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第五章 王都でもこいつらは・・・

第108話 四天王が現れた…って、えっ、張出(はりだし)?

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 アルトは、揉めている人達の方へに近づくと、貴族のおじさんに向かって。

「あんた達、こんなところで何を揉めてるの。
 入り口の前で群がっていると邪魔よ。
 私、このギルドに用があるの。」

 そんな風に声を掛けたんだけど、アルトの声って若々しい声なんだ。
 苛立っている貴族のおじさんは、若い娘に話の邪魔をされたと思ったようで…。

「なんだ、小娘、こっちは大事な話をしているんだ。
 口を挟むんじゃ…。
 えっ!」

 文句を言いながら、アルトの方を振り返りそこで絶句したの。
 そんでもって、顔面蒼白になり、顔に冷や汗を浮かべてるよ。

「小娘が何ですって?」

 アルトの一言に。

「これは、アルトローゼン様、大変失礼しました。
 どうぞ、ご勘弁を。
 実は、このギルドが経営する風呂屋に今日新人の娘が入ることになっていまして。
 まあ、その、何です、ギルドの風呂屋というのは紳士の社交場と言いましょうか。
 女性の前では、色々と言い難いこともあるのですが…。
 ともかく、その新人の最初の客として色々とお相手をしていただく権利を買ったのです。
 競りで銀貨三千枚で権利を買って、前金で既に千五百枚渡したのですよ。
 なのに、約束の時間になっても娘は現れず、もう半日も待たされる始末でして。
 風呂屋の支配人にクレームをつけても埒が明かず、こうしてギルドに抗議に来ている次第でして。
 いやはや、お見苦しいところをお見せしました。」

 どうやら、このおじさん、先日の謁見の間にいた人みたいだ。
 アルトの不興を買ったらヤバいと分かっているようで、謝罪した上に丁寧に事情を説明してくれたよ。
 すると、このおじさんを宥めていたギルドのオッチャンが、おいら達の方を見て何か気付いたような顔をして…。

「あっ、シフォン、おまえ、今まで何処をほっつき歩いていたんだ!
 お客様がお待ちなんだぞ!
 今朝一番で、ウツケーを迎えにやっただろうが。
 なんで、すぐに来ないんだ!」

 シフォン姉ちゃんを指差して怒鳴りつけたんだ。

「おお、まさしく、姿絵通りの別嬪さんだ。
 やっと来たかい、どんな手違いがあったのか知らんが。
 これだけ待たされたのだ、たっぷり、ねっとりと奉仕してもらわねばな。」

 ギルドのオッチャンの指さす方を振り返った貴族のおじさん。
 シフォン姉ちゃんをねっとりと眺めて、鼻の下を伸ばしながらそんな事を言ってた。
 このおじさん、シフォン姉ちゃんが好みのタイプみたいで。
 シフォン姉ちゃんの姿を目にして、待たされた怒りが急に鎮まったみたい。

   ********

 でも、…。

「そう、期待させちゃったみたいで、悪いけど。
 私、今日はこの娘の事でギルドに落とし前つけてもらいに来たの。
 この娘、私の身内なんだけど。
 今朝急にギルドのゴロツキが風呂屋で働けって脅してきたみたいでね。
 身内に手を出されて黙っている訳にもいかないもんだからね。」

 アルトが貴族のおじさんにそう告げると。
 だらしなく話の下を伸ばしていたおじさん、また青くなっちゃった。
 そして、ギルドのオッチャンに向かって。

「おい、貴様、アルトローゼン様の身内に手をかけるとはどういうことだ。
 儂にそんな危ない娘を抱かせるつもりだったのか。
 儂は知らんぞ、とっとと銀貨三千枚返せ!
 アルトローゼン様に睨まれようもんなら。
 本来ならば十倍にして返してもらって割に合わんぐらいだが。
 儂はとばっちりをくう前にここを立ち去りたいのだ。
 早く銀貨三千枚持ってこんかい!」

 もの凄く狼狽しながら、怒鳴りつけたんだ。
 ギルドのオッチャン、貴族のおじさんのただごとではない様子に戸惑いながら。

「いったい何をそんなに怯えてらっしゃるのですか、そんな羽虫一匹に。
 そんな事より、シフォンが来ましたので、返金の話は無しでございますね。
 すぐに支度をさせますので、シフォンを心行くまで堪能して帰ってください。
 そうですね、昼から夕方まで半日のお約束でしたが…。
 半日もお待たせしたお詫びに、明日の夕方までまる一日ご奉仕させて頂きますので。
 どうぞ、それでご容赦を。」

 バチン!

 そんな事を言ったギルドのオッチャンを、いきなり手にしていたステッキで殴りつけたよ、貴族のおじさん。
 そのまま、凄い剣幕で、ギルドのオッチャンを叩き続けてるの。
 普段は温厚そうな貴族のおじさんの豹変ぶりに、ギルドの強面たちも引いちゃったよ。

「貴様、アルトローゼン様を羽虫だなんて、なんてことを言うんだ
 この国を滅ぼしたいのか。
 もういい、儂はこの娘から手を引くぞ。
 アルトローゼン様の身内に手を出すなんてそっちの落ち度だ。
 つべこべ言わずに、銀貨三千枚とっとと持ってこんかい!」

 余りの剣幕に、ギルドの連中もこれ以上貴族のおじさんを怒らしたら拙いと思ったみたい。
 ギルドの中から大きな布袋を持って来て貴族のおじさんの付き人に渡してたよ。
 おじさんの付き人が、中身を確認して銀貨三千枚がある事を告げると。
 貴族のおじさんはアルトの前に土下座して。

「アルトローゼン様。
 私はその娘がアルトローゼン様の身内だとはついぞ知らなかったのございます。
 その娘からは手を引きますので、どうぞお見逃しください。」

 アルトに命乞いを始めたよ。

「ええ、別にあんたに落とし前つけろとは言わないわ。
 もう帰っても良いわよ。
 ただね…。
 あんたももういい歳でしょう。
 シフォンなんて娘、いえ、下手をしたら孫の年よ。 
 少しは、そういう遊びは慎んだらどうなの。」

 アルトは貴族のおじさんに立ち去って良いと言いつつ、何か呆れ混じりの言葉を掛けてたよ。

「ははっ、寛大な取り計らいに感謝します。
 これからは、仰せの通り少しは自制することに致します。」

 『少し』なんだ…。
 どんな遊びか知らないけど、よっぽど好きなんだね。
 ともかく、アルトの許しを得て、貴族のおじさんはそそくさと立ち去っていったんだ。
 銀貨がたくさん詰まった布袋を抱えた従者を従えて。

     ********

「さてと、これで余計な人はいなくなったし。
 今度は、私達の相手をしてもらおうかしら。」

 アルトがギルドの連中に向かって声をかけると。
 貴族のおじさんにどつきまわされてたオッチャンに代わって、銀貨を持って来たオッチャンが言ったの。

「てめえら、俺達のシノギの邪魔をしやがっていってえ何のつもりだ。
 てめえらが出て来たせいで、上客が逃げちまったじゃねえか。
 ご贔屓の貴族のお客さんをあんまり怒らしたら拙いから銀貨三千枚渡しちまったが。
 これじゃ、ギルドは大損だぜ。
 てめえらには、銀貨三千枚にイロを付けて置いてって貰わねえとな。
 当然、シフォンも置いてって貰うぜ。
 シフォンよ、逃亡なんて舐めたことをしてくれたんだ、どうなるかわかってんだろうな。
 取り敢えずは普通の泡姫の三倍は客を取ってもらうから覚悟しとけよ。」

 このオッチャンもギルドの幹部みたいだけど、なんでこんなに頭の悪い連中ばかりなんだろう。
 貴族のおじさんが、アルトにあんなに怯えていたのに…。

「あんた達、底抜けのおバカさんね。
 落とし前をつけてもらいに来たのは、私の方よ。
 さっきも言ったけど、シフォンは私の身内なのよ。
 自分の身内にちょっかい出されて黙っていたら舐められちゃうもんね。
 あんた達、少しおイタが過ぎるようだからお仕置きしてあげるわ。」

 アルトが、オッチャンを嘲るように言うと。

「羽虫風情が、でっけえ口叩きやがって。
 この俺、『アッチ会』若頭補佐のキョーカツ様に、そんな口を利いてタダで済むとでも思ってるんか。
 おい、こいつらをやっちまえ。
 シフォンは大事な商品だ、傷つけるんじゃねえぞ!」

 キョーカツが手下をけしかけてきたよ十人くらいかな、みんな雑魚くさいの。
 アルトを『羽虫』って呼んだんだものね、こいつらただじゃ済まないよ。

「ええい、雑魚が鬱陶しい!」

 バリ! バリ! バリ!

 何度も『羽虫』呼ばわりされて腹に据えかねていたんだと思うよ。
 アルト、今度は問答無用でビリビリを放ったの。
 こっちに向かって来た雑魚全部とキョーカツを巻き込んで。

「「「「「ウギャアアアアアア!」」」」」

 『アッチ会』本部前に絶叫がこだましたよ…。
 アルト、そうとう怒っていたらしくて、みんな服が焦げてプスプスと燻ぶってる。
 皆が皆、白目をむいて、ピクピクと痙攣してるし…、もやは全員粗大ゴミだね。

「げっ、『アッチ会』四天王の序列五位、『弱者蹂躙』のキョーカツ兄貴がやられちまったぜ。
 おい、誰か、四天王の方々にカチコミだって、知らせてくるんだ!」

 キョーカツがやられたのを見て、三下みたいなゴロツキが慌てて本部の中に知らせに走ったよ。
 でも、四天王の序列五位って…。
 おいらが、数字の数え方を間違えて覚えていたかなと思ったら。

「なんだよ、『四天王の序列五位』って使い古されたネタは…。
 雑魚い奴らに使うオチはこっちの世界でも同じだってか。」

 タロウがそんな風にいって呆れてたよ。
 なんだ、雑魚を揶揄する時のネタなんだ…。
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