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第三章 女騎士(クッころさん)奮闘記

第44話 街には罠がいっぱい…

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*本日、お昼に1話投稿しています。
 まだ読み出ない方は、お手数をおかけしますが一話戻ってお読みください。
 よろしくお願いいたします。

     ********

 アルトのおかげでスキルやレベルの謎も大分わかってきたよ。
 
 アルトが帰りがけに教えてくれたんだけど、…。
 人間の最高レベルがどの程度かは分からないらしい。
 みんな、ナイショにしているからね。
 でも、この国の王はワイバーンクラスを鼻歌混じりに一人で倒すんだって。
 絶対、おいらよりもレベルが高いはずだって。

 おいらはこの通り八歳児でちんちくりんだからね。
 おいらがレベル四十だと知れると、与し易いと思われて命を狙われるかもって。
 実際は、『完全回避』があるので殺されることはないかも知れないけど。
 何度も襲われると厄介なので、絶対にレベルのことは他言無用だって。
 それは、何度も念押しされたよ。

 おいらはアルトの忠告に黙って従うことにしたよ。
 命を狙われるのはイヤだし、レベルをひけらかすつもりは無いからね。

     ********

 という訳で、レベルアップ後も毎日シューティング・ビーンズ狩りにいそしんでいる。
 レベルアップして、何かが変わったかと言うと劇的な変化はないね。
 父ちゃんが言ってた、レベル持ちだけが見える世界と言うのもみえないしね。
 あれって、いったいどういう意味なんだろう?

 でも、良いことはあったよ。
 毎日、シューティング・ビーンズ狩りに行く往復がすごく楽になった。
 初期能力値が八十一倍にもなっているおかげだと思うんだけど。
 草原を歩いていても全然疲れないの。

 レベルアップ前は、狩りに行く往復の歩きだけでも結構疲れたんだ。
 それが今はとっても楽ちんで、スキップしてしまうくらい足取りが軽やかなの。

 そうそう、体があんまり軽いんで、シューティング・ビーンズもつい狩り過ぎちゃう。
 気付くと今までの三倍くらい狩っちゃうの。
 程々にしておかないと狩り尽くしちゃっいそう。
 そうなったら、新しい狩場を探さないといけなくなるし、狩り過ぎないように気を付けてるんだ。

 その日、シューティング・ビーンズを狩り終えて町へ戻ろうとしたら。

「おう、マロン、これから帰りか?
 うんじゃあ、一緒に町まで帰るか。」

 ちょうど、妖精の泉にスライム捕りに行っていたタロウが妖精の森から出て来た。
 口を縛った大きな布袋をしょったタロウ、今日も沢山採れたようだ。

 この町に来た当初は、変な妄想を口走ったり、妙な嬌声を上げたりしていたタロウだけど。
 可哀そうな人を見るような周囲の視線に晒されることや若い女の子に露骨に避けられること。
 そんなことが応えたのか、最近は妙な言動が減って来たよ、チューニ病が快方に向かってるのかも。

「うん、タロウ、今日も大漁だね。
 二ヶ月で家が買えるなんて凄いって、にっぽん爺も感心してたよ。
 じゃあ、おいらも、一緒に帰るよ。」

 タロウの誘いに応えて、おいらも一緒に帰ることにしたんだ。

 そうそう、タロウってば念願の家を買ったんだよ。
 これでタロウと距離がおけると喜んだら、何と引っ越した先は…。
 おいらの隣の家だった…、にっぽん爺とは反対側の…。
 がっかりだよ、これからずっとタロウの面倒を見るハメになりそうだよ。

「おう、これもマロンと妖精の姉ちゃんのおかげだぜ。
 マロンが高く売れるスライムの狩場を教えてくれたから。
 普通の半分の時間で買えたからな。
 普通の倍値で買い取ってもらえるのは大きいぜ。
 案内してくれたマロンと狩りを許してくれた妖精の姉ちゃんには頭が上がらねえよ。」

 おいらが教えた妖精の泉にうじゃうじゃいるスライムは特別だったんだ。
 長生きで、汚物の処理能力が他のスライムより格段に高いんだって。
 マロンスライムなんて呼ばれているのは心外だけどね…。

「どう、自分の家をもった気分は?」
  
 肩を並べて歩きながら、おいらが尋ねると。

「まあ、電気もガスも無くて、日本の家に比べて不便だけどな。
 それでも、誰にも気兼ねしないで良いってのは最高だぜ。
 今まで、タダで住まわせてもらったにっぽん爺には申し訳ないが…。
 やっぱり、他人が一緒だと抜けないからな、正直溜まって仕方なかったんだぜ。」

 そうだよね、他人と一緒だと気が抜けないよね。
 ずっと他人と暮らしてたら、ストレスが溜まるのも仕方がないと思う。
 タロウって、傍若無人で他人に事など気に掛けないタイプかと思ってたけど…。
 やっぱり、あれでも一応、遠慮していたんだ。

「家を買ったら、真っ先に抜きまくったぜ。
 クッころさんをオカズにしてよ。
 二ヶ月も溜めてたもんだから、サルのように耽っちまったぜ。」

 はあ? また意味不明な事を…。
 この会話の流れで何処からクッころさんが出てくるんだよ。
 しかも、オカズって何よ?

「タロウ、あんた、何を訳分かんないこと言ってんの。
 それもチューニ病ってやつ?」

 おいらがタロウをジト目で見ていると。

「ああ、悪いな。
 つい、ガッコのダチと話してるつもりになっちまったぜ。
 マロンがあんまりシッカリしてるんで、八歳児には思えなくてな。
 それに、女っていう感じもしねえしよ。
 まっ、そのうち分かるよ、コマいことは気にすんなって。」

 そんなことを言って、ガハハハッと笑うタロウ。
 女に見えなくて悪かったね…、でっかいお世話だって。
 でも、さっきの会話とおいらが女に見えないのってどう関連してるの。
 全く、脈絡が分かんないんだけど。

    ********

 そのまま、二人で町に向かって歩いていると。

「なあ、マロン、この間、町を歩いてたら。
 マロンが言ってた、町にもう一個の風呂屋っての見つけたぜ。
 何か立派な建物で、入浴料銀貨十枚って看板に書いてあった。
 銀貨十枚って言ったら日本で言えば一万円だろう。
 なんか高いなと思ったんだよ。
 それでよく見たら、湯女のご奉仕付きって看板に書いてあってよ。」

 ああ、タロウ、あの風呂屋を見つけたんだ。
 なんか、女性お断りで男性客専用のお風呂、けっこう繁盛しているらしいけど…。
 あそこ、特大の罠があるからね、タロウなんか単純なんで簡単にはまりそう。

「俺、看板を見てピンときたんだ。
 あれって、日本だったら絶対に十八禁的なお風呂だろ。
 十四歳の俺じゃ、絶対に入れないやつ。
 ここじゃ、十八禁なんて法律はねえだろう。
 俺もスライム狩りで銀貨十枚くらいなら余裕があるからよ。
 今度行ってみようかと思ってんだ。
 これでもう、チェリーとは馬鹿にさせないぜ。」

 ほら、騙されてる…。

「タロウ、あの風呂屋、『入浴料』が銀貨十枚なの。
 中に入ると『ご奉仕料』を別に取られるらしいよ。
 最低銀貨二十枚から…。」

「何だそれ! それじゃ、詐欺じゃないか!
 それに『銀貨二十枚から』ってのは何だよ、『から』ってのは。」

「知らないよ、おいら、行ったことある訳じゃないから。
 近所のおっちゃん達が話しているのを偶々耳にしたんだ。
 何か、ご奉仕の追加によって、どんどん加算されてくらしいよ。
 個室になってて、そこに入ったら、まず銀貨二十枚を要求されるんだって。
 後は、追加を選んで、全部選ぶと銀貨百枚ほどになるらしいんだ。
 でも、ちゃんと一覧表になってるから詐欺じゃないみたい。
 めーろー会計だって、おっちゃん、言ってたよ。
 けっこう繁盛してて常連もいるみたいだから。
 みんな、わかっててお金を用意していくんだよ。
 おっちゃんも言ってたもん。
 お金を貯めて『全部のせ』をするんだって。」

「『全部のせ』って、ラーメンのトッピングじゃないんだから…。
 あぶねえ、あの看板に引っかかるところだったぜ。
 なあ、マロン、銀貨二十枚払えなかったらどうなるんだ?」

 うんそれが、一番の罠だよ。あいつら本当にロクでもないから…。

「ああ、それ。
 あの風呂屋、ツケが利くらしいよ。
 何回かはツケでいけるって。
 近所のおっちゃんの話じゃ。
 それでハマっちゃう山出しの若造がけっこう多いって。
 そのツケなんだけど、ある程度貯まる前に払えないと…。」

「おい、何だよ、そのタメは。
 ツケが払えないと、どうなるんだよ!」

「有無も言わさずトレント狩りに連れてかれる。」

「おい、まさか、その風呂屋の経営者って?」

「うん、冒険者ギルド。」

「なんだよ、そんなオチかよ!」

 冒険者ギルドって、ホント、ヤバい連中だよね。
 村から出て来たばかりの世間知らずの若い男をあの手この手で罠にかけるんだもん。

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