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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第548話 そう言えば、女の子ばかりですね?

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 さて、色々と驚くことも多かった様子のマーブル青年に、一通り『スノーフェスティバル』の会場を案内しました。
 案内が終る頃にはもう夕刻で、保護した孤児たちを館へ連れて帰ることにします。

 その日は全部で十人程となった孤児は、その晩私の館に泊ってもらい、翌朝孤児院に連れて行くこととなっています。
 マーブル青年も孤児院を見たいとのことなので、その晩は私の館に泊ってもらう事にしたのです。
 遅刻されたら、こちらの予定が狂ってしまうので、その方が良いと思ったのですが。

「なに、その若造が今晩泊まっていくだと。
 ならん、私の可愛いロッテに悪い虫がついたらどうする。」

 また爺バカが、いえ、おじいさまの過剰な心配性が出ました。
 私ももうすぐ二十歳です。
 貴族の女性ならそろそろ結婚しているのが当然の年齢になるのですが…。

「あらあら、皇帝陛下は心配性だこと。
 シャルロッテちゃんは本当にお爺様に大切にされているのね。
 陛下、ご安心ください。
 今日は、私もこちらに泊めて頂くことになっています。
 不肖の孫は、私と同じ部屋に泊らせますので、責任もって監視いたしますわ。
 この子ったら、どうやら覗き趣味があるようですので。
 目を離せないですから。」

 メアリーさんも、翌日の朝、一緒に孤児院に行くことになっていました。
 その日保護した孤児たちの受け入れ手続きを行うために。
 年配のメアリーさんが、王宮とこの間を往復するのも大変です。
 なので、『スノーフェスティバル』の期間中、当初からこの館に滞在して頂くことになっていました。

 この時点では、マーブル青年の部屋は決まっていなかったのですが。
 メアリーさんが、青年を同室にすると言います。
 メアリーさんの中では、青年に覗き趣味があるのは決まりのようで。
 私やノノちゃんなど、年頃の娘のいるこの館では目を離すことは出来ないそうです。

「陛下? 大公様のお爺様ですよね。
 前大公様ではないのですか?」

 先ほど、初めておじいさまと顔をあわせた際に、「祖父です」と紹介しましたが詳しい話はしていませんでした。

「メアリーさんや、陛下はやめて欲しいと言っておるだろう。
 私は既に隠居した身、第一既に陛下と言われる地位自体が消滅しているであろうに。」

 メアリーさんの言葉に、おじいさまが笑いながら陛下はやめて欲しいと要望しました。

「あら、ごめんなさいね。つい癖で。
 一昨年に初めてお目に掛った時の印象が強かったものですから。
 もう、陛下と刷り込みになってしまっていて。」

 おじいさまの言葉に、メアリーさんも笑いながら答えていると。

「あの、大公様のお爺様はいったいどのようなお方なのでしょうか?」

 話しが見えずに再び問い掛ける青年に、メアリーさんがため息をつきます。

「あなた、本当にそれで新聞記者が務まるの?
 やっぱり、イエロージャーナリズムはダメね、世情に疎くて。
 シャルロッテちゃんが、ブルーリボンを受勲した時にあれほど騒がれていたのに。
 帝国皇帝が、わざわざ孫娘の受勲に付き添って来たって。」

 たしかに、あの時は多くの新聞に書かれましたし、『アルビオンタイムス』にも記載されていたかと。
 もっとも、卒論の制作に忙しくて、ロクに新聞も読んでいなかったようですが。

「帝国皇帝って、あの神聖帝国の皇帝陛下ですか?
 大公のお爺様が?」

 青年はまたまた目を丸くしています。いったい今日何度目でしょうか。

「良い良い、既に隠居した身だし、既に神聖帝国などと言うモノも存在してはおらんわ。
 今は孫娘の所に居候しているただの爺だわい。
 だがな、私の可愛い孫娘に不埒なマネをしたら絶対に赦さんぞ。」

 おじいさまは、帝国皇帝であったことなど気にするなと言っていましたが。
 私に手出ししたら赦さないと言うところは目がマジでした。

     **********

 そして、孤児たちがお風呂から上がったら一緒に夕食を取ることにします。

 ステラちゃんがお腹を空かせていた孤児のためにと腕によりをかけて作ってくれた料理の数々。
 それを一心不乱に食べている子供達を見てお爺様が目を細めていました。

「おう、おう、子供はみな可愛いな。
 子供が可愛いことに、身分など関係ないよのう。
 貴族も、平民も、孤児であろうともな。
 こんな無垢な子供達を寒空の下に放置したらいかんものよ。」

 そんな感想をもらしていたお爺様ですが、ふと何かに気付いたような表情になり尋ねてきました。

「時にロッテ、何故、ここには女の子しかおらんのだ。
 張り紙には、別に男の子はダメとは書いてなかったのであろう。」

 それは、私もずっと不思議に感じていたことです。
 『スノーフェスティバル』の開場からこっち、保護を求めてくる子供が何故か女の子だけなのです。

 すると、ごはんを食べる手を少し休めていた子が教えてくれました。

「まいあさ、おやかたがきて、おとこのこをつれていちゃうの。
 ごはんをたべさせてやるぞ、っていって。
 みんな、おやかたに、ついていっちゃうから。
 ひるまは、おとこのこはいないの。
 よる、まっくろになってかえってくるよ。」

 親方と言うことは、スラムの孤児たちに何か仕事をさせているのでしょうか。
 夜、真っ黒になって帰ってくると言ってますけど。
 昨年、ケリー君は荷役の仕事をしていて、冬場は仕事が減って困ると言っていましたが。
 毎朝、子供達を連れに来るなんてどんな仕事なのでしょうか。

「ねえ、その親方って、男の子に仕事を与えているのよね。
 どんな仕事だかわかるかな?」

 私が、その子に尋ねると帰って来た答えは…。

「えんとつそうじだって、いってた。
 いえのやねにのぼって、えんとつのそうじをするんだって。
 こしにひもをつけて、うえからぶらさがるって。
 おちて、しんじゃうこもいるって。」

 いや、子供が死んでしまうって、そんな事も無げに言われても…。
 この子は人の死と言うモノが何なのか理解していないのでしょうか。
 聞いた話とは言え、さらりと言ってのけました。

「ああ、煙突掃除ですか。
 あの仕事、危ないのですよね。
 一応、火が消えている時間帯に掃除することになっていますが。
 良く事故があるんです。
 たまたま、連絡ミスで暖炉に火が入ったままになっていて。
 焼け死んだり、窒息死したり。
 その子が言う通りに命綱が切れたり、解けたりして転落死とか。」

 非常に危険な仕事なのですが、子供にしか出来ない仕事なのだそうです。
 何故なら、大人じゃ煙突の中に入れず、中から掃除をすることが出来ないから。

 人的な損耗が大きく、煙突掃除の子供は何時でも足りないそうです。
 そして、まともな家庭の子供ではなり手がいないので…。
 勢いスラムの子供、ことスラムにいる孤児に誘いの手が伸びるそうです。

 ケリー君が手を出さなかったのは納得です。
 あの子は頭が良いですから、煙突掃除が危険だと言うことに気付いていたのでしょう。

「まあ、スラムの孤児がそんなことに使役されていたの。
 そんな、子供の命を使い捨てにするなんて…。」

 メアリーさんは初耳のようで、とても赦せることではない言いますが。

「御婆様、仕方がないのです。
 これを止めさせて、煙突掃除に従事する子供を保護するなんて言ったら暴動が起こりますよ。
 今、この王都のほとんどの建物の暖房が暖炉で、ほぼ全ての建物に煙突があります。
 これを掃除しないと、煙を十分に屋外に排出できず部屋に充満してしまうことがあります。
 煙いだけならまだしも、最悪酸欠で体を害することもあるのです。
 子供に対する憐れみだけで、止めさせて良いものではないのですよ。」

 マーブル青年が珍しく強く主張したのです。
 何か、軽々しく口出しできる問題ではないようですね。
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