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第9章 雪解け

第207話 リーナは『少し』変わった方だと言いますが…

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「カロリーネお嬢様、国王陛下がお帰りになられたそうです。
 今、私室にいらしゃいますので、顔を見せるようにとの事です。」

 部屋の扉がノックされ、応対に出た侍女のヘレーナさんが戻って来て告げました。
 どうやら、王様が王宮から戻られたようです。

「ロッテ、お父様に紹介したいので一緒に来ていただけますか。
 お父様、少し変わっていらっしゃるのですけど、驚かないでくださいね。」

 そう言って、リーナは腰を上げたのです。
 少し変わっているって…、どんなところがでしょう?

 王様の部屋は、隣と言って良いほど、リーナの部屋のすぐ近くにありました。
 部屋をノックすると、部屋付きの侍女によって扉が開かれ、中に通されます。

 王の離宮の名に相応しい煌びやかな部屋の奥まった場所。
 そこに置かれたソファーには、中年から初老に差し掛かろうという男性がいます。
 腰掛けた膝の上に十二、三歳程の少女を乗せて…。

 一見すると、祖父と孫の戯れのように見える微笑ましい光景ですが…。
 さにあらず…。
 もちろん、膝の上に乗っているのはリリさんです。
 そして、改めて良く見ると、私には刺激が強すぎる行為が繰り広げられていました。

 王様とみられる男性は、リリさんと熱い口づけを交わしています。
 そして、その手はリリさんのスカートの中をまさぐっているのです。
 とても、仲がおよろしいようで…。

 二人はいちゃつくのに没頭しているようで、私達が入って来たことに気付いていません。
 赤面して言葉を失っている私の横を、リーナはスタスタと両親の方へ歩いて行き…。
 なんの、ためらいもなく、声を掛けたのです。

「お父様、今日戻りました。
 何よりです。」

 どうやら二人のいちゃつきは、リーナにとては見慣れた光景のようです。
 リーナの声でやっと私達の存在に気付いた王様は、…。

「リーナよ、良く帰って来てくれた。
 父さん、おまえが帰って来てくれて嬉しいぞ。
 さあ、早くこっちへ来て。」

 そう言ってリーナを手招きしたのです。
 もう一方の手は相変わらずリリさんのスカート中に差し入れたままで…。
 たしかに、『とっても』変わっている方のようです。『少し』ではないですよね…。

 でも、『混ざらんか』って、いったいリーナに何をする気でしょうか。
 私がそんな疑問を抱いていると、リーナが予想の斜め上を行く言葉を返しました。

「お父様、可愛がってくださるのは嬉しいのですが…。
 そういう事は人目のない所でお願いします。
 今日はお客様をお連れしたのです。
 お戯れは控えて頂けませんか。」

 ええぇっ、普段なら混ざるのですか?あそこへ?

 私が呆然としていると…。

「おお、これは悪いことをした。
 つい、リリと戯れるのに夢中で周りが見えておらなんだ。
 して、お客人というのはそちらのお嬢さんかな。
 これはまた、とても美しいお嬢さんだ。
 しかもまだほとんど膨らんでいない胸が尊い。
 なんだ、リーナ、父さんに新しい愛人を紹介してくれるのか。
 私の好み、どんぴしゃりなのだけどな…。
 私ももうすぐ五十、最近衰えてな、リリとリーナの相手だけで精一杯なのだ。
 せっかく連れてきてもらったのに、申し訳ないな。」

 この変態オヤジ、とんでもないことを言いました。
 しかも、当然の様に自分の娘をお相手に含めているし…。

「お父様、失礼ですよ。
 こちらの方は、アルムハイム伯シャルロッテ様でいらしゃいます。
 私の領地に隣接する帝国の領邦、アルムハイム伯国の王なのですから丁重な対応をお願いします。」

 リーナの口から私の素性が明かされると、目の前の変態オヤジの顔が王の顔に変わりました。
 リリさんのスカートの中から手を外し、リリさんを膝から降ろします。
 そして、簡単に身なりを整えてから、ハインツ王は言いました。

「これは大変失礼をした。
 私は、この国の王でハインツと申す。
 遠いところようこそ来られた、アルムハイム伯。
 私は伯を歓迎します。
 公務から解放されてつい気が緩んでしまい、お恥ずかしい所をお見せしました。
 先程のご無礼な発言、お許しいただけると有り難い。」

 見事な手のひら返しです、一転してとても丁重な言葉遣いになりました。
 やはり、王と名乗るだけあって、対外的にはキチンとした対応ができるのですね。

「いいえ、プライベートの場に突然お邪魔したのです。
 多少のお戯れはお気になさらないでください。
 お初にお目に掛かります、シャルロッテ・フォン・アルムハイムです。
 領地が隣のよしみで、カロリーネ姫とは大変仲良くして頂いています。」

「お父様、アルムハイム伯には先日の法案の趣旨説明を手伝ってもらうために同行頂いたのです。
 アルムハイム伯は昨年アルビオン王国を視察に行かれました。
 そこで目にしたという過酷な労働事情の話を伺い、私は法整備の必要性を感じたのです。
 私が提出した法案は、アルムハイム伯からの助言に基づいて作成したものです。」

「おお、そうでしたか。
 娘にご助力いただき、誠にかたじけない。
 長旅でお疲れの事でしょう、今日はゆっくり休んでください。
 明日にでも時間を取って、お話を伺いましょう。」

 そう言った変態オヤジ、いえ、ハインツ王は控えていた侍女に私をもてなすように指示しました。

 そして、私達が、王のもとを辞して、リーナの部屋に戻ろうとした時のことです。
 ハインツ王が、私と共に部屋を出て行く、リーナに向かって言いました。

「風呂の準備が出来たら呼びに行かせる。
 また、リリとおまえと三人で風呂に入ろうではないか。
 以前のように、私がおまえを隅々まで洗って進ぜよう。」

「まあ、お父様ったら。
 有り難うございます、では後ほど伺います。」

 ハインツ王の言葉に顔を赤らめて返事をするリーナ。
 そこは断らないのですね…。
 一緒にお風呂に入るのですか、この年で?

「あら、リーナったら良いわね。
 旦那様、私もお願いしますね。」

「もちろんだよ、リリ。
 念入りに洗って進ぜようではないか。」

「まあ、嬉しいですわ。
 じゃあ、リーナ、お風呂の後は私達の寝室に来なさい。
 久しぶりに三人一緒に寝ましょうね。」

「はい、お母様。」

 リーナは全く嫌がる素振りも見せずに、リリさんの誘いを受け入れました。

 本当に仲の良い親子です…、で済まして良いのでしょうか。
 何かが違う気がするのですが…。

     **********

「リーナのお父様とお母様、大変仲がよろしいのですね。」

 リーナの部屋に戻り、私がリーナに話を振ると。

「ええ、本当に仲が良いのです。
 お父様は、お母様を初めて目にした時、この出会いのために生まれて来たのだと感じたと言います。
 お母様がこの離宮に召し上げられてから、お父様はずっとここに住んでいるそうです。
 王妃様がいらっしゃる王宮には、王としての執務をとるためだけに通っている状態です。
 朝王宮へ行って、執務が終わるとここへ帰ってくるのがお父様の日課となっています。
 お父様は、年下で幼い雰囲気を残す女性が好みなのだそうです。
 何時までも少女のようにあどけないお母様に心を奪われているのです。」

 やはり、ハインツ王はそう言う性癖を持つ方なのですね。
 よそ様の家庭の事情を聞き出すのはあまり好きではありません。
 ですが、つい気になったの聞いてみたのです。

「でも、それで王妃様は何も言ってこないのですか?」

 私にはハインツ王が王妃様を蔑ろにしているような気がしてならないのです。

「お父様は、王妃様との間で、二人の男児を設けたことで義務を果たしたと言っています。
 元々、お父様と王妃様の婚姻は国の安定のための政略結婚でしたから。
 もっとも、両家の婚姻に関しお父様の希望が通っていれば、こんな事にはならなかったと思うのですが。」

 クラーシュバルツ王国はこの付近では珍しく、帝国人とセルベチア人の割合がほぼ半々になっています。
 昔からいがみ合っている帝国人とセルベチア人が仲良く暮らしいている珍しい国なのです。

 当然、国の支配層である貴族も帝国系とセルベチア系がほぼ半々な訳です。
 王家が帝国人の血筋のため、王妃はセルベチア人系の貴族から迎えることが慣行になっているそうです。
 そうして、両民族の融和を図ってきたわけです。

 ハインツ王もそこは納得しており、王妃様の家との婚姻には前向きだったそうです。
 ただそこに、たった一つ誤算があり、今の事態を招いたようなのです。

「お父様は十八歳の時、王妃様と婚約を結び、二十歳の時に正式に結婚したそうです。
 実は、婚約するときにお父様が望まれたのは、同じ年齢の現王妃様ではないのです。
 お后様の家には、当時十歳の末姫がおり、その姫との婚姻を強く望んでいたそうです。
 その末姫はとても愛らしくて、年下好みのお父様の心を射抜いたそうなのです。
 ですが、婚姻は家同士の決め事、お父様の希望は叶わず、現王妃様との婚姻が決まりました。
 お父様は、これも仕事と割り切って渋々今の王妃様と結婚したそうなのです。
 それ以来、不満が燻ぶっていたようで、二人のお兄様をもうけられてからは夫婦生活は無くなったそうです。
 そんな折に、お父様は私のお母様と巡り会ったのです。
 これもある意味奇跡としか言いようがないです。
 もしお父様が意中の末姫を娶っていたら、お母様が愛妾に召し上げられることはなかったでしょうから。」

 末姫に懸想していたのに、一番上の姫を押し付けられたハインツ王は甚く不満だったようです。
 文字通りの政略結婚になってしまい、両家の血を引く男児を授かった後は王妃様に指一本触れてないそうです。
 しかし、年下好みと言っても限度があると思います…。

 そんなハインツ王にとって、リリさんはまさに掌中の珠だったようです。
 
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