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第16章 冬から春へ、時は流れます
第433話【閑話】暖かい部屋で
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お腹いっぱいごはんを食べると、おチビちゃん二人はテーブルに突っ伏して寝ちゃった。
お腹が膨れたことに加え、部屋がとても暖かいのでホッとしたんだと思う。
とっても満ち足りた顔で、スヤスヤと寝息を立てている。
こんなおチビちゃんたちの顔は初めて見た。
そんなおチビちゃん二人を、ブラウニーのステラちゃんがソファーまで運んで寝かせてくれたの。
不思議な力で二人を浮かせて、ふよふよと空中を漂わせるように。
実はわたしも、暖かい部屋が心地良くて、ウトウトしてて眠ってしまいそうだった。
冬にこんな暖かい部屋があるなんて知らなかったから。
そんな時、シャルロッテ様がわたし達の話を聞きたいと言ったの。
「立ち入った話を聞くようで、申し訳ないけど。
あなた達のことを少し聞かせてもらえないかしら。
何か、あなた達に困っていることがあれば。
私、あなた達の力になってあげられるかも知れないから。
そうね、あなた達のお名前と、誰と一緒にどんな風に暮らしているか。
そんなことを教えてくれると嬉しいわ。」
シャルロッテ様は、とても優しい声でそう尋ねてきたの。
やはり、真っ先に答えたのは男の子だった。
ケリーと名乗った男の子は、飲んだくれて働かない父親に代わって荷役の仕事をしていると説明したの。
実は、わたし、この時初めて男の子の名前を知った。
男の子と知り合って、そこそこ時間が経ったけど男の子は名乗らなかったし、私の名前も聞いて来なかったから。
わたしは男の子の名前を知りたかったけど、聞けなかったの。
男の子に名前を尋ねれば教えてくれるでしょうけど、きっとわたしの名前も聞いて来るでしょう。
わたし、どうしてなのか、この男の子にだけは『フィフス』とは名乗りたくなかったの。
単なる『番号』でしかない『フィフス』という呼び名、『物』である奴隷を区別するだけの呼び名。
それをこの男の子に知られるのは、何故かとても嫌だった。
だから、男の子が何時まで経っても名前を尋ねてこないことに、わたしは少しだけホッとしてたの。
反面、わたしに関心を持ってもらえないのかと少し寂しくも思ったけど…。
この日、わたしは男の子の名前をケリー君としっかり頭の中に刻んだの。
これからは、ケリー君と呼びかけようと心に決めたんだ。
********
その後、ケリー君はおチビちゃん二人のことも、ケリー君の知る範囲で紹介していた。
ケリー君は、いつもおチビちゃん二人をチビ共と呼んでたけど。
やはり、おチビちゃん二人の名前を知らなかったみたい。
ケリー君の話が終ると、シャルロッテ様はわたしに尋ねてきたの。
「あなたのお名前は何というのかしら。
ケリー君のように、どんな暮らしをしているのかも教えてもらえると嬉しいわ。」
わたし、シャルロッテ様は何でそんな酷いことを聞くのかと思っちゃった。
ケリー君の前で『フィフス』と名乗れだなんて…。
でも、お腹いっぱいごはんを食べさせてくれて、暖かい部屋に入れてくれた。
それに、破れた服まで直してくれた恩人の尋ねることに答えない訳にいかないから。
「私、名前はないの。
物心ついた時は、農奴として働かされてて。
そこでは、フイフス(五番目)って呼ばれてた。」
わたしは、渋々だけど、正直に話したの。
「えっ、農奴ですって! そんなバカな!
フィフスちゃん、申し訳ないけど、もう少し詳しく教えてくれるかしら。」
わたしの話を聞いたシャルロッテ様はとても驚いたの。
どうやら、わたしが奴隷だったことが信じられなかったみたい。
この国ではずっと前に奴隷を使うことが禁じられてるらしいの。
詳しく話すように言われ、わたしは物心ついてからのことを話したの。
その時のわたしは、人と話すことが余りなかったし。
奴隷働きの中で、あまり言葉も教えてもらってなかったから…。
シャルロッテ様に分かるように話すのが難しかったの。
でも、そんな拙いわたしの話をシャルロッテ様は根気よく聞いてくれた。
そして、農園のご主人が役人に捕まって農園が閉鎖された事、そして農園を締め出された事を話し。
仕方なく、王都へ出来て来たことを話すと。
「この国の役人も困ったものね。
法に従って違法に奴隷を使役していた農園主を捕縛するのは当然として。
奴隷を解放するにしても、着の身着のまま、無一文で放り出してどうしろと言うの。
フィフスちゃんみたいな小さな子が一人で生きて行ける訳ないじゃない。」
シャルロッテ様はお役人さんのやりようにとても呆れていた。
そして、…。
「フィフスちゃんの事情は呑み込めたわ。
フィフスちゃんとおチビちゃん二人は身寄りも住む場所も無いのね。
じゃあ、三人の事は、私が何とかしてあげるわ。
どうするのが良いか少し考えるから、ちょっとだけ待っててね。
先にもう一人の子の話を聞いちゃうから。」
シャルロッテ様は、そう言うとケリー君の幼馴染の女の子の方へ話を向けたの。
その子の名前がロコちゃんと言うのも、この時初めて知った。
********
ロコちゃんの話を聞き終わったシャルロッテ様は、最初に私に向かって言ったの。
「まずは、フィフスちゃんね。
ねえ、フィフスちゃん、寝ている二人と一緒に私の所で暮らさない。
三人とも、大人になって自分で働けるようになるまでの生活を支援してあげるわ。
仕事だって、私の事業で雇ってあげても良いと思っている。
もちろん、他の仕事に就きたければ、それでも良いわよ。」
『支援』という言葉は初めて耳にする言葉だったの。
思わず、「生活の支援?」と聞き返しちゃった。
すると、わたしがシャルロッテ様の言葉の意味がわかってないと気付いたようで。
「毎日、温かい食べ物をお腹いっぱい食べさせてあげる。
それから、暖かい服と温かい寝床を用意してあげるわ。」
と分かり易いように説明してくれたの。
その時、そんなうまい話があるとは、わたしは信じられなかった。
その代わりに奴隷の時よりもっと大変な仕事をさせられるのではと思ったの。
「良いんですか?
わたし、水汲みと荷運びくらいしかできませんよ。
この町では誰もつかってくれませんでした。」
わたしがおそるおそる尋ねると、シャルロッテ様はとても優しい笑顔で言ったの。
「そうね、フィフスちゃんには、生活に必要な知恵も教えてあげるわ。
大人になる頃には、水汲みと荷運び以外にも色々なことが出来るようになるから。」
シャルロッテ様はわたしに働かせるつもりは無いと言うの。
わたしは言葉を始めとして知らない事が多過ぎると、シャルロッテ様は言い。
しばらくは色々な知恵を身に付けるのが仕事のようなものだと言うの。
毎日、温かい食べ物をお腹いっぱい食べさせもらえる?
暖かい服と温かい寝床を用意してもらえる?
仕事もしないで?
それこそ、そんなバカなって思ったの。
「本当ですか?」
そう尋ねてしまったわたしは、相当用心深い目でシャルロッテ様を見ていた。
すると、シャルロッテ様は、身を屈めて小さなわたしと目と目をあわせるようにしたの。
そして、とても優しい声で言ってくれたの。
「ええ、本当よ。
嘘はつかないわ。
あそこに寝ている二人と一緒に大人になるまで、私の所で暮らしなさい。」
その時、わたしを見つめる目はとても優しい目をしてた。
シャルロッテ様は本当にわたしのことを心配してくれているんだと感じの。
今まで、『物』でしかないわたしを心配してくれた大人はいなかった。
たぶん、シャルロッテ様が初めてだ。
そう感じて、わたしはシャルロッテ様のことを信じてみようと思ったの。
わたしは、シャルロッテ様のお気持ちがとても嬉しくて、涙があふれて来た。
「はい、お願いします…。助けてください…。」
涙が止まらなくて、途切れ途切れにそうお願いするのがやっとだった。
この日、わたしは、ずっと欲しいと思ってた、心の休まる居場所を手に入れたの。
********
*並行して新作を投稿しています。
『ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
12時10分、20時30分の投稿です。
お読み頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
↓ ↓ ↓ (PCの方の向け)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/255621303/784533340
お腹が膨れたことに加え、部屋がとても暖かいのでホッとしたんだと思う。
とっても満ち足りた顔で、スヤスヤと寝息を立てている。
こんなおチビちゃんたちの顔は初めて見た。
そんなおチビちゃん二人を、ブラウニーのステラちゃんがソファーまで運んで寝かせてくれたの。
不思議な力で二人を浮かせて、ふよふよと空中を漂わせるように。
実はわたしも、暖かい部屋が心地良くて、ウトウトしてて眠ってしまいそうだった。
冬にこんな暖かい部屋があるなんて知らなかったから。
そんな時、シャルロッテ様がわたし達の話を聞きたいと言ったの。
「立ち入った話を聞くようで、申し訳ないけど。
あなた達のことを少し聞かせてもらえないかしら。
何か、あなた達に困っていることがあれば。
私、あなた達の力になってあげられるかも知れないから。
そうね、あなた達のお名前と、誰と一緒にどんな風に暮らしているか。
そんなことを教えてくれると嬉しいわ。」
シャルロッテ様は、とても優しい声でそう尋ねてきたの。
やはり、真っ先に答えたのは男の子だった。
ケリーと名乗った男の子は、飲んだくれて働かない父親に代わって荷役の仕事をしていると説明したの。
実は、わたし、この時初めて男の子の名前を知った。
男の子と知り合って、そこそこ時間が経ったけど男の子は名乗らなかったし、私の名前も聞いて来なかったから。
わたしは男の子の名前を知りたかったけど、聞けなかったの。
男の子に名前を尋ねれば教えてくれるでしょうけど、きっとわたしの名前も聞いて来るでしょう。
わたし、どうしてなのか、この男の子にだけは『フィフス』とは名乗りたくなかったの。
単なる『番号』でしかない『フィフス』という呼び名、『物』である奴隷を区別するだけの呼び名。
それをこの男の子に知られるのは、何故かとても嫌だった。
だから、男の子が何時まで経っても名前を尋ねてこないことに、わたしは少しだけホッとしてたの。
反面、わたしに関心を持ってもらえないのかと少し寂しくも思ったけど…。
この日、わたしは男の子の名前をケリー君としっかり頭の中に刻んだの。
これからは、ケリー君と呼びかけようと心に決めたんだ。
********
その後、ケリー君はおチビちゃん二人のことも、ケリー君の知る範囲で紹介していた。
ケリー君は、いつもおチビちゃん二人をチビ共と呼んでたけど。
やはり、おチビちゃん二人の名前を知らなかったみたい。
ケリー君の話が終ると、シャルロッテ様はわたしに尋ねてきたの。
「あなたのお名前は何というのかしら。
ケリー君のように、どんな暮らしをしているのかも教えてもらえると嬉しいわ。」
わたし、シャルロッテ様は何でそんな酷いことを聞くのかと思っちゃった。
ケリー君の前で『フィフス』と名乗れだなんて…。
でも、お腹いっぱいごはんを食べさせてくれて、暖かい部屋に入れてくれた。
それに、破れた服まで直してくれた恩人の尋ねることに答えない訳にいかないから。
「私、名前はないの。
物心ついた時は、農奴として働かされてて。
そこでは、フイフス(五番目)って呼ばれてた。」
わたしは、渋々だけど、正直に話したの。
「えっ、農奴ですって! そんなバカな!
フィフスちゃん、申し訳ないけど、もう少し詳しく教えてくれるかしら。」
わたしの話を聞いたシャルロッテ様はとても驚いたの。
どうやら、わたしが奴隷だったことが信じられなかったみたい。
この国ではずっと前に奴隷を使うことが禁じられてるらしいの。
詳しく話すように言われ、わたしは物心ついてからのことを話したの。
その時のわたしは、人と話すことが余りなかったし。
奴隷働きの中で、あまり言葉も教えてもらってなかったから…。
シャルロッテ様に分かるように話すのが難しかったの。
でも、そんな拙いわたしの話をシャルロッテ様は根気よく聞いてくれた。
そして、農園のご主人が役人に捕まって農園が閉鎖された事、そして農園を締め出された事を話し。
仕方なく、王都へ出来て来たことを話すと。
「この国の役人も困ったものね。
法に従って違法に奴隷を使役していた農園主を捕縛するのは当然として。
奴隷を解放するにしても、着の身着のまま、無一文で放り出してどうしろと言うの。
フィフスちゃんみたいな小さな子が一人で生きて行ける訳ないじゃない。」
シャルロッテ様はお役人さんのやりようにとても呆れていた。
そして、…。
「フィフスちゃんの事情は呑み込めたわ。
フィフスちゃんとおチビちゃん二人は身寄りも住む場所も無いのね。
じゃあ、三人の事は、私が何とかしてあげるわ。
どうするのが良いか少し考えるから、ちょっとだけ待っててね。
先にもう一人の子の話を聞いちゃうから。」
シャルロッテ様は、そう言うとケリー君の幼馴染の女の子の方へ話を向けたの。
その子の名前がロコちゃんと言うのも、この時初めて知った。
********
ロコちゃんの話を聞き終わったシャルロッテ様は、最初に私に向かって言ったの。
「まずは、フィフスちゃんね。
ねえ、フィフスちゃん、寝ている二人と一緒に私の所で暮らさない。
三人とも、大人になって自分で働けるようになるまでの生活を支援してあげるわ。
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わたしがおそるおそる尋ねると、シャルロッテ様はとても優しい笑顔で言ったの。
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大人になる頃には、水汲みと荷運び以外にも色々なことが出来るようになるから。」
シャルロッテ様はわたしに働かせるつもりは無いと言うの。
わたしは言葉を始めとして知らない事が多過ぎると、シャルロッテ様は言い。
しばらくは色々な知恵を身に付けるのが仕事のようなものだと言うの。
毎日、温かい食べ物をお腹いっぱい食べさせもらえる?
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仕事もしないで?
それこそ、そんなバカなって思ったの。
「本当ですか?」
そう尋ねてしまったわたしは、相当用心深い目でシャルロッテ様を見ていた。
すると、シャルロッテ様は、身を屈めて小さなわたしと目と目をあわせるようにしたの。
そして、とても優しい声で言ってくれたの。
「ええ、本当よ。
嘘はつかないわ。
あそこに寝ている二人と一緒に大人になるまで、私の所で暮らしなさい。」
その時、わたしを見つめる目はとても優しい目をしてた。
シャルロッテ様は本当にわたしのことを心配してくれているんだと感じの。
今まで、『物』でしかないわたしを心配してくれた大人はいなかった。
たぶん、シャルロッテ様が初めてだ。
そう感じて、わたしはシャルロッテ様のことを信じてみようと思ったの。
わたしは、シャルロッテ様のお気持ちがとても嬉しくて、涙があふれて来た。
「はい、お願いします…。助けてください…。」
涙が止まらなくて、途切れ途切れにそうお願いするのがやっとだった。
この日、わたしは、ずっと欲しいと思ってた、心の休まる居場所を手に入れたの。
********
*並行して新作を投稿しています。
『ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
12時10分、20時30分の投稿です。
お読み頂けたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
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