上 下
160 / 580
第7章 できることから始めましょう

第158話 今度は建物を建てる?

しおりを挟む
*本日、お昼に1話投稿しています。まだお読みでない方は、お手数ではございますが1話戻ってお読みください。

     **********

 さて、バタバタと慌ただしく動き回っている間に六月も半ばとなり、陽射しが夏のものに変わってきました。
 カモミールの開花期もそろそろ終わりという事で、今日は朝から最後の花摘みです。

 アルビオン王国から戻るとちょうどカモミールの花の最盛期でした。
 連日、アガサさんやベルタさんにも手伝ってもらい、四苦八苦で花の収穫をするハメになったのです。

「今まで、畑仕事などしたことがありませんでしたが、朝から外で体を動かすのは気持ち良いですね。
 アンネリーゼ姫様からも、ハーブ畑の手入れの話はよく聞かされたものです。
 姫様は本当にこのハーブ畑を大切にしておられたようで、いつも楽し気に話をされていました。」

 などと言いながら、ベルタさんは母を懐かしむようにせっせと花を摘んでいました。

 そんな、カモミールの収穫も今日で一段落しそうです。
 私達はモミールの花を詰めた麻袋を抱えて、精油の抽出小屋へと入っていきました。

「おはよう!ロッテ!
 今日もすごくたくさん収穫したね!
 じゃあ、私も頑張っちゃおう!」

 このところ毎日お願いしているので、植物の精霊ドリーちゃんはこうして小屋の中で待っていてくれます。

「おはよう、ドリーちゃん。
 今日もお願いしますね。」

「まかせといて!」

 私が小屋の作業台に精油を詰める薬瓶を並べながらドリーちゃんにお願いすると快い返事が返ってきました。

「じゃあ、早速やっちゃおう。
 私の可愛い、カモミールちゃん、素敵な香りをそのままに、あなたの精油をくださいな!」

 ドリーちゃんがカモミールの花に話しかけるように呟きながら、術を行使します。
 摘み取った大量のカモミールの花が淡い光に包まれること数分、作業台の上の薬瓶を香しい精油で満たされていきます。

「はい、終わり!」

 全ての薬瓶が満たされた頃にドリーちゃんが完了を告げ、淡い光も消えました。

「ドリーちゃん、有り難う。本当に助かったわ。
 おかげで、今年もアルムハイム産の名に恥じない良質の精油がたくさんできたわ。
 カモミールの精油作りはこれでお終い、あとは花が減るから乾燥ハーブにでもするわ。」

「どういたしまして!
 役に立てたなら良かったわ。また何時でも言ってね。」

 私とドリーちゃんがそんな会話を交わしていると。

「おはよう、ロッテちゃん、ドリーちゃん。」

 朝の挨拶と共に小屋に入ってきたのは、ブラウニー隊の代表のアインちゃんでした。


       **********


「ロッテちゃん、薪小屋のアレ、そろそろどかしてもらえないかな。
 とっても、邪魔なの…。」

 控えめで少し気弱なアインちゃんが最後は声を小さくしながら、苦情を言いました。
 ああ、オークレフトさんが持ち込んだ大量の機械ですね。

 冬が終わって夏に向かう今の時期は備蓄している薪が減るので、スペースに空きが出ます。
 あの方が持ち込んだ機械の置き場に困ったので、とりあえずそのスペースに収めたのですが。

 薪の利用は何も冬の暖炉に使うだけではありません。
 ブラウニー達の活躍の場、厨房では毎日使うのです。

 当然、体の小さなブラウニー達が抱えて運べるはずがなく、術でフワフワ浮かせて運ぶのですが。
 あの薪小屋を埋め尽くしている機械が、術を行使する上でとても邪魔なのだそうです。
 
 余り自己主張をしないアインちゃんが言うのですから、よほど邪魔になっているのでしょう。
 大変申し訳ないことをしてしまいましたね。

「ごめんね、アインちゃん。
 この前も言われたので早く退かしたいのですけど。
 肝心の移す場所がまだ確保できていないのよ。」

 そう、実はアルビオン王国から戻って早々にアインちゃんから言われていたのです。
 気にかけてはいたのですが、工房用地として購入した土地はまだ更地です。
 現在、工房の建屋を立ててくれる大工さんを探している最中で、建屋が出来るのは大分先です。
 機械を露天に放置することも出来ずに困っていたのです。

 申し訳ないなと思いつつも、アインちゃんに事情を話していると。

「なあに、建物が欲しいの?
 私出来るよ!建ててあげようか?」

「へっ?」

 いきなり、ドリーちゃんがそんなことを言い出しました。
 建物を建てるの?この子が…?


     **********


 ともあれ、ドリーちゃんが自信たっぷりに言うので、リビングで寛いでいるオークレフトさんのもとにやって来ました。

「薪小屋に置いてあるオークレフトさんの機械ね。
 ブラウニー達が作業するのに酷く邪魔になっているみたいなの。
 それで、ドリーちゃんが建物を建ててくれると言っているのだけど。」

 私が話しかけるとオークレフトさんは目を輝かせて、傍らに置いたカバンを漁り始めました。
 そして、紙束を取り出すと。

「それはとっても有り難いです。
 今の時期は、なかなか大工さんが見つからないで困っていたのです。」

 そう言ってオークレフトさんはテーブルに図面を広げると、こんな建物が欲しいと言います。
 それをジッと見つめたドリーちゃんが言いました。

「こんなの無理!」

 あっ、やっぱり…。植物の精霊ドリーちゃんに建築など難しいと思っていたのです。

「やっぱり、精霊さんに建物を建てるのは難しいですか…。」

 オークレフトさんが落胆の色を見せました。この方、精霊にどれだけの力を期待していたのでしょうか…。
 すると、ドリーちゃんは珍しく腹立たし気な表情を見せて抗議しました。

「馬鹿にしないで!
 建物を建てるのが難しい訳じゃないの!
 こんな、寸法通りになんかできる訳ないでしょう。
 見ればわかるでしょう、この体でどうやって正確な長さを測れって言うのよ。
 私にできるのは、だいたいこんな形の、このくらいの大きさの建物というアバウトなモノよ。」

 どうやら、出来ないと言うのは建物そのものではないようですね。
 オークレフトさんが示したものの様な図面に基づいた正確な寸法の建物は出来ないという事のようです。
 更に、人に決まり事により書かれた設計図を精霊に理解しろと言うのも無理な話だそうです。

 ドリーちゃんの話では、出来るのはいわゆるログハウスだそうです。
 寸法がアバウトだからと言って造りがアバウトな訳ではないとドリーちゃんは言います。
 個々の木材はきっちり組み合わさって、建物が傾いでいたり、隙間風が入ってくるようなことはないそうです。
 そこは植物なら自由に扱えるドリーちゃんにとってはお手の物だそうです。

「ちょっとやそっとでは壊れない頑丈な建物を造れるわよ!」

 ドリーちゃんの話では、その昔、精霊と共にあった人々の村は植物の精霊に家を建ててもらっていたそうです。
 丈夫さについては折り紙付きのようです。

 ここは、やる気になっているドリーちゃんの好意に甘えるのが得策でしょう。
 何時までも薪小屋を機械で占領するのも、ブラウニー隊のみんなに申し訳ないですし。

「オークレフトさん、ここはドリーちゃんにお願いすることにしましょう。
 今回建てる建物は倉庫として使っても良いと思うわ。
 工房は大工さんを探して、図面通りのモノを建てる形にしても良いわ。」

 私はそう決めて、オークレフトさんに伝えたのです。

しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

処理中です...