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第16章 冬から春へ、時は流れます
第382話 今年の冬もやります!
しおりを挟む前触れも無くやって来た国王ジョージさん。
その後ろから、何とも言えず微妙な表情のノノちゃんが姿を現します。
「あら、いらっしゃい、ノノちゃん。
珍しいわね、ジョージさんと一緒に来るなんて。」
「それが、国王陛下が女学校の寄宿舎に私を迎えに来られたのです。
王室の紋章が入った立派な馬車で…。
私がいた寄宿舎の談話室の窓から、その様子が良く見えたんですよ。
王家の方が何の用だろうって、談話室にいた皆が噂してたんです。
そしたら、寮監の先生が慌ててやって来て…。
『ノノさん、陛下がお迎えに来られています。大至急支度をしなさい。』
って言うんですよ、みんなが聞いているのに。
談話室は騒然としちゃうし…。
きっと、帰ったらあらぬ噂が広がっています。」
どうやら、ノノちゃんは意に沿わない注目浴びてバツの悪い思いをしているようです。
ですが、…。
「君がいないと話が進まないじゃないか。
女学校はここに来る途中にあるのだから、拾って行くのが合理的であろう。
わざわざ、伝言のために人を遣わすなんて無駄な手間をかけることあるまい。
別にかまわんだろう、知らぬ仲ではないのだから。」
ジョージさんは、ノノちゃんの苦言など意に介した様子はありません。
そんなジョージさんを見て、ノノちゃんはため息交じりにこぼしました。
「知りませんよ、私が陛下のご落胤だなんて噂が立っても…。」
私が用意してあげた服を身にまとい、帝国の至宝とまで言われる帝国磁器工房のティーカップでお茶を飲むノノちゃん。
しかも、口にしているお茶は、トリアさんからもらったアルビオン王室御用達の茶葉です。
ノノちゃんの部屋に遊びに来て、それを目にした寄宿舎の友人たちの間には実しやかに流れる噂があるそうです。
『ノノちゃんは、何方か高貴な方のご落胤ではないか。』という噂が。
もちろんそん訳はなく、単に服もティーカップも私が用意したモノしか無いので使っているだけです。
ノノちゃんも、そんな噂が持ち上がる都度、それを説明して打ち消しているそうで。
国王陛下がお迎えに来られた日には、噂が再燃すること請け合いだとノノちゃんは頭を抱えている様子でした。
「別に放っとけばいいだろう。
人の噂なんて飽きれば自然に消えるもんさ。気にする事あるまい。」
それを聞いても、ジョージさんはカラカラと笑い飛ばしました。
その手の噂は幾らでもあり、一々気にしてはいられないのだそうです。
「ダメですよ。
そんな噂が立つ度に、周りがよそよそしくなるんです。
ちゃんと誤解を解いておかないと、みんなに距離を取られちゃいますから。」
そんな風に愚痴るノノちゃん。
噂が立つ度に周囲の人はノノちゃんとの接し方に戸惑うのでしょうね。
********
「で、ジョージさん、今日はどのようなご用件で。
ご丁寧にノノちゃんまで引っ張り出してきて。」
応接に腰を落ち着けて、ジョージさんに問い掛けました。
「そうそう、シャルロッテお嬢ちゃんが昨年の今頃開いたスノーフェスティバル。
今年はやらないのかい?
あれ、とても評判が良くてね。
是非ともまたやって欲しいと言う希望が寄せられているんだよ。
冬場はやっぱり娯楽が少なくなるからね。
どうだい、アルム地方の良い宣伝にもなると思うけどね。」
年越しパーティの花火のパターンですか。
一回限りのつもりが二回、三回となってついには恒例化してしまいそうです。
「それで、何で、私が引っ張って来られたんでしょうか?
私、昨年は子供達と一緒になって遊んでいただけですが…。」
私とジョージさんの会話を聞いていたノノちゃんが、おそるおそる尋ねます。
「何を言っているんだい。
昨年、即興で出し物を考えたのは君だろう。
大人たちを指揮して、ノリノリで雪の城を作っていたじゃないか。
君が企画に加わらなくて、どうするんだ。」
確かに、大人たちを上手く先導して、巨大な雪の城を作り上げたのは見事でした。
雪の城はとても良く出来ていて、一週間ほど続いたスノーフェスティバルのシンボルになりました。
それで、昨年のスノーフェスティバルで陣頭指揮を執っていたノノちゃんを引っ張ってきたのですか。
「おっ、いよいよ、わらわの出番かのう。
屋敷の裏の丘を、雪景色に変えれば良いのであろう。
遠慮せんで良いぞ、わらわに任せておくのじゃ。
せっかくの冬なのに、力の見せ所が無くて、燻ぶっておったところだからのう。」
白銀の髪をなびかせてテーブルの上に現れたの冬将軍のヴィンターちゃん。
昨年、この屋敷の裏にあるサクラソウの丘を一面の雪景色に変えた張本人です。
力を持て余したヴィンターちゃんが力を使わせろとごねた事が発端でした。
透けるような薄絹をまとったヴィンターちゃん、少女のような見た目なのですが。
冬将軍の名に恥じない冷え冷えとした装いといったら良いのでしょうか。
大事な部分がギリギリ隠せているのか、隠せていないのか、そんなアブナイいで立ちです。
「これはこれは、冬将軍さん、お久しぶりです。
昨年の雪景色はとても素晴らしかったです。
是非ともその素晴らしいお力を、今年もご披露頂ければ幸いです。」
ジョージさんはあからさまなヨイショをしますが、…。
「そうじゃろう、そうじゃろう。
畏れ敬うが良いのじゃ。
さすれば此度も力を貸してやるのじゃ。」
得意気に胸を反らして、そんな言葉を吐くヴィンターちゃん。
単純なヴィンターちゃんの事です。いとも容易く、おだてに乗せられてしまいました。
でも、その薄絹で胸を反らすと、服に密着した肢体が見事に透けて見えてますよ。
幾らご年配のジョージさんとは言え、殿方の目があるので慎みを持って欲しいのですが…。
あっ、こらっ、勝手に話を進めないで。私、まだやると言ってないのに。
********
「それじゃあ、一週間後から始めるということで、王都に告知を出しておくからよろしく。
さあ、ノノちゃん、寄宿舎まで送るから乗りなさい。」
そう言ってジョージさんは帰っていきました。
馬車に乗るのを渋り、徒歩で帰ると主張しているノノちゃんを引きずるように馬車に乗せて。
結局、準備期間一週間で今年もスノーフェスティバルをする事になってしまいました。
ノリノリなヴィンターちゃんを止める事は出来ませんでした。
そして、数時間後。
ノノちゃんが寮監の先生に外泊の許可を取り、お泊りの用意をして戻ってきました。
「なになに、お姉ちゃん、今度は何をするの。
凄いね、本当に王様と顔見知りだったんだ。
シャルロッテ様に、王様と一緒に来たと聞いてビックリしたよ。」
「凄いね、じゃないわよ。
寄宿舎に戻ったら、みんなに囲まれちゃって。
陛下とはどういう関係だって、しつこく聞いてくるんだもの。
きちんと説明したのだけど、どれほど信じてもらえたか。
今回は、国王陛下自ら来ちゃったものね。
どんな噂が流れるか、頭が痛いわ。」
出迎えた妹のナナちゃんの言葉に、ノノちゃんは物憂げな返事をしていました。
案の定、寄宿舎に戻ったノノちゃんは、ジョージさんとの関係を詮索されたようです。
スノーフェスティバルの宣伝も兼ねて、今日ジョージさんが迎えに来た理由を詳しく説明したそうですが。
流石に、この国の元首である国王が直々に出向いてくるには説得力に欠けたようです。
ノノちゃんは今日からスノーフェスティバルが終るまでこの館に留まります。
二週間後、寄宿舎ではどんな噂になっていることかと、とても不安そうにしていました。
で、肝心なスノーフェスティバルの出し物ですが。
「貸しソリに、雪合戦に、雪の城、それと雪で作った動物の像。
昨年はこんな所だったけど、今年はどうしましょう。
今年は準備期間が一週間あるから、計画的に出来そうだけど。
一週間じゃ、大掛かりな事をするには時間が足りないわね。」
私がそんな風に話を切り出すと、ノノちゃんが手を上げます。
「やっぱり、お祭りなら屋台の出店が出ている方が良いのでは。
遊びに来る人達もお腹が空くでしょうし。
何か、アルム地方の食べ物を出しましょうよ。
寒いから、体が温まる食べ物が良いですね。」
確かに、来場した人はけっこう長い時間遊んでいたようです。
当然、お腹も空くでしょうし、食べ物を売る屋台はあった方が良いですね。
「はーい!チーズフォンデュをしましょう。
熱々のチーズを食べればポカポカになります。」
ノノちゃんの提案に、すぐさまナナちゃんが乗って来ました。
「おや、食べ物の話かい。
なら、私も混ぜてもらおうかね。何かと役に立てると思うよ。」
ナナちゃんの元気な声が耳に届いたようで、料理人のマルゴさんが会話に加わります。
ナナちゃんがチーズフォンデュと言った後、続くモノが出て来ませんでした。
そもそも、食材の限られる冬場、しかもどん詰まりの農村にそんな種類豊富な料理がある訳ないのです。
しかも、外で気軽に食べられるモノでないといけないと言う制約付きです。
ノノちゃんも、ナナちゃんも他の料理が思い浮かばないようです。
「祭りの出店なら、アルム地方の料理にこだわらなくても良いだろう。
それよりも、材料が簡単に手に入って、外でも手軽に食べられる事の方が大事だろ。
私としちゃ、セルベチアの冬の屋台と言えば焼き栗だね。
後は、この国で最近流行っていると言うフィッシュアンドチップスかね。
熱々に焼いたソーセージを温めたパンに挟むのも良いんじゃないか。
帝国では馴染みの屋台だろう。」
マルゴさんは、良くある屋台の中から冬場でも材料が簡単に入手でき、熱々で食べられる物を上げてくれました。
「じゃあ、そんな感じで、マルゴさんにお願いしようかしら。
後は、何か飲み物が必要かしら。
お祭りなのでお酒と言いたいところだけど…。
酔っ払いが暴れても困るし、昼間だけのお祭りでお酒もねえ…。
何か、体が温まる飲み物ってないかしら?」
マルゴさんは、温かい飲み物ならスープで良いのではと提案してくれました。
確かに、体が温まりそうなので、それは採用することにします。
すると、珍しくアリィシャちゃんが控えめに手を上げました。
「冬の寒い時にお母さんが作ってくれたチャイが美味しかった。
とっても、体がポカポカするの。
鍋で火にかけたミルクでお茶を煮出すの。
飲む時にお母さんが、シナモンスティックでかき回してくれるんだ。
とっても、いい匂いがしたの。」
旅の一座で冬の移動中によく飲ませてもらったそうです。
何でも、一座の出身地の伝統的な飲み物だそうです。
「ああ、それなら、私も作り方は知っているよ。
飲みたければ、作ってやるよ。」
「ホント!飲みたい!」
話を聞いたマルゴさんの言葉に、アリィシャちゃんはとても嬉しそうに答えます。
アリィシャちゃんの希望もありますし、味見を兼ねてその場で作ってもらいました。
「美味しい!」
アリィシャちゃんの満面の笑顔が見られました。どうやら、合格のようです。
確かに、体が温まるので、これも採用とします。
「なあ、屋台の出し物を決めるのは良いけどよ。
これ、寒空の下で食べるのか?
聞けば、周りは雪原なんだろう。
あっという間に冷めちまうぜ、食べたらかえって体を冷やすぞ。」
マルゴさんに指摘されて、私はハッとしました。
そこまで、頭が回りませんでした。
周囲は凍てつく寒さです。
チーズフォンデュのチーズなんてあっという間に固まってしまいます。
すると、
「それは、大丈夫です。私に考えがあります。」
「あっ、お姉ちゃん、冬の隠れ家を作るんだね。
久しぶりだね、楽しみー!」
どうやら、ノノちゃん、ナナちゃん姉妹に考えがあるようです。
ここは、生活の知恵に頼ることにしますか。
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