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第7章 できることから始めましょう

第159話 木を買いに行ったのですが…

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「今度は木が欲しいの?」

 私は、ヴァイスの引く馬車に乗ってリーナのもとを訪れました。
 新たに買った土地に立ち寄るためには転移を使うことできないので、何気に不便です。

「ええ、実はドリーちゃんがこの間買った土地に建物を建ててくれると言っているの。
 裏山から運ぶのも面倒なので、隣の森の木を売ってもらえないかなと思って。」

「まあ、隣の森も領主である私の持ち物だし、精霊ちゃんが森を丸裸にすることはないだろうから。
 私は売ることは問題ないと思うけど…。
 生木よ?建物が建つの?
 建物って一年くらい乾燥させた木材を利用して建てるものじゃないの?」

「まあ、普通はそうよね。
 でも、精霊のすることですから。それは今更よ。」

 そう、現にドリーちゃんは毎年冬前になると、裏山の木を間伐してそれで越冬用の薪を作ってくれます。…1日で。
 間伐したその日のうちに使い易い大きさに切り分けたうえで、カラカラに乾燥させてしまうのです。
 それこそ、何十本もの木を一日で。

 丸太を丸々乾燥させたのは見たことがありませんが、きっと出来るのでしょう。…本気を出せば。
 なんて言っても、軍港にあった木造の軍用船全てを一瞬にして薪に変えるくらいの力があるのですから。

「もし、一々木を売るのがめんどうであれば、あの森の部分の土地を買い足しても良いわ。
 リーナの手続きが簡単な方にして。」

「そうね、それであれば担当の者を呼ぶわ。」

 そして、待つことしばし…。

「あら、これはシャルロッテお嬢様、お久しぶりでございます。
 相変わらず慎ましやかな胸をしていらして、尊いです。」

 出たな、性癖異常者。うるさいです、ほっといてください。

「お久しぶりですね、ヘレーネさん。
 担当者って先日の方ではないのですか?
 ヘレーネさんはリーナの侍女ですわよね?」

「私、あの者の上司です。この領地の管財関係は私が仕切っています。
 ぶっちゃけ、人手不足なのですよ、小領ですから。
 この度は、先日の荒れ地に続き、あの森をお買い上げいただけると聞きお礼の挨拶に伺ったのです。」

 ヘレーネさんが、この領地の財産管理の責任者ですか。
 やはり優秀な方なのですね。これで性癖がまともなら文句無しなのでしょうけど。

「なぜそんなに嬉しそうに?
 森は資源の宝庫ですよ、おいそれと手放すモノでは無いでしょう。」

 森は材木の供給の他、越冬に欠かせない薪の供給地です。
 山菜やキノコなども採れます、高級品のトリュフでも採れようものならそれこそ貴重な財源になります。

「それは、管理する人がいればそうですが…。
 隣地を買われたシャルロッテお嬢様は見たでございましょう、あの近辺には人が住んでいないのを。
 森は適切に管理されているから資源の宝庫なのですよ。
 誰も間伐しない、誰も下草を払わないとなったら、森は荒れ放題です。
 今は領主の負担で管理していますが、管理費も馬鹿になりません。
 買い取って頂けるのなら、とてもありがたい場所なのですよ、あの森は。」

  たいていの場合、森は農村の共有財産になっていてその村の住民が手入れをしています。
 間伐した木を利用したり、薪を拾ったり、また森に立ち入るために下草を払ったり。
 そんな日常的な森の利用の中で自然と森の手入れがされていくのです。

 ところが、森の近くに農村がないと、日常的な手入れが出来ません。
 住民がいない地域にある森は全て領主の所有なのですが、森が多すぎて維持費も大変なのだそうです。
 誰かが買い取って利用してくれると有難いなと、ヘレーネさんは常々思っていたそうなのです。

 という事で、先日の荒れ地に続き隣の森林を買い取ることになりました。
 先日の荒れ地の数倍ではきかない広さがありますが、余程持て余していた土地らしく二束三文の価格でした。


    **********


 リーナの館からの帰り道、早速やって来ました買い取った森、先日整地した土地の隣です。

「ドリーちゃん、この森を買い取ったから生えている木を好きに使って良いわ。
 この森に生えている木で足りるわよね。」

 私が肩の上に腰掛けているドリーちゃんに尋ねるとドリーちゃんは森を見ながら。

「うーん、どのくらいの建物を建てるかによるけど…。
 この敷地にいっぱいに建てるくらいの木はあるね。
 この森、木が詰まり過ぎているからそのくらい間引いた方が良いかも。」

 この敷地いっぱいって…、そんなには建てなくていいです。
 ただ、ヘレーネさんが嘆いていた通り、この森は手入れが行き届いていなかったようです。
 間伐がちゃんと行われてないとドリーちゃんは言っています。

「じゃあ、ドリーちゃんが良いと思うように間伐しちゃって。
 間引いた木はこの敷地の隅にでも積み上げて、乾燥させておきましょう。
 建材に使っても良いし、それこそ薪にしてしまっても良いわ。」

 森の手入れは、ドリーちゃんにお任せです。

「さて、どうしましょうか。
 取り敢えず、オークレフトさんのプランの邪魔にならないところに倉庫でも立てましょうかね。
 これだけ広い土地なので、少しくらい倉庫スペースで使っても問題ないしょう。」

 取り敢えず、館の薪小屋の中の機械を移動させることが優先です。
 工房は後回しにして、取り敢えず倉庫を建ててしまいましょう。
 倉庫の様な真四角の建物で、ガランとしたものを建てるのなら、ドリーちゃんは得意だそうです。

 ドリーちゃんの建ててくれる建物が、オークレフトさんの意に沿わないのであれば仕方が無いですね。
 オークレフトさんの設計図にあった建物は、あちこちに凹凸があり、細かい寸法指定がされていました。
 とてもドリーちゃんには対応できない物のようです。

 私は、ドリーちゃんに倉庫を建ててもらうべく、オークレフトさんに倉庫を建てても工房を造るのに支障がない場所を尋ねました。

 でも、返事が返って来ません。
 おやどうしたのかしらと、彼の様子を窺うと…。

 何やら考え込んだ様子で、ブツクサと独り言を呟いています。
 ああ、私の話、聞いていなかったのですね。
 
 
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