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第16章 冬から春へ、時は流れます

第399話 決め手は子供たちの笑顔です

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「これで、完成です。
 みなさん、お疲れさまでした。
 ご協力に感謝いたします。」

 ノノちゃんが、十人の男達に向かって感謝の意を表します。
 そう、ノノちゃんが手掛けていた雪のオブジェが完成したのです。

 ノノちゃんは、労をねぎらいながら一人一人に参加賞の食券を手渡していきました。

「なに、なに、こっちこそ楽しませてもらったぜ。
 先着にもれた時は、参加できねえかとガッカリしたもんだが。
 嬢ちゃんのおかげで、参加できてよかったよ。」

 ノノちゃんが話していた通り、この方達は建築関係の職人さんだそうで
 冬の間、特に年明けは仕事がとても少なくて暇を持て余してるそうです。
 このイベントの告知を見て、腕の見せ所とばかりに張り切ってやって来たそうです。
 すごいモノを作って王都の人をビックリさせようと思って来たみたいですが。
 同時に、春以降の仕事を獲得するために商会の宣伝も目論んでいたようです。

 ちなみに、完成した作品の前には看板を立てられ、作品名と製作者、それに簡単な解説が記されています。
 ノノちゃんの作品の場合、作品名の下に製作者として、ノノちゃん名前と十人が所属する商会名が記されていました。
 十人それぞれの名前を記そうとしたら、『○○商会一同』の方が宣伝になるからと希望されたのです。

「俺達は、自分らなりに自信のある題材を作ろうと思って来たんだが。
 嬢ちゃんの下に就いてよかったぜ。
 こっちの方が遥かに良い題材だわ、俺達も腕の振るいようがあったぜ。」

 一同の親方らしき御仁が、完成した作品を見上げて言います。
 ノノちゃんの出し物は、高さ三ヤードはあろかという、雪で作らた教会。
 看板には、『奇跡の教会』と記されています。

 そう、題材はシューネフルトにある聖教の教会です。
 アルム地方を紹介するのにこれ以上相応しいモノは無いと、ノノちゃんは思ったそうです。
 概ね、四、五分の一程度に縮尺された教会は、細部に至るまで精巧に再現されています。
 「良くそんな細かいところまで覚えているな。」と手伝った職人さんが舌を巻いたほどです。

 そして、勿論看板には、昨年の夏に教会に起こった奇跡について記されています。

 この日完成したのはノノちゃんの作品だけではありませんでした。
 なんと、わずか三日で、十組の参加者、全ての作品が出そろったのです。
 ノノちゃんの情報では、参加者の大部分はプロの職人さんとのことでどれも見事な作品でした。
 
 これは、嬉しい誤算でした。
 正直なところ、参加賞目当ての冷やかし組がかなりいるのではないかと覚悟していました。
 最終日には、途中で投げ出された無残な雪の塊が多数見られるのではと。
 お祭りなので、参加した人が楽しければ、それでも良いかとは思っていましたが。
 なんと、七日の制作期間を見込んだイベントが三日で完成し、どれも見事な出来栄えです。
 お客さんの目を楽しませる催しが一つ増えました。

 その日、私はさっそく『雪のオブジェ』の会場を、公開することにしました。

     ********

 『スノーフェスティバル』は好評を博し、連日多くの人でにぎわう事となります。

 ケリー君を、雇ったのは大正解でした。
 年少の子供向けのソリ遊び会場に配置したのですが。
 ソリの貸し出しや順番待ちの列の整理に始まり。
 一人で小山の上まで登れない子供を抱き上げて登ったり。
 果ては、迷子になった子供の親御さん探しまでしていました。

 中でも、評判が良かったのが、雪の斜面で転げた子供のケアです。
 コロコロ転がる子供がケガをしないように抱き留めたり、雪塗れになった雪を掃ってあげたりと。
 行き届いた対応に、転げた子供だけでなく、親御さんが大変喜んでくださいました。

 一週間にも満たない期間ですので、言葉遣いは直しようも無く、荒いままでしたが。
 子供達には言葉遣いなど関係ないようで、ケリー君は小さな子供たちの人気者になっていました。

 ケリー君には気の毒ですが、他の四人には期間中、思いっ切り遊んでもらいました。
 ちゃっかり、スラムの外の公園で遊んでいたロコちゃんは別として。
 子供達は広い所で遊んだことがないなんて、切ない事を聞かされてしまいました。
 今まで狭い路地に閉じ込められていた分、気の済むまでのびのびと遊ばせたいと思ったのです。

 そして迎えた最終日。

「おお、これはどれも見事な出来栄えだ。
 どれも良く出来ているのはもちろんだが。
 この大きさには圧倒されるな。
 どれも、見上げるような大きさではないか。」

 雪のオブジェの品評のために、会場を訪れたジョージさんが感心しています。
 どの作品も、昨年のノノちゃんの『雪の城』を念頭に大きさを決めたようです。
 高さ二ヤードを超えるような大きな物ばかりで、確かに見上げてしまいます。

 その後時間をかけて、つぶさに作品を見て回るジョージさんがですが…。
 作品と看板を見て歩くうちに、若干表情が萎んでしまいました。

「いや、どれも良く出来ているとは思うのだよ…。
 しかしだな、これはいったい何なのだ?
 作品名が『○○氏邸』と言うのがやたら多いじゃないか。
 しかも、○○氏ってのは聞いたこともないぞ。
 ノノちゃんの作品みたいに著名な建物がとか。
 あるいは、去年の『雪の城』みたいに全く空想の夢溢れるモノとか。
 あとは動物の雪像などもあるかと思ったのだが。
 何と言ったら良いか、せっかくのお祭りなのに現実に引き戻される?」

 ジョージさんの感想も頷けるものがあります。
 どれも、予想以上の出来栄えの素晴らしい作品なのですが。
 近づいて、看板を見ると…。

「作品名 ○○氏邸
 出品者 ○○組一同(建築屋の名前)
 解説 当商会が昨年請け負ったお宅です。
    当商会は腕の立つ職人揃いです。
    ご自宅を建てられる際はぜひご用命ください。」

 判を押したように、同じような事が記されていました。
 みなさん、仕事の減る冬場に自分の商会の名を売ろうと考えたようです。
 まっ、良いですけどね。王都の識字率は約五割だと言います。
 お客さんの半分は、これが宣伝だと気付かず、出来栄えに感心して帰るのですから。

 残念に感じるのは、ジョージさんのように看板に記された文字が読める人だけです。

 実に十組の参加者のうち、七組までがこうしたもので。
 何と言えば良いでしょうか、さながら『住宅展示場?』と化しています。

 これに関しては、出品者の方にも一応言い分はあるようで。
 実は私も同じ感想を抱いて、参加している方に尋ねてみたのです。
 すると、返って来た答えは。

「決まっているじゃないですか。
 少しでも良いものを作ろうと思ったら、最近建てた建物を題材にするに。
 その方が記憶が鮮明にあるから、そっくりに出来るでしょう。」

 お説ごもっともです。
 『良いもの』を『本物そっくりなもの』というなら、その通りですね。
 別に、実際にあるモノを模写しろとは言ってないのですが…。

 そんな訳で、ジョージさんの目に留まったモノはと言うと。

 堂々たる佇まいの『ドラゴン』の雪像。
 デフォルメされた可愛い『クマ』の雪像、どちらかと言えば巨大な『クマの縫いぐるみ』の雪像ですか。
 そして、最も目を引いたのは、大きな『蒸気機関車』の雪像です。

 『ドラゴン』と、『クマの縫いぐるみ』は子供に大人気で、今も子供が集まっています。

 『蒸気機関車』はと言うと、これも宣伝だったらガッカリだなと思いましたが。
 幸いにも作ったのは、蒸気機関車に魅せられた愛好家の集まりでした。
 さすが、愛好家というだけあって、細部まで精巧に再現されています。
 わざといびつな形に握った雪玉を大量に積んで石炭を表現しているのがリアルです。

 一通り見て歩いたジョージさんは、参加者を集めて賞を発表します。

「どれも、甲乙つけがたい素晴らしい出来であった。
 覚えておろうが、賞は物の良し悪しではなく、私が気に入った物であるからな。
 私が一番気に入ったのは、『クマ』だな。
 子供達に楽しんでもらおうという、このお祭りの趣旨に一番適っている。
 今も、『クマ』の周りは子どもの笑顔が絶えないではないか。
 文句なしの一等だ。
 二等は、『奇跡の教会』だな。
 主催者側に贈るのも癪だが、細部まで良く出来ている。
 題材としても、アルム地方を代表する建物なのが好ましいと感じた。」

 意外にも、一等は『クマの縫いぐるみ』でした。
 ジョージさんは、精巧な『蒸気機関車』より子供の笑顔の方を選んだようです。

     ********

 そして、国王自らの手により金一封が受賞者に贈られました。
 全ての参加者と見物人から惜しみない拍手を受けて、受賞者は皆大喜びです。

「私は仕事でこれを作ったので、私が受け取る訳にはいきません。
 これは、皆さんで分けてください。
 お疲れさまでした。」

 ジョージさんから二等の金一封を受け取ったノノちゃん。
 手伝ってくれた職人さん達に、受け取った布袋をそのまま差し出しました。

「おい、おい、良いのかい。
 俺達は、お嬢ちゃんの指図で動いただけだぜ。
 肝心なところは、全部お嬢ちゃんがやったじゃないか。」

 職人さんの一人が、遠慮しますが。

「私はちゃんと給金を頂いているので、お気になさらないでください。
 あんなに早く出来たのは、みなさんのおかげです。
 本来はお給金を払いたいくらいです。」

 布袋を差し出したまま、ノノちゃんは屈託のない笑顔で言いました。

「そうかい、悪いな。
 じゃあ遠慮なくもらっておくわ。
 なんてったって、国王陛下から下賜された金一封だ。
 帰ったら、女房に自慢できるぜ。」

 ノノちゃん笑顔が決め手でしょうか、職人さんは受け取る気になったようです。

「じゃあな、短い時間だったが楽しかったよ。
 また、どっかで顔を見たら、声を掛けてくれ。」

 手を振りながら、職人さん達が帰っていきます。

 『スノーフェスティバル』も、もうそろそろ幕を下ろす時間です。
 今年も、沢山の子供たちの笑顔が見れて良かったです。

 でもこれ、来年も催すことになるのでしょうか?
 
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