128 / 580
第6章 異国の地を旅します
第126話 リーナに出来ること
しおりを挟む
私が雇い入れることが決まると、オークレフトさんは早速こんな事を言っています。
「そうときまれば、こうしてはおれません。
まずは、紡績工場のオーナーの所へって行って辞めることを伝えてこないと。
明日の朝一番の列車に乗れば、明日の昼過ぎには王都へ向かう船に飛び乗れるでしょう。
工房の親方には明後日会って話をするとして…。
数日で身辺整理は出来ると思いますが、どうすれば良いでしょうか。」
よほど今派遣されている工場のオーナーが苦手なのでしょう。
とっとと、ここを引き払う気満々です。
「蒸気船の視察もあるので、あと一週間は最低でもこの国に留まるつもりです。
準備が整ったら王都にある私の館まで来ていただけますか。
場所はサクラソウの丘の麓です、住所を書いてお渡ししますね。
でも、そんなに早く準備ができるのですか、明日の朝一番の汽車に乗るなんて?」
そう言いながら、私は手許の紙きれに王都の屋敷の住所をメモして渡しました。
「男やもめの短期赴任ですよ、高々一年の派遣にそんな荷物があると思いますか。
トランクケース一つで十分です。
宿舎を引き払う準備など、一時間もかからずにできますよ。」
男やもめ…。
そうですね、仕立ての良さそうなスーツですのにヨレヨレですものね。
きっとその辺に脱ぎ散らかしているのでしょう。
蛆が湧いていそうです。
そう言って、オークレフトさんはせわしなく帰っていきました。
**********
「早く馬車に乗るが良い、我が主達に快適な旅を約束しようではないか。
あんな蒸気機関車などとは格の違いを見せてやろう。」
一々蒸気機関車と張り合わないで良いです、ヴァイスをお払い箱にしようと言う訳ではないのですから。
しつこいですよ。
オークレフトさんを雇うことに決めた翌朝、私達はホテルを引き払うことにしました。
得意げなヴァイスが引く馬車に乗り込み、まずはアガサさんを迎えに北に向かいます。
「馬!いい気になって道を間違えたらお仕置きだからね~!」
ヴァイスの背中で地図を広げたブリーゼちゃんからツッコミが入って、さあ出発です。
すっかりそこが定位置なのですね…。
ヴァイスが引く馬車は町を出て人目に付かない小麦畑の中まで地上を進むと、そこから静かに空に舞い上がります。
「本当に一面小麦畑ですね、昔、私が通りかかった時は羊さんばかりだったのに…。」
私の肩に乗ったブラウニーのステラちゃんの呟きが聞こえました。
私達を乗せた馬車は何処までも広がる小麦畑の上を飛んでいきます。
この辺り一帯が羊の放牧に使われていたなど想像も出来ません。
ましてや、もっと昔は深い森だったなんて…。
「でも、百数十年ぶりに外の世界に出て楽しかったです。
羊さんがいなくなっていたのは少し寂しかったですが。
あの湿原を人が容易く越えることができるようになるなんて凄いです。
たまには外に出るのも良いですね。」
「そう、じゃあ、今度はアルムハイムの館に遊びに来る?
ブラウニー達がたくさんいて賑やかよ。」
「良いですね、そのうちお邪魔します。
えへへ、楽しみです。
お仲間がたくさんいて、高い山に囲まれた館ですか…。
どんな場所なのでしょうね。」
そう答えたステラちゃんはご機嫌な様子でした。
では、本当にアルムハイムの館に連れて行くことにしましょうか。
**********
「馬!そろそろ着くから高度を落として、直接お婆ちゃんの家の庭に降りるからね~!」
馬車の外からブリーゼちゃんの声が聞こえました。
ステラちゃんと話をしている間に私達を乗せた馬車はアガサさんの住む森に近付いたようです。
町を出てから約一時間半、距離が約五十マイルですので蒸気機関車よりはるかに速いですね。
しかも、揺れないし、何より窓から眺める景観が素晴らしいです。
ヴァイスが誇らしげにするだけの事はあります。
惜しむらくは、人前に出せないことですね。
ブリーゼちゃんの指示を受けてヴァイスは徐々に高度を下げ、やがてアガサさんの家の庭に静かに着地しました。
「アガサお婆ちゃん、ただいま~!」
馬車を降りたアリィシャちゃんがそう言いながら、アガサさんの家に走って行きます。
「おやおや、お帰り。どうだい、モンテスターの町は楽しかったかい?」
アリィシャちゃんの元気な声が届いたのでしょう、アガサさんが玄関の扉を開いて出迎えてくださいました。
アガサさんの家のリビングに腰を落ち着けると早速アリィシャちゃんが口を開きました。
「汽車が凄かったの!
シュッポ、シュッポって音と煙を上げながら走って行くんだよ。
馬車よりもずっと速いの。」
アリィシャちゃんは身振り手振りを交えて列車に乗った時の話をアガサさんに聞かせます。
蒸気機関車がとても気に入ったようで、とても楽しそうに話をしていました。
そして、ひとしきり蒸気機関車の話をすると…。
「でも、わたし、あの町は好きになれないな…。
みんな、疲れていて、ちっとも楽しそうじゃないの。
私くらいの子供がみんな働いてるんだよ、誰も外で遊んでないの…。
私はあんな町イヤだな。」
一転、テンションを落として不満げに言いました。
「ほう、やっぱり、アリィシャちゃんは聡いね。それに気づいたかい。」
出掛けにアガサさんの言葉にあった『良いことばかりではない』と言う事の一つが、やはりそれの様です。
「あの町がとても豊かなのは分かりました。
でも、その割にあまり幸せそうな感じがしなかったのです。
みんな疲れていると言うか、正直、機械に使われているという印象を受けました。」
リーナは機械と言うのは、人が楽をするために、便利なように作られたものだと考えていたと言いました。
機械を無駄なく動かすために、二十四時間操業にして昼夜を問わず働くのでは機械に使われているようだと言ったのです。
更に、リーナの言葉は続きます。
「アリィシャちゃんが言ったように年端のいかない子供が重労働をしていることは驚かされました。
でも、それ以上に一晩中仕事をしている人がいることには本当に驚きました。
あの町にある工場は十二時間労働の二交替制が標準だそうですが、正直言って労働時間が長すぎだと思います。」
「そうかい、カロリーネ様はそう感じたのかい。
でもね、あの町はそんな工場のおかげで仕事が潤沢にあって、人が集まってきた。
人が集まれば、物も集まるで、今までは手に入らなかったものが手に入るようになった。
だから、みんな、欲しい物を手に入れるために、頑張って働いているのさ。
私もカロリーネ様と同じで、行き過ぎのように思っているけどね。
まあ、幸せのかたちは人それぞれだからね。」
リーナの話を聞いたアガサさんはそう答えると、リーナに尋ねました。
「それで、カロリーネ様はどうなさるおつもりだい?」
「それですが、蒸気機関を用いた工場は色々な面で私の領地は向かないという事が分かったので別の道を探ることにしました。」
リーナはオークレフトさんから聞いた、燃料や人員の面で制約あるという事をアガサさんに話しました。
そして、オークレフトさんと言う人材を得て、少量で利益を生むような高付加価値の産業を育成することにしたと説明します。
「そうかい、カロリーネ様の領地には向かいないという結論なら、それはそれで良いさ。
でもね、そこで検討を終わりにしてはいけないね。
いいかい、カロリーネ様の領地には向いていないとしても、機械化の波は近い将来クラーシュバルツ王国にも訪れるよ。
機械化しないと競争で負けてしまって、カロリーネ様の国の産業はみんな死んでしまうからね。
その時に備えるのさ、カロリーネ様なら出来るのだから。」
「私ならできる?」
いったい何をしろと言うのか、リーナに何ができると言うのか。
アガサさんの指摘する事に見当がつかないリーナは、そのまま問い返しました。
「ああ、そうさ。
カロリーネ様、あなたの身分は何だい。」
「私ですか。
私はシューネフルト領の領主です。
それと、末席ですが一応、王族に名を連ねています。」
「そうだろう。旧態依然とした体制のカロリーネ様の国では王が法を定めるのだろう。
あなたは王族、王に法の進言ができる位置にいるじゃないか。」
「法ですか?」
「ああ、そうさ。
あなたの国では、工房に雇われている職人や商人の雇われ人は何時から何時まで働いでいるんだい。」
「それは知っています。
朝の八時から夕方五時まで働くのが標準の様です。
なんでも、明かりを灯す費用を考えると暗くなって仕事を続けても割に合わないとかで。
冬場の明るい時間に合わせて自然と働く時間が標準化されたそうです。」
「じゃあ、あなたの国では子供が働きに出るのは幾つくらいからだい。」
「多少の前後はあるかと思いますが、十二歳くらいからと聞いています。
商人に丁稚奉公するのも、工房に弟子入りするのも十二歳と聞いた覚えがあります。
娼婦として買われていく少女も傭兵に行く少年も十二歳くらいですね…、それ未満は聞いた覚えがありません。」
「朝八時から夕方五時なら九時間労働だね。
もし、今の時点で使用人の一日の労働時間は九時間までとするという法律を作ったら周囲から反対が出ると思うかい。
十二歳未満の子供を雇ってはいけないという法律を作ったとしたらどうだい。」
なるほど、そう言う事ですか。
ギルドが支配する旧態依然とした商慣行のリーナの国は、この国の様な機械化された工場はまだ一つも存在しません。
もしかしたら、存在すら知られていないかもしれません。
今、アガサさんが問い掛けた事は、リーナの国ではごく当たり前のことです。
ギルドの親方達は何でそんな法が作られるのかの意図すら分からないでしょう。
この国の様に十二時間労働や小さな子供の労働が標準化する前に、前もって封じてしまえという事ですね。
この国では既に十二時間労働や小さな子供の労働が標準化しています。
それが資本家階級とって一種の既得権となっているので、今更規制しようとすると猛烈な反対にあうでしょう。
幸いリーナの国では、十二時間労働や小さな子供の労働はさせている雇用者はいないので反対は出ないでしょう。
「いえ、おそらく反対する声は出ないでしょう。
そうですか、何も機械を導入するのに雇用慣行まで真似する必要はないのですね。
悪しき慣行が一般化する前に、法を作って封じてしまえと言う事ですか。」
「そうだよ。
人や燃料の制約でこの国の様な機械化がカロリーナ様の領地にあわないとなっても、無駄足にはならなかったね。
わざわざこの国まで視察に来た甲斐があったね。」
ハッとした表情で答えるリーナに、アガサさんは労をねぎらうように言ったのです。
「そうときまれば、こうしてはおれません。
まずは、紡績工場のオーナーの所へって行って辞めることを伝えてこないと。
明日の朝一番の列車に乗れば、明日の昼過ぎには王都へ向かう船に飛び乗れるでしょう。
工房の親方には明後日会って話をするとして…。
数日で身辺整理は出来ると思いますが、どうすれば良いでしょうか。」
よほど今派遣されている工場のオーナーが苦手なのでしょう。
とっとと、ここを引き払う気満々です。
「蒸気船の視察もあるので、あと一週間は最低でもこの国に留まるつもりです。
準備が整ったら王都にある私の館まで来ていただけますか。
場所はサクラソウの丘の麓です、住所を書いてお渡ししますね。
でも、そんなに早く準備ができるのですか、明日の朝一番の汽車に乗るなんて?」
そう言いながら、私は手許の紙きれに王都の屋敷の住所をメモして渡しました。
「男やもめの短期赴任ですよ、高々一年の派遣にそんな荷物があると思いますか。
トランクケース一つで十分です。
宿舎を引き払う準備など、一時間もかからずにできますよ。」
男やもめ…。
そうですね、仕立ての良さそうなスーツですのにヨレヨレですものね。
きっとその辺に脱ぎ散らかしているのでしょう。
蛆が湧いていそうです。
そう言って、オークレフトさんはせわしなく帰っていきました。
**********
「早く馬車に乗るが良い、我が主達に快適な旅を約束しようではないか。
あんな蒸気機関車などとは格の違いを見せてやろう。」
一々蒸気機関車と張り合わないで良いです、ヴァイスをお払い箱にしようと言う訳ではないのですから。
しつこいですよ。
オークレフトさんを雇うことに決めた翌朝、私達はホテルを引き払うことにしました。
得意げなヴァイスが引く馬車に乗り込み、まずはアガサさんを迎えに北に向かいます。
「馬!いい気になって道を間違えたらお仕置きだからね~!」
ヴァイスの背中で地図を広げたブリーゼちゃんからツッコミが入って、さあ出発です。
すっかりそこが定位置なのですね…。
ヴァイスが引く馬車は町を出て人目に付かない小麦畑の中まで地上を進むと、そこから静かに空に舞い上がります。
「本当に一面小麦畑ですね、昔、私が通りかかった時は羊さんばかりだったのに…。」
私の肩に乗ったブラウニーのステラちゃんの呟きが聞こえました。
私達を乗せた馬車は何処までも広がる小麦畑の上を飛んでいきます。
この辺り一帯が羊の放牧に使われていたなど想像も出来ません。
ましてや、もっと昔は深い森だったなんて…。
「でも、百数十年ぶりに外の世界に出て楽しかったです。
羊さんがいなくなっていたのは少し寂しかったですが。
あの湿原を人が容易く越えることができるようになるなんて凄いです。
たまには外に出るのも良いですね。」
「そう、じゃあ、今度はアルムハイムの館に遊びに来る?
ブラウニー達がたくさんいて賑やかよ。」
「良いですね、そのうちお邪魔します。
えへへ、楽しみです。
お仲間がたくさんいて、高い山に囲まれた館ですか…。
どんな場所なのでしょうね。」
そう答えたステラちゃんはご機嫌な様子でした。
では、本当にアルムハイムの館に連れて行くことにしましょうか。
**********
「馬!そろそろ着くから高度を落として、直接お婆ちゃんの家の庭に降りるからね~!」
馬車の外からブリーゼちゃんの声が聞こえました。
ステラちゃんと話をしている間に私達を乗せた馬車はアガサさんの住む森に近付いたようです。
町を出てから約一時間半、距離が約五十マイルですので蒸気機関車よりはるかに速いですね。
しかも、揺れないし、何より窓から眺める景観が素晴らしいです。
ヴァイスが誇らしげにするだけの事はあります。
惜しむらくは、人前に出せないことですね。
ブリーゼちゃんの指示を受けてヴァイスは徐々に高度を下げ、やがてアガサさんの家の庭に静かに着地しました。
「アガサお婆ちゃん、ただいま~!」
馬車を降りたアリィシャちゃんがそう言いながら、アガサさんの家に走って行きます。
「おやおや、お帰り。どうだい、モンテスターの町は楽しかったかい?」
アリィシャちゃんの元気な声が届いたのでしょう、アガサさんが玄関の扉を開いて出迎えてくださいました。
アガサさんの家のリビングに腰を落ち着けると早速アリィシャちゃんが口を開きました。
「汽車が凄かったの!
シュッポ、シュッポって音と煙を上げながら走って行くんだよ。
馬車よりもずっと速いの。」
アリィシャちゃんは身振り手振りを交えて列車に乗った時の話をアガサさんに聞かせます。
蒸気機関車がとても気に入ったようで、とても楽しそうに話をしていました。
そして、ひとしきり蒸気機関車の話をすると…。
「でも、わたし、あの町は好きになれないな…。
みんな、疲れていて、ちっとも楽しそうじゃないの。
私くらいの子供がみんな働いてるんだよ、誰も外で遊んでないの…。
私はあんな町イヤだな。」
一転、テンションを落として不満げに言いました。
「ほう、やっぱり、アリィシャちゃんは聡いね。それに気づいたかい。」
出掛けにアガサさんの言葉にあった『良いことばかりではない』と言う事の一つが、やはりそれの様です。
「あの町がとても豊かなのは分かりました。
でも、その割にあまり幸せそうな感じがしなかったのです。
みんな疲れていると言うか、正直、機械に使われているという印象を受けました。」
リーナは機械と言うのは、人が楽をするために、便利なように作られたものだと考えていたと言いました。
機械を無駄なく動かすために、二十四時間操業にして昼夜を問わず働くのでは機械に使われているようだと言ったのです。
更に、リーナの言葉は続きます。
「アリィシャちゃんが言ったように年端のいかない子供が重労働をしていることは驚かされました。
でも、それ以上に一晩中仕事をしている人がいることには本当に驚きました。
あの町にある工場は十二時間労働の二交替制が標準だそうですが、正直言って労働時間が長すぎだと思います。」
「そうかい、カロリーネ様はそう感じたのかい。
でもね、あの町はそんな工場のおかげで仕事が潤沢にあって、人が集まってきた。
人が集まれば、物も集まるで、今までは手に入らなかったものが手に入るようになった。
だから、みんな、欲しい物を手に入れるために、頑張って働いているのさ。
私もカロリーネ様と同じで、行き過ぎのように思っているけどね。
まあ、幸せのかたちは人それぞれだからね。」
リーナの話を聞いたアガサさんはそう答えると、リーナに尋ねました。
「それで、カロリーネ様はどうなさるおつもりだい?」
「それですが、蒸気機関を用いた工場は色々な面で私の領地は向かないという事が分かったので別の道を探ることにしました。」
リーナはオークレフトさんから聞いた、燃料や人員の面で制約あるという事をアガサさんに話しました。
そして、オークレフトさんと言う人材を得て、少量で利益を生むような高付加価値の産業を育成することにしたと説明します。
「そうかい、カロリーネ様の領地には向かいないという結論なら、それはそれで良いさ。
でもね、そこで検討を終わりにしてはいけないね。
いいかい、カロリーネ様の領地には向いていないとしても、機械化の波は近い将来クラーシュバルツ王国にも訪れるよ。
機械化しないと競争で負けてしまって、カロリーネ様の国の産業はみんな死んでしまうからね。
その時に備えるのさ、カロリーネ様なら出来るのだから。」
「私ならできる?」
いったい何をしろと言うのか、リーナに何ができると言うのか。
アガサさんの指摘する事に見当がつかないリーナは、そのまま問い返しました。
「ああ、そうさ。
カロリーネ様、あなたの身分は何だい。」
「私ですか。
私はシューネフルト領の領主です。
それと、末席ですが一応、王族に名を連ねています。」
「そうだろう。旧態依然とした体制のカロリーネ様の国では王が法を定めるのだろう。
あなたは王族、王に法の進言ができる位置にいるじゃないか。」
「法ですか?」
「ああ、そうさ。
あなたの国では、工房に雇われている職人や商人の雇われ人は何時から何時まで働いでいるんだい。」
「それは知っています。
朝の八時から夕方五時まで働くのが標準の様です。
なんでも、明かりを灯す費用を考えると暗くなって仕事を続けても割に合わないとかで。
冬場の明るい時間に合わせて自然と働く時間が標準化されたそうです。」
「じゃあ、あなたの国では子供が働きに出るのは幾つくらいからだい。」
「多少の前後はあるかと思いますが、十二歳くらいからと聞いています。
商人に丁稚奉公するのも、工房に弟子入りするのも十二歳と聞いた覚えがあります。
娼婦として買われていく少女も傭兵に行く少年も十二歳くらいですね…、それ未満は聞いた覚えがありません。」
「朝八時から夕方五時なら九時間労働だね。
もし、今の時点で使用人の一日の労働時間は九時間までとするという法律を作ったら周囲から反対が出ると思うかい。
十二歳未満の子供を雇ってはいけないという法律を作ったとしたらどうだい。」
なるほど、そう言う事ですか。
ギルドが支配する旧態依然とした商慣行のリーナの国は、この国の様な機械化された工場はまだ一つも存在しません。
もしかしたら、存在すら知られていないかもしれません。
今、アガサさんが問い掛けた事は、リーナの国ではごく当たり前のことです。
ギルドの親方達は何でそんな法が作られるのかの意図すら分からないでしょう。
この国の様に十二時間労働や小さな子供の労働が標準化する前に、前もって封じてしまえという事ですね。
この国では既に十二時間労働や小さな子供の労働が標準化しています。
それが資本家階級とって一種の既得権となっているので、今更規制しようとすると猛烈な反対にあうでしょう。
幸いリーナの国では、十二時間労働や小さな子供の労働はさせている雇用者はいないので反対は出ないでしょう。
「いえ、おそらく反対する声は出ないでしょう。
そうですか、何も機械を導入するのに雇用慣行まで真似する必要はないのですね。
悪しき慣行が一般化する前に、法を作って封じてしまえと言う事ですか。」
「そうだよ。
人や燃料の制約でこの国の様な機械化がカロリーナ様の領地にあわないとなっても、無駄足にはならなかったね。
わざわざこの国まで視察に来た甲斐があったね。」
ハッとした表情で答えるリーナに、アガサさんは労をねぎらうように言ったのです。
0
お気に入りに追加
327
あなたにおすすめの小説
前世の記憶さん。こんにちは。
満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。
周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。
主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。
恋愛は当分先に入れる予定です。
主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです!
小説になろう様にも掲載しています。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる