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第16章 冬から春へ、時は流れます

第413話 そんな話、聞いていません

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 プレオープンを二日後に控えた五月十八日、私は帝都へおじいさまをお迎えに上がりましした。
 流石に、お招きするお三方を一日で迎えに行くのは無理です。
 特に、聖都には転移魔法の発動媒体を設置していないので、馬車でお迎えに行かないとなりませんし。

 と言うことで、まず最初におじいさまをお迎えに上がったのです。
 皇宮の居住区画に借りている部屋に転移すると…。
 目の前に壁がありました。

 目を凝らして良く見ると、それは壁ではなく、見上げるほどに積まれた木箱のようです。
 私の部屋に何でこんなものがと、不思議に思いつつもテーブルの上の呼び鈴を手にしました。

 例によって、待ち構えていたかの如く皇宮侍女がすぐさま姿を現します。

「姫様、お帰りなさいませ。
 荷物のせいで、狭苦しい思いをさせてしまい申し訳ございません。
 ただいま、陛下にお取次ぎいたしますので、少々お待ちください。」

 皇宮侍女は、それだけ言って慌ただしく部屋を出て行きました。
 この木箱の説明は無いのですね…。 

「ロッテや、待っておったぞ。
 久しぶりの休暇じゃからな、心待ちにしていたのだ。
 ましてや、孫娘が造ったホテルに招待して貰えるのじゃからな。
 こんな心が躍る休暇は生まれて初めてじゃ、長生きはするもんじゃな。」
 
 程なくして部屋にやって来たおじいさま。
 開口一番、そんな言葉を口にします。
 生まれ始めて何て大袈裟ですが、とても上機嫌の様子です。

「お待たせして申し訳ございません。
 自分では納得のいくホテルを造ったつもりですが…。
 そんなに期待されますと、おじいさまをガッカリさせないか不安になります。」

 一流のモノを知り尽くしているおじいさまからの、過剰な期待はプレッシャーを感じてしまいます。

「私は、可愛い孫娘が真っ先に招待してくれるということが嬉しいのじゃ。
 言い方が悪いかもしれんが、ロッテの招待であればあばら家だって嬉しぞ。」

 あばら家は酷いですが、おじいさまは本心からそう思っているような様子です。
 私の招待と言うことで喜んでいるのであれば、私としても嬉しいです。

「時におじいさま、この部屋に積み上げられてた木箱。
 これは、いったい何なのでしょうか?」

 私がそれを指差して尋ねると。

「これは、私からロッテへの心ばかりの開業祝だよ。
 本当はもっとずっと前に送りたかったのだが。
 アルム地方は雪で閉ざさておるからのう。
 もう揃えてしまっておるだろうが。
 消耗品であるし、幾らあっても困る物ではあるまい。」

 おじいさまが、開業祝だという木箱の中身は帝国磁器工房の食器セットでした。
 モチーフが統一された柄のシリーズを全シリーズ、百ピースずつ揃えたと言います。
 道理で、膨大な量になるはずです。
 おじいさまの話では、私がホテルの食器類を揃える前に届けたかったそうです。
 ですが、雪で交通が閉ざされているため、それが出来ませんでした。
 雪融けを待って急いで運ぶと、ワレモノ故、破損してしまうかも知れません。
 なので、私が来るのを待っていたそうですが…。
 
 最近、私が帝都を訪れていなかったので、渡す機会が無かったそうです。
 ええ、食器とか細々した備品を揃えるため、東奔西走していたのです。
 …失敗しました、先にここに来ていれば…。

 しかし、この木箱の中身が全部、目が飛び出るほど高価な帝国磁器工房の品って…。
 いったい幾らかかったのでしょうか。

「おじいさま、お気持ちはとっても嬉しいのですが…。
 これって、とんでもなくお金が掛かってますよね。
 こんなたいそうな品を頂戴してしまってよろしいのですか?」

「何を遠慮しておるんだ。
 大切な孫娘が最高のホテルを造りたいと言っているのだぞ。
 最高の食器を揃えてあげたいとも思うであろうが。
 それに、帝国磁器工房のオーナーは私だ。
 このくらいの融通は幾らでも利かせることが出来るよ。
 オーナー特権を振りかざせるのもこれが最後であろうからな。」

 遠慮がちな私の言葉に、おじいさまは笑いながら答えました。
 オーナー権限で、品物を揃えさせたのですね。
 これだけの数です、きっと、帝国時工房の方に無理をさせてしまいましたね。

 私は一旦アルムハイムの館に戻り、ブラウニー隊のみんなに宝物庫で待機するようにお願いしました。
 大量の木箱を送りますので、速やかに整理してもらわないと大変なことになります。

      ********

 大量の木箱の転送も終わり。
 おじいさまと一緒にアルムハイムの館へ転移しようとして初めて気付きました。
 おじいさまの荷物がやけに多い事を。

 ホテルに滞在いただくのは三日間、今日明日を入れても五日間です。
 もちろん、滞在日程はおじいさまに伝えてあります。

 ですが、その荷物たるや、ゆうに半月は旅に出るかという大荷物でした。

 私が、荷物が多いのではないかと尋ねると…。

「おお、これか?
 私もアルビオンまで、そなたの晴れ姿を見に行こうかと思ってな。
 ロッテが勲章をもらう日まで、休みを取ったのだ。
 宰相に仕事を押し付けてな。」

 しれっと、そんな事をのたまうおじいさま。
 仕事を押し付けられる宰相が可哀想ですね。

 じゃ、なくて、聞いてませんよ、おじいさま。

 おじいさまは、六月上旬に予定されている私の受勲式を見に来るつもりのようです。
 それまで、私の館に滞在すると。

「おじいさまが館に滞在されるのは、私はいっこうにかまいませんが。
 よろしいのですか、半月近くもお休みになって。
 ましてや、皇帝がお忍びで他国へ出かけてしまうなど許されるのですか。」 

「うん?
 お忍びではないぞ、ほれ、これがそなたの受勲を祝う晩餐会の招待状だ。
 そこには、晩餐会の席で、そなたをエスコートするようにと書かれておる。
 先般ジョージ国王から送られてきたんだよ。」

 何と、ジョージさんもグルのようです。
 これも一種のサプライズでしょうか。
 まさか、私抜きでそんな事になっているとは思いもしませんでした。

 正式な晩餐会は、男女ペアで参加するもので、普通は夫婦。
 未婚の女性の場合は、父親か男兄弟が普通だと耳にしたことがあります。
 それ以外の殿方にエスコートしてもらうと関係が取り沙汰されてしまうと。

 その晩餐会の主役である私にエスコート役がいないのでは締まらないと言うことで。
 唯一血縁である殿方として、おじいさまに白羽の矢が立ったそうです。
 ですので、おじいさまのスケジュール上は、きちんと国外へ出ることは記録されていると言います。

 初めて参加する正式な晩餐会で、帝国皇帝の孫娘としてお披露目されてしまうのですか。
 果たしてそれで良いのでしょうか。
 私達の一族は今まで、帝国、そして皇帝一族とは距離を取って来ました。
 亡くなったお母様やおばあ様が、もし耳にしたとしたら烈火のごとく叱られそうなのです。

「私も歳だからのう、おそらくこれが最後の外遊になるであろう。
 その最後の外遊が、孫娘の勲章受勲の付き添いだなんて思いもしなかった。
 嬉しいことよのう、本当に長生きした甲斐があるわ。」

 でも、本当に嬉しそうなおじいさまを見ていると、とてもダメとは言えませんでした。
 こうして、おじいさまは、しばらくの間、アルムハイムの館に逗留することになりました。

   ********

*並行して新作を投稿しています。
 『ゴミスキルだって育てりゃ、けっこうお役立ちです!』
 ゴミスキルとバカにされるスキルをモグモグと育てた女の子の物語です。
 12時10分、20時30分の投稿です。
 お読み頂けたら幸いです。
 よろしくお願いいたします。 
 ↓ ↓ ↓ (PCの方の向け) 
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/255621303/784533340
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