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第16章 冬から春へ、時は流れます
第391話 ロコちゃんのお母さん
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「さて、落ち着いて話がしたいのだけど。
ここでは無理そうね。
私の馬車の中で腰を落ち着けてお話しましょうか。」
私はロコちゃんのお母さんを馬車の中に誘いました。
この部屋、ロコちゃんのお母さんが几帳面なのか、キレイに片付けられてはいます。
ですが、部屋にはベッドがあるだけ、他にスペースが無いのです。
腰を落ち着ける場所もありません。
ロコちゃん達二人を浮遊の魔法で浮かべて馬車に移します。
そして、人目に付かない上空までヴァイスに上がってもらいました。
「これは、凄い!
空を飛べる馬車があるなんて、たまげたね。」
ロコちゃんのお母さんが窓から王都を眺めて驚いています。
王都の上空、街全体が見渡せるくらいの高さまで登ったところで馬車は制止しました。
そこで、私は話を始めることにしました。
「さっき、自己紹介したけど、私はシャルロッテ・フォン・アルムハイム。
今、王都の外れにあるサクラソウの丘で、『スノーフェスティバル』を主催しているの。
今日、ロコちゃん達スラムの子供が遊びに来てくれたのだけど。
王都の市民に邪険にされててね、そこで私が保護したのよ。」
「そいつは手間をかけさせたね、有り難うよ。
私はリンダ、ロコの母親さ。
悪いね、お貴族様に対する口の利き方を知らないもんだから。
多少の無礼は勘弁しておくれ。
私らスラムの人間は、煙たがられてるからね。
何も子供にまで邪険にするこたぁ無いと思うんだけど。」
日頃からロコちゃんには、スラムの外では遊ぶなと注意していたとリンダさんは言います。
何で外に行ったのだろうと首を捻るリンダさんに、私は子供たちから聞いたことを話しました。
ロコちゃんと一緒に来た子供たちの中に身寄りのない子がいることから始めて。
その子達がお腹を空かせて、催しに参加するともらえる食べ物を目当てに遊びに来たこと。
そして、身寄りのない三人は、ここ数日まともな食事を摂れていなかったことなどを。
「そんな感じで、色々と事情を聞かせてもらったのだけど。
身寄りのない三人は、私が引き取って育てることにしたわ。」
「そいつは、慈悲深いこって。
でも、それが何で、私らを保護しようと言う話になるんだい。
そりゃあ、こんな所に住んでカツカツの生活しちゃあいるが。
ロコには不自由な生活をさせていないつもりだよ。」
リンダさんには、まだ私の事を警戒している様子が見られます。
まあ、スラムに住んで、普段から街の人々に煙たがられていれば当然かも知れませんね。
いきなり貴族が現れて保護するなんて、そんな虫の良い話など信じられないのでしょう。
********
「そうね、ロコちゃんにはリンダさんという優しいお母さんがいるようだし。
何とか、衣食住は足りているようだから、放っておこうかとも思ったの。
私も慈善活動家ではないし、あまりお節介を焼くのもどうかと思うから。
でもね、ロコちゃんが病気だって知っちゃったから、放っておく訳にも行かなくて。」
「ロコが病気だって?
そんなはずがないだろう、こんなに元気なんだぞ。」
「ええ、そうですね。
でも、リンダさん、あなたならご存じのはずよ。
あなたのお仕事で罹り易い病気には、余り症状がでない病気がある事を。」
最初は半信半疑の様子だったロコちゃんのお母さんですが、私の指摘を耳にして顔色が変わりました。
狼狽した表情になり、声を荒げて問い掛けてきます。
「おい、まさか、ロコの背中に梅の花弁が散っていたって言うんじゃないだろうな!」
ああ、なるほど、最悪の事態を想像したのですね。
「そこは安心して良いわ。
ロコちゃんが感染していた病は四種類、どれも命に関わるものではなかった。
でもね、安心しちゃダメ、ロコちゃんは何処でそんな病気に感染したのかしら?」
最初、恐れていた病気ではないと聞き、安堵の表情を見せたリンダさんですが…。
続く私の問い掛けに、リンダさんは顔を蒼白にさせます。
「まさか、私からかい…。」
言葉に詰まるリンダさん。私はそれに頷き、精霊達に出て来てもらいました。
「ごきげんよう、ロッテちゃん。
その方が、ロコちゃんのお母さんですか?」
白銀の髪をたおやかに揺らしながら姿を現したのは、水の精霊アクアちゃん。
アクアちゃんは、リンダさんの様子を伺いながら尋ねてきました。
私がお願いするまでも無く、リンダさんの健康状態を観察しているようです。
「ええ、そうよ。ロコちゃんのお母さんのリンダさん。
それで、どうかな?」
「はい、ロッテちゃんの予想通りだと思います。
ロコちゃんが患っていた病と同じモノをリンダさんも患っていますね。
リンダさんの方が多少進行していますので。
やはり、リンダさんからロコちゃんに感染したのかと。」
アクアちゃんの返答を聞いた私は、リンダさんに告げました。
「だそうよ。
リンダさん、あなたもロコちゃんと同じ病気を持っているわ。
そして、ロコちゃんの病気はあなたが感染源で、十中八九間違いないわ。」
私はかなり大切な事を言ったのですが、リンダさんからのリアクションがありません。
怪訝に思い、リンダさんの様子を窺うと…。
リンダさん、目を丸くして呆然としていました。
「おい、なんだ、そのちっこいのは?
まさか人間だとは言わないよな。
そんなちっこい人間いる訳ねぇし、何よりも宙に浮いているじゃないか。」
リンダさん、精霊の存在に驚愕して、私の言葉が耳に届いていなかったようです。
「ああ、驚かしてゴメンなさいね。
この子達は精霊。
私の一族は古から精霊と契約して、その超常の力を借りることができるの。
今、話していたのは水の精霊アクアちゃん、人の健康状態を観ることが出来るわ。
アクアちゃんの後ろにいる深窓の令嬢みたいな子が、光の精霊シャインちゃん。
シャインちゃんは少し人見知りで、口数が少ないの。
シャインちゃんは、人の体に巣食う病魔を滅する力を持っているのよ。」
「精霊…。そんなモノがいるなんて初めて聞いた。
って、おい、今、病魔を滅するといったか?
それは、病を治せるってことなのかい?
もしそうなら、頼む、ロコを治してやってくれ。
お願いだ!ロコはたった一つの私の宝なんだ!」
リンダさんは、精霊のお伽噺を聞いたことがないようで、精霊という言葉自体が初耳の様子でした。
ですが、シャインちゃんが病魔を滅するという言葉はきちんと耳に届いたようで。
シャインちゃんに向かって、必死に懇願しました。
リンダさんの願いを耳にしたシャインちゃんは、私を窺い見ます。
私が頷くと。
「安心してください。
幼子が病に蝕まれているのを見過ごしてはおけません。
既に、その子の病は癒してあります。
今、姿を見せたのはあなたの病を癒すためです。
早速、病魔を祓ってしまいましょうか。」
そして、すぐさま金色に輝く光のシャワーがリンダさんに降り注ぎます。
「なんだ、この光は…。
あったかい…。
まるで、子供の頃に感じた母さんの温もりのようだ…。」
シャインちゃんの降らす光に包まれたリンダさん、再び呆然としていましますが。
体に染み入る癒しの光に温もりを感じたようで、ポツリとそんあ呟きをもらしました。
やがて、降り注ぐ光が全て消え去り。
「いかがですか、体の具合は?
体に巣食う病魔は全て退治しましたが。」
シャインちゃんが問い掛けました。
「おお、この辺に感じたむず痒さが消えているよ。
有り難うよ、精霊さん。
あれが、病気だったんだね。全然気にしていなかったわ。」
リンダさんは、下腹部を擦りながらシャインちゃんにお礼を言っています。
全然気にしていなかったですか…、その無自覚さが恐ろしいです。
そうやって、気付かないうちに感染を広げてしまうのですね。
工房の悪ガキ共が娼館遊びを覚えないように、気を付けないといけませんね。
寄宿舎で広まったら目も当てられませんから。
********
「これで、私の言う事を少しは信じてもらえるかしら?」
病を癒してもらったところで、私はリンダさんに声を掛けました。
「おう、疑っていて悪かった。
ロコと私の病気を治してもらって有難うよ。
恩に着るぜ。」
そう言って、表情を和らげたリンダさん、これで話を進められそうです。
「リンダさん、よく聞いてください。
あなたは単に運が良かっただけ。
あれだけ幾つもの病気に感染していたのです。
その中に、命に関わるものがあっても不思議ではなかったのですよ。
これからも今のお仕事を続けて行くのなら、常にそのリスクを負うことになります。
それはリンダさんだけではなく、ロコちゃんにもうつすかも知れないのです。
そうなったら、後悔してもしきれないのではないですか。
無理強いするつもりはありせんが、私の許に来ませんか?
私は幾つかの事業をしていて、リンダさんを雇い入れることが出来ますよ。」
「リスクって言葉がどういう意味か分かんねえけど。
お貴族様の言いたいことは分かったよ。
でもよ、私は今のお貴族様より若い頃から酒場で客を取って来たんだ。
仕事なんて、それしかしたことが無いんだぜ。
お貴族様の下で働けったって、私に出来る仕事なんてあるんかい。」
「そうですね、今のリンダさんにお願いできる仕事は私の館の雑役くらいでしょうか。
春になればホテルが開業しますので、掃除とか洗濯の仕事ならできると思います。
ただし、リンダさんにやる気があるなら、若い見習いと一緒に研修を受けてもらいます。
読み書き計算に、礼儀作法をキチンと学んでもらえば、もっと給金の高い仕事を与えますよ。」
私は、思いつく仕事の内容と給金の条件などを説明しますが、その途中で…。
「給金が一月で銀貨百枚だって。
お貴族様、そりゃあいくら何でも足元を見過ぎだろうに。
それじゃあ、宿代を払ったらロコにまともなメシも食わせてやれないじゃないかい。
そりゃ、私は場末の酒場で客を引いてるけどね、月にその倍以上は稼いでるよ。」
おや、ロコちゃんにちゃんとした身なりをさせていると思ったら、結構稼いでいるのですね。
いっぱしの職人くらいの収入があるようです。
ただ、リンダさん、少しばかり早合点をしているようです。
「まだ、話の途中ですよ、最後まで聞いてください。
リンダさんの住む場所は私が無償で用意しますから宿代は掛かりませんよ。
もちろん、仕事着も無償で支給しますので、服代は私用のモノだけで済みます。
それと、銀貨百枚というのは、今のリンダさんに出来る仕事の給金です。
読み書き計算に礼儀作法を修得してもらえれば、もっと高い給金の仕事に就けますよ。
もちろん、そのための研修も無償で受けられます。」
「なに、寝床と仕事着をタダで用意してもらえるのか。
それは有り難いぜ。
宿代と服代が要らないなら、銀貨百枚でも何とかなるか。
お貴族様から誘ってもらえる事なんて、これっきりだろうしな。
分かったよ、お貴族様の世話になるよ。」
そこに引かれますか…。
セールスポイントは、研修を無償で受けられる事なのですが。
読み書き計算に礼儀作法なんて、普通に習ったら目が飛び出るくらいのお金が掛かるのですよ。
ですが、リンダさんの話を聞いていて納得させられるモノもありました。
王都は宿代が高くて、今住んでいる狭い部屋ですら毎日銀貨二枚も取るそうです。
高い宿代を賄うために、客を取るのを増やさないといけない始末だったと言います。
服装についても、良い客を取ろうと思ったらみすぼらしい格好は出来ないそうです。
服代を稼ぐために、更に客を多く取らないといけなくなる悪循環に陥っていたみたいです。
その結果、病気持ちの客まで取る始末になったと、リンダさんは振り返っていました。
まっ、それでも良いです、取り敢えずリンダさんの説得は出来ましたので。
ここでは無理そうね。
私の馬車の中で腰を落ち着けてお話しましょうか。」
私はロコちゃんのお母さんを馬車の中に誘いました。
この部屋、ロコちゃんのお母さんが几帳面なのか、キレイに片付けられてはいます。
ですが、部屋にはベッドがあるだけ、他にスペースが無いのです。
腰を落ち着ける場所もありません。
ロコちゃん達二人を浮遊の魔法で浮かべて馬車に移します。
そして、人目に付かない上空までヴァイスに上がってもらいました。
「これは、凄い!
空を飛べる馬車があるなんて、たまげたね。」
ロコちゃんのお母さんが窓から王都を眺めて驚いています。
王都の上空、街全体が見渡せるくらいの高さまで登ったところで馬車は制止しました。
そこで、私は話を始めることにしました。
「さっき、自己紹介したけど、私はシャルロッテ・フォン・アルムハイム。
今、王都の外れにあるサクラソウの丘で、『スノーフェスティバル』を主催しているの。
今日、ロコちゃん達スラムの子供が遊びに来てくれたのだけど。
王都の市民に邪険にされててね、そこで私が保護したのよ。」
「そいつは手間をかけさせたね、有り難うよ。
私はリンダ、ロコの母親さ。
悪いね、お貴族様に対する口の利き方を知らないもんだから。
多少の無礼は勘弁しておくれ。
私らスラムの人間は、煙たがられてるからね。
何も子供にまで邪険にするこたぁ無いと思うんだけど。」
日頃からロコちゃんには、スラムの外では遊ぶなと注意していたとリンダさんは言います。
何で外に行ったのだろうと首を捻るリンダさんに、私は子供たちから聞いたことを話しました。
ロコちゃんと一緒に来た子供たちの中に身寄りのない子がいることから始めて。
その子達がお腹を空かせて、催しに参加するともらえる食べ物を目当てに遊びに来たこと。
そして、身寄りのない三人は、ここ数日まともな食事を摂れていなかったことなどを。
「そんな感じで、色々と事情を聞かせてもらったのだけど。
身寄りのない三人は、私が引き取って育てることにしたわ。」
「そいつは、慈悲深いこって。
でも、それが何で、私らを保護しようと言う話になるんだい。
そりゃあ、こんな所に住んでカツカツの生活しちゃあいるが。
ロコには不自由な生活をさせていないつもりだよ。」
リンダさんには、まだ私の事を警戒している様子が見られます。
まあ、スラムに住んで、普段から街の人々に煙たがられていれば当然かも知れませんね。
いきなり貴族が現れて保護するなんて、そんな虫の良い話など信じられないのでしょう。
********
「そうね、ロコちゃんにはリンダさんという優しいお母さんがいるようだし。
何とか、衣食住は足りているようだから、放っておこうかとも思ったの。
私も慈善活動家ではないし、あまりお節介を焼くのもどうかと思うから。
でもね、ロコちゃんが病気だって知っちゃったから、放っておく訳にも行かなくて。」
「ロコが病気だって?
そんなはずがないだろう、こんなに元気なんだぞ。」
「ええ、そうですね。
でも、リンダさん、あなたならご存じのはずよ。
あなたのお仕事で罹り易い病気には、余り症状がでない病気がある事を。」
最初は半信半疑の様子だったロコちゃんのお母さんですが、私の指摘を耳にして顔色が変わりました。
狼狽した表情になり、声を荒げて問い掛けてきます。
「おい、まさか、ロコの背中に梅の花弁が散っていたって言うんじゃないだろうな!」
ああ、なるほど、最悪の事態を想像したのですね。
「そこは安心して良いわ。
ロコちゃんが感染していた病は四種類、どれも命に関わるものではなかった。
でもね、安心しちゃダメ、ロコちゃんは何処でそんな病気に感染したのかしら?」
最初、恐れていた病気ではないと聞き、安堵の表情を見せたリンダさんですが…。
続く私の問い掛けに、リンダさんは顔を蒼白にさせます。
「まさか、私からかい…。」
言葉に詰まるリンダさん。私はそれに頷き、精霊達に出て来てもらいました。
「ごきげんよう、ロッテちゃん。
その方が、ロコちゃんのお母さんですか?」
白銀の髪をたおやかに揺らしながら姿を現したのは、水の精霊アクアちゃん。
アクアちゃんは、リンダさんの様子を伺いながら尋ねてきました。
私がお願いするまでも無く、リンダさんの健康状態を観察しているようです。
「ええ、そうよ。ロコちゃんのお母さんのリンダさん。
それで、どうかな?」
「はい、ロッテちゃんの予想通りだと思います。
ロコちゃんが患っていた病と同じモノをリンダさんも患っていますね。
リンダさんの方が多少進行していますので。
やはり、リンダさんからロコちゃんに感染したのかと。」
アクアちゃんの返答を聞いた私は、リンダさんに告げました。
「だそうよ。
リンダさん、あなたもロコちゃんと同じ病気を持っているわ。
そして、ロコちゃんの病気はあなたが感染源で、十中八九間違いないわ。」
私はかなり大切な事を言ったのですが、リンダさんからのリアクションがありません。
怪訝に思い、リンダさんの様子を窺うと…。
リンダさん、目を丸くして呆然としていました。
「おい、なんだ、そのちっこいのは?
まさか人間だとは言わないよな。
そんなちっこい人間いる訳ねぇし、何よりも宙に浮いているじゃないか。」
リンダさん、精霊の存在に驚愕して、私の言葉が耳に届いていなかったようです。
「ああ、驚かしてゴメンなさいね。
この子達は精霊。
私の一族は古から精霊と契約して、その超常の力を借りることができるの。
今、話していたのは水の精霊アクアちゃん、人の健康状態を観ることが出来るわ。
アクアちゃんの後ろにいる深窓の令嬢みたいな子が、光の精霊シャインちゃん。
シャインちゃんは少し人見知りで、口数が少ないの。
シャインちゃんは、人の体に巣食う病魔を滅する力を持っているのよ。」
「精霊…。そんなモノがいるなんて初めて聞いた。
って、おい、今、病魔を滅するといったか?
それは、病を治せるってことなのかい?
もしそうなら、頼む、ロコを治してやってくれ。
お願いだ!ロコはたった一つの私の宝なんだ!」
リンダさんは、精霊のお伽噺を聞いたことがないようで、精霊という言葉自体が初耳の様子でした。
ですが、シャインちゃんが病魔を滅するという言葉はきちんと耳に届いたようで。
シャインちゃんに向かって、必死に懇願しました。
リンダさんの願いを耳にしたシャインちゃんは、私を窺い見ます。
私が頷くと。
「安心してください。
幼子が病に蝕まれているのを見過ごしてはおけません。
既に、その子の病は癒してあります。
今、姿を見せたのはあなたの病を癒すためです。
早速、病魔を祓ってしまいましょうか。」
そして、すぐさま金色に輝く光のシャワーがリンダさんに降り注ぎます。
「なんだ、この光は…。
あったかい…。
まるで、子供の頃に感じた母さんの温もりのようだ…。」
シャインちゃんの降らす光に包まれたリンダさん、再び呆然としていましますが。
体に染み入る癒しの光に温もりを感じたようで、ポツリとそんあ呟きをもらしました。
やがて、降り注ぐ光が全て消え去り。
「いかがですか、体の具合は?
体に巣食う病魔は全て退治しましたが。」
シャインちゃんが問い掛けました。
「おお、この辺に感じたむず痒さが消えているよ。
有り難うよ、精霊さん。
あれが、病気だったんだね。全然気にしていなかったわ。」
リンダさんは、下腹部を擦りながらシャインちゃんにお礼を言っています。
全然気にしていなかったですか…、その無自覚さが恐ろしいです。
そうやって、気付かないうちに感染を広げてしまうのですね。
工房の悪ガキ共が娼館遊びを覚えないように、気を付けないといけませんね。
寄宿舎で広まったら目も当てられませんから。
********
「これで、私の言う事を少しは信じてもらえるかしら?」
病を癒してもらったところで、私はリンダさんに声を掛けました。
「おう、疑っていて悪かった。
ロコと私の病気を治してもらって有難うよ。
恩に着るぜ。」
そう言って、表情を和らげたリンダさん、これで話を進められそうです。
「リンダさん、よく聞いてください。
あなたは単に運が良かっただけ。
あれだけ幾つもの病気に感染していたのです。
その中に、命に関わるものがあっても不思議ではなかったのですよ。
これからも今のお仕事を続けて行くのなら、常にそのリスクを負うことになります。
それはリンダさんだけではなく、ロコちゃんにもうつすかも知れないのです。
そうなったら、後悔してもしきれないのではないですか。
無理強いするつもりはありせんが、私の許に来ませんか?
私は幾つかの事業をしていて、リンダさんを雇い入れることが出来ますよ。」
「リスクって言葉がどういう意味か分かんねえけど。
お貴族様の言いたいことは分かったよ。
でもよ、私は今のお貴族様より若い頃から酒場で客を取って来たんだ。
仕事なんて、それしかしたことが無いんだぜ。
お貴族様の下で働けったって、私に出来る仕事なんてあるんかい。」
「そうですね、今のリンダさんにお願いできる仕事は私の館の雑役くらいでしょうか。
春になればホテルが開業しますので、掃除とか洗濯の仕事ならできると思います。
ただし、リンダさんにやる気があるなら、若い見習いと一緒に研修を受けてもらいます。
読み書き計算に、礼儀作法をキチンと学んでもらえば、もっと給金の高い仕事を与えますよ。」
私は、思いつく仕事の内容と給金の条件などを説明しますが、その途中で…。
「給金が一月で銀貨百枚だって。
お貴族様、そりゃあいくら何でも足元を見過ぎだろうに。
それじゃあ、宿代を払ったらロコにまともなメシも食わせてやれないじゃないかい。
そりゃ、私は場末の酒場で客を引いてるけどね、月にその倍以上は稼いでるよ。」
おや、ロコちゃんにちゃんとした身なりをさせていると思ったら、結構稼いでいるのですね。
いっぱしの職人くらいの収入があるようです。
ただ、リンダさん、少しばかり早合点をしているようです。
「まだ、話の途中ですよ、最後まで聞いてください。
リンダさんの住む場所は私が無償で用意しますから宿代は掛かりませんよ。
もちろん、仕事着も無償で支給しますので、服代は私用のモノだけで済みます。
それと、銀貨百枚というのは、今のリンダさんに出来る仕事の給金です。
読み書き計算に礼儀作法を修得してもらえれば、もっと高い給金の仕事に就けますよ。
もちろん、そのための研修も無償で受けられます。」
「なに、寝床と仕事着をタダで用意してもらえるのか。
それは有り難いぜ。
宿代と服代が要らないなら、銀貨百枚でも何とかなるか。
お貴族様から誘ってもらえる事なんて、これっきりだろうしな。
分かったよ、お貴族様の世話になるよ。」
そこに引かれますか…。
セールスポイントは、研修を無償で受けられる事なのですが。
読み書き計算に礼儀作法なんて、普通に習ったら目が飛び出るくらいのお金が掛かるのですよ。
ですが、リンダさんの話を聞いていて納得させられるモノもありました。
王都は宿代が高くて、今住んでいる狭い部屋ですら毎日銀貨二枚も取るそうです。
高い宿代を賄うために、客を取るのを増やさないといけない始末だったと言います。
服装についても、良い客を取ろうと思ったらみすぼらしい格好は出来ないそうです。
服代を稼ぐために、更に客を多く取らないといけなくなる悪循環に陥っていたみたいです。
その結果、病気持ちの客まで取る始末になったと、リンダさんは振り返っていました。
まっ、それでも良いです、取り敢えずリンダさんの説得は出来ましたので。
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