねえな。
 こんなバケモノに出会えるとは思っても無かったぜ。
 それじゃあ、俺もちっとは気合いを入れていくぜ。」

 本当に強い人は、相手の立ち居振る舞いから強さを計り知ると言うけど。
 どうやら、おいらが見た目通りの子供じゃないと気が付いたみたい。
 侮ってくれた方が与し易くて良いのに…。

 「てやっ!」

 気合い一閃、振り下ろされるイーゾーの剣。
 たしかに、今まで見たことが無い剣速だった、でも、ビックリなのはそこじゃなくて…。

 『回避』がキッチリと仕事をして、イーゾーの剣を避けたおいら。
 スキル『回避』の機能で、二の太刀が撃ち難い位置に回避したはずなのに…。

「えっ!」

 回避した先に、続けざまにイーゾーの剣が振り下ろされてきたんだ。
 これがビックリ、スキル『回避』の予想を上回る動きをしたってことだもん。

 でも、二撃目にも、『回避』がそつなく働いて。

「セフ、セフ。危なかった!」 

 おいら、思わず叫んじゃったよ。

「ほう、俺の二の太刀を躱せる奴がこの王都にいるとは思わなかったぜ。
 嬢ちゃんよ、まだまだこんなもんじゃねぇんだろう。
 嬢ちゃんの本気見せてもらおうか!」

 イーゾーって少し変、おいらが剣を躱すと本当に嬉しそうに笑ってるの。
 悔しがるんじゃないんだよ。
 そして、少し興奮気味に叫けび声をあげたんだ。脅すんじゃなくて、楽しそうに。

「げっ!バトルジャンキーじゃん、怖えよ!」

 イーゾーの様子を見て、タロウが何か叫んでた。こんな感じの人って他にもいるんだ…。 

 その声に続いて振り下ろされる剣。
 凄い剣速で続けざまに振るわれるんだよ。
 スキル『回避』が無ければ、初撃で斬り殺されていた自信があるよ。

 何度かそれが繰り返された後、おいらは反撃に出ることにしたの。

「わっはっは、楽しいぜ、こんな楽しいのは久しぶりだ。
 そうかい、じゃ、こいつは躱せるかな!」

 イーゾーはそう言って、今までより格段に鋭い剣戟を放った来たんだ。
 おいらは、振り下ろされた剣を回避すると同時に。
 その利き腕、手首と肘の間を狙って、手刀を一撃入れたんだよ。

 ポキッ!

 そんな小気味良い音がして、利き腕をブラブラさせたイーゾー。
 当然、剣を握っている事など出来ず、カチャンと床に落としてた。

「うぐっ!」

 そんな、くぐもった声を発して、苦悶の表情を見せたイーゾーだけど…。

「くっ、嬢ちゃんの勝ちだ。
 最期の、最期に、こんなに楽しませてもらったんだ。
 俺の人生に悔いはないぜ、さあ、殺せば良い。
 俺のレベルを奪って嬢ちゃんの人生の糧にしな。」

 そんな勝手な事を言うイーゾー。

「殺すつもりなら、腕なんて狙わないよ。
 おいら、父ちゃんから耳にタコができるくらい言われてるんだ。
 人殺しはやっちゃダメって。
 イーゾーのおっちゃん、他のギルドの連中よりはまともそうだから。
 腕はキレイに折っておいたよ、ちゃんと治せばまた剣が握れるはず。
 これからは、こんなゴミみたいな連中に雇われてないでまともな仕事をしたら。
 魔物退治でもすれば、人から喜ばれるよ。」

 このおっちゃん、ギルドの他の連中みたいに恫喝してこなかっただけで印象が良いの。
 今まで、すぐに大きな声で怒鳴りつけて、人を威嚇するようなクズばっかりだったからね。

「わっはっは、娘みたいな歳の嬢ちゃんに説教されたら世話ねえな。
 そうだな、何処か山にでもこもって、魔獣狩りで修業し直すか。
 まだまだ、上には上がいるみたいだしな。」

 おいらの言葉を聞いてイーゾーは笑ってたよ。折れた腕を痛そうに抱えながらも。

    ********

「ひぃぃぃ、イーゾーの旦那がやられちまった!
 こんなのに、勝てる訳ねえじゃねえか。
 俺は降りるぞ。
 もう『アッチ会』から、いや、冒険者家業から足を洗う。」

 剣を構えて総長を守っていたチンピラの一人が剣を捨てて、部屋の隅の扉から逃げ出したんだ。
 すると、…。

「あっ、てめえ、抜け駆けする気か、ズルいぞ!
 俺も降りる!
 こんなの相手じゃ、少しばっかいい目見させてもらっても割に合わねえぜ!」

 口々にそんな声を上げながら、みんな逃げ出していったんだ。

「おい、貴様ら、待たんか!
 貴様らの仕事はこの儂を守る事だろうが!」

 ブヨブヨにデブってる総長が走って逃げだせる訳もなく、虚しい叫び声を上げてるよ。

「さてと、これで片付いたようね。
 首を差し出す覚悟は出来たかしら?」

 逃げ遅れて部屋に残された総長とコンカツを睨んでアルトが声をかけると…。

「どうぞ、命ばかりはご勘弁を。
 『アッチ会』は今日を限りに冒険者ギルドの看板を降ろします。
 もう悪さもしません。
 儂は隠居して静かに暮らしますから、命ばかりは助けてください。」

 二人して、アルトの前に土下座して命乞いを始めたよ。
 そんな二人の言葉を聞いて、アルトは悪い笑みを浮かべてるよ。
 
「そう、命だけは助けてあげるわ、い・の・ち・だ・け・は・ね。
 妖精族の掟では『殺しはご法度』だからね。
 でも、後になって、殺してくれって言っても知らないわよ。
 さんざん悪さを働いて来たんですもの。
 楽隠居なんてさせる訳ないでしょう。」

 死刑宣告にも等しい言葉を告げたアルトは、問答無用で二人にビリビリを放ったの。
 そして、気絶した二人をすぐさま『積載庫』に押し込んだよ。
 その後、部屋の入り口近くに転がした四天王(笑)も、また『積載庫』に戻してた。

「さて、前座の三文芝居も見飽きたし、こいつらを土産に『スイーツ団』を潰しに行きましょうか。
 ゴーヨクの驚く顔が見ものだわ。」

 アルトはそう言って『スイーツ団』に乗り込もうとしたんだけど。
 その前に、もうひとつ、ここでやる事があるんじゃないの。
 
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