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第16章 冬から春へ、時は流れます

第386話 子供達の笑顔が一番の対価です

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「さあ、皆さん、始めてください。
 製作期間は、今日を含めて五日間ですからね。
 頑張っていきましょう!」

「「「「「「「「「おおー!」」」」」」」」」

 雪のオブジェ制作に参加する十組を、各々の区画に案内した後ノノちゃんは作業開始を指示しました。
 参加している人達も気合が入っているようですので、ここはノノちゃんに任せておくことにします。

 次に私は、ナナちゃんが子供達を集めていた雪合戦の会場に足を運びました。

「はーい!みんな、聞いて。
 雪合戦は五人ずつのチーム対抗でやります。
 まず、友達五人で来た人、手を上げて!」

 ナナちゃんが集まった子供達に声を掛けると、集団の何ヶ所で五人ずつまとまって上がった手が見られました。

「じゃあ、手を上げた子達はこっちで五人ずつ固まっていてもらえる。
 残りの子は、こっちで二列にならんで!」

 友達五人でやって来た子供はそれでチームを組んでもらいます。

 五人揃わなかった子供達は、臨時でチームを組んでもらうことにしました。
 ナナちゃんは、五人グループになっている子供達を別にすると。
 二列に並んだ子供達を身長の小さい子から順に並び替えていきます。
 そうしてナナちゃんは、先頭から順に五人ずつを一組のチームとしていきました。
 こうすることで、なるべく同じような体格の子供でチームを組むようにするみたいです。
 その時、友達や兄弟で来ている子は一緒のチームとなるように、順番を替えているようでした。

 そして、

「今並んでいる右側の列が黄色チームね、この黄色い布切れを腕に巻いて。
 んで、左側の列の人が緑チーム、こっちの緑の布切れを腕に巻いてね。
 各チーム五人ずつで対戦して、雪玉が当たったら失格ね。
 先に全員失格したチームが負けね。
 それと、逃げ回っても良いけど、縄で囲った場所から出たら失格だからね。
 参加賞は対戦が終ったら、みんなに上げます。
 この会場の出店で使える食券一枚ね。
 美味しいモノが食べられるから楽しみにしてね。」

 先に友達で五人揃っているチームから対戦してもらいます。
 その後、列に並んだ前から五人ずつチームを組み、黄色と緑で対戦してもらいます。
 対戦するのですから、一応勝ち負けはあります。
 ですが、子供の遊びですので、勝ち負けでご褒美に差をつけるのは止めました。

 勝った方に良いご褒美をあげた方が白熱するのではという意見も出ましたが。
 お祭りで、勝ち負けにこだわる事も無いという意見の方が多かったのです。

 その代わりに、何度でも参加できることにして、食券を手に入れる機会を増やしたのです。
 子供達には、是非とも、全種類味わってもらいたいと思います。

「それじゃ、最初の組の雪合戦を始めるよ。
 はーい!スタート!」

 ナナちゃんの声を合図に、長方形に区切られた対戦場の中、左右に分かれて雪合戦が始まります。
 最初は、双方、離れた開始位置から雪玉を投げ合っていましたが。
 その内、果敢に相手チームに突進する子が出て来て…。
 あっという間に、双方入り乱れて雪玉の投げ合いになります。

 子供って、性格が出るモノで…。
 果敢に突進して、あっという間に雪玉が当たり失格になる子や。
 ひたすら走って、逃げまくる子まで…、あっ、転んだ。
 馴れない雪に足をとられて転ぶ子も続出します。
 とても微笑ましい光景で、見ていて飽きないです。

 五人対五人ですので、対戦はあっという間に終わります。
 寒空の下で、長時間雪合戦をさせて風邪を引いたら困りますものね。
 昨年は、大人も混じって大人数で対戦していたので、えらい時間が掛かりました。
 中にはバリケードを作っちゃう大人もいましたし。

「はーい!おつかれさま!
 じゃあ、食券を配るから並んでね。
 これ、あそこの出店ならどれでも使えるからね。
 好きなモノを食べて来てね。
 一つで足りなかったら、また雪合戦をしに来て。
 何度でも、食券がもらえるから。」

 ナナちゃんは対戦が終わった子供達に、使い方を説明しながら食券を配っています。

「やった!」

 食券を受け取った男の子が、そう言って早速屋台に向かって走って行きました。
 ここも、ナナちゃんに任せておいて大丈夫そうですね。

     ********

 雪合戦の会場をナナちゃんに任せて、サクラソウの丘の斜面にやって来ました。
 春になるとピンク色の可愛い花でいっぱいになる斜面も今はすっぽり雪に覆われています。

 その斜面では…。

「このソリって意外と楽しいわね。
 斜面を降っていくと、そこそこの速さが出るので驚いたわ。」

 順番待ちの列にごく自然に並んでいたトリアさんが声を掛けてきました。
 なに、王女殿下が市民に混じってソリ遊びなんてしているのですか…。
 そう、今はこの斜面、沢山のソリが滑り降りていて、そこかしこで楽し気な声が聞こえます。

 もちろん、昨年と同じでソリの貸し出しは無料。
 沢山のお客さんが詰めかけても不足が生じないように十分な数も用意しました。
 また、トリアさんの言う通りそこそこのスピードになるので事故が心配です。
 そのため、一回に滑り降りる人数に制限を設けました。

 同時に滑り始めて、全員が滑り終わるのを待ってから次のグループが滑り始めます。
 斜面が大した距離でもないので、並んでも数分で順番が回って来るようです。

「そうでしょう。
 元々、子供達にソリ遊びをさせるために始めたのだけど。
 小さな子を一人で乗せると危ないので、親御さんが一緒に乗ったのね。
 そしたら、親御さんの方が夢中になってしまうケースも多くてね。
 今年は、この通り大人だけソリを楽しむ人も増えちゃったわ。
 まあ、大人も、子供も喜んでくれるなら、それに越したことはないしね。」

 子供だけ又は親子で乗るソリが圧倒的に多いのですが。
 大人一人を乗せて斜面を滑り降りるソリも少なからず見受けられます。

「手すり付きの木道も良いわね。
 滑り降りた後、下から登って来るのも楽だわ。
 短期間によくこんなものを作ったわね。
 って、あなたには頼もしいおチビちゃん達が付いていましたか。」

「ええ、あの木道、ドリーちゃんの力作ですの。
 昨年、ノノちゃんがぼやいてたのよ。
 雪の中、斜面を登って来るのは大変だって。
 今年は、登坂が少しでも楽になるようにと対策してみたのです。」

 雪国育ちのノノちゃんでも、何度も丘を登るのは大変だったと言うのです。
 雪に慣れていない王都の住民は、さぞかし足腰に来るのではないかと思いました。
 そこで、緩やかな階段状の木道を、樹木の精霊ドリーちゃんに作ってもらったのです。
 転倒防止のため、ちゃんと手すりも設け、階段には滑り止めも施しました。

「今回は、事前準備の期間があったので色々作ってみましたの。
 私としては、あれがお気に入りなのですが。」

 私はトリアさんに対して、広場の片隅にある雪の小山を指差して見せます。
 そこでは、…。

「それー!」

 四、五歳くらいでしょうか。
 ソリに乗った男の子が、掛け声を上げて小山から滑り出しました。
 小山の高さは三ヤードくらい、これを十ヤードくらいかけて緩やかに滑り降りる。
 そんな緩やかな人口斜面を作りました。
 もちろん、小さな子供達が子供だけでソリ遊びを楽しめるようにです。

 小さな子がサクラソウの丘の斜面を滑り降りるソリには、親御さんと一緒に乗らないと危ないです。
 また、小さな子にとっては、そこそこの速度でも恐怖を感じるようで、昨年は泣き出す子もいました。
 一緒に乗ってくれる親御さんがいなくても滑れ、小さな子でも恐怖を感じない本当に緩い斜面を作ったのです。

 そのため、子供一人で乗るような小さなソリも用意しました。
 子供でも引き摺れるように、ソリを作る木材もなるべく軽いモノを使っています。

 もっとも、小さな子は重心が安定していません。そんな子が軽いソリに乗るモノですから…。
 そうこうしている間にも、私の目の前で小さな女の子を乗せたソリがゆっくり滑り降りて来たかと思うと。
 ポテっと転倒しました。乗っていた子はと言うと…。

「きゃはは!ころんじゃった!」

 この子にとっては、転んだことも面白かった様子です。
 雪塗れになりながらも、キャッキャとはしゃいでいました。
 こんな感じで、転倒する事を前提に、転んでもケガをしない速度しか出ないように斜面は作られています。

 張り切って準備した甲斐もあり、この子供用の斜面は朝から子供達の笑い声が絶えません。

「あなた、色々と子供を楽しませること考え付きますのね。
 ホント、感心しますわ。
 でも、そうですわね。
 ああやって、小さな子がはしゃいでいる姿を見ると心が和みますわ。
 あなたが、お気に入りの出し物だと言うのは頷けます。」

 いえ、ノノちゃんが教えてくれたのですけどね。
 サクラソウの丘みたいな広い斜面ではなく、もっと狭くて緩い斜面が村の子供たちの遊び場になっていると。

 そんな会話を交わすうちに、トリアさんの順番が回って来て。
 トリアさんは楽し気に斜面を滑り降りて行きました。

    ********

 丘を滑り降りて行くトリアさんを見送った私は、再び会場内を見て歩きます。
 時刻はもうお昼近く。
 屋台の広場を通りかかると、チーズフォンデュやフィッシュアンドチップスの屋台には列が出来ていました。
 閑古鳥が鳴くことがなくて良かったです。

 屋台の広場に寄るのは、お昼が終ってからにしましょう。
 忙しい時に邪魔をするのは気が引けますからね。

 そんなことを考えながら、広場を通り過ぎ『クリスタルゲート』まで戻ってくると。

 何やら、ゲートの外に人だかりが出来ています。
 人だかりからは剣呑な雰囲気がうかがえ、なにがしかの揉め事が起こっているようです。

 そのうち、人ごみの中から男の人の声が聞こえました。

「とっとと、帰りやがれ!
 ここは、おまえたちのような卑しい者の来る所じゃない!」

 誰ですか、そんな勝手な事を言うのは?
 私は、何人にもお祭りの門戸を閉ざすつもりはありませんよ。 
  
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