上 下
83 / 848
第四章 魔物暴走(スタンピード)顛末記

第83話 『ハエの王』誕生秘話(笑)

しおりを挟む
 キャラメルを『ハエ』の餌にして、新たな『ハエの王』を生み出す。
 それに、どんな意味があるかと言うと…。

 それは、王様にキツイお仕置きを与えた日のこと。

「それで、『ハエの王』を倒した愚か者だけど、そいつには『ハエ』の餌になってもらうわ。」

 みんなの前で、そう言いだしたアルト。

「それは、単なる死罪では生温い、魔物の餌になる恐怖を味わせて死なせると言うことで?」

 モカさんは、自分の長男の悲惨な末路を想像しているのか、顔を歪めながら問い掛けたんだ。
 ことがことなだけに死罪になるのは仕方がないと諦めているみたいだけど、流石に魔物の餌は酷いと思ったみたい。

「違うわよ、そいつを餌にして新たな『ハエの王』を生み出すのよ。
 私が、何のために『ハエの王』を討伐した愚か者を探していたと思っているの。
 単に落とし前を付けさせるだけじゃないのよ。
 一番の目的は奪われた『生命の欠片』を取り戻すことよ、新たな『ハエの王』を生み出すために。」

「新たな『ハエの王』を生み出すの?
 何のために。』

 新たな『ハエの王』を生み出すと言うアルトの真意が理解できなくて、おいらは尋ねたんだ。

「マロン、この国は『ハエの王』が生まれてから二百年、ほとんどその配下の『虫』に襲われていないの。
 そのおかげで、たちの悪い流行り病が蔓延することが無かったのよ。
 でも、これからは違うわ。
 このまま放置すると、『ハエの王』の支配下にあった『虫』共はてんでバラバラに他種族を襲い始めるわ。
 そしたら、魔物領域に近い町や村は、はぐれの『虫』共にちょくちょく襲われるようになるわよ。
 だから、新たな『ハエの王』を生み出して『虫』共を統率させるのよ。
 他種族を襲わないようにね。」

 『虫』型の魔物自体は弱いから、その辺の冒険者でも対処できるかも知れないけど。
 怖いのは、奴らが持っている質の悪い『病原菌』だと、アルトは言うんだ。
 襲われた町や村で蔓延するのは勿論のこと、商人や旅人が他へ持ち運ぶかもしれないって。
 例えば、ここ王都とか、おいらが住む町とかにね。

 質の悪い流行り病が蔓延するのを防ぐことが、『ハエの王』を生み出す最終的な目的なんだって。

「でも、珍しいね。
 人の世界に無関心なアルトが、人のために『ハエの王』を生み出そうと言ってくれるなんて。」

 おいらが、そんな感想を漏らすと。

「違うわよ、別に人の町に質の悪い流行り病が蔓延しようが、私の知った事ではないわ。
 確かに、私の可愛いマロンにもしもの事があると困るけど。
 そんなことになったら、マロンだけ妖精の森で保護すれば良いからね。
 『虫』共は、人の町だけでなく妖精の森にも『病原菌』をばら撒くのよ。
 汚染されたところに一々『妖精の泉』の水を撒いて歩くのが厄介でね。
 その手間を省くために、せっかく私が『ハエの王』を生み出したというのに…。
 何処かの愚か者が、討伐しちゃうから。ホント、いい迷惑だわ。」

「「「「『ハエの王』を生み出した?」」」」

 アルトの言葉に、その場にいたみんなの疑問の声がハモったよ。

「そうよ、二百年前にこの国の愚王が攻めて来たでしょう。
 『生命の欠片』が沢山手に入ったので、森のみんなに分けたんだけどね。
 端数が出たんで、丁度良いから『虫』達を統率する『魔王』を創ろうと思ったのよ。
 前々から思っていたんだけど、いざやろうと思うと『生命の欠片』が勿体なくてね。
 あぶく銭が手に入ったみたいなものだから、助かったわ。」

 レベル五十に相当する分の『生命の欠片』を端数と言い切るアルト。
 いったい妖精の森の住民ってどんだけレベルが高いの…。

「二百年前に、余の先祖達から奪った『生命の欠片』がそんなことに使われとったとは…。
 そのせいで、この国の王侯貴族は途轍もない苦労を強いられたと言うに。」

 アルトの話を聞いて、そんな愚痴を漏らす王様。
 いやいや、『生命の欠片』が奪われたのは自業自得だから、『妖精の森』に攻め込んだ『勇者』達だもん。

「何言ってんのよ。
 私は感謝されこそすれ、恨み言を言われる筋合いはないわよ。
 私が、『ハエの王』を生み出した恩恵で、この国の民は疫病を免れて来たのだから。
 苦労を強いられたのは、一部の王侯貴族だけでしょう。
 そんなの欲をかいた愚か者の自業自得じゃない。」

 妖精のアルトにとっては人の身分制度なんて関係ないからね。
 沢山の人達が恩恵を受けているんだから、そっちの方が良いと思うのは当たり前のことみたい。
 王様、またアルトに睨まれて、小さくなってたよ。

 そんな訳で、キャラメルを『ハエの王』を生み出すための餌にする事が決まったんだ。
 因みに、本当ならプチっとっちゃって『生命の欠片』を回収してから『ハエ』の魔物に与えても良いんだけど。
 それじゃあ、アルトの気が済まなかったみたい。
 モカさんの指摘通り、キャラメルに『ハエ』の餌になる恐怖を味あわせる意味もあるみたいなんだ。

    ********

 その時、おいらが疑問に思っていたこともアルトが教えてくれたよ。
 アルトにレベルを奪われてこの国の王族はレベルが低いってのが理解できなくて聞いてみたんだ。

 そしたら。

「まだ幼いマロンにこんな血生臭い話はしたくないのだけどね。
 この国に限らず、人間の王国貴族は『親殺し』なのよ。
 人間に限らず生き物は、寿命や病気で自然死すると『生命の欠片』を残さないの。
 『生命の欠片』を奪うためには相手を殺して奪うしかないのよ。」

 『親殺し』と言っても、無理やり親を殺す訳じゃないんだって。
 王侯貴族は死期を悟ると後継ぎを寝所に呼んで自分を殺させるんだって。
 そうやって、先祖からのレベルを代々引き継いでいく習わしになっているんだってアルトは言ってた。
 この国は歴史が長いから、当時の王侯貴族にはレベル五十以上がゴロゴロいたみたいなんだ。
 アルトの森を襲撃した時の愚王は、レベル七十という、人としては稀に見る高レベルだったらしいよ。
 欲をかかずに地道に生きていれば、そのレベルが次の代に引き継がれたはずなのに。
 レベルを奪うために妖精の森に攻め込んだ愚王は、そのレベルをアルトに奪われちゃったんだ。
 大変なのは後を継いだ王よね。
 本来なら、先代から引き継ぐはずのレベルが無いんだもの。
 見逃してもらった末の王子、今の王様のご先祖は、当時レベル二十くらいしかなかったんだって。

 因みに、その時の愚王は王子全員と、国内の主だった騎士を引き連れて妖精の森に攻め入ったらしい。
 見逃してもらえた末の王子以外、皆殺しにされてことごとくレベルを奪われちゃったから。
 その後の国の運営に苦労したみたい。
 国を守るべき高レベルの騎士が激減したから、下手を打てば周囲の国の良いカモになっちゃうもんね。
 それ以来、この国は周辺国のご機嫌を窺いながら攻め込まれないように下手下手にでて凌いできたらしい。

 一方で、本来国で最も高レベルであるべき王族のレベルが低いので、有力貴族のご機嫌を窺う必要が出て来て。
 結果として、不良貴族を野放しにする事態を招いているみたいだったよ。

 因みに、今、アルトの前で身を縮こまらせている王様。
 鼻歌まじりにワイバーンを狩ると言うもっぱらの噂だけど、…。
 二百年かけてやっとそのくらいことが出来るまで王家のレベルが上がって、少し調子こいてたみたい。

 色々と注意するのに耳を貸さないものだから、日頃からモカさんは困っていたみたいだよ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...