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第18章 冬、繫栄する島国で遭遇したのは

第506話 それは、予想外でした

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 私達の前に姿を現した巨大な首長竜、期待に違わずの性癖のようでした。
 ノノちゃんを一舐めして、「甘露、甘露。」とかほざいています。

「あなたは、ドラゴンの姿をしていますが、水の精霊ですよね。
 初めまして、私はシャルロッテ・フォン・アルムハイムと申します。」

 私がそう尋ねると。

「別に、儂がドラゴンの姿をして真似ている訳では無いぞ。
 儂は元々、この姿であるぞ、人が儂の姿を見てドラゴンと呼んだだけであるからの。
 儂らオスの水の精霊は、昔からこんな格好をしておるのが多いわ。」

 そんな返事をくれたドラゴン(もどき)、予想していた通り水の精霊でした。

「今日はお願いがあって来たのです。
 あなた、ここを訪れた調査隊を脅かしたでしょう。
 申し訳ないけど、今度ここを訪れる調査隊の人々を脅さないでもらえるかしら。」

 私は、メアリーさんを紹介して、メアリーさんが精霊の棲み易い環境の保全に力を入れていることを説明しました。
 そして、この周辺一帯を保全のために買い取り、先日やって来た人達はメアリーさんが遣わした調査隊であることも。

「ふむ、儂らが暮らしやすい環境を守ろうなどと、その老婆、中々殊勝な心掛けではある。
 だが、断る!」

「へっ? 何故ですか?」

「儂は男は大嫌いなのだ。
 昔は、儂ももっと南の大地に住んでおった。
 あの頃は良かった。
 その幼児たちのように、無邪気に儂を慕ってくれる童はおったし。
 そこな娘のように、麗しい生娘が私の無聊を慰めてくれた。
 ところがだ、憎っくき男共がやって来て儂らと共にあった精霊の民を迫害し。
 緑の大地の森を切り拓いて、儂らが棲み難い場所にしてしまいおった。
 挙句の果てに、ドラゴンを狩って英雄になるなどとほざくバカ共が出てくる始末だ。
 まあ、人間なんぞに負けはせんが、しょっちゅう来るもんで鬱陶しくてな。
 儂の無聊を慰めてくれる娘もいなくなったので、ここへ隠遁しておったのだ。
 儂の安住の地であるここに男が立ち入るのは断固として許さんぞ。
 調査団を送りたいのならば、娘だけでやってくるのだな。」

「あんた、昔から人間の娘が好きだったものね。
 昔から、男は好きじゃなかったけど…。
 精霊と共にある民が、外から来た男共に迫害されてからは、男嫌いが極まったわ。」

 ドラゴン(もどき)の言葉を聞いた風の精霊が言います。

 どうやら、この水の精霊、かつては私と同じ精霊に親しき民と暮らしていたようです。
 そして、聖教による精霊信仰の弾圧を実際に目にした様子です。
 まあ、異教徒狩りや未開の地を切り拓くのに、女子供が来る訳がありませんから。
 このドラゴン(もどき)が目にしたのは、男ばかりだったのでしょう。
 その頃から、男を嫌悪するようになったみたいです。

 しかし、無茶を言ってくれますね。
 ここアルビオン王国でも女性の学者は少ないのです。
 しかも、この湖周辺には道が来ていません。
 道なき山野をやってこないといけなのに、女性だけ来いなんて無茶も良いところです。

       **********

 すると、

「ねえ、どらごんしゃん、ひとりぼっちでさみしくない?」

 エリーがそんな言葉をドラゴン(もどき)に掛けたのです。

「そうだな、昔は賑やかで楽しくはあったな。
 だがな、童よ。
 儂ら精霊は、余り寂しいとか言う気持ちは感じないのだよ。
 儂はもうずいぶんと長い間、一人でここにおったが、寂しいと感じたことは一度もないな。」

「そうなの?
 でも、たのしい方が、うれしくない?」

「まあ、楽しいに越したことはないがな。」

「えりー、ひとりぼっちはさみしかった。
 さりーがいっしょになって、すこしさみしくなくった。
 けりーにいたんがいっしょにいてくれて、もっとさみしくなくなった。
 それで、ままがやってきて、とってもうれしかった。
 ひとりぼっちはきらい、ひとりぼっちはさみいしいの。」

 エリーがそんな心の内をドラゴン(もどき)に話し始めました。
 普段、大人しいエリーがそんなことを言うのは初めてです。
 スラムに捨てられてそんな風に感じていたのですね。
 おそらく、今までは、言葉が拙くて自分の気持を表現できなかったのでしょう。

「童よ、何が言いたい?」

「どらごんしゃん、おうちにこない?」

 ちょっと待った! この子、なに勝手にドラゴン(もどき)を拾おうとしてるんですか。
 犬や猫ではないんですから。
 とは言え、精霊ですから、犬や猫みたいに手間は掛からないのですが。

「えりー、それいい!
 さりーもどらごんさんとあそびたい!」

 私が心の中でエリーの言葉にツッコミを入れていると、サリーまでエリーに同調し始めました。
 いったい、何が二人のツボにはまったのでしょう。
 ドラゴン(もどき)なら、裏の森に既に一匹いるのに。

「童よ、何故そんなことを言う。」

「だって、どらごんしゃん、さみしそうだったもん。」

「儂は一人で寂しかったのか…。
 今まで、そんな感情は感じたことは無かったが…。
 確かに昔は、賑やかで楽しかったよのう。」

 私には分からなかったのですが、エリーには目の前のドラゴンが寂し気に見えたようです。

 しかし、実際問題、この大きさのドラゴンが棲める湖なんて、私の土地にはありませんよ。
 今、裏の森に棲んでいるドラゴン(もどき)は体長こそ長大ですが、細身で体積としてはさほどでもありません。
 他方、目の前にいるドラゴンは、さっきサリーが島みたいと言っていたほどの大きさがあるのですから。

 すると、

「そうよのう、童が遊びたいと願うのであれば邪険にも出来まいな。」

 ドラゴン(もどき)が、うちの娘達の言葉に心を動かされていました。
 
「あっ、こら、何を勝手に決めているの…。」
 
 私がそこまで言葉にした時点で、ポンと目の前の巨大なドラゴン(もどき)が消えました。

 そして、

「どらごんしゃん、かあいい!」

 そんな、はしゃぎ声をあげたエリーを見ると…、いました。
 縫いぐるみのような大きさになった、ドラゴン(もどき)が、すっぽりとエリーの腕に収まって。

「えりー、こんどは、さりーにだかせて!」

 サリーにせがまれたエリーは、ひとしきりドラゴン(もどき)の抱き心地を堪能するとサリーに手渡しています。
 二人のはしゃぎぶりを見ていると、「元いた場所に戻してきなさい。」とはとても言えませんでした。

       **********


「どうしましょう、あなた、その姿のままでいる事は出来ますか?
 私達、元々は森と泉に囲まれたアルムハイムという場所に住んでいるのですが。
 冬の間は、酷い雪が降るもので、この島にある屋敷に退避してきているのです。
 アルムハイムへ戻れば、先程の大きさでも暮らせる湖がありますが…。
 王都の屋敷では、そのサイズでなんとか浸かれる中庭の噴水の池くらいしかないのですが。」

 私のもとに引き取ることになりそうなので尋ねてみると。

「うん? おまえにも水の精霊が一人付いているではないか。
 その精霊、普段から水の中にいる訳ではなかろう。
 儂も水から出てこうして浮かんでおっても、別段苦にはならんぞ。
 単に水の中が心地良いから、水の中にいるだけであるし。
 あの大きさの方が、羽を伸ばせるからあの大きさでいるだけだからな。」

 そんな答えが返って来ました。
 私の契約している水の精霊のアクアちゃん、たしかに普段から水の中にいる訳ではありません。
 それに、同じ精霊型をした水の精霊でも、ユニコーン(もどき)は普段から陸にいますものね。
 つい先入観でものを言っていました、だって、水の中から出て来るのですもの…。

「じゃあ、ドラゴンさんをおうちに連れて行きましょうか。」
 
 私が、エリーとサリーにそう告げると。

「「わーい!まま、ありがとー! どらごんしゃん、よろしくね!」」

 二人が声を揃えて歓声を上げました。
 なんか、予定と違っちゃいましたが、これで調査隊が入れるようになるので、まあ良いでしょう。

「おや、せっかく精霊の棲む場所を保全しようとしているのに。
 お引越しですか、それは残念です…。」

 うちの裏の森に棲む聖獣たちのこともお気に入りだったメアリーさん、本当に残念そうです。
 メアリーさんとしては、この湖に棲み続けて欲しいのでしょうが。

「お婆ちゃん、気を落とさないで。
 お婆ちゃんのしている事は、私達にとって喜ばしいことよ。
 ここには、私以外にも沢山精霊がいるわ。
 またいらっしゃい、今度はお仲間を紹介してあげる。
 この手付かずの自然を永遠に残してくれると聞いたらみんな喜ぶわ。」

 風の精霊がそう慰めると、メアリーさんはとても喜んでいました。
 どうやら、もう一度メアリーさんをここまでご案内する必要がありそうですね。
 次回は、冬が終ってからにしたいと思います。

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